あれ? 勇者ってこういうのだっけ   作:みども

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第16話

 三男、私は一体何を見せつけられているのか教えて。

 クソトカゲとの死闘を終えた直後とは思えない兎里の率いる面子のやり取りを眺め、私は呆れれば良いのか嘲笑すれば良いのか叱りつければ良いのかわからず困惑していた。

 

 

「待ってアマコ、僕も彼が誰か知らないんだ!」

「嘘、とても初対面とは思えないくらい親しく話していた」

「ウサト殿のお知り合いでしたか。ならば大丈夫ですね」

「アルクさんも何納得しているんですか!? さっきまでの警戒は!?」

「グルァー」

「ブルリン、テメエは知らん顔してんじゃねえ!」

 

 

 どうも皆さんこんばんは。

 交通事故で人間から異世界の魔族に転生した後、前世のクラスメイトと予期せぬ再会を果たし、今は彼が率いる面子とのやりとりを見せつけられている名もなき戦車乗りの魔族です。

 名前がない理由は……もう説明するまでもないですよね。

 

 予期せぬ再会からクソトカゲとの戦闘において共闘することとなり、そのトカゲを撃破してからお互いの連れと再会を果たしたのですが、一体私は何を見せつけられているのかという疑問を呈したくなる光景を兎里が見せつけている現状です。

 今更行方不明になった前世の特に関わりもなかったクラスメイトとの再会に思うところなんてないですけど。

 

 翻訳の魔法でもかけられているのか、兎里の方は日本語で、連れの方は異世界語で話しているのに、両者の間には会話が成立している。

 転生したため異世界語の知識がなく、会話を一から聞き取って独学で学んだ私と違い、異世界召喚された勇者様には翻訳の特典が付いているらしい。

 知らないと思って日本語で話しかけていたこっちの気遣いは無駄だったということですか。そーですか。

 

 

「今更だけど、君、名前は?」

 

 

 そして彼の仲間たちに、というか主に狐耳の獣人で兎里との会話からアマコという名前らしい少女から問い詰められたことで、確かに今更ながら兎里は私に名前を尋ねてきた。

 騎士の方も私と兎里が会話しているところから敵ではないと判断したらしく剣を鞘に収めて退いているし。

 魔族相手にこんな態度をとれるのは間違えなくリングル王国の人間だろう。他の国だったら、間違えなく魔族は害悪だ蛮族だだと問答無用で切り掛かってきているはずだから。

 

 兎里が今更の質問をしてきたので、こちらも今更だがその質問に答える。

 翻訳の魔法がかけられているのか異世界言語でも通じる兎里はともかく、彼の連れに私の発する日本語が通用するとは思えないので、此処は異世界語で自己紹介をすることにした。

 ……名前ないけどね。

 

 

「無い。私に名前は無い。だから好きに呼んで貰って構わない」

 

 

 自己紹介でこれをするのは如何なものかだが、実際今世の名前は無いのだから仕方が無いでしょ。

 親に名前つけられる前に魔物の領域に捨てられたんだから。

 

 まあ、名前もつけずにというのは聞かないけど親に捨てられるというのは魔族の世界では珍しいことでは無い。

 口減しで捨てられるというのが1番多いけど、不吉だと言われる闇魔法の偏見や、魔王軍に入って知ったことだけど身売りされた子供を兵器用の魔物の模擬戦相手という名の餌にするなんて事例もあった。あの魔物博士、本物のマッドサイエンティストでしたよ。

 生き残ってこられただけ私は自身を幸運だと思っているから、憐れみを向けられるいわれなど無い。

 

 だけど、私が名前を持たないことを告げたところ兎里たちは途端に聞いてはいけないことを聞いてしまったような表情となった。それも、全員揃って。

 名前が無いだけでそんな表情をするということは、魔族の中でもこっちの世界の境遇に慣れ親しんだ輩からこういう返答が何を意味しているのか分かる何かを聞いているみたい。……多分、黒騎士殿でしょうね。あの方の魔法は闇系統、魔族において差別視されている魔法の使い手だったから。

 少なくとも名前を尋ねたら、名前が無いと返されたので困っている、というわけでは無さそう。

 

 

