岩の上にあぐらをかいて座る少年。ココは青い海へ釣り糸を垂らして、ぼーっと海を眺めていた。
海面が太陽の光を受けて、宝石のような輝きを放っている。穏やかな海。広い海。大海賊時代と呼ばれて久しいが、彼らの存在を全く感じさせない程に平和で、どこまでも広がる大海である。
釣り糸が引いた。ウキが沈んだ。
ココは視線を海原から釣り竿へ緩やかに移し、竿を握る手に力を込めた。
持ち上がらない。
竿が弓なりに強くしなる。いつも釣れる小魚とは明らかに異なる引きの強さだ。大物かもしれない。もしも大物であれば、食卓は豪華になる。
高まる期待にココは胸を膨らませた。
そこから暫くは我慢の時間が続く。
あっちへみょーん。こっちへみょーん。魚が縦横無尽に泳ぎ回り、釣り糸が引っ張られるのだ。
このままでは糸を岩場にこすられて切られる可能性がある。
ココは一思いに釣り上げることにした。
裸足の両足でしっかりと踏ん張って、そして、勢いよく持ち上げた。
ざぱーん。
それは、雲一つない晴れ渡る快晴の昼時のこと。
ココは小さな海王類を釣り上げた。
島はそれほど大きくはない。一年中温暖で緑が豊かな小さな島。その小さな島には小さな村があって、ココも”かつて”はそこで暮らしていた。
ココは船着き場で船の荷下ろしを手伝っていた。
船からいくつも木箱を運び出す。中身は食糧から武器から様々で、それがココが両手を広げる必要がある程の長さの木箱に収められていて、それを運び出すのは子供のココにとってはとっても重労働だった。
だから地面に座って時々休んだ。木箱を正面に置いて、それを枕に上半身を倒れこむ。汗が木箱に染みをつくっていた。
ふと、ココは臭いを嗅いだ。
鼻腔を通るだけで涎が垂れるような、甘くて美味しそうな匂い。果物が豊富な島でも嗅いだことの無いような魅力的な匂いである。
それはココが体重を預けている木箱から発せられていた。
ココは気になって木箱のふたを開けた。
中身はいくつかの黄色い木の実が入っていて、その中に一つだけ水色の木の実が混じっていた。匂いはそれから放たれていた。
島の木の実はたくさんあるが、水色の実は一つもなかった。ましてや黄色の木の実の中に、明らかに色の違う木の実である。さらに美味しそうではあるが強烈な匂いまでも発している。
ココはこの水色の木の実が腐っていると思った。
そして腐っているなら、食べてしまっても怒られらないと思った。ココは疲れていてお腹も減っていた。そして子供の特権の、強い好奇心と恐いもの知らずさを持っていた。
だから手に取って食べた。
まぐまぐ。
咀嚼咀嚼。
まぐm・・・
「おえーーー」
不味かった。
想像を絶するほどの苦みがココを襲った。人生で初めて飲んだコーヒーよりも苦かった。
ココはたまらず顔をしかめて、木の実を茂みへと吐き捨てた。
それからココは不思議な力を手に入れる。
人の心の声が聞こえるようになった。いや人だけではない、獣も、果ては植物までもココは心の声を聴いた。
『コソコソの実』
これがココの食べた悪魔の実の名称である。コソコソの実を食べたココは、命宿る全ての生き物の心の声が聞こえるようになったのだ。
そしてこれが不幸の始まりであった。
ココは次々に人の心を読んだ。相手より先回りして次に言おうとしていた言葉を言ったり、相手の嘘を見抜きそれを指摘したりして、相手が驚くのをココは楽しんだ。そういう遊びであった。
しかしこれについて周りの人間はどう思うだろうか。
小さな村だ。噂はあっという間に広がる。村人たちは皆ココのことを気味悪がった。
ココは見た。
一緒に遊んでいた友達や親切にしてくれた大人たちの目が、恐ろしいものを見る目に変わっていた。
