あれ? 勇者ってこういうのだっけ 作:みども
突然ですが、皆さんは異世界転移を信じますか?
普通は信じないでしょう。仮にあったとして、それを体験した人はこの世界に既になく返答のしようがありません。
では、なぜこんな話題をいきなり出したのか。
それは、私がその異世界転生を果たした人間だったから、です。
……つまり、私は仮にあったとしてもすでにこの世界にいないため『ある』という返答ができない輩の1人ということ。
転生と転移は違うって?
……これは失礼。私が体験したのは異世界『転生』です。転移ではなかった。
さて、私がどうして異世界転生することになったのか。
それを説明するには、15年程度時間を遡る必要があります。
ただ、ここで問題が一つ。
そんな昔話をしている余裕はねえ!
「ガボガボガボ! だ、助けてくだがババ!」
現在進行形で溺れている真っ最中だよ!
橋を建設中、もうすぐ完成だというところでいきなり橋が崩れた。
そして憐れ私は河に真っ逆さま。
面白いって?
笑い事じゃねえよコンチクショウが!
助けてください! 冗談抜きに、ヤバイです! 生死の境さまよっています! いや、本当に死んじゃいますから!
必死にもがくけど、橋の倒壊に伴い発生した波が次々に襲いかかり、呼吸しようと水面に出した顔に何度もかかってくる。
人間より強い種族である魔族に転生したとはいえ、溺れた時の危機は人間だった頃と大差ない。
結局波が落ち着くまで溺れるしかなかった。
「…………」
びしょ濡れです。
疲れました。寒いです。味方は助けてくれませんでした、薄情者が多過ぎます。
……いやさ、まあ魔族ってそういう種族だけど。
安易に他人を信用せず、むしろ自分が生き残る可能性を上げるために容赦なく踏み台にする、個人主義の強い種族ですけど。
この世界の魔族は過酷な土地に生きる種族のため、日々の糧を確保するだけで命がけの生活を送っている種族だったから、他人を気遣ったり助けたりする余裕がない。
なんとか岸に自力でたどり着き、現在ぶっ倒れながら体力回復中です。
このあと戦だと思うと億劫だ。
丁度いい。
時間ができたので昔話をしましょう。
かれこれ15年前になりますか。
今や私にとって異世界となってしまった地球にて、私は普通の高校生でした。貧乏だったけど。
借金残して消えた父親とかいう赤の他人と、病気で倒れた母親と、小学生の双子の妹抱えて、年齢偽って深夜も働きながら学校通っていました。生きるだけでカッツカツなのは今世と変わらないけど、平和な分前世の方がまだマシだった。
人間だった頃は毎日が人生の底辺だって落ち込んでいたけど、ちがいましたわ。人生の底辺って、転生してから味わうもんでしたわ。日本、身ぐるみ剥がされた餓死体がないだけ今世よりずっと生きやすかった。
前世はもうどうでもいいわ。
2人の妹のことが心残りだけど、もう帰れねえし。
母親? 一切心配していない。生まれる前から死ぬ瞬間まで振り回したクソ親だって認識してますから。
父親? 知らない赤の他人ですね。
転生した経緯だけど、生徒会長と数名の生徒が数日前より行方不明になったという話を校長から聞かされた日の昼ごろ、母親が危篤状態だっていう連絡が病院から入って、急いで向かおうとしたら、道中車にはねられて、そして気づいたらこっちの世界に魔族になって放り出されていたという形です。
今思えば口減しとかのためだったのだと思うのだけど、捨て子だった。今世の最初は葉っぱのない朽ちた木々の並ぶ森に遺棄されていた捨て子でした。
混乱していたし、普通に薄気味悪い場所だったし、魔物は出てくるしで、前世の人生は高校生まで重ねていたけどいっぱいいっぱいになって幼児退行起こした。肉体に精神を持って行かれたとも言うけど。
転生して最初に泣き喚きましたよ、そりゃもう。おかげで魔物おびき寄せて食われかけたけどな初っ端から。
前世の記憶があった私は二度死ぬのは御免だったので、そこからは死に物狂いで対抗しましたよ。
無力な幼児だったけど、泣きわめいても腹空かせた魔物がやってくるだけで誰も助けてくれないというのは転生して早々に嫌という程思い知らされた現実となったので、ただただ生きることに必死だった。
生きるのに必死だったから今では普通に使える魔法もどうして使えるようになったのかとか、全く覚えていない。
けど、体力はなかったけど魔力は相応にあったみたいで、雷の魔法を発現させることができた。
それで魔物を殺して、動かない体を電撃で無理やり動かして、魔物の死体から血肉をすすって飢えをしのぎ、死と常に隣り合わせの野生の世界で幼少期を過ごした。
