4章~5章辺りの時期に、ディルヘイドで雪まつりが開かれるお話です。
ハーメルンとpixivで並行掲載しています。
【注意】
・元ネタは銀魂の「雪ではしゃぐのは子供だけ」(ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲)。
・銀魂は知らなくても大丈夫ですが、魔王学院の不適合者は4章まで必読の上でお読みください。存在自体がネタバレの夫婦がいます。まだ4章まで読んでない人は回れ右。
・元ネタ以上に下ネタ全開になってます。
・「な・る・ほ・どぉ」と上記をご理解いただけた方は本文をお読みください。

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4章~5章辺りの時期に、ディルヘイドで雪まつりが開かれるお話です。
ハーメルンとpixivで並行掲載しています。
【注意】
・元ネタは銀魂の「雪ではしゃぐのは子供だけ」(ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲)。
・銀魂は知らなくても大丈夫ですが、魔王学院の不適合者は4章まで必読の上でお読みください。存在自体がネタバレの夫婦がいます。まだ4章まで読んでない人は回れ右。
・元ネタ以上に下ネタ全開になってます。
・「な・る・ほ・どぉ」と上記をご理解いただけた方は本文をお読みください。


【魔王学院の不適合者】ディルヘイド雪まつり【下ネタ】

 暴虐の魔王、アノス・ヴォルディゴードが転生を果たして6ヶ月。

 神話の時代の魔法具『蓮葉氷の指輪』の暴走によって、魔族の国ディルヘイドは、季節外れの大雪に見舞われた。

 暴走といっても大したことはなく、災害の内にも入らない。何せ国民の1割以上は大なり小なり火炎魔法が使える国なのである。日常生活の妨げとなる雪だけ溶かせば済むことだ。

 むしろ魔王アノスが平和の式典を開いた記憶も新しいディルヘイドでは、この雪は大いに歓迎された。

 どれほど歓迎されたかといえば──。

 ──雪まつりが開催されるほどであった──。

 

──※──

 

「みんな早起きだわ……。もう色々と雪像が出来てるじゃない」

 

 十二分に明るい時間になってから雪まつりの会場に現れたのは、金髪の少女サーシャである。今回の雪まつりの目玉である『雪像大会』では、雪像を作る際に魔法が禁止で、綺麗な白い雪を手作業で集めなければならない都合などから、創る側として参加する者は夜明け前から作業に取りかかっている。

 蓮葉氷の指輪の持ち主であるミーシャと、主催者であるアノスは創る側の参加者ではないのだが、他の創る側の参加者の様子を見る為に早朝から出掛けている。

 

「う~。大会用の反魔法が展開されてて《思念通信(リークス)》が通じないし、アノスとミーシャは何処に行ったのよ? ちょっと私が寒さに弱くて、元々現地集合って話だったからって、ミーシャも起こしてくれたらいいのに……」

 

 ミーシャの名誉の為に書いておこう。サーシャが弱いのは寒さというより朝の方である。そしてミーシャはちゃんとサーシャを早朝に起こそうとしたのだが、二度寝したのはサーシャの方である。

 そんなこんな愚痴りつつも、サーシャは雪像を見て回りながらアノスとミーシャを探す。そうしている内に、アノスを見つけた。

 ──ただし、雪像の。

 

「……完成度高いわね」

 

 理滅剣ヴェヌズドノアを地面から伸ばし、白服を着たアノスの雪像である。ヴェヌズドノアに体重を預けているようには見えない重厚な四肢と、理滅剣から溢れる魔力の靄まで見事に再現した氷の剣が印象的だ。身長は本人の1.5倍程か? ご丁寧に氷で破滅の魔眼まで再現されている。

 

「あ、サーシャさんも来られたんですね! おはようございます!」

 

 そうサーシャに元気な挨拶をしてきたのは、アノス・ファンユニオン(魔王聖歌隊)のリーダー、エレンである。

 

「うん、おはよう。凄い完成度ねコレ。特に理滅剣とか。こんな都合のいい形と大きさの氷、よく用意出来たわね」

「ふっふっふ。いい出来映えでしょう、この理滅剣。準備を含め魔法は禁止ですからね。前日から型取りしたものを持ってきたんですよ。このアノス様像で、秩序を滅ぼしてでも、優勝は間違いなしです!」

 

 その後もサーシャとエレンはアノス様像について仲良く歓談する。何度目かの問答した後のことだった。

 

