碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第73話 あれから1年

 

 

 

 ―NERV発令所―

 

 

「明けましておめでとう。今年もよろしく」

 

「「明けましておめでとうございます!」」

 

 ここにいるのは年末年始の出勤組。

 最低限の人員が配置され有事に備えている。リツコが開発した無人監視システムとMAGIの連携で少人数での運用が可能であり、祝日でも第3新東京市のセキュリティは強固なものなのだ。

 

 希望者を募ったりスケジュールに問題ない人員を配置しているが、年始を職場で迎えるのは可哀想だ。

 そのため祝日の出勤手当の他、特別手当・休暇を対価として与えている。そうでもしなければこうして出勤してくれなかっただろう。

 

「酒は飲めないけど正月祝いをするくらいはいいよな」

 

「その通りです」

 

「汚れたら掃除をすればいいのですし」

 

 それでも年末年始を職場で過ごすのは抵抗があるらしい。まぁアルコールをいれないだけ理性は残っているのだろう。

 

 コンソールの後ろには机が設置され、その上にはおせち料理が並んでいる。もちろん市販のものだ。

 発令所から全員いなくなる事はできないため、急遽NERVの倉庫から机を探し出してきたらしい。

 

「今頃他の人達は普通の正月を過ごしているのでしょうね」

 

「それも我々がここにいるからこそ!ですな!」

 

「その通り!仕事始めの日は他の連中を得意げな顔で出迎えてやろうではないか!」

 

「「おう!」」

 

 ・・・・・・本当に酒は入っていないのだろうか。

 

 まぁ息抜きは重要だ。

 それをわかっているからこそ、ここを監視しているMAGIは大人しくしているのだ。酒なんぞ飲み始めたらアラームが鳴り響くに違いない。

 

 視点をミサト宅へ移すと、待機組の事を考えてすらいない家主は案の定酒を飲み、おせち料理をつまんでいた。

 

「シンちゃ〜ん。お雑煮食べよー」

 

「飲みすぎですよ。あとお雑煮は待ってください。これからリツコさんと加持さんが来るんですから」

 

「本当に来るの。正月くらい寝てればいいのに」

 

「アスカ。寝ながら食べると危ないよ」

 

 どうしてウチの女性陣はだらしないのだろう。シンジは新年早々このような悩みを抱えていた。ミサトはいい。もう手遅れだろうから。

 だがアスカはまだ間に合う。せめて掃除くらいはできてほしい。そう切に願う。

 

 人数分のお雑煮を準備していると、インターフォンが鳴る。来たみたいだ。

 シンジが扉を開けると、予想通り加持とリツコがそこにいた。

 

「よっ、シンジ君。あけおめ!」

 

「明けましておめでとう。ミサトはいるかしら」

 

「明けましておめでとうございます。どうぞどうぞ」

 

 ミサトの痴態なんぞ知ったことか。そもそも2人はあの状態のミサトを知っているのだから今更気にすることでは無い。

 シンジは2人を家に招き入れる。

 

 加持とリツコはリビングへ到着すると、酒瓶を抱えておせち料理を食べるミサトにため息をついた。

 

「ミサト・・・貴女ったら・・・・・・」

 

「いや、諦めようリッちゃん。これが葛城なんだ」

 

「2人ともいらっしゃい」

 

「おっ、アスカか」

 

 いつの間にか着替えたアスカがそこにいた。さっきまでパジャマだったのに。

 アスカのプライベートも知られているのに何を今更・・・・・・と言いたいところだが、彼女は年頃の少女なのだ。こういった所に意識しているのは当然だろう。

 

 加持とリツコはシンジからコップを受け取り、ミサトの酌を受ける。2人はお客様なので手伝ってもらう訳にはいかないだろう。

 シンジがお雑煮をよそう支度をしていると、隣に人の気配がした。

 

「・・・シンジ。何かやる?」

 

「え、アスカ?どうしたの」

 

 意外にもアスカが手伝うも言ってきた。驚いたシンジだったが、なんとか小声でアスカに理由を聞くことができた。

 

「別に。たまにはいいかなって」

 

「アスカ・・・・・・」

 

 はらはらと感動の涙を心の中で流すシンジ。

 