……肉体的にめちゃくちゃ過酷な時代でしたわ。
頭に角が伸びてきたりと人間とは違う特徴が出てきたけど、そんなの気にする余裕なんてなかったから。自分のことを魔族だと知ったのはこの世界に来て12年くらい過ぎてからだったし。
雷の魔法を駆使しギリギリ生存している日々を過ごして7年くらいした頃、雷を纏うサイの魔物の巣を見つけた。
巨大なムカデの魔物が親を殺して残った卵も喰らおうとしていたところだったのだが、その時はとにかく腹が減って死にそうだったから明らかに喧嘩売っちゃいけない危険な魔物が相手だとしても「卵よこせェ!」と言わんばかりに噛み付いた。
雷を纏うサイの魔物を捕食する巨大ムカデに、サイより弱い魔族のガキが雷魔法で戦うってめちゃくちゃ無謀だったけど。
……死にかけましたね、あの戦いは。
ムカデの魔物は外殻が雷を受け付けなかった上に、牙には毒があるわ顎はサイの魔物の鎧のような表皮を食い破るほど強靭だわ、足や触角といったなんとか壊せる場所もすぐに再生する異常な再生能力持っているわで、デタラメな強さ誇る魔物でしたから。
まあ、すぐ再生するけど足や触角にも神経が通っていたみたいだから、再生される前にそこに直接雷魔法を通して神経をぶっ壊した上で、電子レンジの要領で体内の水分を強制沸騰させ内側から破壊するというなんとも残酷な戦い方で勝利しましたけど。
死にかけましたけどね! 右腕と肋骨と鎖骨と、結構骨やりましたけどね! ついでに毒も食らってマジで死に掛けましたけどね! 残酷な殺し方とか言われても、それくらいしか勝機がなかったんですよ!
そして生死の境をさまよってから目が覚めたら、雷纏うサイの魔物の卵が孵化してその幼体たちが私を取り囲んでいたんですよ。
可愛かったけど、その時最初に感じたことは「卵がぁ! 食料が、孵化しちまったぁ!」というものだった。
生きるのに必死だったけど、だいぶ考え方が野生に染まってましたね。
どうやらサイの魔物たちは私を親と誤認したらしい。
鳥かよ!? とかいうツッコミをする余裕は当時なかった。
気づけば3頭のサイの魔物たちはこの世界でできた私の家族たちになってしまったけど。
魔族の一生、何があるかわかりませんね。まだ今世は15年、前世合わせて30年と少しですけど!
二つの生涯合わせても尚、48歳で危篤を迎えた親の人生よりなお短いとは。なんであんな親が長生きできて、私は妹たち残して早死にしてしまったのだろうか。
48年でも十分短いと? では前世の一生が16年と3ヶ月で幕を閉じた私の立場は!?
……もう前世の話は切り上げよう。今世ほどではないけど、いい思い出ほとんどないわ。
それから数年前に魔王が復活し、己を領土に縛る代償を払ってわずかばかりの恩恵をやせ細った魔族たちの世界にもたらした。
おかげで魔族たちは魔王の下で団結し、少しずつ改善の傾向が見られている。
……それでもその日の飢えをしのぐのが精一杯な下々民の貧しさはほとんど変わらないけどね。
貧しい土地は急場凌ぎのことをしても貧しいまま。
この大地に縛られる限り、魔族はいずれ飢え、死に絶える。
ならばどうすればいいか?
豊かな大地を支配する人間たちを倒し、侵略してその領土を奪えばいい。というか、侵略しなきゃ絶滅する。
生存のためには道義など瑣末な問題。
魔王様は復活された。ならば、我らは身命を賭して魔王様を支え、魔族の未来を繁栄につなげるのだ!
そんなノリで魔王のもとに集った魔族たち、魔王軍はリングル王国への侵略戦争を仕掛け、本格的な人間と魔族の戦争が開始されたわけだ。
新しい家族もできてより一層カツカツなその日暮らしをすることとなっていた私は、給料目当てでそのリングル王国侵攻のための募兵に応募し、魔王軍に参加したわけである。
「ここにもいたぞ! おい、大丈夫か!?」
「負傷兵がいたぞ! 衛生兵!」
お迎えが来た。
きりがいいところだし、昔話はこれでおしまいです。
侵略戦争は悪いこと。日本人だった私はそう教えられました。
けど、生きるためにはそんなこと言ってられない。
被害者に言い訳するつもりはないけど、豊かな土地で安穏と生を謳歌できる相手から餓死しろという非難を受けるのは腹が立つ。
道徳を説かれても腹は膨れない。
二つの人生を通じて、もうすっかり悪党になってしまった私の学んだことはこれに尽きます。
……これは、異世界に勇者として召喚された者たちの物語でも、その召喚に巻き込まれ数奇な運命を辿った者の物語でもない。
魔族として二度目の生を受けた、名もなき戦車乗りの元人間の魔族の物語である。