あれ? 勇者ってこういうのだっけ   作:みども

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第3話

 チクショウ、チャリオットをひっくり返された! 

 どうも皆さんおはようございます。朝の開戦早々にリングル王国軍の攻撃を食らってチャリオットをひっくり返されてしまった魔王軍第3軍団所属の名もなき戦車兵(チャリオット・ライダー)です。『ライダー』とか『チャラいだー』と呼んでください。

 

 平原地帯で待ち構えていた王国軍の先制攻撃をくらい、突撃中に見事に戦車をひっくり返されました。

 戦車を引くサイの魔物たち、今世の家族たちは直前で守ったので無傷ですが、戦車がひっくり返ってしまったので動けなくなってしまいました。

 

 

「すぐ助けるからちょっと我慢して!」

 

 

 戦車に積まれていた槍を取り出し、雷魔法を付与して戦車をぶっ壊します。

 役立たずの荷車なんぞ破棄だ破棄! 私の家族によくも不自由を与えてくれたな! つか、あと少しで傷つけるところだっただろうが! どうせ借り物だし心は痛まない。

 

 これでひとまず家族たちは助けた。

 周囲を見ると、中央の魔王軍は進軍を続けているようだけどこっちの部隊はすごい損害を受けてしまっている。

 まあ、橋の建造でクタクタだった部隊だからな。防御行動も遅れるか。

 

 それ見越してか知らないけど、軍団長が端の方に配置していたので戦況に大きな影響を与えることはなかった。

 他の部隊はすでに王国軍とかちあっている様子。

 どうやら『黒騎士』が乱戦の中で大活躍しているらしく、王国軍が開戦早々の先制攻撃で作ったアドバンテージは早速崩されているようだ。

 わざわざ第2軍団から出向してきたことはある。強いなあの方。そりゃあんなわがままで奔放な行動が黙認されるわけだわ。

 

 しかし、戦況が均衡に移るのが早い。

 ここの部隊以外は防御行動が迅速だったのか、ほとんど被害が出ていないっぽいし。

 

 

「いや待てよ……」

 

 

 最初に感じた大規模な魔法。

 あれって王国軍側だけだったか? 

 戦場の端から見たら中央の方から出ていたように感じたのでてっきり待ち構えている王国軍のものだったのだと思うけど、よくよく思い返すと味方の方からも出ていた気がする。

 

 

「奴ら幻影に見事に惑わされたな!」

「進め! 向こうの陣形も崩れているぞ!」

 

 

 後軍が一歩遅れて横を駆け抜けていった。

 その中のセリフに、思わず絶句する。

 

 幻影って……あの最初の突撃しかけた友軍全部幻かよ!? 

 何それ、大損害被ったのこの部隊だけじゃん! 

 部隊長聞いてなかったのかよ!

 真相を問いただしたいところだが、部隊長は戦死していた。

 

 部隊壊滅状態で隊長戦死。

 初めての戦でその過酷さを嫌という程現実として叩きつけられました。

 

 王国軍も突撃してきたせいで、この一帯も瞬く間に乱戦になってしまった。

 急いで家族たちと合流し、一旦この乱戦の中から脱出しようとする。

 敵前逃亡? 指揮官不在で命令が無い現状、混乱した戦場で1人くらい離脱者出ても気にされないって。

 だいたい、こんなカオスな戦場で私に何を期待するのですか? 

