1986年に作者が生まれてから、ずっと抱いている疑問です。
嘘です。
待たせたな!ヘルペスは明日で完治する予定だから更新。
久々の更新が種蒔き回で悪いけど、クライマックスも近いから大目に見てくれると嬉しい。
頭が痛い。眠りにつかず、無理やり気絶して意識をなくし、こうして目覚めるのは一体いつぶりのことだったろうか。
「………知らない天井だ」
毎度のことながらも、どこか安堵を含んだ声音でそう溢す。
知らない天井。ということは、つまり。スバルが死に戻っていないということで。
「って、いっつぅぅ!?」
意識を覚醒させた途端、激痛が脇腹を襲った。痛む脇腹に手をやろうとして、その手からも痛みが走り、寝台の上で悶える。
「ぬぉぉぉ!?」
………そうだ。確かスバルは。意識を失う前、レムを庇って魔獣達に牙を突き立てられたのだ。自分の全身を見てみると、たしかにそれらのあとはくっきりと残っている。
そうして、その後……
「………どう、なったんだ………?」
「子供達を含めて全員無事だよ。青髪と紫髪のメイドの子達も多少酷かったけど、なんとかね」
「パック……」
スバルの掠れた呟きに応じたのは、スバルの近くの椅子で眠る銀髪の少女の髪から這い出してきた、灰色の猫だった。
「………エミリア。そっか。俺、またこの子に借りを作っちまったのか」
「借りも何も、君は労力に見合った成果を出してるから、気にしなくていいと思うよ。リアは貸し借りどうこうなんて言うわけもないし」
「そりゃそうだ」
うたた寝するエミリアの眠りは深いようで、こうして話していても起きる気配はない。そうして観察していると、その服のあちこちに泥と血の跡が色濃く残っていることに気が付き、再び申し訳ない気持ちが湧き上がってきて。
「って!ちょっと待て!紫髪のメイドっつったか!?俺が気絶した後、リルに何かあったのか!?」
痛みを忘れてパックへと詰め寄る。もしも、彼に何かあったのなら、死んでも死に切れない。そして、あの二人の姉になんと顔向けすればいいのか。
そんなスバルの不安は、しかしたった今扉を開けた存在によって打ち破られる。呆れたようなソプラノボイスが、スバルの耳を震わせる。
「勝手にリルを殺さないでよ、スバル」
「リル!よかった!無事……なんだよな?」
「そんなに素直にはしゃがれるとやりにくいんだけど……無事だよ、今のところは。お見舞いに来たけど、その様子なら大丈夫そうだね」
スバルの様子に軽く笑みを浮かべたリル。言葉通り、その体には目立った傷などは見当たらない。
「大精霊様。少しスバルを借りてもいいですか?」
「いいとも。スバル、まだ傷は治り切ってないから安静にね」
「ほいほい了解っと。んで、末っ子メイドさんは一体何の用?」
「ここじゃなんだし、外に。これまでの事情やらなにやら、追って説明してあげる」
そうして、再び扉から部屋を出て行くリルに連れられる形で、スバルは家の外へと一歩を踏み出した。
どうやらその家は村の一軒家の一つだったようで、外はそのままアーラム村へと繋がっていた。
「とりあえず、あの後からの確認。スバルが噛まれて意識を失ってから、下姉様は必死に魔獣と戦ってた。暫くは善戦してたけど量が量だったから、撤退できないくらい追い詰められた」
「………無限湧きする敵相手なら無理はない、か。お前が平気そうにしてるってことは、レムは……無事なんだよな?」
「怪我一つ負ってないよ。嫁入り前の姉様に傷の一つでもついたら一大事だし。………まぁ、今回はそれがちょっと問題かもしれないけど」
相変わらずのシスコンっぷりに隠れて、濁された言葉の端が気になって尋ねようとするが、口を挟む暇もなく「続けるよ」と、リルは紡ぐ。