これは自業自得だと言うには酷で、どうしようもないことだ。ココは子供だったのだから。不思議な力を手にしたら使いたくなるし、それよってその先に何が起こるかを予測するなど出来やしないのだから。
ココは家で泣いていた。
両親は、力を使わないよう注意して、後はただ抱きしめてあげる事しか出来なかった。
不幸は続く。
ある日、村に宣教師なる者がやってきた。
頭にシルクハットを被って、全身を黒いコートで包んで、白い髭を蓄えた老人。
「幸せになりたくば・・・」
うんたらかんたら。
見慣れぬ風貌に怪しい言葉を言う宣教師を、村人たちは当然警戒した。
小さな島だ。仲間意識の強い一方で、部外者には排他的になる。道端で演説する宣教師に耳を傾けるものなどいなかった。
数日経った。
村人の大半が信者になっていた。
しかもその様子は尋常ではない。
信者になった者たちは宣教師の前にひざまずき、手をそろえ、口をそろえて”幸せになりたくば・・・”と唱える。
個人が個人が集まって集団を形成していたものが、漏れなく同じ体勢で似たような言葉を繰り返すクローンの集まりのようになっていた。
では宣教師はまともな布教を行っていたのか。
否。
信者は本当に幸せか。
否。
ココは最初から知っていた。
この宣教師なる老人の心がヘドロの様に淀んでいて、金のことしか頭にない偽物であることを知っていた。
宣教師は催眠術を使っていた。
それは演説の言葉の中に暗示の言葉を忍び込ませて、無意識のうちに人々の心を掌握するものである。そうして貢物として金目の物を信者に持ってこさせるのが宣教師の狙いであった。
ココの両親も遂に催眠術に掛けられてしまい、ココは黙っていられなくなった。
宣教師の前に立ち、
「お前はいんちきじじいだ このほらふき野郎」
と中指を立てながら、慣れない言葉で罵った。
ココは少年らしくいたずら好きで、そして温厚で優しい人間であった。
「何を言うんだい坊や」
宣教師は胡散臭い笑顔で返した。
催眠術をかけるのも言葉なら、解くのもまた言葉。
宣教師が目の前に現れた少年に警戒すればするほど、心には言われたくない言葉を思い浮かべた。
ココはそれを聞いて、そのまま口に出せばよかった。子供にもできる簡単な作業である。
村人たちは言葉を聞く。
やがて瞳に意思を宿し、催眠が解けた。
村人たちは激昂した。
勝手に信じ、勝手に裏切られて、勝手に怒ったのだ。
村人たちは家から持ち出した銃やら鍬やらを宣教師に突き付ける。
そうなれば宣教師はたまらない。
こうして宣教師をあっという間に島から追い出してしまった。
ココには力を使って村人たちを救えば、自分のことを怖がらずに認めてもらえかもしれないという期待もあった。
「この坊主も追い出せ」
人間は勝手だ。
村人たちは宣教師に騙されたことによって部外者への恐怖心を最大限に高め、恩人であるココ少年もまた、怪しい力を使う”部外者”として排除しようとしたのだ。
勝手でおぞましい。
このままでは息子が海に放され、海の生き物の餌にされてしまうと思った両親は、何とか救う手立てを考えた。
「俺は森にいくよ」
ココは言った。
ココはコソコソの実の能力を得てから、森に何度も遊びに行き、沢山の友達をつくっていた。特にゴリラとは仲が良く、助けてくれるという期待があった。
それに村人たちは危険な森に近づくことは無い。
得策に思われた。
「俺は森に行く」
引き留める両親にココは再度言った。
ココの両親は弱い人間だった。
