あれ? 勇者ってこういうのだっけ   作:みども

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第6話

 魔物の生息する森。

 今世で最初に私が捨てられていた森もその一部だけど、この森のことを指す場合は魔王領を取り囲み人間たちの世界と隔絶している国境として広がる森を指す。

 その先に人間たちの国々が広がっているのだが、魔王領として一つにまとまっている魔族たちの世界と違い人間たちの世界には複数の国が存在する。

 

 まず、魔王領に最も近い位置に存在するリングル王国。

 王族の気風か国民の気風か知らないが、魔族や魔物の領域に最も近く最も被害を受けやすい割には魔族を含めた亜人に対する偏見がほとんどない、不思議な国だ。

 だが、魔物の領域に近いことなどもあり騎士や魔法使いの質が高く、救命団という負傷兵の確保と回復に特化した集団があるなど、魔王軍の侵攻を2度にわたり防いでいるその実力は本物である。

 

 次に魔王領以外の国々と交流を持つ大陸最高峰の魔法研究機関の学園、魔導学園都市ルクヴィス。

 ここは正確に言えば国家ではなく、独立都市のようなもの。世界中からあらゆる魔法に関する資料をかき集め、魔法使いの高い素養を持つ人間たちが大陸中より集い、日夜魔法の研究を続けている。魔法を学ぶならルクヴィス以上の場所はないともいわれており、大陸において最先端の魔法研究が行われているこの場所には人間だけでなく高い魔法使いの素養を備えた獣人をはじめとする亜人たちも集い学んでいるらしい。

 こと魔法という面においては、魔族すらも及ばない叡智の先端を走る機関だとか。

 そういう事情からか各国の王侯貴族なども多く通っており、大陸全土に強い影響力を持つ。

 

 次にリングル王国とルクヴィスにほど近い地に国土を持つ、カームヘリオ王国。

 魔王という脅威がありながらリングル王国への協力姿勢を見せる国が少ない中、リングル王国との親交が長いためか数少ない協力的な姿勢をすでに見せている国である。国力的にも中堅規模の侮れる国ではない。

 リングル王国に対して早期に協力的な姿勢を見せている国であり、ここは連合軍への参加が確実とみられているため破壊工作をしようともヒビを入れられない国だ。

 

 次にリングル王国同様に魔物の生息域である森に近い国土の広がる国、サマリアール王国。

 祈りの国とも呼ばれるサマリアールは古くから存在する国家であり、その長い歴史が独自の研究で積み重ねてきた高い水準に達する魔法文明を持つ国である。流石にルクヴィスには劣るだろうが。

 この国は閉鎖的であり、また色々と曰く付きな黒い歴史とあるとかなんとか。情報も少なく、不明瞭な点が多いのでどんな国かわからない。むやみに介入すれば藪から蛇が出てきそうなので、魔王軍としても警戒している。

 

 そして、私が今回の任務で向かう予定に存在する人間諸国の国々の中でも屈指の軍事力を誇る大国、ニルヴァルナ王国。

 勝者絶対、敗者無用! を地でいく脳筋国家というのが最適な評価などという話もあるほどに『強さ』に対する執着の強い国で、それゆえか人間たちの国の中では最も戦士の質が高いと言われる。

 ローミア軍団長が仕入れた情報では、国王自ら腕自慢を国中から集めて武闘大会を開くほどだとか。

 ……これってさ、暗殺に絶好の場所じゃない? 国中の腕自慢が集まる大会とはいえ、国王をはじめとする王国の首脳部の大半が国民たちの前に姿をさらけ出すのだ。それに、この大会の賞金を目当てによその国からも腕自慢が集まるため、入り込むのも難しくはない。

 ニルヴァルナ王たるもの、挑戦者なれば暗殺者も含め受けて立ち己が力を持って沈め威信を示すものなり、というスローガンが向こうの王家にはあるらしく、脳筋の歴代ニルヴァルナ王は自ら大会に紛れ込む暗殺者すらも迎え撃つ覚悟を示すとかで欠席したことがないのだそう。

 脳筋ここに極まれり。決めた、この大会に忍び込んで国王たちを暗殺しよう。

 いくら強くても脳筋の王っていうのは策を弄そうとしないから、首を狙い撃ちするのは難しくはないかな。

 

