あれ? 勇者ってこういうのだっけ 作:みども
開戦よりしばらくの時間が経過したころ。
戦況は魔王軍優勢に進んでいた。
待ち構えていたリングル王国軍からの大規模な魔法攻撃に対し、魔王軍は同じく大規模な幻影魔法を駆使した幻の軍勢を囮にその攻撃を最小の被害で突破して激突した。
そこからは王国軍と魔王軍の消耗戦となるも、数に勝るはずのリングル王国軍がすぐさま各所で劣勢に陥り前線が押し込まれ始めていた。
たとえ訓練を積み上げてきた正規軍であっても所詮は人間。過酷な大地を生き抜いてきた魔王軍を構成している種族である魔族とは、身体能力において超えられない種族の壁がある。
そのため質の面において圧倒的に劣る王国軍は、当初の攻撃を魔王軍の策略に嵌められてしまったことで空振りしてしまい、想定していたよりも大規模で被害の少ない軍勢と激突することとなった。
王国軍は数に勝るとはいえ人間である。
一対一はもちろん、2人がかりでも届かず基本3人がかりでやっと戦えるほどに強い魔族が相手。
確かに数字だけ見れば王国軍に利があるとはいえ、種族の差というものを考慮した場合は違う。3倍の数は揃えなければ互角にもならないその質の面を考えれば、1.5倍の数というのはむしろ数的に不利と言っても過言ではない戦力であった。
その上、魔王軍は開戦早々に秘密兵器としてこの戦場に連れてきていた、人工的に改良され生み出された巨大な蛇の魔物である『バルジナク』を前線に投入。
並のモンスターとは一線を画すこの巨大生物の蹂躙により、王国軍の中央部隊はとてつもない損害を受け前線を大いに押し込まれてしまった。
さらにもう一つ、この前線の部隊には今回の侵攻に際し第2軍団から出向してきた魔王軍の将『黒騎士』が参加している。
この将の存在がバルジナクだけでも手一杯な王国軍にさらなる打撃を与えている。
剣で斬りつければ自分の体が切り裂かれる、矢を射掛ければ自分が貫かれる、魔法を打ち込めば自分の体が燃え上がる。
ただ歩きながら適当に敵を斬るだけ。
黒騎士がやっているのはそれだけなのに、将を討とうと殺到する王国軍の騎士達は一方的に傷つけられ次々に倒されていくという異常な現象が起きていたため、それによる混乱がより一層王国軍の中央を不利な戦況に追い込んでいた。
しかし、そんな魔王軍優勢の中央の戦場から黒騎士以外にも異変が起こり始める。
両軍が激しく激突しあう中、何故か王国軍の倒れた兵士の姿が消えていくのだ。
戦況の推移は魔王軍に傾いている。より多くの損害を受けているのも王国軍のはず。
だというのに、戦場に倒れる骸の数は魔族のものの方が圧倒的に多い。
両軍に混乱が広がる異常な現象が繰り広げられる中央の戦場。
混乱の最中に置いて、これらの異常事態に両軍ともに戸惑い、それがさらなる戦場の混沌となっている。
とはいえ俯瞰してみれば黒騎士とバルジナクの猛威により魔王軍優勢で進む戦況が展開されている。
ところが、この戦場にさらなる大きな異変が起きる。
それは戦場の端からサイの魔物を駆使して突撃してくる雷の魔法を駆使する無名の魔族の活躍によるもの……ではなく、魔王軍のバルジナクのようにリングル王国側もこの日のために準備していた彼らの秘密兵器があった。
「ぎゃぁ!?」「な、なんだこのガキども!?」「バカな、これが人間だと!?」
戦場を切り裂くように輝く閃光と雷光。
およそ人とは思えぬ、それどころか魔族と比べてもなおその上を行く強大な魔力から繰り出される魔法。
外見は10代後半の戦場においては少年兵に分類されるような2人の人間が繰り出す二つの光が戦場を切り裂き、魔王軍の兵士を次々に蹴散らしていく。
「この国の人たちを守るために……俺は、戦う!」
1人は穏やかなものの奥に強い意志も感じさせる光を瞳に湛える、精悍な顔立ちの少年。
魔族にとっては天敵と言える強力な光魔法とリングル王国最強の騎士を彷彿とさせる鋭い剣戟を駆使して、向かってくる魔王軍を次々と撃破していく。
彼が剣を振るい魔王軍の兵士を打ち倒すたびに、周囲の王国軍は一層奮起し魔王軍に立ち向かっていった。
「勇者として恥じない戦いをしよう……カズキ君やウサト君も頑張っているのだから!」
1人は子供のように心底楽しいという喜びの光を瞳に湛える、美しい黒い長髪をなびかせる凜とした顔立ちの少女。
異国の剣技を習っているのだろうか、この世界の一般的な剣術とは違う素早い剣戟を振るい、少年の光魔法にも劣らぬ強力な雷魔法を駆使し、立ちはだかる魔王軍を瞬く間に打ち倒していく。
彼女が剣を振るうたびに魔王軍の兵士は惑わされ、疲れた隙間を後続の王国軍に押し返されていった。
まるで今となっては古の伝説に語られる存在となった、魔王と対峙しその身を封印したと伝わる勇者を彷彿とさせる少年少女。
2人の活躍が押し込まれる中央の戦場に嵐を呼び込み、その戦況を均衡へ、そして王国軍の側へ傾かせようとしていた。
この2人はリングル王国が2年前に受けた魔王軍の侵略より、いずれ来ること日のためにと異世界より召喚した『今代の勇者』たちであった。
一騎当千とはまさにこのこと。
戦い慣れていないのか、緊張で顔がこわばり敵を殺し切れない甘さもあるなどまだ荒削りで拙い面も持つが、2人はまぎれもなく過去には伝説となった存在『勇者』であった。
戦場を覆い尽くす両軍の乱戦。
戦場各地において『個』の強さで猛威を振るう強者たちの活躍は、戦況に次々と波紋をもたらしていく。
この戦況にあっては、戦場を単独で揺り動かす圧倒的な武力を持つ『個』の強者同士は自ずと惹かれ合うもの。
「へぇ……少しは面白そうなのがいるじゃん」
血を流し倒れこむ多数の王国兵たち。
その中心に立ち、惨状を作り上げた黒騎士が2人の勇者の活躍に目を向けその姿に興味を抱いた。
「死ねぇ!」
その無防備な背中に、スキありと剣を突き立てる騎士。
だが、黒騎士は全く応えた様子はなく。
「……何かした?」
「何!? バカな、確かに剣を……グハッ!?」
「立派な鎧も意味ないね。キミも見掛け倒しなんだ」
次の瞬間には、剣を突き立てたはずの騎士の方が胸を穿たれて倒れ伏してしまった。
新たな犠牲者には目もくれず。
黒騎士は面白そうな相手の方に歩みを進める。
戦いの趨勢を担う中央の戦場に、両軍の主力を担う将が相対する。