「エレーン。こっちも出来そうだよーっ」

 

 他のファンユニオンが声を掛けてくる。

 

「まだ何か作ってるの?」

 

 サーシャが問う。

 

「もちろん本命はアノス様です!! あっちは余興なんですよね。是非見ていって下さい!」

 

 なるほど、サーシャはアノス像に夢中で気付かなかったが、さほど遠くないところにもう1つ雪像がある。

 まず左側に、直径25cm程の雪玉。

 次に、全長2m程の太くて立派な雪の柱。槍か大砲のように先端が少し膨らんでいる。

 最後に右側へ、もう1つ雪玉を並べれば……。

 

「よーし、これで完成だね!」

「死になさいっ!!」

 

 サーシャが破滅の魔眼で左の雪玉を睨む。雪玉は勢いよく爆発した。

 

「ああっ! サーシャさん何するんですか! この雪玉1つ創るのにどれだけ手間がかかったと……」

「こんな猥褻物を創るのに手間なんか掛けてるんじゃないわよ! 馬鹿なのっ!?」

 

 顔を真っ赤にしてサーシャが怒る。だがファンユニオンはあまり怯んでおらず、悪びれる様子もない。

 

「猥褻物?」

「違うよねー」

「これが猥褻に見える人の心が卑猥なんだよねっ」

 

 サーシャが問う。

 

「猥褻物じゃなかったらこれはいったい何なのよっ!!」

「「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲ですっ!」」

 

 ファンユニオンは声を揃えて淀みなく答えた。

 

「アームストロングって2回言ってるじゃないっ! ある筈ないでしょこんな卑猥な兵器!!」

「ふむ。何を喚いている、サーシャ」

「きゃああああああ!? アノスっ!?」

 

 いつの間にアノス・ヴォルディゴードがサーシャの後ろにいた。

 

「「おはようございますっ!アノス様っ!」」

「ふむ、おはよう。魔王聖歌隊は今日も元気が良いな」

「あなた今まで何処行ってたのよ?ミーシャは一緒じゃないの?」

 

 アノスが答える。

 

「来た時は一緒だったのだがな。これを見て欲しいこっちに来て欲しいと色々な連中から声を掛けられっぱなしでな。1つの作品をじっくり見たいミーシャとは別行動になってしまったのだ」

「そうよね……。あなたってそういうところあるわよね……」

「ふむ。いけなかったか?」

「もっとイケないものがあるからとりあえずいいわ。アノスも止めてよ。ファンユニオンったらあなたが主催した祭りで卑猥なもの創ってるのよ」

 

 サーシャが色々と呆れながら言うが、アノスは動じない。

 

「くはは。これのどこが卑猥なのだ? ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲ではないか。中々深淵に迫っている」

「「お褒めに預かり光栄ですっ! アノス様!!」」

「はあああああっ!? 本当に? 本当にあるの? こんな馬鹿みたいな形の兵器!?」

 

 サーシャが目を見開いて驚いた。

 

「2000年前の大戦の中期、冥王イージェスの居城を落とした、アゼシオンの決戦兵器だ」

「冥王イージェスって、あの槍使いの人よね? あの人のお城ってこんなカッコ悪い兵器に落とされたの……?」

 

 困惑するサーシャを尻目に、アノスは他の作品を見に行った。立ち去り際にこう言い残す。

 

「まあ、信じられぬのならもっと深淵を覗くことだな。俺とて気休めや不可能や後悔は口にせぬが、冗談ぐらいは言うものだぞ」

「はぁっ!? ちょっと、それどういう意味よ……?」

 

──※──

 

 アノスが去った後、深淵を覗くために、サーシャはその雪像に魔眼を向ける。

 ……浅瀬の発想、浅瀬の客観視に依るなら、卑猥物を凝視するむっつりでしかないのではないか、ということを彼女が気にし始めたときだった。

 

「サーシャ」

 

 声を掛けたのはミーシャである。驚きのあまりサーシャはビクッと震えた。

 

「あ、あ、あ……ミーシャ! おはよう!? ミーシャもアノスの雪像を見に来たの!?」

 

 コクコクとミーシャは頷き、正面の玉と棒の雪像……ではなく、左前方にあるアノスの雪像に改めて目を向けた。

 

「1時間前に来たときは、まだ出来てなかった」

「上手く出来てるわよねー」

「ん」

 

 そのミーシャの返事の強弱で、サーシャは深淵を察する。

 

