あれ? 勇者ってこういうのだっけ   作:みども

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第15話

 邪龍の目のあった穴から、腕を引き抜く。

 すでに絶命したらしく、呼吸をする様子もない。

 私がクソトカゲからとどめを刺した腕を引き抜いたとほぼ同時に、その脳天に踵落としを叩き込んだこの攻撃のチャンスを作った人間離れした人間となった前世のクラスメイトが私の隣に降りてきた。

 

 どうも皆さんこんばんは。現地は深夜だけど下手したらもう夜明けが近づいてきているかもしれないほど遅い時間帯です。

 今世の親に捨てられたので名前がない、名無しの魔族です。今回はお見せする機会がなかったですが、魔王軍の兵士として参加するときは戦車を乗り回して戦うので、便宜上『戦車兵』と名乗っています。

 

 魔王軍として働いていたある日、とある任務に従事するため陰険上司の軍団長に命令されて人間の領域に潜入したのですが、その道中で謎のドラゴンと遭遇しました。そしてその場にいた前世のクラスメイトと共闘することとなり、そのドラゴンを打ち倒したところです。

 現状を簡単に説明するとこうなります。

 

 隣に降りてきた前世のクラスメイト、彼の名前は『兎里(うさと) (けん)』。

 同級生で珍しい苗字だったから名前と顔は知っているけど、正直言葉を交わしたことなど皆無でほとんど知らない仲だった。

 そんな彼は私がこの世界で魔族として転生する羽目になった事故の数日前、突如として生徒会長と鬱陶しいお節介だったよく知る人物とともに行方不明になったという話を聞いていました。多分だけど、この時に彼らはこっちの世界に召喚されて勇者となったのだと思います。

 その勇者の活躍で前回のリングル王国侵攻戦にて魔王軍が敗北し、そして今回はドラゴンを倒すことができた。ということを考えると、いろいろとこんがらがっている展開があるものだと思わされます。私は別に家族を養える日銭を稼ぐために魔王軍に入ったのだから、人間も魔族もドラゴンも何がどうなろうと、自分と家族が無事で済むというならばどうでも良いですけどね。

 

 すでに動かなくなったドラゴンを見上げながら、こちらに近づいてくる兎里。

 私の方はもう骸となったドラゴンには興味ないので、小山のような死体は無視して兎里の方に最優先で確認したいことを問い詰めるべく詰め寄った。

 

 

「おい兎里」

「あ、よかった無事だったんだ」

 

 

 三男が心配で気が立っている私とは対照的に、兎里は戦闘中に見せていた鬼のような形相は引っこみ前世でよく見せていた穏やかな人当たりの良い笑顔を浮かべていた。

 もう前世のクラスメイトというより今世の人間に召喚された勇者であり魔族の敵という認識が強くなっている私としては、魔族に向けるのにはなんか釈然としない反応である。

 それ以前に、まさかこいつ私が魔族であると認識していないのだろうか? 

 まさか人間と魔族を同一視しているわけではないはず。ツノはある、肌は褐色、魔法も身体能力も人間より上の存在を喋れるだけで人間と同一視するということはあり得ないだろう。こっちの世界の人間ではなく、魔族という存在に慣れていないとしても。

 

 でも、今はそんなこと私にとってはどうでも良い。

 兎里に私が魔族という認識があるのか、魔族に対する差別意識があるかないか、ついでに鬼みたいな形相を浮かべるようになった豹変ぶりとかも関係ない。

 まずはこいつに託した三男の無事を確認したい。それ以外に興味はない。

 

 

「あの子は?」

「え?」

「お前を投げつけたところにいた私の家族だ。あの子は無事なのか?」

「ああ、あの犀みたいな魔獣のことか! 大丈夫、今は眠っているけど命に別条はない。傷も僕の方で治療しておいたから」

 

 

 私の質問に一瞬戸惑い返答に詰まった兎里の胸ぐらに掴みかかり、さっさと答えろと問い詰める。

 そこで兎里の方も私が何を気にしているのかを気付いたらしく、受け手にとっては暢気とも取れる穏やかな笑顔で無事であることを答えた。

 兎里の方に嘘をつく理由はないし、実際無事なのだろう。

 それを聞いて、私は大きな心配事が解決し肩にのしかかっていた不安という大きな荷物が下される感覚を味わった。

 

 

「そうか……手間をかけた」

 

 

 クソトカゲを仕留めたこと、三男が無事だったこと、そして前世の知り合いと顔を合わせ言葉を交わしたことで困窮していたが平和だった前世のことを思い出したこと。

 幾つかの事情が重なったことで気が緩んでしまったらしい。

 私は柄にもなく、他人である兎里に対して感謝の言葉をこぼしていた。

 

 

「いや、僕の方も君に助けられたから」

 

 

 一方、兎里はさりげなく私の肩に触れて治癒魔法をかけながら、お人好しぶりを発揮して向こうから見れば初対面の相手に向けるようなものではない穏やかな表情を浮かべつつ返答してきた。

 

 私が助けるようなことをした、か? 