このままココを庇えば自分たち諸共殺されるという恐怖も後押ししただろう、森に行く行為(それは死を意味する)を両親は結局認めるのだ。それは本人たちにとって、表立っては息子の意思を尊重するということであったが、同時に息子自らが死を選んだのだから自分たちには責任は生じない、という親らしからぬ自己本位な思いもまた存在していた。
ココは森に行った。
早速ゴリラに出会った。
「あらーーーココ君来たのお? 何食べる?バナナ? 美味しいわよ、バナナ 食べなさいバナナ 嗚呼ーバナナバナナ!」
「俺を育てて」
「バナナ!(あれま!)」
ココは悪魔の実を食べてから、いろいろな生物の声を聴いてきたが、目の前の生物ほどよく喋るのは見たことが無かった。
「わわわ!ありがとう!君は命の恩人だよぉ~ 名前は何ていうの? 僕はメノン!君は多分アルフレッドとかかな?違うよね~というか聞こえないよね~~」
水槽の中では小魚サイズの生物が、あっちこっち忙しなく泳ぎながらココに喋りかけている。
自らをメノンと称すこの生物、頭部が馬で、身体は魚という奇妙な姿をしている。
これが海王類。
海を統べるモノである。
成長すれば山のような大きさになり、文字通り海の王になるのだが、今のメノンの姿は、良く喋る陽気で小さい変な魚としかココの目には映らなかった。
「はあ~~安心したらお腹減っちゃったぁ ぐうぐう~お腹の音! がるるるる~~海犬の鳴き声! ぴろろろろ~~水素の音ぉ!」
「ちょっとうるさい」
ココは水槽のメノンに目を合わせて、無表情で言った。
ココは同年代に比べると表情をあまり変えない子供である。
だから別にイラついてるわけでは無く、真ん丸な青い瞳を向けながら、感想のようにこぼした言葉だった。
メノンは驚いたようにぴったりと動きを止めた。
「あれ?あれれ!あれれれ!君もしかして僕の言葉が分かるの!?すごいやっ!この人間・・・人間なのかな?とにかくすごい!」
「ココ」
「え?」
「俺の名前」
「ココ?いい響きだね!ココ、ココ、コココココココココk」
「人の名前で遊ばないで」
「ああごめんよソーリー許して神よ ところで君はもしかして僕の仲間の種族だったりする?」
「人間」
「ああ、そうなんだ!そうだと思ったよ!助けてくれてありがとう!」
それからメノンが語るところによると、メノンはサメにしつこく追われていたと言う。
海王類の幼少期は他の生物より栄養が豊富で、色々な魚からよく狙われるのだ。だから大人になるまで生き残ることは難しい。
そうしてメノンは追いつかれる直前、もう駄目だと思った時に目の前に垂れさがる釣り針を見付けた。一か八か。釣り上げてもらえれば助かると思って食いついた、と。
「俺が君を食べるつもりって言ったらどうする?」
「えああ待って美味しくないよ!ほら見て、不味そうなヒレ! ちょっと齧るよ!あ、まずい すごく不味い!」
「冗談だよ」
ココは小さく笑った。ちょっとしたいたずらである。
ココはゴリラとログハウスで暮らしていた。
ゴリラは手先が器用で、ココがやって来たときすぐに木を組み合わせて家を造った。そしてゴリラは大きくなるまでココを育てると、ココに誓った。
「人間はほんとに勝手ね もう嫌になっちゃうわ」
ゴリラとココの共同生活だった。
そこに3人目(3匹目)の仲間が加わる。
「ねえゴリラ、何か釣ったんだけど」
「あら?何かしら?」
「僕は悪い奴じゃないよ! 初めましてフサフサさん!僕はメノン!泳ぐのが好きさ!」
海王類は人間以外の動物であれば言葉を通じ合わせることが出来る。
だから
「ふさふさ・・・?あたしが毛深いって言いたいのかしらん!? んもおお~~~晩御飯にぴったりじゃなあああい?」
「うぇああああ僕は美味しくないよお!ほら、頭が魚っぽくない!魚っぽくないから、美味しくないっぽいぽい!」