「もしかして、ミーシャならもっと上手く作れるのかしら?」

 

 ミーシャは楽しそうに目をぱちぱちさせた。

 

「来年の大雪のときは、一緒に創る」

「私も? じゃあ来年はちゃんと起こしてよね」

「今朝も起こした……」

「えっ? あれ? 全然覚えてないわ……」

 

 気持ちよく二度寝したせいで1回目のことを覚えていないのは、二人の間ではいつものことである。

 

「それに比べて、こっちの雪像はね……」

 

 二人の視線が正面に向き直す。ミーシャが目をぱちぱちさせて言った。

 

「……ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲。上手く出来てる」

「ええっ!? ちょっ……ミーシャも知ってるの!?」

 

 コクコクとミーシャは頷く。

 

「アハルトヘルンを守ってる、戦いの精霊」

「本の精霊リーランには載ってなかったわよ!? それにアノスとも言ってたことが全然違うわよ!?」

 

 困惑するサーシャを、ミーシャは寂しげに見つめる。

 

「そういう精霊だから。これ以上詳しくは言えない……」

「えっ、ちょっと。どういうことなのミーシャ!? もしかしてやっぱり卑猥なのっ!?」

 

 ミーシャは返事することなく、他の作品を見に行ってしまった。

 

──※──

 

 サーシャに壊された雪玉が作り直されたところで、またサーシャの見知った顔が現れた。

 

「あっ、サーシャさんもいらしてたんですね!」

「アノスは一緒じゃないんだね」

 

 サーシャが振り返ってみれば、レイとミサがいた。肩を寄せ合い、互いの指先を絡め合っていた。俗に言う恋人繋ぎである。

 

「そういう二人は熱すぎて雪を溶かしかねないわね。まあいっそ私の後ろにある奴は溶かしてもいいかもしれないけど」

 

 サーシャの後ろをチラリと覗き見てから、レイとミサは答えた。

 

「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だよね? 溶かさないよ?」

「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲ですね。せっかくファンユニオンの皆が作ったんですから溶かしませんよ?」

 

 この二人も知ってるのかと、もはやサーシャは怒りや驚きを通り越して呆れた気持ちになってくる。

 そして二人は聞いてもいないのに逸話を話す。

 

「2000年前の大戦の後期に、浅瀬王ギリシリスが自分の領地を守るために配置した深淵に最も近い魔砲兵器らしいよ。僕は信じてないけどね」

「1200年前の統一派の決起の際、混血の権利・税制改革の決め手となったヨハルンメデン魔砲とは裏腹に、メルヘイス様の邸宅の倉庫で眠り続けている、悲しい兵器ですよね……」

「浅瀬王ってそれ本人の前で言ったら殺されるわよ? どうせレイは殺しても死なないでしょうけど。あと『信じてない』はどこにかかってるのよ……。ミサもミサでメルヘイスの名前なんか出して大丈夫なの?」

 

 もはやサーシャの中ではネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の逸話に対して信頼度は全くない。

 

「七魔皇老にミサが負ける筈がないし良いんじゃないかな」

「四邪王族がレイさんに敵う筈ないですよねー」

「「それにネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲ってそういう──」」

「──物だし?」

「──物ですもんねー」

 

 2000年前の大魔族と現代の大魔族がこの言われようである。

 

「ところで二人は今来たところなのかしら?」

 

 サーシャが訊ねる。

 

「朝早くから、創り手として参加してるよ? もう完成したから他を見て回ってるところなんだ。世界一強くて可愛くて美しい女の子がモデルだからね、優勝は間違いなしだよ」

「や、やだなぁ~レイさんったら! 優勝するのはレイさんの剣のお陰ですよ~」

 

 勝つ前から勝った気でのろける熱愛っぷりである。

 

「じゃあ僕たちは他を見てくるよ」

「うふふ~。サーシャさんも後でレイさんが創った傑作を見に来てくださいね~! ちょっと恥ずかしいですけど……」

 

 来たときと同じ恋人繋ぎ。熱々の状態でやってきて、熱々の状態でレイとミサは去っていった。

 

──※──

 

 レイとミサが去った直後、ファンユニオンのエレンがふと呟いた。

 

「あっ、私スゴいこと思い付いちゃったかも……」

「どうしたのっ、エレン?」

「このネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲に、翼を付けたらいいんじゃないっ!?」

 

 首を捻るサーシャを差し置いて、ファンユニオン達は目を見開いて「きゃああああああああっ!!」と黄色い悲鳴を上げた。

 

