あれ? 勇者ってこういうのだっけ   作:みども

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第7話

 魔王領と人間たちの世界の間には、魔物の生息する広大な森が広がっている。

 場所によって生息する魔物などが変化するが、いずれも単身で乗り込むには魔族であろうと危険な地帯である。

 

 どうも皆さんこんばんは。

 現地時刻で今は夜、真っ暗な魔物の生息する森の中を三男の背中に乗って駆け抜けている名もなき魔族です。

 なぜに名無しと? 今世の顔も知らない親に名前もつけられずに捨てられたからです。よって、名前もありませんので無名とな。

 ……捨てた親からつけられた名前なんてこっちから捨てたいところだけど。

 

 さて、本来なら家族たちに引かれる戦車を乗りこなすので『戦車兵』になるところですが、今回は人間たちの世界への潜入任務のために『三男』だけ連れてきているので戦車もありません。もはやこれでは『騎兵』ですね。

 というわけで今回は『チャラいだー』が適切ではないので『騎兵(ライダー)』と呼んでください。

 

 では私と三男がなぜこの危険な魔物の森を夜に進んでいるのかというと、魔王軍に正式に参加してからすぐさまある任務を軍団長から命じられたためです。

 内容は人間たちの国の一つであり屈指の武闘派として知られる『ニルヴァルナ王国』の反魔王連合軍の加入を阻止すること。

 そのために魔王領と人間たちの世界を隔てること森の中を進んでいるわけです。

 ニルヴァルナ王国は人間たちの世界にある国なので、この森を超えないとたどり着くことができないのだけど。

 さすがに魔王領から魔族が堂々と入り込むわけにもいかないので、こうしてあえて危険だが見つかりにくい夜に人間たちの世界への侵入を目指して移動しているというわけです。

 多分、もうすぐ人間たちの世界にたどり着くと思う。

 

 魔王の復活により魔王軍が結成され、魔族一丸となって人間たちの国に対し侵略戦争を開始した。

 その侵略を受けたリングル王国が独力での対抗は困難と判断したのか、人間の他の国に対して魔王軍に対抗する連合軍の結成を呼びかける動きを見せているらしい。

 当然だけど魔王軍としては連合軍を組まれるよりも各個撃破の方がやりやすいのだから、連合軍参加の妨害を仕掛ける必要がある。

 今回のニルヴァルナ王国潜入と破壊任務はその一環なのだ。

 ……手柄の欲しい軍団長の独断だけどね。

 成功すればもうけもの、失敗しても失うのは拾い物のコマ一つで済むしそもそも独断だから軍団の内で片付けられるので経歴に汚点がつくわけでもない、というなんとも周到なやり方なんです。

 陰険な軍団長らしいローリスクハイリターンな手法だね。

 

 そんな任務に駆り立てられている私ですが、従わざるを得ない事情というものがあります。

 今連れている三男の兄弟であり私の今世のかけがえのない家族である長男と次男が軍団長のところにいる。つまり、人質をとられているわけであり、何かあったら彼らの身に危険が及ぶのです。

 だから逃げることはできません。

 裏切るなんて選択肢は元からない。亜人差別の多い人間の世界では、魔王軍として敵対していることも含めれば獣人以上に魔族は受け入れられないから。

 ……正規軍に入ったことで安定的な収入を得られるようになったけど、縛られることが多くなった。あの軍団長の配下に入れられたことも考えると、マイナスの方が多いと感じるこの頃。

 

 とりあえずリングル王国は近いけど間違えなく国境の警戒が強いだろうから、潜入には向いていない。他もだいたい魔物が森から出てくることもあるので警戒は強いだろうけど、なるべくバレないように比較的目立たない場所から侵入する予定です。

 位置的には怪しい噂が聞こえる曰く付きの国であるサマリアール王国と、大陸最高峰の魔法研究機関である魔導学園都市ルクヴィスの境界付近を狙おうと思います。

 人間同士の国々の国境もだいたい警戒が強いのだけど、ルクヴィスはその特別な立ち位置からか比較的緩いらしい。

 それにこのサマリアールとルクヴィスの境界付近というのは未開拓な辺境で、人間もほとんど居を構えていないらしい。

 らしいというだけで詳細は不明だけど、そもそも魔王領で人間たちの世界の情報なんてほとんど手に入らないのだから仕方がない。

 

