あれ? 勇者ってこういうのだっけ   作:みども

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第7話

 古の時代に勇者によって封印された存在、魔王。

 その魔王が復活し、魔族たちをまとめ上げ魔王軍として人間たちの世界へ侵攻してきた。

 最初の本格的な侵攻は2年前。

 この時、魔王軍の侵攻に晒されたリングル王国は魔王軍をなんとか撃退することに成功した。

 だが、その犠牲も決して小さいものではなった。次の侵攻を受けた時に単独で凌ぐことは困難となるだろう。

 そう判断したリングル王国は、かつて魔王を封印したと言われる勇者を異世界より召喚する事にした。

 これにより、3人の人間が異世界より召喚された。

 

 1人は『龍泉(りゅうせん) 一樹(かずき)』。

 希少かつ強力な光系統の魔法に優れた素質を持った、不器用で危うさもあるが決して自分の役割から逃げずに立ち向かう強い責任感と、自分よりも友人を優先してしまう優しい心を持つ少年。

 

 1人は『犬上(いぬかみ) 鈴音(すずね)』。

 強力な攻撃性を持つ雷系統の魔法に優れた素質を持った、ネーミングセンスを始め色々残念で頭のおかしな凛々しく聡明でその外見に違わない美しい心を持つ少女。

 

 1人は『兎里(うさと) (けん)』。

 人間のみに素質が現れる自他の怪我などの治療に特化した希少な治癒系統の魔法に素質を持った、不幸にも前述の2人の勇者の召喚に巻き込まれてこの世界に事故で来てしまったのに魔改造の末に人型オーガへ変貌を遂げた、負けず嫌いな面もあるが基本的に温厚な少年。

 

 勇者の素養を持ち、底知れぬ才能をその身に宿してこの世界に降り立った少年少女たち。

 彼らはリングル王国の頼みを引き受け、勇者として魔王軍との戦いに参加することとなる。

 

 だが、彼らは元の世界で平穏を謳歌していた。

 戦場はおろか犯罪の類とすらほぼ無縁な平和な世界で生きてきた。

 

 勇者としての素養を得ようとも、接触も慣れていない年端もいかぬ若者たち。

 魔族といえど敵はほぼ人間と同じ外見をして、言語も発する者たちである。

 そんな者たちとの殺し合いが大規模に展開される戦場というのは、彼らにとって呼吸もままならないほど凄惨な光景が繰り広げられる重い世界だった。

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

 戦場を包む重い空気は、精神と肉体の両方から戦う者たちの体力を過剰に消耗させる。

 敵も味方も命をかけて挑んでいる世界だ。よほどの歪んだ精神の持ち主でもなければ、この世界に満ちる重い空気を感じ取る。

 

 戦場に出た時、まず1番最初に学ぶべきことは生き残ることだ。

 手柄を上げて一財産を築いたり立身出世を果たすなどの夢や野望を自分の命より僅かでも優先させた者から死ぬ。

 自分の命をつなげるために、身に降りかかる危機を察知する感覚を鍛えなければならない。さもなくば、死ぬ。

 新兵はまず、どのような醜態を晒そうが生き残ることを全力を尽くさなければならない。

 一瞬の油断が命取りとなるのだから、この重い空気のみちる世界で常に警戒を怠らず臆病者と罵られようとも生き残ることに全力を注がなければならない。

 

 そして、勇者という一騎当千の英雄の強さを持つ彼らには、生き残るだけでなく王国から受ける大きな期待に応える活躍をしなければならないという重荷もあった。

 子供と言っても過言では無い若者たちの肩に、その重責は重すぎる。

 それでも2人の勇者は生き残ることと期待に応えること、その両方の目標を周りを固める王国の騎士たち、そして勇者同士でともに支え合いかばい合いながら全力でこなそうとしていた。

 

 

「先輩、後ろです!」

「ッ!」

 

 

 両軍の衝突から戦場の重い空気にさらされ続け、勇者という重荷も抱えて戦ってきたこともあり、疲労が募り注意が散漫になってきてしまった。

 その隙に、背中を狙ってきた魔王軍の兵士の攻撃。

 寸前のところで気づいた龍泉の呼びかけのおかげで防ぐことが出来た犬上は、即座にその兵士に対し魔法で応戦し倒す。

 

 

「ハァッ!」

「グアッ!」

 

 

 雷撃を受けた魔王軍の兵士はその場に倒れる。

 付近の魔王軍はこれで一旦掃討され一息つく間ができたが、龍泉が気づいてくれなければ背中を槍で貫かれていただろうありえた未来が想像できたことに彼女の額からは疲労ではなく恐怖からくる冷や汗が一筋流れた。

 

 

「先輩、大丈夫ですか!」

「ああ、君のおかげでなんとかね。助かったよカズキ君」

 

 

 頬を流れる冷や汗をぬぐいながら、龍泉の呼びかけに答える犬上。

 ただ、彼女の頭には先ほどの命の危機が強く印象に残っていた。

 あと少しで死んでいた。そのことを考えると、恐怖で身が竦む。

 だが、トラウマになりかねない死の恐怖に、犬上は真正面から立ち向かう。

 ここは戦場だと。疲れたからといって散漫になった自分が悪い、敵はそんなの御構い無しでくるのだからと。己の不甲斐なさを原因にして、怯えるよりも2度同じ轍を踏まないようにするべく気を引き締めた。

 

 

(呆けている場合か! ここは戦場、油断すれば死ぬ!)

