あれ? 勇者ってこういうのだっけ   作:みども

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第12話

 体の感覚がない。

 あれほど蝕んでいた苦痛も綺麗さっぱり無い。

 けど、何も感じないからこその恐怖もある。

 まるで、自分の体がなくなったかのような感覚。

 おそらく、さっきの巨大な龍がぶっ放してきた毒のブレスによるものだろう。

 あんなものが直撃したのだ。いくら魔族の体といえど、致命的なダメージを食らっている。

 痛覚などがなくなっているのが、むしろ幸いかな。体が溶け落ちていく死に様は、野生でも見るからに1番嫌な死に方だったからなぁ。

 向こうの森だと龍じゃなくて主に蜘蛛と鋏虫みたいな魔物が使っていた殺害方法だけど。

 

 三男を蹴り飛ばした。

 あのまま食らっていれば、私だけじゃなくてあの子がこの毒を食らっていたはず。

 家族を助けることはできたけど、それだけ。龍に見つかれば、次にあの子を守るのは誰もいない。

 あのブレスを受ければ、あの子は……。

 

 

「──────ッ!」

 

 

 かすかに聞こえる音。

 聞き覚えのある声だった。

 私の家族が挙げる声だった。

 言葉がわかるわけじゃ無い。でも、その声がどんなものかを私は知っている。

 生まれたばかりの頃、私を親と勝手に決めつけて後ろを付け回して、好奇心の赴くままに遊んで、そしてたまに巨大な魔物に襲われて逃げてきた時。私に必死で助けを乞うようにあげていた、悲しい咆哮。

 

 

「認め、られるかよッ……」

 

 

 雷魔法を体の内側に流し、動けない体を無理やり動かす。

 溶けている部位が崩れていく。無理に動かしたせいで残りの体がより一層崩壊を進めて、わずかな寿命がガリガリと削られていく。

 でも、そんなの関係無いと無理やり体を動かす。

 

 私は他人に興味なんて無い。

 利用できれば利用する。害になるなら排除する。無意味なら無干渉で済ませる。

 人を人として見られない。モノとしてしか見られない。

 だから、義理とか、愛情とか、道義とか、忠誠とか、そういうものに一切共感できなかった。

 他人がどうなろうと、私が無事でいられるなら、生きられるなら、躊躇なく踏み台にする。どこまでも自己の保全しか興味が無い、それが私だ。前世からそうだった。

 

 でも、家族は別だ。

 私は親に恵まれなかったから、まともな家族愛というものを知らない。

 それでも、前世でも今世でも、家族は私にとって唯一自分の命を張るということができるかけがえの無い存在だ。

 

 だから、立ち上がらなきゃならない。

 私の家族が、傷を負うことも厭わずに戦っている。

 なら、この子達の『親』になるって決めた私が、私を捨てたクソ親どもと同じ我が身可愛さに子供を見捨てる選択肢なんてとるわけにはいかない。

 

 目を開く。

 そこに見えたのは、毒ブレスを放とうとする腐ったドラゴンと、それに殴りかかる白服の人間と、ドラゴンの前足に踏みつけられて悲鳴をあげる私の家族だった。

 

 

「──ッ!」

 

 

 その光景に、私の怒りが噴火した。

 

 ドラゴンだか龍だかどっちでもいいけど、私の家族に手を出すなら許さない! 

 問答無用であいつは腐ったトカゲ野郎、クソトカゲだ! 

 

 槍を握りしめる。

 腕に雷の魔力を流す。

 

 クソトカゲとの間に見覚えのある黒髪がいる。

 なんで行方不明になったはずのあいつがいるのか知らないけど、今はそんなことどうでもいい。どうでもいい他人より、私の家族を傷つけたあのクソトカゲをぶちのめす方が先だ。

 普段なら他人なんか気にせずまとめて串刺しにするけど、あのクソトカゲには確実に槍の投擲を万全なもので打ち込みたい。

 だから、黒髪の背中に向かって()()()()叫んだ。

 

 

「そこをどけ、兎里ッ!」

 

 

 腕の残った筋肉など一切留意せず、全力で槍を投げる。

 どうせイカれて消えた痛覚だ。今更この体をどう酷使して壊そうが、痛くなければ関係無い。

 

 雷を纏う槍は私の声に反応し回避したクラスメイトの横を通り過ぎ、クソトカゲの残っている方の目を穿ち、風穴をその顔面に開けて夜空の彼方へと飛んで行った。

 

 

「ヴキュオゴオオオォォォ!!」

 

 

 ドラゴンが悲鳴を上げて、風穴の空いた顔面を両の前足で抑える。

 その際、三男を押しつぶす前脚が上げられたことで拘束から解放された。

 

 

「私の家族に手を出してんじゃねえぞ、クソトカゲがぁ!」

 

 

 当然そんな程度で許してやるつもりなど無い。

 雷魔法を全身に回して、腐っている傷口などは焼き固めて、神経は筋肉も骨も安全を考慮せず全力で動けるように指令を流し跳び上がり、痛みに呻くクソドラゴンのガラ空きの腹に飛び蹴りを叩き込んだ。

 

 

「ヴキュオゴオオオォォォ!!」

 

 

 どこまでも耳障りな鬱陶しい咆哮をあげる邪龍。

 しかし目が潰れた影響か、こちらが見えていないらしく我武者羅に前足を振り回してくる。

 だが、見るからに当たれば一撃で致命傷となる強力な攻撃であろうとも、狙いも定めていない上に巨体ゆえに鈍臭く大ぶりな攻撃なんぞに当たるほど私は優しくなければバカでもない。

