あれ? 勇者ってこういうのだっけ   作:みども

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第14話

 肘から先、肩まで右腕が跡形もなく消し飛んでしまった。

 別に家族のためなら惜しくないし、中途半端に残る腕なら全部消してしまっても関係ないし、あのブレス食らったせいで痛覚がおかしくなったのかさほどというか全く痛みがなかったし、さっさと電撃で焼いて止血して仕舞えばどうということはなかったので、別にいいけど。

 代わりにクソトカゲの背中をぶち抜けたので良しとしよう。あいつの鱗はどうやら雷、というか熱にやけに弱いみたいだし。私の攻撃は比較的効くみたい。

 

 どうも皆さんこんにちは。……こんにちはとか言っておきながら、もう現地はこんにちはの時間じゃなくておやすみなさいも過ぎたような深夜の時間ですけど。

 名もなき戦車乗りの魔族です。今は戦車乗ってないですけどね。

 

 魔王軍に所属している私は、上司である陰険軍団長からある任務を命令されて人間領に来ました。

 その途中、魔王領を囲む魔物の森を抜けた先にあったこの場所で、謎のドラゴンと遭遇。ブレスを食らってしばらく退場していた間に三男とどこから湧いたのか前世で同じ学校の同じ学年の同じクラスに所属していた、いわゆるクラスメイトであった兎里というやつがいて、彼らが──というか三男が邪龍に立ち向かっていったので私も戦う羽目になりました。兎里だけが戦っていたなら私は迷いなく三男連れて離脱していましたね。

 三男が倒されてしまい、治癒魔法を使えた兎里に彼を助けるように言って放り投げ、私はその間クソトカゲの注意を引くために右腕の残りを犠牲に一撃を背中に叩き込んで今に至ります。

 

 ドラゴンに殴りかかるとか何考えているんだよっていうツッコミは兎里にしてください。

 私は殴っているけどあくまで魔法で攻撃しているのに対し、兎里は素手でこのトカゲに殴りかかり顎の骨ぶち抜く離れ業をやってのけるやつだから。

 ……多分というか確実にさ、魔王軍に対抗するためにリングル王国に召喚された勇者とかいうのって兎里のことですよね。前世では生徒会長とあのお節介と一緒に行方不明になったし、異世界召喚されたというなら見つからなかったとしてもおかしくない。前回の戦いであの黒騎士殿を制圧した救命団の白服着た黒髪のバケモノという魔王軍に流れていた噂に出てくるのと外見的特徴も一致しますし。

 勇者に倒されたのか。黒騎士殿も不運だな。別に親しかったわけでもないというかほぼ関わりなかった魔族だから、あの方がどうなろうと知ったことではありませんけど。

 

 

「ガギュグオオオォォォアアアァァァァ!!」

 

 

 背中を砕かれたクソトカゲの注意は、完全にこちらへ向いた。

 目は見えなくても、背中を壊されたならさすがにこっちの位置も割れる。

 首をこちらの方に向け、ブレスを放ってきた。

 

 

「当たるかバカ!」

 

 

 クソトカゲのブレスには、息を吸い込むという前兆がある。

 暗い夜間に黒い体表ならその動作も目立たないかもしれないが、背中に乗っていれば手に取るようにその動きがわかるのでブレスを放ってくることは分かっていた。

 すぐさま属性同化(雷)で脚を稲妻に変化させて空に飛び上がり、その攻撃を躱す。

 

 デカ物なだけあって、図体の割には速い方の動きなのかもしれないが私から見ればその動きは遅い。

 躱すことは難しくない。ブレスの予兆もわかりやすいし。

 確かに一撃掠められればこっちとしては大ダメージ必至だが、かすめられないように回避とこちらに注意を引き付けるために動き回るのであれば出来ないことではなかった。

 

 

「タカガ雑魚魔族風情ガ、欝陶シイワァァアアア!!」

 

 

 忌々しいと、クソトカゲが咆哮をあげる。

 最初は分からなかったけど、このドラゴン喋れるっぽい。

 舌と歯肉が腐って顎が壊れているから聞き取りにくいけど、こっちの世界の言語を確かに喋っている。

 喋れるというだけで、腐った脳みそは短絡的な思考回路しか形成してないっぽいけど。

 