「さっすがエレンっ! 天才! 天才過ぎるよぉ!」

「その発想、サイクロンジェットな神穹に飛翔して征服を果たしちゃってるんじゃないっ!?」

「2対の翼なら、アームストロングを2回繰り返す様子とか、アノス様が改良した《魔王軍(ガイズ)》が根源に2回働き掛ける様子まで表現出来ちゃうよぉ!! 暴虐っ! 暴虐だよぉっ!」

「えへへ……。なんか突然何かが降りてきたっていうか……」

 

 破滅の魔女・サーシャはファンユニオンの誰よりも《魔王軍(ガイズ)》の術式を上手く使えるが、ファンユニオンが何を言っているのかは全く理解出来ない。

 だが、その混乱によって防御力がゼロになったサーシャに、更なる追撃が行われる。さしずめ《二重の極み(エッド・パセドン・カインクト)》といったところか。

 

「ねぇ……私も閃いたんだけど……」

「どうしたのジェシカ?」

「これに更に、滑り台を付けたらいいんじゃない……?」

 

 一瞬の沈黙。いやそれは『溜め』だった。直後、先ほどの黄色い悲鳴を超える感動の絶叫が響く。

 

「「きゃああああああああぁぁぁぁっ!?」」

「凄すぎるよジェシカ!! 天才超えてぴえん超えてぱおん超えて摂理の枠に収まらぬ不適合者だよぉぉおおおおおお!!」

 

 それはダンジョン試験のときに時の番神エウゴ・ラ・ ラヴィアズが言った台詞なのだが、何故ファンユニオンがそれを知っているのだろうかは永遠の謎である。

 

「色んな人たちが平和の為に参加するこの雪まつりに、相応しすぎるんじゃないっ!? 相応しすぎて不適合者なのに適合者を圧倒しちゃってない!?」

「平和と教育の為に秩序すら滅ぼす、アノス様の心の深淵に迫り過ぎだよぉぉおおおおおお!!」

 

 そもそも色んな人たちが参加する祭りに卑猥な造形物を出す時点でおかしいのではないか? などとサーシャはかろうじて思考したが、もうその後のサーシャの頭は雪のように真っ白にされてしまった。破滅の魔女の思考回路が破滅させられたのだ。

 そこへ声を掛ける者がいた。

 

「おや、サーシャ・ネクロンですか」

 

 魔王の右腕シン・レグリアと、

 

「あ、サーシャちゃんだね」

 

 その妻で大精霊の、レノである。

 

「貴女ほどの魔族が、反魔法を無にして立ち尽くすとは。何かありましたか」

「……はっ!」

 

 シンが2回目の声かけをしたところで、やっとサーシャの意識が戻った。

 

「危ないところだったわ……! 危うく意識を持っていかれるところだったわ……!」

「既に大半持っていかれていたようにお見受けしましたが?」

「えーっと、サーシャちゃんが気を失っていたのって、これのせいかな?」

 

 レノが指差す先にあるのは、おおよそ少女(の姿をした大精霊)が指差していいものには見えない。サーシャが気を失っていた僅かな間に翼と滑り台が付いていた。

 

「え、あ、うん。そうなのよ……その得体の知れない……」

「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だねっ」

「えぇ。ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲ですね」

「もう原型とどめてないんだけど! 何で分かるの!?」

 

 蛇足にしか見えないものが付いている割に、完成度が高いからか、あのシン・レグリアが、魔王の右腕とまで呼ばれた男が舌を巻いている。

 

「なかなか重厚で強さを感じさせるアームストロングですね」

「えーっ、でもシンのアームストロングの方が逞しくて好きだよ?」

「何? 結局アームストロングって何なの? やっぱり卑猥なのっ!?」

 

 サーシャが混乱し始めると、シンとレノが不思議そうな眼を向けてきた。

 

「サーシャちゃんは、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲のこと、知らない?」

「アノスもミーシャも皆バラバラなこと言うから、もう何も信じられないというか……」

 

 するとレノは「んー」と唇に指を当てて考え始め、シンと何やら相談し始めた。

 

「シンは今年の権利使った? 私はもう使っちゃってて……」

「まだですよ、レノ。サーシャの為に使ってしまいましょうか」

 

 シンがサーシャの方に向き直して言う。

 