 他にもエルフの集落が人間領の森のどこかにあるとか、魔物の森の只中に広がる巨大な湖の中心に都市があるとか、いくつか未確認の勢力もあるらしいが、魔王領は人間たちの世界と交流があるわけではないので詳細は不明とのこと。ここは情報が少なすぎるらしい。

 そもそも長らく人間と争っている魔族は人間たちの世界をほとんど知らない。交流もないしね。

 

 というわけで、私は秘密裏にニルヴァルナ王国に向かうこととなった。

 狙うは脳筋王の開催する武闘大会。参加者は腕自慢ならば亜人だろうがなんだろうが誰でも大歓迎というずさんなセキュリティーで管理されているというので、潜入は簡単だろう。

 王も『来るなら来い暗殺者!』という態度で大会に顔をみせるそうだし。

 なら、望み通りその命もらいに行こうかな。

 ……でも成功しようが私ではなくローミア軍団長の手柄になるっていうのが腹立つ。

 

 今回の任務は『三男』のみ連れて行くことになる。

 残る家族たちは明言されていないけど、確実に裏切り防止用の人質だ。

 亜人嫌いの人間たちがなんの手土産もない私を受け入れるとは思えないし、むしろ完全包囲されて獄中に放り込まれたり処刑されたりしそうだから、魔王軍を裏切る意思は今の所ないのだけど。

 

 これから向かうのは敵地のど真ん中。

 援軍はなく、周りは全部人間──つまり敵だ。

 前世があるとは言っても、私の今世は魔族。これは変わらないし、この世界の人たちにとっては今世の私が全てだ。

 

 

「グウウゥゥゥ……」

「大丈夫だよ。絶対帰ってくるから」

 

 

 潜入任務の出発当日。

 私は家族たちとなるつもりはないけど今生の別れになるかもしれない挨拶をすませる。

 安心させるように笑顔で取り繕うけど、やはり家族というだけあって隠し事をしようとする笑顔は見抜かれるのか、長男も次男も不安そうで落ち着かなかった。

 

 鼻先を撫でて声をかけるけど、やっぱり落ち着いてくれない。

 一緒に連れて行って欲しいと、言葉を発しているわけではないけど鳴き声からそう懇願しているのがわかる。

 

 

「……ごめんね、それはできないんだ」

「グウウゥゥゥ……」

「大丈夫だって。絶対に私は死んだりしない、必ず生きて帰ってくる。約束するから」

「ブルル……」

「うん、約束。また会おう」

 

 

 家族たちの角に小指を合わせて、約束を交わす。

 長男と次男と、それぞれと。

 それでもまだ不安そうだったけど、私との約束を信じていると言うようにようやくおとなしくなってくれた。

 

 

「……行こうか」

「ブルゥ!」

 

 

 もう1人の家族。

 この戦いに1頭だけ同行する、旅において私の唯一の味方となってくれる家族。

 三男に声をかけると、彼もまた末っ子らしく元気な声とともに答えてくれた。

 

 

「成功を祈っています」

「……では、行ってきますね」

 

 

 ローミア軍団長も見送りに来てくれていたけど、要らない。むしろいらない。

 あの方こっちの心配なんてこれっぽっちもしていない。『成功すればもうけもの』くらいにしか思っていない。

 門出にあなたの見送りは正直要りません。

 

 そんな愚痴を心の中でこぼしながら、三男の背中に乗る。

 そして地面を勢いよく蹴って駆け出す三男の背中にしがみつきながら、森へと向かっていった。

 

 

「……やっぱりあの方苦手だ」

「ブルゥ!」

 

 

 嫌いというか、苦手だ。

 騙し合い化かし合いで、どちらかというと引き摺り下ろす方に立つタイプの方だ。

 自分が生きるためならなんでも利用する点は私に似ているけど、直情的で冷血で自分の命に極端に執着している私と違って、あの方は利用できるものからできないものすらも利用して己の命だけでなく地位も名誉もかっさらって利益を得る狡猾なタイプだ。自分が助かるだけじゃ満足できない、かなりの強欲。

 しかも頭も切れるし。

 ……やっぱり苦手。いくら警戒してもいつの間にか利用できるだけ利用されて最後は捨てられるという運命に他人を導きそうだから、本当にあの方には関わりたくない。

 三男も同じ匂いを感じ取ったのか、同意の声をあげてくれた。

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