あれ? 勇者ってこういうのだっけ   作:みども

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第13話

 ドラゴンを相手に立ち向かう勇者が、どうやって戦うと思いますか? 

 聖剣、聖槍、或いは大砲などでしょうか。候補をあげるとしたらこういったものになるでしょう。

 少なくとも素手で「おっしゃ、ブン殴ろうか!」というノリにはならないと思います。

 

 

「オリャアアアアアァァァァァ!」

 

 

 ……ならないよね、普通は。

 

 どうも皆さんこんにちは。名もなき戦車乗りの魔族です。

 ドラゴンを見た、の次はドラゴンに挑む勇者は、という話題がなんで出てくるのか。

 理由は同じです。目の前でドラゴンに立ち向かっている勇者がいる光景があるからです。

 ただし、その勇者。

 聖剣も魔剣も持たず、何を思っているのかドラゴンを素手でブン殴って戦っているのです。はい。

 

 意味不明だって? 

 私も意味不明ですよ。

 でも実際、ドラゴンに殴りかかってしかも顎の骨砕いて殴り倒した人が目の前にいるのだから、意味不明でもなんでも現実として受け入れなければならない。

 しかもそれが前世で同じ学校の同じ学年に所属していた名字と人当たりのいい性格以外にさほど目立つところの無い名前と顔は知っている人物と同一人物である、というおまけつきです。

 ……より一層意味不明だっての。

 

 他人の空似かもしれないけど、その可能性は低いと思います。

 槍を投げつける時に、久しぶりに使った日本語で退くように言ったら、それに反応して避けてくれたので。

 咄嗟の反応かもしれないけど、退けという言葉の意味を理解した上での行動だったように見受けられました。

 

 ドラゴンに殴りかかったならお前も同類だって? 

 私がクソトカゲ野郎にしかけたのは腕一本犠牲にした魔力の暴発を利用した攻撃です。殴るというよりも魔法に重点を置いた攻撃なので、殴りかかったという表現は適切ではありません。

 それに、制御度外視なので腕が吹き飛ぶリスクが大きいけど破壊力もしっかりとある攻撃でしたから。

 あの素手でドラゴン殴り倒すという奇行を繰り広げる輩と一緒にしないでください。

 

 結論──分かりません。

 ドラゴンに殴りかかる奇行種、もとい兎里(うさと) (けん)は、ドラゴンの顎を拳で砕くという少なくとも人間ができる所業では無いことをしでかした後、訳も分からず混乱している私の前に降り立つと、この血なまぐさい世界に似合わない年相応の平和ボケの染みている他人を心配する表情をしながら私の方に駆け寄ってきた。

 

 

「君、大丈夫!?」

 

 

 言うなり、混乱している私の肩に触れる。

 兎里から敵意を感じなかったというのもあるけど、他人に簡単に触れられるのを許すほどに私は混乱していた。

 そしてその直後に兎里の掌から穏やかな緑色の魔力の光が放たれて、邪龍の咆哮などによりズタボロにされていたはずの私の身体が瞬く間に治っていった。

 

 治癒魔法。

 人間にのみ発現する、端的に言えば生物の治癒に特化した魔法である。

 兎里の魔法系統なのだろう。魔法が無い世界に生きていたはずのこいつに魔法が使えるのも驚きだったけど、希少な系統の魔法を扱うことよりもドラゴンを殴っていたことが衝撃的だったのであまり驚くことができなかった。

 文句は言わせません。治癒魔法使えることより、ドラゴンに殴りかかることのほうが衝撃的。よっぽどの天然でもなければそう感じるはず。

 

 ……しかし、治癒魔法の系統の持ち主って治癒魔法しか使えないはずだよな? 身体強化の魔法とか使えないはずだよな? 

 それでドラゴンを殴り倒す。

 ──だめだ、深く考えるのやめよう。敵であるはずの魔族を躊躇いなく治療する能天気なツラみたら、それについて考えるべきでは無い気がしてきた。底なし沼にはまる予感がします。

 

 焼き固めてしまった腕以外は、兎里の治癒魔法ですっかり治ってしまった。

 兎里を括るのは間違えかもしれないけど、人間に助けられるとは思いませんでした。

 私の知るこの世界の人間は魔族や獣人といった亜人に──というか人間以外に対する偏見が極端に強い種族だったから。

 

 

「その、腕は……」

 

 

 まだ混乱から立ち直っていない私に対し、兎里の方はといえばなぜか申し訳なさそうにしている。

 まさか、腕を生やすことはできないことを謝っているのか? 