 

 魔力を内側と外側へ循環させることにより肉体の一部を魔法で覆い、その外側を魔力の属性に変化させる。

 これにより外界から見れば肉体そのものをその属性の魔力に変化させる、使い手から見れば『魔法という装甲を纏った』という表現の合う、外側だけだがその魔法の属性を得ることができる魔法。

 黒騎士殿の闇魔法を参考にしているのであの方の使っていた鎧が近いかもしれないけど、こちらは私の独学ゆえに多分原理は全く違うだろう魔法『属性同化』だ。

 これにより一時的に自分自身の足を雷に変えることが可能となり、空中でも雷光よろしく立体きどうもお茶の子さいさい、自由な回避と移動を可能とする。

 あくまで魔法の鎧を纏っているだけなのでその鎧を破壊する攻撃を受ければ中の実体に攻撃が届くようになるし、本当の意味で自分の体を魔法に食われないようにする魔力の制御が難しいため、頭以外の体の一部にしか使えないけど。

 

 邪龍のデタラメな攻撃をこの『属性同化(雷)』を用いることにより、巨体が繰り出す攻撃を素早く躱しながら、本来自由に動けない空中でも回避して邪龍の腹に拳の届く位置に降り立った。

 そしてすぐに足から右腕全体に雷魔法を纏い、『属性同化』を展開する。

 その拳を引き絞り、ひび割れ破壊されている役立たずの鱗に覆われたドラゴンの腹に打ち込んだ。

 

 

「くたばれええエェェェ!!」

 

 

 鱗が砕かれ、邪龍の朽ちた肉体に強力な雷の魔力が流れる。

 内臓と体幹を支える骨にまで届いた雷は、邪龍の腹を内と外からその強力な魔力によって打ち砕いた。

 代わりに魔力の暴発で私の右腕が肘から消し飛んだけど、あいつに一泡吹かせて三男を助けられたのなら腕の一本くらい安いものだ。別にこれで即死というわけじゃ無いんだし、どうでもいい。さっさと焼き固めて止血するだけに済ませる。

 

 

「……思い知ったか、クソトカゲ」

「ヴキュオゴオオオォォォ!!」

「チッ……!」

 

 

 ドラゴンが尻尾を振り回してくる。

 手応えもあったし、いろいろとぶっ壊したはずなのだが、まだ動けたらしい。

 しぶといトカゲだな、クソッ……。舌打ちをこぼしながら、頭と腹を潰してもまだ倒れないドラゴンから距離をとろうとする。

 

 ここまでやって倒れないなら……逃げたほうが良さそう。毒のブレスによって森が破壊されて退路を塞ぐように被害が広がっているけど、まだ私たち分の退路くらいは残っているし、別に森が朽ち果てても私には関係無いし。

 腹の中身の骨と臓物、それと顔面。まあ、流石にここまで壊せば三男を助け起こしてからでも逃げ切るくらいは大丈夫だろう。もともとトカゲ野郎に一泡吹かせて三男の安全を確保できれば、もうこれ以上やりあう理由は私には無いのだから。

 そう判断して踵を返そうとした時、私の横を先ほどまでドラゴンに踏みつけられていた三男が通り過ぎドラゴンめがけて突進してきた。

 

 

「ブルオオオオォォォォォ!」

「何をして──ッ!? 止まって!」

 

 

 慌てて制止しようとしたけど、頭に血が上っているのか言うことを聞いてくれない。

 雷を纏う三男の突進はドラゴンの体に直撃し、その鱗を破壊して攻撃を通す。

 だが、それもドラゴンを倒し切るには至らない。

 むしろ、目が見えないドラゴンにその位置を教えるようなものだった。

 

 ドラゴンの風穴を顔面に開けながらもアゴは無傷の、ところどころかけてはいるが三男くらいならば十分噛み砕けるだろう巨大な口が迫る。

 

 

「クソがッ!」

 

 

 属性同化によって脚のみを雷に変えて再度跳び上がり、三男をかみ砕こうとしたドラゴンの頭部を横から左腕で殴りかかる。

 噛みつこうとしている姿勢は不安定だし、殴り飛ばせばによりドラゴンの牙は三男に直撃するコースからずれ地面にかぶりつくことになる。

 ──はずだった。

 

 ドラゴンはまるで私が三男を助けるのを待っていたかのように、首の向きをいきなり私の方に向けてきた。

 

 

「なっ──!?」

 

 

 誘われた。

 気づいた時にはもう遅い。

 ドラゴンが私を捉え、その鋭利な牙の並ぶ口で噛み付いてくる。

 

 ならもう片方の腕をくれてやると、もう一度魔法の暴発による攻撃でドラゴンの牙から逃れようと魔力を流した時。

 今度はそのドラゴンの本命の攻撃に横槍が入った。

 

 

「オリャアアアアアァァァァァ!」

 

 

 一瞬、オーガと見違えた白服を纏う人間。

 先ほど槍を叩き込むために退くよう怒鳴りつけてから放置していた、前世は見慣れたがこの世界ではどちらかというと珍しいだろう黒髪に、白の救命団の服を身にまとった青年。私がこの世界に転生する前、行方不明になったはずのクラスメイトである兎里 健。

 そんな彼が、私の前世における記憶の中では一度たりとも浮かべたことの無い鬼のような形相を浮かべながら、噛み付こうとしていたドラゴンの横顔を殴りつけてきたのである。

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