「それで、結局リルが助けに入った。大量の魔獣がリルに向かってくるけど、それでも助けないよりはマシだったから。それで、結界のすぐ側にいた下姉様とスバルを逃すだけの時間稼ぎができて、無事帰りましたとさ。めでたしめでたし」
「………で、終わらねぇんだろ?」
食いこむように言葉をはさんだスバルに、一瞬呆気に取られたような表情を浮かべたリルは、降参と言わんばかりに首を横に振り、肩をすくめる。
「問題は二つ。一つは、これ」
ゴソゴソ、と懐を弄り、一通の手紙を取り出すリル。綺麗に封蝋で閉じられており、それはその手紙が未だ未開封であることを教えてくれる。
「なんだそれ」
「子供達の中に一人、黒幕が混じってたんだよ。その子がリルに寄越してきた手紙」
「そんな衝撃の真実を軽く明かさないでもらってもいい!?」
さらりと語られるスバルにとっては昨日の奮闘が無駄になりかけそうな超重要事項。深入りする原因となったあのお下げの子がそうであったとしたら、スバルがますます救われない。
そしてわざとなのかそうでないのか、それに触れることもなく、リルはばっちぃものでも触るかのように手紙の端を摘んでいる。そんな扱いをするものを懐に入れるな。
「内容が絶対ロクなもんじゃないから開けてない」
「でも、読まないのはもっとマズくねぇか?黒幕からの手紙ってことは、何かしら要求が書いてあるんじゃねぇの?」
身代金だとか、収容されている同胞の解放だとか。ドキュメンタリーなんかではそんなのがメジャーだ。どれも今この状況下では無意味な気もしないでもないが。
スバルに言われて嫌々、と言った様子で慎重に封を切り、中身を大きく開くリル。そして……
「拝啓。吹く風がどこか暖かくなり、青日の兆しを感じられるこの頃。ロズワール邸の皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか」
「あ、読み上げるの!?そして黒幕の割に結構礼儀正しい!?」
内容の機密のきの字も見当たらない対応と色々とツッコミどころ満載の文章。どうやら、まだまだ問題は片付かないようだった。
僕です。
「………拝啓。吹く風がどこか暖かくなり、青日の兆しを感じられるこの頃。ロズワール邸の皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。ますますごせーしょーのことと、お慶び申し上げます。さて、この度、お兄さん事ではございますが、お姉さん二人とラジーオ体操のお兄さん、ついでに村人さん達全員を人質とさせていただきました。命が惜しければ、今日の風の刻までに、昨日みんなを纏めていた丘まで一人で来てください。お下げの女の子こと、メィリィ・ポートルートより。敬具……だって」
「………ず、随分と個性的なお便りで」
………ピキィッ………
は、はは。ははは………
さ、最近の子供はモノを知らないなぁ……脅迫文と手紙の区別もつかないのかぁ……。
僕だ。
いやね。僕、大人なんで。まぁ、子供のこれくらいのおいたくらいはね。許してあげるわけですよ。器が広いから。寛大な心でね?
全然。怒ってない。怒ってないともさ。そんな大人気ないわけないじゃんね。
…………ん?なんかもう一枚入ってんな?ついでに読み上げたろ。
「ついしん。ところで、男の人なのにメイドさんの格好をするだなんて、お兄さんは変態さん、なん……です……か…………」
ぷっちーん。
破り捨てることだけは辛うじて止め、代わりに全力で手紙を握り潰した。小綺麗につけられていた蝋が、パキパキと音を立てて割れる。
「あ、あの〜。リルさん?」
ふははは………
言うに事欠いて、変態?あの女のせいでこんな見た目になって、まぁちょっとは楽しかったけど、望んだわけでもなくこの容姿になってからメイド服を着ざるを得なくなった僕に。
変態、だと?