「ゴリラ、メノンも仲間として迎えてもいい?」
「勿論よお~~~! ココ君が友達を連れてくるなんて、あたし感動しちゃう!! よろしくね、小さな海王類さん♡」
「ぶるるるるる」
それからメノンとの暮らしも始まった。
「はい、トマト」
「トマト美味あああああい!頭が馬なだけに!馬あああああい!!」
「こらココ君、トマト自分で食べなきゃダメよん」
「でも、メノンは喜んでるよ」
「トマト美味ああああい!! 大きくなったらトマトになるぅ!!!」
「メノンはきっと、焼いたらトマトみたいに真っ赤になるわね・・・」
「あ、トマトすっごい不味い 駄目だ食べれない! 金魚の餌ちょーだい!」
「メノンはゴリラが作ったトマトが不味いって」
「あら・・・」
「あれ、、思ってたのと違うよ!ココ!なんか違うよ!」
「ねえココ、人間ってなんで服着るの? 裸でもいいのに!裸きもちーよ!裸サイコー!」
「んー寒いから あと恥ずかしいから、とか」
「恥ずかしいの? 何で恥ずかしいの? 」
「何でって・・・分かんないよ そういうもんなんだ」
「へーー 変なの わかめと昆布を勘違いするくらい変だね~ あ、僕はワカメ派なんだけど、あの食感がもぐもぐー」
「俺からしたらメノンが変」
「もぐもぐもぐー?」
「頭が馬だし 体は魚だし」
「え、、ああ、、え、、あー、、あれだよ 僕は元々頭も魚だったよ! だけどある日、馬が泳いでて それを食べたら頭が馬になっちゃったのさ!」
「じゃあカエル食べさせていい?」
「やだ!やだよ!ザリガニならまだしもカエルはやだよ!! ダサいよカエル! カエルって10回言って!カエルカエルカエル・・・ほらなんかダサい!」
「じゃあカメ食べさせるね」
「あああああ、カメもださいよ! ザリガニならまだしもカメはダサいよ! 泳ぐのがのろまだと思われちゃう!」
「じゃあザリガニかぁ」
「ザリガニかっこいいよね!ハサミが二本でちょきちょきーーーーって!じゃんけんもできるよ!グーに負けちゃうけどね!悲しいな~~~」
「でも頭だけだからハサミはついてこないよ」
「あ・・・」
「メノン」
「なになに?相談?僕はホタテから100の相談を受けた男だよ!何でも相談するがよろしー」
「メノンは僕以外の人間には言葉が通じないんだよね」
「うんうん通じない 全然通じないよ! 村の人たちに挨拶しに行ったら皆逃げてったんだよ!僕鬼ごっこ苦手なのに!」
「でも他の生き物とは話せるでしょ」
「めっちゃ話すよ!でもみんなそのうち喋らなくなる、不思議だよねー」
「うざがられてるから」
「え、僕うざいの!? すっごくおもしろいナイスバディ・・・じゃないか、ナイスガイか!あ、でもナイスバディも合ってるかもかも!いえーいバディバディ」
「うざい」
「ぬーん」
「でも不思議だね 人間だけって」
「人間はほらー動物っぽくないしさー 人間くらいだよ、同類を殺すの~ 良くないよあれ~」
「でもゴリラは”人間は猿から進化した”って言ってた」
「じゃあゴリラもそのうち人間になるのかな!? え、あれが人間になるの!?」
「筋肉ムキムキで煙草みたいにバナナ咥えてて・・・」
「”バナナ食べる?”が口癖で・・・」
「「見たい」」
メノンとココが出会ってからかなりの月日が経っていた。
出会った当初は小さかったメノンの身体も大きく立派に育った。鱗を纏う体は、たとえサメに噛みつかれようがびくともしない程の頑丈さがある。
メノンは厳しい自然界でも一匹で生きていける。
巣立ちの時で来ていた。
「僕はそろそろこの広い海に戻ろうと思うよ! こんなにでかくなったらもう絶対100%食べられないからね!」
