あれ? 勇者ってこういうのだっけ 作:みども
クレイモアという剣をご存知だろうか。
妖魔と戦う戦士ではなく、中世ヨーロッパの北欧にて使われていた大剣の一種のことです。
馬ごと騎士を叩き切る両手剣の出身で、1メートルくらいの刀身を持つ剣だったと。
見た目からして重たいはずの剣なんですけど、主に使用していたスコットランド人はそんな大剣を軽々と振り回していたらしいです。
どうも皆さんこんにちは。
現地時刻はそろそろ昼時になりましたので『こんにちは』です。
戦車を壊されたので戦車兵を名乗れなくなった無名の魔族です。
なぜクレイモアの話をしたのか。
目の前に半人半妖が現れたから……ではなく、クレイモアを彷彿とさせる大剣を持つ騎士が現れたからです。
単なる騎士なら家族で撥ねればいいのだけど、出てきたのは単なる騎士ではなくリングル王国最強の剣を振るう騎士団長のシグルスである。要するに敵の総大将が自ら登場してきたわけで。
本陣陥落の窮地だけは絶対に阻止しなければならないと判断して、戦の指揮から離れてまで出てきた様子。
しかも単騎ではなく、精鋭部隊の騎士たちも引き連れてのご到着である。
しかし、逆に言えば本陣に控えているはずの最強の部隊が総大将に率いられて出てきたということ。
今のリングル王国の本陣は文字とおり守る戦力が無い丸裸の状態。
まさに最終防衛といえるだろう。
シグルスたちを突破すれば、本陣を陥落させてこの戦いに勝利できる。
そうなれば1番の手柄を上げたことになり、報酬も期待できる。転生以来困窮極まれりで続いてきた私たちの生活にも光が差すというものだ。
いかにリングル王国最強の騎士団長といえど、剣士。
対する私の武器は槍である。
間合いはこっちが長いし、あの大剣では素早い身のこなしなどできないはず。
剣道三倍段なんて言葉があるくらい、槍と剣のリーチの差というのは大きい。
だから周りの騎士と一緒になって戦うなんてことにならなければ余裕だ。
たとえ周りの騎士たちがまとめてかかってきたとしても、それはそれで好都合。
威圧感半端ないけど、案外楽勝かも?
そんな風に思ってました。
「ハァッ!」
「うっ!?」
前言撤回。
リングル王国最強の剣技を駆使する魔王軍も警戒する存在。伊達じゃねえわ、全然名前負けしてないわ。
この騎士団長、化け物みたいに強い。
間合いの長い槍で戦っているにも関わらず、シグルスの剣技は武器による差など感じさせない。
絶対重いはずの剣をまるで棒切れのように軽々と振り回し、こちらの振り回す槍を真っ向から跳ね返して隙を作り、すかさず人間とは思えない速さで踏み込んで距離を詰めてくる。
そうなればこちらは下がるしかなく、見た目だけは軽々と振るわれる癖にめちゃくちゃ重い剣戟の嵐を耐えてなんとか距離を保とうとし、そして距離を作ってもまたすぐに弾かれて距離を詰められる。
そんなほとんどこっちが押されている状況が続いていた。
魔族は人間より膂力も魔力も勝っている。
……はずなんだけど、この騎士団長にしてみれば種族の差などあってないようなものらしい。
槍は間合いが長いし振りまわすのも大剣なんぞと比べれば容易だ。
それに、その間合いから繰り出す遠心力を駆使した振り回しと、力を穂先に込めて素早く繰り出す躱しにくい刺突、どちらも間合いが短い剣士相手には強い攻撃、のはずなのだ。
なのだけど、この騎士団長には武器の性能もまたあってないようなものらしい。
軽々と振り回される大剣は、強化魔法もかけているらしく人間とは思えない力が込められている。
さらによっぽど愛着持って振り回し続けてきたのか、強化の魔法が武器にまで及んでおり、槍とかち合うシグルスの剣は当たるたびに魔力が小さな爆発を起こし、槍を握り続けるだけでも困難なほどに強い力が加わるので弾かれてしまう。
隙を作らないように槍を振り回すのなんて無理。
結果、弾かれるたびに大きな隙が生まれ、すかさずシグルスが踏み込んでくるのである。
しかし、雷や炎ならわかるけど、普通強化の魔法まで武器に浸透させることできるか?
自分の方は戦車にしろ槍にしろ所詮借り物なので愛着も何も無いけど、武器に魔法を『纏わせる』のではなく『浸透させる』など、10年単位で扱いその細部まで理解し尽くしてなじませた、道具ではなく魂のようなものを宿してしまうほど長い時を共に過ごした物でもなければ出来ない芸当である。
そしてやはり何と言っても地力が人間離れしている。強化魔法がかけられているとはいえ、魔族の振り回す槍を剣で弾き飛ばすのは人間業じゃ無い。
本来は魔族の方が膂力と魔力で人間よりも強いはずなのだが、シグルスの場合は膂力と魔力が魔族よりも上である。種族の差をひっくり返すとか、軍団長たちが名指しで警戒する王国の切り札というだけあるわ。
「フンッ!」
危なっ!