 ……どんだけお人好しなんだよ、こいつ。なんか、前世で頼んでもいないのに鬱陶しくおせっかいを焼き説教もしてきたあの野郎を思い出す。

 これだけお人好しだと、同性とはいえ無類のお人好しだったあの野郎とも仲良くできたんじゃ無いかな? なんてどうでもいい感想が浮かんだ。

 

 その時、本能が警鐘を鳴らしてきた。

 兎里の背後に、先ほど殴り倒されたクソトカゲが首だけを起こしてブレスを吐こうとしている姿が目に入る。

 

 

 

「──ッ!? ボサッとしてんじゃねえ!」

「うわっ!?」

 

 

 即座に兎里の襟を掴んで、跳び上がる。

 咄嗟の事でガラにもなく他人を助けるということをした直後、眼下を邪龍の放った巨大な腐敗の煙が通り過ぎた。

 

 

「チッ、目が3つあるのかよあいつ……」

 

 

 残っていた方の目は槍で確かにブチ抜いてやったはずなのに、クソトカゲの野郎は明らかに狙って兎里と私にブレスを放ってきた。まるでどこかにもうひとつ目があるような狙いである。

 

 属性同化(雷)で脚を雷に変化させることで滞空しながら、下を通ったブレスの惨状と邪龍を見下ろす。

 感電されるのも面倒臭いしこっちの魔力の無駄遣いなので、兎里は肩に担いでいる状態です。

 

 

「う、うおおおお!? な、なんで僕空飛んでるの!?」

「驚くようなことかよ……」

 

 

 肩に担いだのがなんか空を飛んでいることに驚いて騒いでいるようだけど、私から言わせてみればお前も素で飛び回っていたじゃねえかさっきまでと返したいです。人間があんなバッタみたいにポンポン飛び回ってたまるか、仮面のバイク乗りヒーローじゃないのだし。

 

 寸前まで命の危機に直面していたのに子供みたいに空を飛んでいることにはしゃいでいる肩の荷物に若干呆れていると、クソトカゲが鼻をピクピクと動かすのが見える。

 直後、先ほどまでブレスを放っていた方を向いていた貌が空を飛んでいるこっちを向いた。

 

 

「ユウ者ガアアア!! 逃ガザグゥウウオオオオオォォォオォォォ!」

 

 

 あのトカゲ喋れたのか!? 

 いや、それよりも見つかった。

 あのクソトカゲ、目が見えないからって匂いでこっちの位置を特定してきやがった! 

 

 

「動くぞ、口閉じてろ!」

「何が──ってエエエエェェェ!?」

 

 

 騒いでいる荷物に声をかけてから、即座にその場を動く。

 少し遅れて、邪龍のブレスが私たちの先ほどまで滞空していた場所めがけて放たれた。

 

 邪龍のブレスを躱しつつ、三男を探す。

 私の言うことを聞いてくれないくらいに怒っていたようだけど、クソトカゲの振り回した尻尾の直撃を受けて弾き飛ばされてしまったようで、離れた場所にうずくまっていた。

 邪龍からは完全に無視されているらしく、ひとまずは安全の確保できる場所に倒れているけど。

 ……相当無茶をしたのだろう。もう体を纏う雷が消えかかっている。怪我もしているのか、立ち上がることもできないようだ。

 

 避難させて治療したいけど、クソトカゲのブレスで狙い撃ちにされている状況ではそれもままならない。

 でも、氏素性のしれない魔族もケガ人なら助けてしまうこのお人好しなら、魔物も助けてくれるかもしれない。

 邪龍のブレスを飛び回って躱しながら、私は肩に担ぐ荷物を利用することにした。

 

 

「おい、兎里!」

「な、何!? というかなんで僕の名前──」

「んなことは後だ! あの子を治癒魔法で助けろ!」

「え、まだ怪我人が──って投げるなあアアアァァァァ!」」

 

 

 担いでいては回避もしにくい。

 私は言いたいことだけ兎里に伝えると、三男がうずくまっている場所めがけて兎里を投げ飛ばした。

 

 兎里がいることとか、治癒魔法を使えることとか、ドラゴンを殴り倒せることとか、そもそもこのドラゴンどこから出てきたのだとか、いろいろ考えるべきことはある。確かめなきゃいけないこともある。私だって混乱している。

 だが、何をおいてもまずはあのトカゲをどうにかしてからだろう。

 

 クソトカゲが匂いをたどって兎里を投げ飛ばした方向を向く。

 あいつは人間の匂いでも嗅ぎ取っているのだろうか。

 だとしても、今はあいつをやらせるつもりはない。

 せめてあの子の怪我を治してもらうまでは、こっちに付き合ってもらう。

 

 

「よそ見してんじゃねえぞ、トカゲ野郎が!」

 

 

 こちらをガン無視するクソトカゲに向けて、注意を引くために肘から先をなくした右腕にもう一度魔力を集めて無防備に晒す背中めがけて落雷の如き渾身の攻撃を叩き込んだ。

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