 死にたくないので離脱します。

 

 ところがそう簡単には行かず。

 家族である3頭のサイの魔物たちをまとめていざ離脱しようとしたところで、後軍を率いていると思われる部隊長の魔族が近くにやってきた。

 

 女性の部隊長である。

 魔族にとって人間相手なら性別の差異など大したハンデにならないけど、やっぱり戦場で女性の活躍の舞台は限られているもの。

 軍団長はともかく、部隊長達ともなれば女性の魔族はほとんどいなかったから、彼女の素性は直ぐに記憶から取り出すことができた。

 

 確か、幻影魔法を得意とする『ハンナ・ローミア』という方だったと思う。

 出世争いのライバルだったからか、他の隊長達の多くが橋を崩された件に対して真剣に対応策などを議論する中にあって、部隊長が橋を破壊された責任を問い詰めながら嘲笑っていた顔が印象的。

 

 保身と出世が大好きな今は死体になってしまっている部隊長もアレだったけど、この方はそれ以上に陰険な印象を抱いているから仲良くなりたくないんだが。

 

 しかしサイの魔物は目立つ。

 すぐにローミア隊長に見つかってしまった。

 

 

「あなたは……グレッドの部隊にいた戦車兵ですね。部隊はどうなっているのですか?」

 

 

 部隊長の死体を確認した時、ローミア隊長はまたあの嘲笑うような笑みを浮かべた。

 えっ……まさかと思うけど、出世争いのライバル潰すために幻影魔法のこと教えなかったの? 

 そんなわけないよな。

 

 

「クスッ……使えそうなコマを残してくれたことには感謝しなければいけないですね」

 

 

 戦場の喧騒に紛れたおかげで側近にすら聞こえなかった呟きだが、私の耳は確かに拾った。

 マジかよ。そんなわけあったよ。部隊長同士の権力争いに巻き込まれて、部隊は壊滅しチャリオットもひっくり返されたよ。

 前言撤回。魔王軍、全然一枚岩じゃない。普通に内部でも抗争が起きていますわ。

 他人を気遣う余裕はなし、隙あらば食い尽くされる日常をあの枯れた大地で繰り返してきたのだ。当たり前といえば当たり前か。

 

 どうしよう。

 部隊長が戦死した場合、次の配属が正式に決まるまではその上官である軍団長の直接の麾下に入るか、近場の部隊長の指揮下に入ることになっている。

 つまり、この部隊の生き残りとなった面々は壊滅の原因を作り出したローミア隊長の指揮下に入るということになるわけだ。

 おいおいマジですかい……。

 

 でも戦車兵も所詮は末端の兵士なので部隊の現状とかよく分かっていません。

 さすがに全滅とまではいかないけど、ほぼ壊滅ってところかな。

 ローミア隊長、あんたのせいですよ。

 

 そんな愚痴を心の中で連ねていると、ローミア隊長の指揮下の兵士と思われる魔族の兵士が駆け寄ってきた。

 ちなみにその兵士さんも女性である。

 ……ローミア隊長の部隊、女性兵士多くね? 部隊の3割くらいは女性が構成しているように見受けられます。

 ちなみにグレッド隊は私の知る限り野郎ばかりでござい。

 

 

「グレッド隊はほぼ壊滅。生存者を確認できましたが、戦闘可能なものはわずか数名です」

「そうですか……」

 

 

 兵士さんの報告を聞いたローミア隊長が悲しげな表情を浮かべ、うつむきます。

 端から見るとこの部隊の戦死者を悼むように見えるけど、下から見るとうつむいた顔が思いっきり笑っているのがよくわかりますから。

 演技だよね、どう見ても! 

 

 

「やむをえません。グレッド隊の生存者を戦闘可能な者とそうでない者に選別してください。負傷兵は後陣へ、戦える者は私の部隊に編入し王国軍の陣を突破します」

「はっ!」

 

 

 テキパキと指示を出すローミア隊長。

 全く悲しんでないよね。悲しんでいたらそんなテキパキ動けないよね。

 心の中でそう指摘しまくっていると、こっちを向きました。

 

 

「戦車兵、あなたも私の部隊に入ってもらいます。以後は私の指示に従うように」

「了解しました!」

 

 

 チクショウ、離脱し損ねた上にもっと嫌な上司の部隊に入る羽目になってしまった! 

 これ、敵よりも味方に気をつけたほうがいいじゃないだろうか?

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