 このあたりの魔物の領域は、理由は不明だけど他の地域に比べて危険な魔物が多数生息している。

 境界の魔物の領域は全体的に魔王領側に危険な魔物の生息域が広がっているが、このあたりの魔物の領域は人間側の森にも危険な魔物が多い。

 それこそグランドグリズリーに並ぶ強さを持つ狼型の魔物であるグローウルフとかもいる。

 ……といっても、私の今世早々に捨てられた魔王領のさらに奥に広がる魔物の領域に比べれば遥かに安全だけどね。魔族たちの中でも魔境呼ばわりされており、あまりにも危険だから近付けず口減しに子供を捨てるなんてこともできないくらいだし。こっち側ではヌシを張ることも珍しくないグローウルフなんか、魔境に放り込めば即エサだよ。

 

 この辺りは危険な魔物が多い地域だけど、魔境で前半生を過ごした私たちにしてみれば大したことない。

 賢い魔物は格の違いを嗅ぎ取るらしく三男の姿を見るなり逃げ出すし、怖いもの知らずで襲いかかってくる魔物は全然ザコだから軒並み返り討ちにしている。

 夜は確かに危険だけど、私たちにしてみれば踏破するのは難しくなかった。

 

 というわけで、魔物の領域をほぼ抜けました。

 まだ森が続いているけど、魔物の領域は出たみたい。魔力をほとんど持たない動物の数も多数見かけるようになってきたし。

 ……人間の姿は流石に見られないけど。森の中だし。夜だし。

 

 

「ブルゥ!」

「そんなに焦らないで」

 

 

 魔物の領域では大した敵と巡り会えず、家族たちの中では落ち着いている三男も闘争心を持て余している。

 その頭を撫でて落ち着かせながら、森を進む。

 ニルヴァルナ王国では存分に暴れてもらうから、それまでの辛抱だよ。

 

 

「…………」

 

 

 しかしながら、任務とは全く関係ないのだけどこのあたりの魔物の領域が周辺に比べて一際危険な地帯になっていることが、何となくという曖昧なものだけどどうにも気になる。

 こういう時の『何となく』は無意識の内に身に迫るほどの危険を感じていることもあるからあまり無視したくないのだけど……。

 私の方も何だか妙な胸騒ぎがしているし、ここはなるべく早めに抜けよう。

 そう思い、足を速める。

 

 

「ちょっと走るよ」

「ブルゥ!」

 

 

 なるべく早めに森を抜けようと、三男にも声をかけて走り出す。

 走り出した私にあわせてついてきてくれている家族の姿を確認して、前を向き直った。

 

 ──その時だった。

 突然、夜の帳を切り裂くような強烈な悪寒がしたのは。

 

 

「ッ!?」

 

 

 野生で過ごした高い危機察知能力を持つ本能が叫んでいる。

 今すぐここから離れろ、と。さもなくば命が危険にさらされる。

 気配から察するに、ここら辺の魔物なんぞは相手にもならない、魔王領の魔境でも感じたことがないようなとてつもなく強大な何かが前触れもなく突然近くに出現したみたい。

 

 

「ダメ、止まって!」

 

 

 咄嗟に三男に対して片手で止まる指示を出す。

 三男も魔物の本能からその脅威を感じ取ったらしく、先ほどまでの闘志が引っこみ怯え始めた。

 

 

「落ち着いて。大丈夫、私がついてるから」

 

 

 三男のそばに駆け寄り、その体を撫でて落ち着かせる。

 しかしながら、落ち着けと言った私の方が内心焦りまくっています。

 冷や汗が止まらない。急に重たく寒くなったように感じる空気に、足がすくむ。

 

 

「──────────!」

 

 

 森の奥から、聞いたこともないような悍ましい咆哮が森の中に響き渡る。

 ……間違えない。暗くて姿は見えないけど、今の咆哮を上げたのがこの悪寒の元凶。

 どうして突然あれほど強大な存在が出てきたのかわからないけど、野生で培ってきた本能はこの咆哮の主が今まで見てきたどんな魔物よりも強大な存在であり決して関わっていい相手ではないという警鐘を全力で鳴らしてきている。

 

 この感覚、家族たちと出会うきっかけとなったあの大ムカデを前にした時以来のものだ。あの時はお腹が空きすぎて耐えられなかったから巨大ムカデに喧嘩をふっかけたけど、冷静になってみれば相手にしていい存在じゃないことを肌で感じ取れる。

 

 

「何なの……?」

 

 

 サマリアールってなんか怪しい話を多数聞いたことがある国だ。

 そんな国の近くから人間領なんかに入るべきじゃなかったかな……。

 今更ながらルートの選択を誤ったと感じる私だった。

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