あれ? 勇者ってこういうのだっけ 作:みども
当然のことだけど、魔王軍において募兵で集まった兵士と専属の正規兵とでは大きな差がある。
魔王領は魔王の復活に伴いだいぶマシになったとはいえ、枯れた大地に縛られることによる様々な困窮は避けられない。恒常的に人件費のかかる正規兵だけで人間の国々を侵略する大規模な軍勢を編成することはできないのだ。
そこで使われるのが、戦が起こるときにその場で雇い入れる非正規兵、前回の戦いにおける私のような立場の魔王軍兵士に当たるものたちだ。
数合わせの非正規兵と違い、魔王軍の正規兵は立場と信頼というものが必要となっている。
だから、身分不確かなものを入れることはできない。
非正規兵と違い軍律だとかに縛られているし、訓練などで日常的に拘束されることは多いけど、その分給料など多くの待遇が非正規兵に比べて優遇されている。
そこに入れてくれる、とローミア軍団長は仰るのだけど。
でも、それには問題が。
その正規兵になるために必要な『地位』が私にはないです。
この地に生きる魔族として魔王に認められている『民』ではなく、それから弾かれているそこらの獣とか魔物と同じくくりに入れられている『モノ』の地位なんですけど。
「……私、スラムを住処にしているのから見てわかると思うのですが『此方』の魔族ですよ?」
正規兵にはなれない、そういう扱いを受ける魔族だと、スラムを指してローミア軍団長に伝える。
この場所で会うという話を聞いたあたりから薄々察していたとはいえ、改めて本人が自らの口で言ったことに、いわゆる『民』の地位にいる周囲の魔族の兵士たちが、目の色を『同胞』ではなく『モノ』に向けるものへと変えた。
「……なるほど」
「寄生虫か」
「何が魔族だ、薄汚い分際で」
ま、こういう反応ですよね。小声とはいえボロクソ言われてます。
別に気にしてない。というか、前世の頃から慣れてますから。
前世は前世で貧乏人だったので、そういう『人間』として扱ってもらえない立場にいましたから。
教師とかにはよく「貧乏人は存在そのものが犯罪者より劣る国家の恥だ」とか「国民の血税を貪る『寄生虫』だ」とかよく言われてたし……あれ? 今と呼ばれ方変わんねえわ。
前世はどうでもいいわ。
モノというか、生物学的には同じ魔族の括りに入るから、彼らからしてみれば同胞の姿をしているモノということでより蔑む対象になっているかな。別に魔物を差別視しているようなのとは違うし。
これは言うならば、あれです。『ゴミ』を見る目です。モノより酷いなおい。
そして正規兵にはなれないという言葉を聞いたローミア軍団長は、それなら仕方ないと諦めてくれるだろうと思ったのだけど。
私が『此方』の魔族だと言い周囲の兵士たちがそれを聞いて蔑みを込めた目を向けた時に一瞬だけど仮面が剥げ落ちるほどの怒りの表情を浮かべた……ように見えました。
──あれ? 気のせいかな。
あるのはさっきと同じ仮面を貼り付けたような笑顔。
お茶をまた一口飲むと、カップを置く。
「……そのことは気にしなくても結構です。身分がなくとも、軍団長の権限ならばあなたを正規兵として採用することはできます」
そして、諦めることなくまだスカウトしてきました。
軍団長の権限を行使するという発言に、周囲の兵士が驚いています。
……そこまでするの?
私も正規兵として魔王軍に入れるなら出世の道もあるかもしれないし入りたいけど、これってローミア軍団長に恩を売るということになりますよね?
この陰険な軍団長殿に借りは作りたくないです。
怪しいお誘いには乗りたくないので、お断りさせていただくことに。
「ごめんなさい」
「あら、断るのですか?」
「お断りします」
「では、前回の戦いで戦車を破壊した件について損害の賠償を求めます」
……あれ?
勧誘を断ったら、損害賠償を請求されてしまった。
しかも、到底払える額ではない。
戦車は魔王軍の借り物だけど、壊したのは私じゃなく王国軍の最初の魔法攻撃ですよ!
いや、結局最終的に壊したのは私だけど、家族を助けるためにやむおえず破壊したのです。
反論しようとしたが、口を挟む余地など与えるかとローミア軍団長が逃げ道を塞いできた。
「戦車1両にはそれ相応の費用がかかっています」
「でもそれを壊したのは──」
「王国軍の魔法攻撃ならあなたに請求をしませんが、戦車はひっくり返されただけ。車輪の損傷などもなく、起こせば戦闘は可能な状態でした。それを壊したのはあなたの槍です。魔王軍兵士に支給される槍です」
「し、しかし、戦車が返されては──」
「あなたは人間のつもりですか? 非力な者でも魔族ならば3人いれば起こすことはできたはずでしょう?」
「あっ……!」
しまった!
前世のことここで引きずっていたわ! 起こせるわけないという先入観が判断を誤らせてしまうとは!
確かに魔族の力なら、重たい戦車も起こすことはできました。
しかも周りには友軍、それもローミア軍団長の部隊の兵士たちがいましたし、人手を集めるのは簡単だったよ。
集められたのに集めもせず、その上で戦車を破壊。
……あの時の兵士さんが壊れたことを聞いて青筋立てていたのこれが原因のよう。
「そして、正当な理由なく軍の備品を故意に破壊した場合、当然その損害を請求させてもらうことになります」
「…………」
「魔王軍に入り私の配下になると言うなら、立て替えてあげてもいいですよ?」
は、嵌められた……。
いや、墓穴に足突っ込んでいたのは私自身だけど、逃げ道をことごとく塞がれてしまった。
戦車の損害請求、私には払えない。
よって、立て替えてもらわなければ犯罪者となるし、次の戦への参加もできなくなってしまう。
詰みました。
はい、もうローミア軍団長の要求を受け入れるしか、私に道は残されていないようです。
「……わ、わかりました」
「ふふ……歓迎しますよ」
良いコマが手に入った、という心の声が聞こえます。
こうして私は魔王軍に正式加入することとなりました。
……後に聞いた話なのですが、実は魔王軍の正規兵となれた『モノ』も少数ながらいるらしく、第二軍団長がそういう立場だったと聞いた時には私も驚きました。
第二軍団長の『コーガ・ディンガル』といえば、最年少で軍団長就任を果たした出世頭として有名な方ではないですか。
魔王軍って、内情は意外とザルな面もあるのかな?