……………わからせねば(義務感)
変なところの礼儀だけ弁えやがって。あぁ?お望みとあらば遠慮なくぶち殺してやりますよ。なんならママと
あーあ、もうキレちゃった、キレちゃったね。もう謝っても許さんぞ。あの調子乗ったガキ、徹底的にぶっ潰して泣かせてやるわ。
「………スバル。今の今開いたところで悪いんだけどさ。この手紙に関しては全部任せてくんない?ちょぉっと、生意気な子供に調教される側の気持ちをわからせないといけない用事ができたから……」
「………ほ、程々にね?」
程々……精神叩き折って半殺しくらいか。泣かせることはもう確定事項だ。今後のことを考えると殺すわけにはいかないのが残念でならない。
「何やらとんでもなく醜悪な気配を感じてきてみたら。とてつもなくくだらんことを考えていそうな男二人の姿を見たのよ」
「その生意気で傲岸不遜な口調はベア子!」
「最悪の判断基準かしらっ!?」
後ろから師匠がいらっしゃった。ちょうどいいところに。スバル君への説明が面倒だから丸投げしたいと思ってたところなんですよ。
「師匠、スバルに体の状態の報告をお願いします。リルはちょっと、準備が必要ですので」
「好きにすればいいからとっとと行くかしら。お前から言いづらいようなら、この男にはベティーの方から言っておくのよ」
いや、別に言いづらいとかないけど。純粋に師匠に言わせた方が師匠のダメージデカそうだし、準備もちゃんとしなきゃだし。
さて。全速力でお屋敷に戻ろう。徹底的にメィリィを叩き潰してやる!わからせたるからなこらぁぁっ!!
瞬間移動ばりの速さで地を蹴って消えていったメイドというファンタジーな光景に、スバルは思わず苦笑した。というか、この世界に来てからのファンタジー要素を大抵リルに感じている気がするのは思い違いだろうか。
スバルはスバルで、昨日命をかけて助けたはずの女の子が黒幕とかで割とショックを受けているのだが。
「……なんか、元気だな」
「お前は他人のことを言っていられる立場じゃないのよ。何せ……」
「わかってる。呪い、解けてないんだろ」
「…………随分と、察しがいいみたいかしら」
スバルの反応が思いの外静かなものだったからか、ベアトリスは少しだけ驚き顔だ。ハッタリを利かせて裏切られるのを期待したのもあるが、どうも事態はスバルのことを苦しめる方向へと進んでいくらしい。
「念の為訊いとくけど、解呪してないってわけじゃないんだよな?」
「そんな代物なら、お前に返し切れない大恩を着せて、ベティーの禁書庫に低頭しながらじゃないと立ち入れないようにしてやっていたのよ」
「頭下げてもお前の手が届かないだろうから意味ないと思うけど」
「気分の問題かしら。……かけられた呪いが複雑すぎるのよ。絡まり合いすぎて、解くには厳しすぎるかしら」
イメージがわりに、ベアトリスは呪いに見立てた糸の結び目を作ってみせる。それが幾多にも重なり合うと……なるほど。確かに解くのは至難の業と言っていいだろう。
大量のコードがぐちゃぐちゃに絡まっているのを想像したスバルは、勝手に納得して話を進める。
「不幸中の幸いと言っていいのかわからないけれど。魔獣にとって呪いは『食事』のようなものかしら。奴らの腹が膨れてる間はマナを吸われる心配はない。夜になれば術式が発動して、マナを吸われておしまいかしら」
今日の夜。つまりそれが、スバルに課せられたタイムリミット、というわけだ。
「………助かる方法はねぇのか、ってテンプレ発言してもいい?」
「呪術に関する話をした時のことを思い出して、かつ。子供達が助かった理由を考えれば。答えは自ずと見えてくるはずなのよ。……なんにしても、可能性は低いかしら」
言われて、与えられた情報から違和感を見つけ出す。
確か、そう。ベアトリスの話では、呪術は発動したら防ぎようがなかったはずだ。一度発動してしまったら止めようのない一撃必殺。故にこそ、呪いは恐ろしいのだと。