 こちらは自分自身のために戦っていたにすぎない。礼を言われる筋合いはないのだが、向こうにしてみればクソトカゲを倒すのに共闘した存在と見ているのかもしれない。

 共闘しただけで味方と見るのは随分と甘い考えだとは思うが、日本人としての記憶が色濃いならそういう考え方に傾いていたとしてもおかしくはないかな。

 

 しかし、私としてもこの疲れ果てている状況で兎里と敵対するのは避けたい。

 向こうが警戒していないなら、都合が良い。勇者の暗殺任務なんて請け負っていないし、この場で事を荒立てるメリットはなくそのつもりもない。お互いこれ以上の荒事は無し、停戦の方向で進められるならばそれに越したことはない。

 

 兎里の治癒魔法の魔力はその表情に似合う穏やかで温かいものだった。

 治癒魔法というだけあり、心地よい。無くした腕の根元にできた傷口もすぐに塞いでしまった。

 

 頼んだわけでもない私の治療を終わらせた兎里。

 ドラゴンが片付きひと段落したところで、お互い尋ねたいことが多くある。

 その話題に移ろうと兎里が口を開こうとした時、まるでそれを遮るように兎里の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 

「ウサト!」「ウサト殿!」「グルァ!」

「アマコと、この声はアルクさん!? よかった、目を覚ましたんだ!」

 

 

 自分の名前を呼んだ声に反応する兎里。

 どうやら連れがいたらしい。

 仲間がいたのにこいつ1人でドラゴンに立ち向かっていたということか。足手まといだったら離しておくのは正しい判断だろうが、無謀極まりないことに飛び込んでいることには変わりないし、やはり馬鹿なのではないだろうか? 

 そんな感想を抱いていると、こちらの連れも目を覚ましたらしく駆け寄ってくる足音と声が聞こえてきた。

 

 

「ブルゥ!」

「起きたみたいだね」

「……そうらしい」

 

 

 そしてお互いの連れが茂みを越えて姿を表す。

 出てきたのは三男、そして向こうの連れは赤髪の鎧に身を包んだ騎士らしき人間と狐耳の獣人──そして青毛の魔獣ブルーグリズリーの子供だった。

 

 

「魔族だと!? ウサト殿、危険で──うぐっ」

「グルァ」

「ウサト、誰なのあの魔族?」

「ブルゥ!」

 

 

 そしてお互い初対面を果たしてからの反応。

 騎士はすぐに私が魔族であることを見抜き剣を抜いて兎里をかばうように立ち塞がったがどこかを痛めているのかすぐさま膝をつき、狐耳の獣人はこちらを警戒するように見ながらも兎里に誰なのかを尋ね、ブルーグリズリーの子供は彼なりの挨拶なのか兎里の背中をぶっ叩いた。

 三男は、向こうの面子を完全に無視して私に飛びかかってきた。

 

 

「痛っ!? ちょっ、いきなり飛びかからないでよ!」

「アルクさん、まだそんな急に動いたらダメですって! すぐに治療しますから」

 

 

 兎里は膝をついた騎士にすぐに治癒魔法をかけ、私は三男に押しつぶされた。

 再会が嬉しいのはわかるけどビックリするし痛覚の復活も確認できるし戦闘終わって疲れているから、いきなりこれは勘弁してほしい。こっちも嬉しいから良いけどさ。

 

 

「ねえ、質問に答えて。誰なの?」

「申し訳ありませんウサト殿」

「謝ることじゃないですよ。……あれ、なんか背中にすごい圧が」

「グルァ」

 

 

 騎士の言動で引き締められそうになっていた空気が一気に弛緩する。

 こちらを警戒するように見つめる狐耳の獣人の目線は、いつしか兎里の背中に氷の視線となって突き刺さっていた。

 

 ……異世界から来た勇者、多分だけどリングル王国の人間の騎士、狐耳の獣人、そしてブルーグリズリーの子供。

 魔物を連れている私が言うことではないかもしれないけど、随分と色物を集めた集団に見える。まともなのは騎士だけだ。

 何をどうしたらこんな集団が出来上がるのだろうか。

 片腕でようやく三男を落ち着かせてその巨体から抜け出した私は、戦闘の次は彼の率いる面々の色の豊かさ驚かされるのであった。

 

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