 なぜアスカが手伝おうとしたのか。

 彼女自身は「たまには手伝ってやるか」と気まぐれとしか思っていないが、実の所、だらしない生活をしている事に違和感を覚えてきているのだ。本人には自覚はないが・・・・・・。

 

 掃除、洗濯、料理、買い物。

 基本的に全てシンジが行っている。下着関係はミサトに教わりつつ自分でやってはいるが、居候させてもらっている2人には天と地ほどの差があった。

 

 そんなある日、パイロット達がコンフォート17

 に引っ越してきてから意識が変わり始めた。

 マリはともかく、レイですら、あの生活感の無い部屋に住んでいたあのレイですら家事をこなしているではないか。

 アスカとしては「私は私」と思い込んでいたが、心のどこかでは変化が芽生えていたに違いない。

 

「じゃあお雑煮をよそうから、器にお餅を2個ずつ入れて僕に渡してくれない?コンロとトースターに入っているから」

 

「わかった」

 

 アスカは火傷しないようにそーっと餅を器に移す。それを受け取ったシンジは鍋の中から野菜等と煮た出汁をよそい、それをテーブルに置いた。

 

 それから次々に渡される器に出汁をよそい、人数分のお雑煮を用意できた。

 アスカが手伝ってくれた分少し早く終わった。

 

「よしできた。アスカもありがとうね」

 

「うん」

 

「そうしてると夫婦みたいねぇ」

 

「ミサトがやらないからでしょ。まったく、いい大人が・・・・・・」

 

 ため息をつき席に座るアスカ。彼女自身が成長したようでなによりだ。

 

 それからミサト達はシンジが作った料理に舌鼓を打つ。市販の物もあるが、作れる料理は初挑戦であったものの評判は良かった。

 

 こうして家族とお雑煮等を食べながらゆっくりと過ごす。これが本来のお正月の過ごし方なのだろう。これまでは時代がそれを許さなかった。だからこそシンジやアスカは貴重な体験を楽しんでいるし、ミサト達大人は命懸けで戦い日常を取り戻してくれたエヴァンゲリオンパイロットに感謝している。

 

 今年の年末年始休みは、特にトラブルも無く終える事ができた。

 新年1日目の登校日はあっという間にやって来る。冬休みも終わり、シンジ達はいつも通りに第壱中学校へ再び通うこととなった。

 残り3ヶ月の中学生活。あとは受験に向けて動くしかない。アスカは頭が良いのでそこまで苦労しないだろうが、シンジは違う。頑張って進学しなくてはならない。

 

「これから君達は進学先を決める必要がある。去年の段階である程度のレベルはわかっているはずだ。今日から取り組んでいくぞ!」

 

 朝のホームルームで担任がそう宣言する。

 昨今、様々な所が復旧してきた事もあり、人手不足が深刻化してきている。

 そのため中卒でも仕事はあるにはあるが、教師としてはもっと多くの事を学び、自分が何をしたいのかを導き出してほしいのだ。

 

「先月までの結果が全てじゃない。今月の努力次第でレベルの高い高校へ行けるからな」

 

 そう励ますが、基本勉強が好きでない中学生にそう言っても無駄になってしまうかもしれない。

 ホームルームが終わると、面倒くさそうに・・・でも必要だからとそれぞれが進路の相談を友人達と話し始めた。

 

「センセはどこに行くん?」

 

「僕は第3新東京市(ここから)離れる気はないからさ。第壱高校に行くよ」

 

 第3新東京市立第壱高等学校。

 この第3新東京市の教育施設は小中高が1つずつ存在する。もちろん離れた所に行けば昔の学校はあるが、市内に住む人は基本的にエスカレーター式のように進学するのだ。

 高校ともなれば学力の問題もあるので他の学校に通う人もいるが、シンジはここに留まりたかった。

 

 第壱高校の学力レベルは全国平均よりは高く楽に入れる学校ではない。

 まぁ第3新東京市で就職するならば最低この学校を卒業していないと役に立てないのだ。特にNERVはハイスペックな人材が集まっている。努力無しでは生き残れない。

 

「トウジは?」

 

「ワシも・・・まぁ同じ所行きたいんやが・・・・・・」

 

「トウジは怪しいからなぁ」

 

「なんやケンスケ。お前も危ない言うてたやないか」

 