「……同情のつもりか?」

「そ、そんなわけじゃ──」

「お前に同情される理由は無い。どうせ黒騎士殿からこの手の境遇を受ける魔族のことを聞いたとかでしょうが」

「フェルムのことを知っているの?」

「知らない。魔族の世界では、闇魔法の使い手は真っ当な生き方を許されないから想像はつく。軍団長から、リングル王国の治癒魔法を使う黒髪のガキが黒騎士殿を制圧したって話を聞いたから」

 

 

 兎里の口から黒騎士殿の名前が出てきた。

 私は初めて聞きましたよ、その名前。魔王軍の連中、みんな黒騎士黒騎士ってばかり呼んでいたし。

 でも、黒騎士殿の名前が出てきたってことは、兎里の方はあの方のことをよくご存知の様子。黒騎士殿から聞いたという私の仮説は概ね当たっているみたい。

 

 

「ガキって……いや、実際まだ成人していないし日本人は童顔に見られるっていうけどさ……それ言うなら君だってまだ声変わりもしていないじゃ無いか。君にガキ呼ばわりされるいわれは無い」

「ガキって言っているのは私じゃなくて魔王軍全体」

「うぐっ……そ、それはそうだけどさ……」

 

 

 ガキ呼ばわりが気に入らなかったのか、兎里がつっかかってきた。

 前世では誰かに無意味に突っかかるような真似はしなかったと記憶しているのだけど。ドラゴンに殴りかかるくらいだ、これこそ今更の話かな。

 そして、せっかく反論してもらって申し訳ないけど私に君の言う声変わりが来る可能性は極めて低いと思う。

 

 

「ウサト、口喧嘩は殴ったり罵詈雑言を放てば勝てるものじゃ無いよ」

「ウサト殿、魔族は魔法の扱いに長けている分頭の回転も速いものが多いのです。相手の土俵で挑むのは如何なものかと」

「グルァ」

「フォローしているつもりかもしれないけど、僕にしてみれば誤射を背中に受けているようなものだからね」

 

 

 そしてすかさず仲間たちから援護射撃という名の誤射を受ける。

 仲間からまで論破の弾丸受けてどうするつもりなのか。

 

 すると、今度は兎里の仲間たちが私の方を向いた。

 そういえば彼らの名前を聞いていないけど……今更だし聞く必要も無いだろう。兎里との会話で、狐耳の獣人が『アマコ』、騎士が『アルク』、ブルーグリズリーが『ブルリン』というくらいは分かったし。

 

 

「貴方も勘違いをしている」

「アマコ……!」

「ウサトはガキじゃなくて、オーガ」

「おいこらモフ耳娘」

「それからウサト殿は単に治癒魔法を使うだけの少年ではありません」

「アルクさん……!」

「リングル王国の『救命団』副団長です! 魔族の方では『人攫い』の通り名が有名かと」

「アルクさん、それ強面どものことでしょ!?」

「グルァ」

「ブルリン、言葉わからないけどその顔は絶対フォローとかしてないよな」

 

 

 2人と1頭が私に対して何を言ってくるのかと思ったら、フォローしつつ的確に油断した兎里の心をさらにえぐることを言ってきた。

 ペラペラ聞いてないことまで教えてくれるとは、どういう風の吹き回しだろうか。……素手でドラゴンに殴りかかる治癒魔法使いのぶっ飛びぶりに付き合う者達の溜まった不満から出た愚痴に聞こえるのは気のせいかな? 

 

 

「私はアマコ。ウサトが口走ったから予想ついていると思うけど」

「自分はアルク・ガードルといいます」

「グルァ」

「全員揃ってスルーするわけ?」

 

 

 心にダメージを受けた兎里を3名揃って無視して私に自己紹介してきた。

 ……改めて4名揃って見てみると色物ばかり集まったような面々である。

 しかし、私の発言から魔王軍所属であることが割れたはずなのにその点は触れないのか。揃いも揃ってマイペースすぎないか? 面子の色が濃いとこうなるのか。

 

 

「お前は何をどうしたらこんな集団を率いることになるわけ?色物ばっかりじゃねえかよ」

「失礼な──」

「失礼な。色物はウサトだけ」

「ウサト殿に比べれば自分など」

「グルァ」

「あー、言われてみれば確かに1番の色物は兎里だ」

「全員揃って僕に失礼じゃ無いかな?」

 

 

 兎里いじりがお約束なの、こいつら? 私も同意見なので納得できたし、そして意図せず参加することになったから気持ちはわかるけど。

 

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