びっくりした。あと数センチズレていたら、首に剣が突き刺さっていた。
シグルスの剣の切っ先を寸前でなんとか回避する。
即座に反撃と言わんばかりに槍を振り回すけど、即座に弾き飛ばされた。
手がしびれる。
歯を食いしばらないと槍が抜けてどっかへ飛んでいきそうだ。
私は強化系統の魔法が使えないから、魔族の力に頼るしかない。
これでも野生で生きていたから並の魔族の兵士より力はあるはずなんだけど、それでも耐えるのが精一杯だ。
魔法を使おうにもシグルスの速いうえに重い剣への対応に集中しないと一瞬でぶった切られかねないから、魔法使う余裕なんて一切無い。
その場で跳躍して距離をとろうとする。
こればっかりは人間に真似できない魔族の芸当だろう。4メートルくらいの高さまで飛び上がって……
「セイッ!」
「うおっ!?」
うわ、びっくりした!?
咄嗟に前に構えた槍に、魔力の斬撃が飛んできた。
飛び上がってくることはなかったけど、この騎士団長には斬撃を飛ばすこともできるらしい。
多分、剣に込めた魔力を斬撃に変えて飛ばしてきたんだろうけど、こんな距離までこの威力で飛ばせるのは普通じゃ無い。いや、飛ばせる時点で普通じゃ無いけど。
てか、今ので槍へし折れたし。
「くそっ、びっくり箱かよあいつ……!」
「ハァッ!」
「あぶなっ!」
すかさず振り下ろされる剣。
距離詰めてくるの速すぎるって! ジャンプで結構離れたつもりだったのに、こっちが着地するなりもう剣の間合いにまで近づいてきやがった。
咄嗟にかわすと、勢い余って地面に打ち付けられた剣が地面に対し魔力を放出し爆発を起こした。
地面にクレーターができたし。マジでびっくり箱かよあの騎士団長! 特撮か!
というか、槍もう使い物にならねえし!
化け物の剣戟相手とはいえ、正規軍の武器がこんな簡単に折れたりしていいわけねえだろ! 役立たずな! 貧乏だからって経費削減かコラ!
「後ろかぁ!」
「げっ!?」
爆風を利用して距離を取り、槍を捨ててシグルスの背後に回る。
だが即座にシグルズは体を回し、剣を横薙ぎに振り払ってきた。
咄嗟にしゃがんで剣をかわす。
先ほどまで私の首があった場所を通る剣。魔力が風を作っているくらいに気迫の込められた一撃、一瞬でも遅ければ首が落ちるどころか消し飛んでいただろう。
「槍がない、だと──」
「ッ!」
だけどここにきてシグルスに初めて付け入ることのできる隙が見えた。
槍を捨てて徒手空拳になってしまったけど、槍を捨てたからこそ付け入ることのできる隙だった。
槍を振り回していたら付け入ることのできない小さな隙だった。
狙ったわけじゃ無いけど、野生で培った感が敵に生まれてしまった隙を本能でかぎとる。
ここしかない!
「しまっ!?」
体を回転させて剣を振り回してしまったせいで、不安定となった姿勢。
そこに最速で届く足首に向けた蹴りを放つ。
それにより、シグルスの体勢が崩れた。
「ッ!」
しかしそこはリングル王国最強の剣。
体勢が崩されたにも関わらず、剣を振り下ろしてくる。
苦し紛れの攻撃ですら、こちらを倒せるほどの魔力も乗っている強烈なものである事を感じる剣だった。
それでも苦し紛れの不安定な体勢で出した剣。受け止めるのはできなさそうでも、躱すことは難しくない。
その剣を避けるとともに、腕をガラ空きのシグルスの喉に伸ばす。
獲物にとどめを刺そうと伸びる蛇の頭のように、不安定な体勢で回避することもままならなかったシグルスの喉へその手が食らいついた。
「うぐっ!?」
リングル王国最強の騎士団長でも、人間の急所は変えられない。
強化魔法に阻まれて喉を潰すことはできなかったが、一瞬呼吸を奪うことに成功する。
それが今度こそ致命的な隙になった。
今世の前半を野生で過ごしていたおかげで、「その首、貰い受ける!」とか言ってた割には正々堂々とかいう文明人らしい戦い方と私は無縁である。
本能で急所を狙う攻撃は避けるし、使えなくなったら武器は捨てるし、隙を見せたら野蛮と言われようが知ったことかと言わんばかりに手がつけられそうな急所を嗅ぎ分けて的確に狙う。そんな戦い方だ。
シグルスは強いけど、戦い方はある。
彼の恐ろしいところは剣士としての力量だ。彼が剣を振り回す限り、私に勝ち目はなかった。
だから、隙を見せたならばその強みを潰す。
格好悪い戦い方でも、勝って仕舞えば関係ないし。
名誉を命より重んじる考え方はカッコいいからむしろ好きだけど、自分の命より大切なものをそんなあやふやで利益にもならないものに捧げるのは理解できなかった。
致命的な隙ができてしまったシグルス。
その最大の脅威であり武器である剣を潰すために、脚が浮いてしまい体勢が立て直さなくなっている隙をついて、剣を持っている腕ごと両脚で体を挟んで地面に組み伏せ抑え込んだ。