あれ? 勇者ってこういうのだっけ   作:みども

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第5話

 ローミア軍団長の脅迫勧誘により、魔王軍に就職しました。

 どうも皆さんこんにちは。名もなき魔族の戦車乗りこと、戦車兵(チャリオット・ライダー)です。略して『チャリオット』か『ライダー』、もしくは『チャラいだー』と呼んでください。

 本当は正規軍に入れるような身分ではなかったのですが、ローミア軍団長がごまかしてくれたのか無事に魔王軍に入ることができました。

 しかもローミア軍団長の直属、第3軍団として。

 ……入りたくなかった、この方の下には。

 

 魔王軍は軍を再編し、諦められない人間たちの世界への再侵攻を計画しているとのこと。

 魔王軍はすでに次の侵略の準備に取り掛かっているらしく、ベルハザルの都市の中は慌ただしい様子。

 ……よくよく考えたら、このベルハザルの都市の内部というのはほとんど見たことがなかった。住処にしていたのスラム街だったし、身分不確かな輩を入れるような都市ではないし。

 

 次の侵攻は魔王軍の第1軍団から第3軍団までのほぼ全軍が投入される大規模なものとなるそうで。

 そのため即座に侵攻、というわけには行かず数ヶ月単位の準備が必要になるとのこと。今すぐ戦が起こるというわけではないらしい。

 一方で、リングル王国も次の侵攻に備えて兵力を温存する予定らしく、逆侵攻などの様子はなかった。

 なかったのだが、どうやらリングル王国は人間の世界に広がる各国に対して書状を出して魔王軍に対抗するための連合軍を作ろうと画策しているという情報があるらしい。

 

 そんな情報どこで聞いたかって? 

 ローミア軍団長が話してくれたんですよ。

 なんで一兵卒の私なんかにこんな話を振るのかすごい気になるし嫌な予感がプンプンするので今すぐ耳を閉じて聞いたことを忘れて立ち去りたいのですが、できませんでした。

 

 

「あなたには秘密裏に人間の国に潜入して貰い、彼らの連合結成を妨害して貰います」

「…………」

 

 

 極秘の潜入任務。

 いや、どっちかっていうと彼女の出世欲の材料となる手柄を上げてこいという命令だね。

 ──ふざけんなこの陰険魔族! 

 

 先日、第2軍団長に対して魔王から直々にこの連合軍結成に際した妨害工作をするべく獣人の国に向かうように指令が出たらしい。

 そしてそこに同行したのが、第2軍団長補佐となった元第3軍団長のアーミラ・ベルグレット。

 同格の軍団長、そして元上司が魔王の命令を受けて動いている。

 ここで手柄をあげられれば、自分が第3軍団長の座を下されることでも危惧したのか、この陰険紫髪軍団長は独自に別口で連合軍の妨害工作を仕掛けようと画策した。

 そして、その命令を私にしてきたというわけであります。

 

 ……決戦前に自分の側近失いたくないからって、最悪亡くしてもいいけどそれなりに使えそうで成功する可能性もある都合の良いコマということで私に目をつけたらしい。

 そのためにあのひと芝居を仕掛けて、脅してまで自分の配下の魔王軍に組み込んだわけですよこの方。

 

 ……もう魔王軍裏切ろうかな。でも亜人差別の思想が強い人間たちが受け入れてくれるわけないよな。同族にも同胞ではなくゴミだの魔物だのと同じ扱いされる身分だしなぁ。

 この前の戦で捕虜になった黒騎士殿はリングル王国に寝返ったとか言われているし。どうやら軍団長の魔法の情報を売り渡して入れてもらったらしい。

 亜人差別の少ない寛容なリングル王国でも手土産なしには魔族は受け入れられないということ。

 ……無理かぁ。やっぱり、魔族に生まれた以上魔王軍しか居場所はないらしい。

 

 

「ローミア軍団長の魔法系統ってなんですか?」

「当然、この任務受けますよね? 軍属となった以上、待遇に見合う忠誠を期待します」

「……はい、受けます」

 

 

 手土産になりそうな情報を引き抜こうと試みたが、ダメでした。

 この陰険、流石にガードが固い。出し抜くのは難しそう。

 

 

「それからあなたの魔物ですが、二頭は残してもらいます」

「……人質のつもりですか?」

「いえいえそんなつもりはないですよ。ただ、あれほど目立つ魔物を三頭も連れて歩かれては、任務にも支障が出るでしょう?」

 

 

 手土産ない時点で裏切ることもできないというのに、さらに周到なことに家族を人質にとりやがった。

 ……ダメだ。今は3頭とも向こうの手の内にある。ここで暴れても、家族たちに危険が及ぶことになる。

 

 

「……裏切るつもりなんてありませんよ」

「裏切る予定があるのですか? その際にはあなたの愛しいペットを処分しなければならなくなりますが──」

「危害を加えたら許さねえぞ」

 

 