「サーシャ。我が君に仕える者同士のよしみでお教えしましょう。ああいった形の雪像を見たならば、『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲』と呼んで、ありもしない逸話を話さなければならないという、"噂と伝承"があるのです」

「……はい? 噂と、伝承?」

 

 シン・レグリアには精霊王の肩書きもある。その男が"噂と伝承"を強調して言うなら、答えは1つだ。

 

「……ああいう精霊が、いるの? エニユニエンの授業にも本の精霊リーランの中にも出なかったけど?」

「形が形ですからね。リーランには載ることが無く、エニユニエンも成人を相手に保健・体育の授業をする場合を除いては話そうとしません。我が君やミーシャは1万人のゼシアとの関わりや、父君からお聞きになったのかもしれませんね」

「……なんでアノスは教えてくれなかったのかしら」

「この『本当の伝承』は、1年に1人にしか教えてはならず、人から教わった年には他の人へ教えてはならない、とされています」

 

 そう考えると『アハルトヘルンの精霊』というある意味部分的に正しい逸話を話したミーシャは、かなり良心的だったといえる。

 

「ところで」

 

 シンがサーシャに訊く。

 

「魔王聖歌隊は、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲で優勝を狙っているのでしょうか」

「んな訳ないでしょうがっ!! 余興! 余興って言ってたわ!」

「あっ、シン先生、ミサのお母さん、おはようございます!」

 

 元気に挨拶してきたのは、聖歌隊のエレンだった。

 

「中々良い余興を見せて頂きましたよ、エレン。ティティが見れば喜ぶでしょう」

「滑り台が良いよね。ティティが後で遊びに来ると思うよ」

「ありがとうございます!」

「それで、本命はどちらに?」

 

 大精霊と魔王の右腕、まさかのベタ誉めであった。

 もっとも、現代の魔族であるサーシャは知るよしもないが、2000年前の戦乱の時代は、あらゆる絶望と破滅が世界に満ちていた。誰にでも通用して下準備もなく笑顔が得られる下ネタは、2000年前では鉄板でこそないものの安全牌としては人気があったのだ。

 エレンがシンとレノを案内する。

 

「これが私たちの本命、アノス様の雪像です!」

「へぇー、すっごーい!」

「さすが忠臣エレン。そして魔王聖歌隊。見事な完成度です」

 

 完成度に自信があるからこそか、サーシャと話した後であるにも関わらず、エレンとシンは飽きることなく雪像の出来映えについて語らう。

 その様子を見ていたレノがサーシャに言う。

 

「アノスの話をしてるときのシンって、本当楽しそうだよね~」

「ファンユニオンとシンが相性良いのはちょっと意外だわ……。あんなに仲良くしてて、レノは妬かないの?」

「ん~、妬かないよ? あ、サーシャちゃんは妬くんだ?」

「や、妬かないわよっ」

 

 やがてエレンとシンの話題は、シンの批評へ移る。

 

「少々脚色が入っているようにも見えますね。靴底を1cm低くした方が本物の我が君に近い比率になるでしょう。また、魔剣と我が君の肉体の黄金比の深淵を除くことが出来るようになれば、理滅剣でバランスを取るような体勢ではなく、理滅剣を振るう我が君の姿を描いた雪像も作れることでしょう」

 

 シンのアドバイスを、エレンは真剣にメモしている。次回の雪像大会の参考にするのだろう。

 

「また、これは少々抽象的な言い方かもしれませんが」

 

 と、前置きしてシンは言う。

 

「このぐらいの完成度の王の雪像を、1人で、10分以内に作れる程の剣の腕を持った男でもなければ、王の右腕と呼ばれた男の愛娘と結婚することは出来ないでしょうね」

 

 大変具体的な言い方であった。

 

「剣と雪像って、関係あるの?」

 

 サーシャがシンに問う。

 

「何を仰るのです。雪像づくりで重要なのは剣です」

 

 シンが断言する。

 

「雪を効率良く集める為に重要となるのはスコップ、即ち剣です。雪を積み上げ固めるのはスコップ、即ち剣です。雪を彫刻するのに使うのも、もちろん剣です。よって雪像づくり即ち剣に他なりません」

「ふふっ、そういうことを本気で言って、本気でやり遂げるところが、シンの面白さでありカッコ良さだよね」

 

 レノの微笑みの中には、当然レイがこれから受けるであろう苦労のことは勘定入っていない。

 

「参考に、私とレノと精霊達で作った作品をお見せしましょう」

 