海からますます馬面になった、というか馬そのものの顔を出すメノンが、目の前に立つココに向かって言った。
成り行きで出来上がった関係性で、いつかメノンが出ていくことは分かり切っていたことだった。
だから深刻な雰囲気ではなく、遊ぶ時間が終わって友達に別れを告げるような気軽な空気が漂っている。
ココは自分の顔くらいでかい瞳を見つめた。
「面白い話をいっぱい聞かせてくれてありがとう 嬉しかったよーー楽しかったよーーー」
「そんな話したっけ」
「僕にとっては知らない事ばっかりで面白い話ばっかりだったよ! だから今度は僕が面白い話を出来るように、僕の世界を広げてくるよ!」
「頑張って」
「またいつか会いに来るよ 絶対」
「うん」
「それじゃ!またね!ばいばい!ぐっばい!」
「じゃあね」とココが手を振る。ココの後ろの方でゴリラがドラミングをする。メノンも水面から大きなヒレを出して二人に答えるように振る。ばしゃばしゃと水面が跳ねて、ココの顔に大量の水がかかった。
最後まで騒がしいメノンである。成長してもそこは変わらない。
ココが顔をぬぐって髪をかき上げると、メノンの姿は無くなっていた。
メノンは大海へと繰り出した。
それからさらに数年経って。今度はココが島から出ることを考えていた頃。
島に近づく海賊船があった。
その日は今にも雨が降り出しそうな分厚い雲が、どんよりと空を覆っていた。
ココは島に訪れた変化を、村から上がる煙で気付いた。
村が燃えていた。
双眼鏡を持つ手が震える。
ココの頭によぎったのは両親の安否である。離れていても家族は家族。会わずともいつも思っていた。
家は大丈夫か。
無事に逃げているか。
ココは心配になって村へと駆け出す。
後ろからココを呼び戻そうとするゴリラの必死な声が聞こえていたが、ココは足を止めることが出来なかった。
やがて辿り着く。
村は凄惨な光景だった。
家々は焼かれ、建物が崩れ落ち、まさしく火の海が広がっていた。懐かしい村の風景が赤く染まる景色にココは衝撃を受けずにはいられなかった。
ココは手を当てて両耳を押さえた。
あちこちから村人の助けを求める声が聞こえ、それらが心の声とも幾重にも重なって、ココの耳に入ってくるのだ。もはやそれはノイズである。両親の声を判別することなど不可能だった。
しかしそんな音の嵐の中でも、はっきりと聞いたことのある声の存在に気が付いた。
しわがれた声。粘り気のある薄汚い声。
忘れもしない。
いつぞやの宣教師であった。
実は島に訪れた海賊船と言うのは、宣教師が率いる海賊を乗せていた。宣教師はかつての屈辱を晴らすべく、そしてもう一つ別の目的もあり、仲間を連れて、再びこの島にやってきたのである。
「おい、あのくそ坊主がいねえな」
「ボス、村は焼き尽くしやしたぜ」
「いやボス、遠くて見づれえが向こうに1つだけ木の家が建ってる」
「よしあそこだな」
ココは急いで元来た道を駆ける。
家にはゴリラがいる。
自分から家族のもとを去ることを選んだが、ココにも人並に寂しいという感情はある。ましてや当時は少年時代、感情は激しく少年を襲った。
その時の記憶が鮮明に思い出される。
これ以上寂しい思いはしたくなかった。
ココが激しく息を吐きながらやっとの思いで家に辿り着いたとき、そこにゴリラの姿は無かった。
既にどこかへ避難したかもしれない。
ココが地面に座り込み、とりあえずは安堵しているところに
「よお、くそ坊主 探したぜ」
背後から声がかけられた。
ココが素早く振り返りながら立ち上がると、そこには仲間を数人連れた宣教師が立っていた。
「俺に何か用」
「用だぁ?そんなもん決まってんだろ おめえをぶち殺しに来たんだよ」
