あれ? 勇者ってこういうのだっけ   作:みども

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第6話

「止めろ! ここを抜かれれば本陣をやられるぞ!」

「とにかく魔法を撃ちまくれ!」

 

 

「「「ブオオオォォォォォ!!」」」

 

 

 雷を纏う三頭のサイの魔物が本陣を守るリングル王国の騎士たちの陣を次々に粉砕し、爆走を続けている。

 

 家族の背中から失礼します。現地時刻はまだおはようございますの範疇ですが、変わらず戦場にいる名もなき魔族の戦車兵です。

 戦車が壊された、というか壊したから正確にはもう戦車兵じゃないんですけどね。

 

 豊かな人間の世界と手に入れるために起こした侵略戦争。

 魔王率いる魔王軍は本格的な侵略に向けた橋頭堡を築くべく、最前線に位置する国家『リングル王国』へと攻め込んだ。

 人間を上回る膂力と魔力を持つ魔族だったが、このリングル王国には過去に侵攻した軍勢を撃退されたことがあるという。

 2年くらい前のことらしい。当時の私は珍しいからと家族たちを狙った変な組織と抗争していた時代でしたね。魔王様が復活したとか、魔王軍が人間どもを滅ぼすべく進軍を開始したとか、噂で聞こえてきていた。

 

 そして今回の侵攻。

 痩せた土地に縛られている所為で物資の欠乏が多く長期戦がどうしても不向きな魔王軍は、リングル王国を早期に攻略するため秘密兵器を投入してきた。

 それが今中央の戦場で暴れている巨大な蛇の魔物である。

 野生じゃ見たことがない。ローミア隊長の側近の話を盗み聞きしたのだが、どうやら魔王軍には単に飼い慣らすだけではなく兵器として魔物の研究と改造をする機関があるらしく、巨大蛇の魔物はそこで人工的に作られた魔物なのだという。

 すなわち人造モンスター、いや魔族だし魔造モンスターとでも称するべき生物兵器ということだ。

 非人道的だとか生物に対する冒涜だとかいう批判をする人もいるかもしれないけど、同胞も他人なら信用できない環境で育ってみればそんな綺麗事なんて馬鹿馬鹿しいと思えてくるよ。ご高説を説かれてもお腹は膨れないし、喉も潤せないし、病気は治らないし、安眠できる寝床が手に入るわけでもないんだから。

 

 頼りになる兵器だというなら、私は別に文句を並べることはしないですよ。

 これで役立たずしか作れないなら、その魔物研究の機関は直ちに撤廃するべきだと思うけどね。

 

 末端の兵士にすぎない私にあの魔王軍の秘蔵とも言える兵器をどうこう言う筋合いはないから、あのモンスターに関しては我関せずでいいかな。

 私は私の役目を果たしてあわよくば特別ボーナスを得られるような手柄を上げればそれでいい。

 

 現在、私はリングル王国軍の本陣を目指して今世の家族たちとともに王国軍の中を爆走しています。

 防護壁も最終段階まで貫き、本陣は目と鼻の先まで来ました。

 王国軍の方は巨大蛇の暴れる中央か、前線で猛威をふるっている『黒騎士』殿か、側面から本陣を目指して派手に突き進む私たちか、どこに戦力を集中させるべきか迷っている様子。

 あちらこちらでこっちに増援するべきだとか、増援回してくれだとかいう叫び声が聞こえている。

 2つも3つも戦を敗北に導きかねない脅威が迫る戦況でどれから対応すればいいか迷うのは当たり前かもしれないけど、こういう時は結果的に負けてしまう悪手になったとしても即断即決しなければ中途半端な戦力で対抗するしかない前線の被害が膨れ上がるだけだよ。

 魔王軍としては願ったり叶ったりだろうけど。

 

 差し迫って1番の脅威は、自分で言うのもなんだけど最も本陣に距離を詰めている私だろう。

 もっとも被害を与えているのは巨大蛇だろうし、挽回するために狙うべきは黒騎士殿だろうけど、私はこの中では1番落とされてはならない本陣に近づいているのだから。

 例えばの話、不可能だろうけど仮に王国軍が黒騎士殿を倒し魔王軍の士気をくじいたとしても、本陣を崩されれば王国軍は指揮系統を失い組織的な戦闘が不可能となる。

 そうなれば軍は維持ができなくなり瓦解。数の優劣など関係なくなり、巨大蛇をはじめとした魔王軍の掃討の餌食にあい、軍を失った王国はやがて占領されてしまう。

 蛇を倒した場合も同じだ。というか、兵器と将の損失なら将の損失の方が大きいに決まっているのだから、蛇を狙い撃ちするのは三択の中だと1番の悪手である。黒騎士殿よりはまだ倒せる見込みがあるとしてもだ。