しかし、森の奥で発見した子供達はすでに衰弱していた。魔獣の呪いが発動していた。というのに、子供達の命が救われた理由は。
「術者本人が、死んだから……?」
「昨日お前達を噛んだ個体を殺せば、解呪とはいかずとも、呪いはその効果を発しなくなるのよ。……でも、たかが数匹の個体を広大な森から特定することなんて不可能なのよ」
それこそ、砂漠から砂金を探し出すような話なのだろう。スバルを呪った魔獣の体数もわからない以上、駆逐するなど現実的に考えて不可能だ。
「くっそ。考えれば考えるほど鬼がかってんな。リルの言う黒幕の可能性に賭けるっきゃねぇのか……いや、それも薄いか。……無理だ。詰んでる。諦め──」
言いかけて。ついさっきのベアトリスの言葉が気にかかり、言葉を止めた。スバルの聞き違えでないなら、確か。
「お前、達って。達って、なんだよ。……まさか。俺の他に、誰か……」
その発言は核心をついていたらしく、ベアトリスは言いづらそうに目を逸らした。おそらくはレムか、ラムか。或いは─
「簡単な話。スバルを逃す時、リルも噛まれちゃったってだけ。それも、師匠が解除できないくらい複雑になった呪いのおまけ付きで」
酷く簡単にそう言ってのけたのは、他ならない被害者のはずのリルだ。準備とやらが済んだのか、戻ってきたらしい。
「リル!呪いって……それじゃ!」
必死に食い下がる。例え黒幕を倒せたとしても、それでは。スバルがこうして戻ってきた意味がなくなってしまう。
スバルにとってはつい五日前のこと。四周目で、スバルを呪いから守って冷たくなったリルのことを、鮮明に思い出してしまったから。
例えスバルが死ぬのだとしても。それでも、目の前のリルが死ぬことは。それだけは、なんとしてでも。
「いやまぁ、リルはマナ切れを多少防げるし、一日くらいなら衰弱で済むから死ぬのはスバルだけなんだけど」
「そんな軽く!?そういえばそんなこと言ってたけどさ!言い方をもうちょっと!!」
ハン、と鼻で笑われ、軽く流される余命延長に思わずツッコミ。
……それが彼なりに雰囲気を明るくするための気遣いなのだと、わかってはいた。
体内のマナがどうだと言おうと、二周目のあの不快感を味わうことは変わらないはずだ。例え死ぬことはなくとも、死ぬほど辛い目に遭うことは変わりがないだろう。寧ろ、死という終わりがないからこそ、より一層苦しいものなのかもしれない。
それでも笑ってくれるのは、ただスバルに心配をかけまいとしているからだ。
言い方から察するに、リルは一晩くらいなら越せるが、連日レジストは厳しいようだ。さしものリルも、明日の夜が限界といったところか。
「大丈夫。リルが全部なんとかして見せるから。スバルは、姉様方とここで……」
言いかけた、あまりにも献身的すぎるその言葉を遮ろうとするのを。代わりに、スバルの背後から来た一人の存在が止めた。
「リル。今の話は、本当なの……?」
「ラム……」
そこにあったのは、愕然としてその場に佇む、桃髪のメイドの姿だった。
次回からいい加減詰めていきます。
支援絵のっ!!ご紹介!纏めようにもまとめられねぇ!!
ハチモク72さんからいただいたリル君です。
あれ??これただの美少女では????
ラフでこの上手さとは……痺れますね。
そして『匿名』の方からいただいたリル君達。目隠れ差分のある設定画になります。
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…………正直言葉を尽くそうにも黙るレベルのクオリティなので、貧弱な語彙力しか持たない作者は『すごい』か『可愛い』か『上手い』かしか言えない。よわよわな作者の言語範囲が恨めしい………
ついでに宣伝。作者が別で書いてるFateの二次創作があるよっていう。愉悦じゃないけどショタがいっぱい出てくる。ちゃんと前半と後半の温度差で風邪引かせる作品だから安心しろ。評価くださると大変嬉しい。
https://syosetu.org/novel/192858/