 しかし、脳も腐ったクソドラゴンだけどやはりドラゴン。

 こっちの攻撃は片腕くれてやったものですら体を傷つけることはできても見た目や音の割にそれほど深い負傷には至らないようだし、デカ物を倒す決定打にかけている。

 対して向こうの攻撃は掠めるだけでこっちは死にかねない攻撃手段を多数持っているし、ブレスなんて遠距離攻撃手段も持ち合わせている。

 それに目を潰したのだが今度は鼻で相手の位置を特定してくるので、回避は難しくなくても油断し止まっていれば的になってしまう。三男と兎里の方に攻撃を仕掛けられるわけにもいかないので、意識をこっちへ釘付けにするために攻撃をし続けなければならない。

 圧倒的格上の強者に命を懸けて挑む絶対的に不利な戦いという、野生で生きてきた身の上としては何度も経験してきたけど一度たりとも慣れることのない戦いとなっていた。

 

 マシな面があるとすれば、クソトカゲに知性があることかな。

 あの図体で獣のように本能に生きているわけではなく知性があるというのは厄介な面ではあるけど、逆にこっちを勝手に見下してくれるだの煽り耐性が低いので挑発に乗りやすいだの、なまじ半端な知能があるために攻撃に読みやすい面があるだの惹きつけるのがやりやすいだのといったこと。

 逆に本能に生きる野生の世界の魔物たちは、ウサギを狩るのに全力をかける獅子のごとく格上格下関係なく余力は残すようにはするけど全力で狩りに来るから。本能で容赦無く急所を突きまくり、弱点を狙いまくり、執拗すぎる追撃もためらわずなどなど……傲慢なんて死に直結する贅沢だから、野生の生存競争においては舐められるというのは無縁です。

 その点、このクソトカゲはこちらを見下しているからやり易い。ブチ切れても雑魚魔族とかほざいて見下すのを忘れないくらいだから。

 巨大なぶん鈍足で、挙動が単純でわかり易いというのもマシなところか。

 

 とはいえ、一撃掠めれば死ぬ戦いであることには変わりない。

 毒もブレスのたびに巻き散らかされているので、長期戦も不利になるのは明白。

 三男を潰してくれた礼はもう私としては十分返したから、あの子を治してもらったらさっさと逃げたい。

 

 属性同化(雷)を駆使して空中機動を取り邪龍のブレスを躱しつつ、何度か魔法で雷攻撃を打ち込み続け、機を見て接近戦を仕掛けては一撃離脱を繰り返す戦いを暫くしていたところ、邪龍の背後から白服をなびかせる前世のクラスメイトが戻ってきた。

 体感的にはかなりの時間が経ったけど、実際は3分くらいだった邪龍とのサシの戦いを繰り広げていたところに、素でドラゴンをぶん殴る所業をこなしている勇者が再度横槍を入れる。

 

 

「こっち向け化物おおおぉぉぉ!!」

「ゴギュルグウウゥゥゥウウウゥゥッ!!」

 

 

 今度は殴りかかるのではなく、魔法の類ではない素のジャンプで邪龍の巨体を跳び越えてから、脳天めがけて踵落としを食らわせてトカゲの頭を地面に叩きつけた。

 ……いや、どっちが化物だよ。

 乱入早々大暴れしている。前世ではこんなことするような人物には見えなかったのだが、異世界に来て本性を晒し始めたとかなのだろうか? 少なくとも身体能力に物言わせて叩き伏せて良い相手ではないと思う。

 

 よくないけど、まあ良い。

 ツッコミどころもあるだろうけど、命を懸けた狩る者と狩られる者の闘争の舞台にそんな不純物を持ち込む余裕なんてない。

 ドラゴンが兎里の攻撃で地面に頭を叩きつけられた。今はそれによって大きな隙が生まれたということさえ認識していれば良い。余計な不純物の片付けは後から出来る。余計なものに気を取られてこの好機をみすみす見逃すようでは、野生ではすぐに死ぬ。

 

 すかさず地面に叩きつけられた邪龍の頭部に接近し、槍で穿った方の目に腕を突っ込む。

 この部位は眼球という構造から必ず脆い上に、槍でさらに瞼などを軒並み破壊してある。もう、脳髄に至る道を守るものは全て剥がされたこの巨大生物に作られた大きな弱点だ。

 そして頭部に眼球を持つ生物の宿命として、この場所から通る神経は脳髄に直結している。

 何度も、何度も何度も何度も、野生の世界で格上相手にこの攻撃を通して倒してきた。

 

 

「────死ね」

 

 

 触れたクソトカゲの視神経へ、雷魔法を打ち込み脳髄に電撃を直接叩き込む。

 

 

「ヴキュオゴオオオォォォ!!」

 

 

 邪龍は目を通して脳へ直接打ち込まれる電撃に言葉にならない悲鳴をあげ、やがてその咆哮は断末魔へと変わり静かに四肢から力が抜けて倒れ伏した。

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