 王国軍が利口ならば、この状況で1番最初に対応しなければならないのは本陣の防衛、すなわち狙うべきは私たちということに気づくだろう。黒騎士殿や巨大蛇と違い、こっちは爆走し続けた結果孤立していますからね。三択の中で1番対応を急がれる存在であり、なおかつ1番倒せる可能性が高いから。

 だからこっちに戦力が集中する。本陣にたどり着かせないように、控えの戦力をつぎ込んで足止めを図ってくる。

 

 ……だけどさ、槍衾の壁を作って魔法で止めようとするのは私の家族を舐めているよ。

 威圧し駆逐する力は巨大蛇にはかなわないし、一方的に敵を倒して屍の山を築く力は黒騎士殿には敵わない。

 けど、正面突破の力なら私たちは1番強い。

 

 

「この子たちの足を止められると思うなよ!」

「「「ブオオオォォォォォ!!」」」

 

 

 三頭のサイの魔物、顔も知らない親に捨てられた今世でできたかけがえのない家族たちは、剣も槍も矢も弾く鎧のような表皮を纏う巨体の力を存分に発揮し、王国軍を陣をまるで薄紙のように粉砕して突破した。

 

 

「……見えた!」

 

 

 最後の防護壁を貫いた! 

 これで残るは敵の本陣だけ。あそこを落とせば今回の一番の手柄を上げたことになる。

 別に軍籍になるつもりはないけど、その日暮らしのカツカツな私としては特別ボーナスの機会は欲しいのです。

 

 

「させるかぁ!」

「ッ!?」

 

 

 だがしかし。

 ここでとうとう王国軍も出し惜しみはできなくなったらしい。

 野生暮らしが長かった私でも、魔族ならばよく知る最強の剣が出てきた。

 

 本陣から飛び出してきた1人の騎士。

 その速いのに重く強烈な剣戟をすんでのところで槍で受け止めた私は、衝撃までは流しきれずに『長男』の背中から叩き落とされてしまった。

 

 人間だった頃なら大怪我していたであろうところだけど、魔族の身体能力は人間よりはるかに優れる。

 それに、伊達に家族だったわけじゃない。全力疾走するこの子たちの背中から落下することなど何度も経験してきた。

 すぐさま姿勢を直して地面に着地する。

 そして槍を構え直すと、私の前には心配して足が止まってしまった家族たちと、無骨で丈夫そうなのに絢爛さも併せ持つなんとも見事な業物の大剣を握りしめる王国最強の剣技を駆使する騎士団長『シグルス』が立っていた。

 

 

「ここより先は一歩も進ません!」

 

 

 決して大きくはない声。

 けど、重い。

 シグルスの声は、その手に握る大剣のように重く、全身の肌に針山を突き立てるような鋭い威圧感を伴う歴戦の猛者が出せる声だった。

 話は聞いていたけど、これが王国最強の騎士か……。

 やっぱり、ただ話を聞くだけのと本物をその目で見て実際に対峙するのは全然違う。

 

 

「王国騎士団長シグルス……!」

「知っているか。ならば名乗りは不要だな、魔族!」

 

 

 ゴクリ。

 頬を冷や汗が伝う。

 緊張から唾を飲み込むと、もう唾液が出てこず口の中が枯れてしまった。

 ここまで強い相手だと、もう魔族と人間などという種族の差はあってないようなもの。対峙しただけでこの騎士団長の強さが本物だというのが伝わってくる。

 

 そして、魔王軍が優勢のはずの戦況で、軍の指揮よりも本陣の防衛を優先しシグルスは出てきた。

 文字どおり本陣を、ひいてはこの戦場の背中に背負う母国を守る最後の砦である。

 

 この人には負けられない理由があるのだろう。

 でも、私にも勝ちたい欲求がある。

 手柄を上げて、勝利して、家族達に命の危険と隣り合わせの生活を強いなくて済む。

 私も、魔物にも寒さにも怯えることの無い、前世で慣れ親しんで今世で恋い焦がれた平和な暮らしを手に入れることができる。

 ……だから、勝つ。

 侵略者として、祖国を守るために立ちふさがったこの人を、倒す。

 

 

「……その首、貰い受ける!」

 

 

 前世が日本人の影響か。

 戦国武将みたいなノリで槍を手にリングル王国最強の騎士団長へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その頃、無名の魔族でも、黒騎士でも、バルジナクでも無い。

 シグルスも出陣したことにより守る戦力が空になってしまったリングル王国軍の手薄な本陣。

 サイの魔物たちにより戦場でもひときわ目立つ戦車兵を囮とし、手薄となった本陣を密かに狙う、紫色の髪をなびかせる魔族の率いる部隊があった。

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