 話に入ってきたケンスケが事情を説明する。

 彼の言う通り、トウジの学力では難しいかもしれない。だが努力次第では入学できる。ケンスケも同様だ。

 トウジは将来何になりたいかはわからない。ケンスケは戦略自衛隊に行くと前々から宣言していたのでそれに見合う学力があればよいらしい。

 

「霧島とか山岸とか、皆は第壱高校に行くみたいだぜ?学力的に1番怪しいのは俺達だな」

 

「せやな」

 

 どうやらシンジの友人達は同じ進学先を目指しているようだ。他のクラスメイトの話し声も聞こえるが、ほとんどが第壱高校を目指すらしい。

 

 ここを離れたくないのか、離れられないのか。それは個人の事なので詮索しない。ただ、使徒やゼーレとの戦いに巻き込んでしまった上に死傷者も出してしまった。

 それを踏まえても第3新東京市に戻ってきてくれたのだから、この街に親しみを覚えてくれているのだと信じたい。

 

「第壱高校の偏差値は周りの高校と比べて高いから頑張らなくちゃね」

 

「日向さんとかマヤさんに教えてもらうっていう手は?」

 

「2号機パイロットに賛成。あの人たち、頭いいから」

 

 あのオペレーター達に限らず、NERVの職員は総じて頭が良い。世界で最先端の研究を行い、実用化を成功させているのだから。

 この中でそれがわかっているのはアスカだけだったため、このような提案をしたのだ。

 

 帰宅後、夕食を食べながらミサトに今日の事を相談する。

 ミサトは快諾し、試験当日まで毎週勉強会を開くことになった。もちろん全員参加。場所はNERVの会議室で、講師はミサト達が持ち回りで務める事に。

 ちなみに、シンジ達パイロットはNERVにいる事が多いため、トウジ達と比べてNERV職員に質問する機会が多いのは内緒だ。

 

 結果を言ってしまえば、ミサト主催の地獄の勉強会に喰らいつくシンジ達の努力は無事に実った。

 結果発表当日、皆で合否発表の会場へ向かい、各々の受験番号が張り出されているのを確認した。全員だ。

 

 シンジ、トウジ、ケンスケは肩を抱き合い、アスカ達女性陣は涙ぐみながら合格を祝った。

 あの勉強地獄の辛さは過去1番だっただろう。

 休みの日は朝から晩まで勉強、試験、勉強、試験の繰り返し。当日終わった際は、勉強がそこまで得意では無いメンバーは机の上で撃沈していた。

 もちろんシンジも例外ではなかった。

 

 結果発表を終え、喜びながら家に帰った3人を待っていたのは、なんとゲンドウであった。

 ダイニングテーブルに座り、発令所にいる時と同じようなポーズで息子達を迎える。

 

「3人共よくやった。これは合格祝いだ」

 

 ゲンドウは後ろに控えるミサトに合図をする。ミサトは鞄からファイルを取り出して机に置いた。

 ファイルを手に取ったシンジは中身を取り出すと、そのブツに驚愕した。

 

「こ、これ温泉?」

 

「ちょっと見せなさいよ。ん?え、この最高級ホテルに泊まれる・・・んですか!?」

 

 中身は浅間山の麓にある高級ホテルの予約完了画面を印刷した用紙だった。

 以前に入った温泉とは別の施設で、現地では最も敷居の高いホテルだ。しかも部屋は最高クラスだった(もちろん各自1部屋)。

 

 アスカは驚きのあまり大きな声で質問してしまったが、ゲンドウの表情は変わらない。まぁいつも無表情なので問題は無いだろう。

 

「今度浅間山で訓練を行う。そのついでに行け」

 

「「ありがとうございます!」」

 

「ありがとう・・・ございます」

 

 これも今まで子供達を蔑ろにしてきた贖罪のつもりなのか、珍しくシンジ達に沿ったスケジュールだった。

 

 シンジ達に罪悪感を抱いているのはゲンドウやミサトだけではない。NERVの職員、それもパイロットと交流のある者は少なからず感じている事だろう。

 自分の子供や親戚と同じ年齢の少年少女を戦わせていたのだ。事情があったとしても責められても文句は言えない。

 

 ただ、シンジ達は文句は言わなかった。自分を変えてくれた、理解してくれた、居場所をくれたのはNERVなのだ。

 これからも彼らはNERVに尽くしていくだろう。そこが居場所なのだから。

 

 

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