 

 

 剣を握る手に力がこもる。

 勇者である自分が倒れれば、龍泉に背負う重荷を1人で抱えさせることになるし、リングル王国も巻き込んでしまった後輩の少年も守ることもできなくなる。

 自分の死はもちろん怖い。この上なく怖い。

 ただ、それ以上に龍泉と兎里、ともに異世界に召喚された彼らが戦う中で肩を並べて戦えなくなりその結果彼らを失うことになるのが怖かった。

 

 

「…………」

 

 

 そして、龍泉もまた先ほどの犬上の危機に対して思うところがあった。

 もっと早く気付いていれば、自分が止められたかもしれない。

 もし、先輩が対応しきれずに魔王軍の兵士の槍が貫いていたら……。

 そんなありえた未来の光景に、彼もまた身が竦む恐怖を感じていた。

 

 元の世界では、彼女は文武両道の完璧な生徒会長だった。

 誰もが憧れる欠点の無い、それこそ超人のような完璧な人。

 だけど、彼女は憧れる先輩であったとしても女性である。才能だけでは無い、その才能を引き出すための絶え間無い努力をしてきた人でもある。天才でも、決して超人なんかじゃ無い。

 だから、傷ついてほしくない。

 本人は守られることを拒否するかもしれないけど、守らなければならないという使命感があった。

 それに、身近な人達も守れない勇者が国を守れるものかと。

 この国の人たちのために、勇者として果たさなければならないことをやり遂げる。

 強い責任感を持つ龍泉は、だからこそ危うく大切な身近な人を失うことになったかもしれない未来に恐怖を感じ、そして絶対にそんなことはさせないと改めて強い決意を宿して剣を握る手に力を込めた。

 

 犬上の傍らに立つ龍泉。

 2人の勇者の目線は先ほど倒した魔族の兵士から、魔王軍の巨大蛇が暴れている右翼の前線へ、そして敵軍の後方に控えている魔王軍の本陣へと向く。

 

 巨大蛇は放置できない。

 だが、王国軍の話によればそれ以外にも猛威を振るう魔王軍の存在があり、巨大蛇を倒したとしても王国軍が敗北してしまう可能性が高い劣勢だという。

 ならばここは攻めに出ている魔王軍の手薄になっているだろう本陣を先に潰し、戦況を一気に逆転させるのがいいのでは無いか。

 そんな考えが2人の脳裏をよぎった。

 

 バルジナクだけでは無い。

 挑む王国軍を一方的に蹂躙していく黒騎士、立ちふさがる王国軍を蹴散らしながら爆走し王国軍の本陣に迫る魔物使い、王国軍の生命線を担う人身誘拐人命救護のエキスパートたちである救命団も手が出せない氷漬けの死体を量産して兵力を削る青眼、魔物使いを囮に手薄な王国軍を狙い剣を持ってその守備を崩していく紫髪。

 そして未だに本陣を動かず戦況を見守る敵の軍団長。

 王国軍を敗北に導く強敵は戦場に複数存在しており、バルジナクを撃破したとしてもその隙に敗北する決定打を叩き込まれる危険があった。

 

 魔物使いには王国最強の剣であり2人の勇者の教育も務めた師である騎士団長シグルスとその精鋭部隊が対応している。

 だが、中央は黒騎士とバルジナクの攻撃で戦線が崩されかねない危険な状況だ。

 この戦況を覆すには、バルジナクと脅威となる敵将である黒騎士を倒すか、兵力に劣るゆえに攻撃に偏重した結果手薄になっている軍団長の控えているだろう本陣を潰す。

 それが王国軍を立て直す選択肢であった。

 

 迷っている時間は無い。

 派手なバルジナクと違い最前線の混乱からは現在地がわからない黒騎士を探すよりも、逆に敵の本陣に攻勢をかける方が早い。

 そう判断し、近くの王国軍たちとともに魔王軍の本陣へ向かおうとした時。

 

 

「……見つけたぁ」

 

 

 その足を止めるように、黒い鎧で全身を覆い尽くした魔王軍の将『黒騎士』が2人の勇者の前に現れた。

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