 部屋に雷撃が鳴り響き、調度品などが多数破壊される。

 周囲の側近たちが警戒し剣に手をかける中、ローミア軍団長だけは家族が無事である限りは私が手を出せないことを承知しているのか薄気味悪い笑みを浮かべたまま私をまっすぐ見つめ返している。

 

 

「暴れたければご自由にどうぞ? ですが、あなたはそこまで愚かではないはずです」

「……チッ」

 

 

 舌打ちして雷の魔力を抑える。

 ……性格最悪だなこの軍団長。やだよこの方の下で働くの。こんな陰険だったら、まだ保身と出世欲の塊なダメ上司のグレッド部隊長の下だった頃の方が良かったよ。

 でもまあ、ここで暴れても家族たちが傷つくだけ。従うしかない。

 

 

「地図を持ってきてください」

 

 

 ローミア軍団長が側近の1人に指示を出し、この世界の地図を用意させる。

 そしてそれを開くと、魔王領と魔物の森を挟んだ先に広がる豊かな人間たちの世界、その最前線のリングル王国からさらに先に存在するとある国を示した。

 

 

「あなたには、この国に向かってもらいます」

「…………」

 

 

 あの……今世の前半生は野生で過ごしてきたので、私には学がないんです。

 前世の知識があるから地図は読める。森を越えて河を越えて進軍し、リングル王国に差し掛かった。森とか山とか川は絵で描かれているからこれもなんとなくわかる。そこから魔王領とリングル王国を示している場所は分かる。

 でも、文字が読めないので他は全くわかりません。というか、人間の世界にどんな国があるかもリングル王国以外分かりません。ついでに獣人の国があることも最近初めて知りました。

 ごめんなさい、目を凝らしてもやっぱりこの世界の文字は読めません。

 

 

「……文字が読めないのですか?」

「…………」

「無言は肯定と受け取ります。そうですね、スラムに居を持つ者で文字を読めるものはほとんどいないはずですから」

 

 

 ……なんか悔しい。

 ため息をつきながら、ローミア軍団長は国名の解説をしてくれた。

 

 軍団長から解説を受けた結果。

 私が向かうことになる国の名前が『ニルヴァルナ王国』だということを教えてもらいました。

 この国は人間たちの世界の中においても屈指の武闘派として知られる国であり、強力な戦士を多く抱える魔法を考慮しなければ最も質の高い兵士を抱える強国とのこと。

 しかし強さを絶対視するが故に自国より劣る国には従いたがらない気風が強く、魔王軍の侵攻に対しても他国の協力要請を突っぱねているらしい。

 しかしリングル王国の説得に応じて連合軍に参加することとなれば、脅威となる国の一つだという。

 

 

「具体的に何をはすれば?」

「そのようなことはあなたが考えてください」

「上官の責任果たせ陰険」

「……何か言いましたか?」

「いえ、何も」

 

 

 地獄耳だし聞こえたはずだが、あえてスルーした軍団長。

 軍団長のくせに具体的な命令はなくとにかく破壊工作しろなんで雑な命令出しておいて文句返されないと思う方がおかしいのでは? 

 まあいいや。適当に首脳陣を抹殺して国家機能を破綻させれば、それで戦争どころではなくなるでしょ。

 

 

「とりあえず国王とか首脳陣を軒並み殺せば戦争どころじゃなくなるから、それでいいですか?」

「乱暴ですがいい考えですね。ではその方向でお願いします」

 

 

 あっさりローミア軍団長は賛成した。

 自分で言っておいてなんだけど、都市の中に住む真っ当な魔族様が敵に仕掛けるとはいえ殺戮なんて野蛮な手法をとることに抵抗見せないってどうなんだろ? 

 ひょっとして、ローミア軍団長も案外暗い過去引きずって歪んでいる方なのかな? 

 ……ああ、歪んでいるから陰険なんだ。

 

 

「失礼なことを考えませんでしたか?」

「いえ別に」

「……何を考えたのか、言ってみなさい」

「国王とか首脳陣をまとめて殺すのにいい機会はないかな、と」

 

 

 実際は本当に失礼なことを考えたけど、この陰険軍団長に正直に言ったら何やり返されるのかわからないからごまかしておきます。

 この手合いの陰険って、ネチネチネチネチと長期間にわたって嫌がらせで返してきそうだから恨みはあまり買いたくない。

 味方にご用心で戦場には挑んでいられませんよ。

 

 でもまあ、ごまかしのために口に出した事柄も重要なことではあるはず。

 ローミア軍団長もそれはわかっているらしく、くだらないことを追求するよりも国王暗殺計画に対する方向に思考を切り替えてくれたらしい。

 

 

「……何か機会があるはずです。こちらで調べておきましょう」

「宜しくお願いします」

 

 

 意外とこういうことはしっかりしてくれるのかな? 

 ……いや、単に自分の手柄を上げるために周到になっているだけか。私の安全とか成功率の向上とかは考えていなさそうですね。

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