過去に宣教師として訪れた時とは違い、海のならず者らしい荒っぽい口調である。
”ぶち殺す”の言葉を聞いて、宣教師の一味が薄気味悪い笑みを浮かべる。
獲物を追い詰める強者の余裕である。
彼らがココを狙うのにははっきりとした理由があった。
それが仲間の一人が肩に担ぐ、小さな宝箱に収められた木の実である。それはココがかつて口にした悪魔の実と同じ色や形をした木の実。悪魔の実。悪魔の実は能力者が死ぬと、近くにある適当な実にその力が移る。つまりココがここで死ねば、その宝箱の中の実が、新たなコソコソの実になるということである。それを宣教師がどこかで知って、恨みを晴らすついでに能力も奪いにやって来たのだった。
宣教師はピストルを握り、その銃口をココへと向けた。
ココは恐怖で足がすくんで動かない。
万事休すと思われた。
「死ね」
ゆっくりとピストルに掛けられ手が動いて、、そして、、
ザパーンっ
近くの海面から突然大きな水しぶきが上がった。
その場にいた誰もが驚いて顔を向ける。
やがて水しぶきは海面に散り、代わりに現れたのは大きな馬面の怪物であった。
メノンである。
メノンは口から水鉄砲を放った。
それはビームのように一直線に、海賊に向かって放たれる。
なすすべもなく直撃した海賊たちは、ボールのように遠くへと弾き飛ばされてしまった。
「久しぶり!ココ、元気だった? 僕は元気!」
「メノンのおかげで元気 ありがとう」
「どういたしまして!!」
ココはメノンとの再開を喜んだ。そして気を抜いた。
隙が生まれる。
宣教師はまだ諦めていなかった。遠く離れた位置に転がされても、顔を上げて、ココの頭に銃の照準を合わせていた。
宣教師が勝利を確信してにやりと笑う。
しかしそこへ降ってくるものがいた。
「バナナ流星群!!」
ゴリラが宣教師頭上から降ってきて、その頭を地面へと埋め込ませた。
実はゴリラはメノンの口の中に潜んでいて、水鉄砲の勢いを利用して天高く飛び上がっていたのである。
「ココ君ーーー!!無事でよかったわ~~」
「ゴリラ、また会えて嬉しい」
「あたしもよ~ん!」
ゴリラはココを強く抱きしめた。
「ココーーーーココーーー!僕もココに話したいこといっぱいあるんだぁ そのために会いに来たのさ!」
「そうだったんだ」
「びっくりしたよ! 村が真っ赤になってて!ああ、イルミネーション?ってやつかなーて思ったら燃えてたし!」
メノンは興奮気味に話す。
「ねえメノン」
ココは問いかけた。
「なになに?」
「メノンのお腹の中って広いよね」
「うん広い!すっごく広いよ!」
「人はそこに入れたりする?」
「うん!それは出来る、出来るよ! なんなら暮らす事だって出来るよ!!」
「そうなんだ そしたらさ、メノンの腹の中で俺たちを住まわせてくれない?」
「いいよーーーー!!!全然いい!楽しそーー!!」
「ありがとう ・・・ここはとってもうるさいんだ」
火の手は今や島全体に広がり、森や獣や人といったあらゆる生命が悲鳴を上げていて、ココはそれに耐えかねていた。
だからココはゴリラとメノンと共に静かな場所に行きたかった。
「深海とかいきたい」
「あら素敵じゃないのぉ!!」
「僕いいとこしってるよーーー リュウグウ王国って言って、友達いっぱい作ったんだ!!」
ココとゴリラはメノンの口の中に入り、メノンがごっくんと飲み込んだ。
「いろいろ話したいことがあるんだよ!ココ!!ココココ!!!」
「バナナの美味しい食べ方があるわよん」
「なに?」
「まずは麦わら帽子を被った少年なんだけど・・・」
「バナナっていうのは・・・」
一行はリュウグウ王国を目指し、深海へと沈む。。