 そう言ってシンは、雪原に蜃気楼を生み出すという噂と伝承から生まれた精霊の力を借りて、自分達が作った雪像の様子を投影する。

 

「きゃぁぁああああ!? す、凄すぎるぅぅうううう!?」

「1チームに与えられたスペースで、この人数っ!? この細かさっ!?」

 

 投影されたのは、エニユニエンの学舎で教鞭を執る真体のミサと、その授業を受けるアノス班メンバーとファンユニオン、そして教室の後方からそれを見守るシンとレノであった。ちょうどアノスが何かを回答するところのようで、学生側十余名の中ではアノスの像だけが立ち上がっている。

 

「6割ぐらいはシンが作ってくれたんだよ。あとの4割は私と精霊の皆で作ったんだけど」

 

 レノがそう解説すると、サーシャもファンユニオンも目を見開いて驚いた。

 

「1人で……これの、6割!?」

「私達が6人がかりでアノス様の雪像1つを作ってる間に……!」

「シン先生と同じ速さで剣が振れたとしても追いつける気がしない……。もっと剣と創造とアノス様の深淵を覗けるようにならなきゃ……」

 

 投影されたものをファンユニオンが見納めたところで、シンが言う。

 

「ご満足して頂けたようですね。投影だけでなく、ぜひ実際の雪像をご覧になると良いでしょう。ではレノ、行きましょうか」

「うんっ、他の雪像も見に行こうよ」

 

 それを最後にシンとレノは去っていった。

 2人を見送ってすぐ、ファンユニオンは何やら話し合い始める。

 

「さっき誘われたし、私達もシン先生が作った生雪像見に行く?」

「さんせーっ。運良く生アノス様にもう一度お会い出来たら、深淵覗かなきゃいけないしっ」

「ちょっと! 生のアノス様の深淵を覗くだなんてはしたないわよっ!」

「いいじゃんいいじゃん! 生の俺を味わうがいいって言ったのはアノス様なんだし!」

「公式が正義で暴虐で魔王様だからセーフ!」

「じゃあ、いっくよー!」

「「おーー!!」」

 

 ファンユニオンが元気に白い雪の上を駆け出す。

 一方1人残されたサーシャは小悪党のような顔をしていた。

 

「ふぅーん? ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲、ねぇ……?」

 

 ここまで散々この卑猥な大砲に翻弄された分、今度はこっちが翻弄してやろう──というのが、サーシャの企みだった。

 

「ふっふっふ……。早く獲物が来ないかしら。この破滅の魔女サーシャ・ネクロンが、ありもしない逸話を存分に語ってあげるわ!」

 

 すると早速獲物がかかった。それはサーシャが逸話を考えるよりも早く。

 

「おち◯ち◯です!!」

 

 ゼシアの元気な声であった。ゼシアはネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を指差している。

 

「わーー!? ゼシアっ! 大声でそんなこと言っちゃダメだぞっ !!」

 

 エレオノールが周りの目を気にしながらゼシアを叱った。ひどく焦った様子である。

 

「おち◯ち◯の像は……創ってもいいのに、おち◯ち◯って言ったら、ダメですか……?

 ゼシア、たくさん、お勉強しました……。

 アノスにも、レイにも、シン先生にも、アノシュにも、おち◯ち◯は……あります……!

 おち◯ち◯は、悪いものじゃ……ないです……!」

「う、うーん……。こ、これは。お……おち◯ち◯じゃないと思うぞっ。滑り台とか翼とか付いてるし」

 

 エレオノールは周りを気にしながら小声でそう言う。おち◯ち◯の善悪を論ずるより「これはおち◯ち◯ではない」という方向に逃げた。

 

「じゃあ……なんですか?」

「うーん……。お、お城とかじゃ、ないかなぁ……?」

 

 エレオノールは、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の噂と伝承を知らなかった。

 

「ゼシアは、エールドメード先生から、教わりました……! 分からないことを、分からないままにしたら、いけません……! 魔王聖歌隊に、聞きに行きます……!」

「あー、えー。じゃあお母さんが後で聖歌隊に聞いとくから、とりあえず別の雪像を、ね……?」

 

 ファンユニオンが無垢なゼシアに何を吹き込むか分かったものではない為、エレオノールは自分がクッションになろうとした。

 

「今でしょ、です……!」

 

 しかしゼシアの学習意欲は止まらない。

 そのときだった。

 

「落ち着きなさい。ゼシア、エレオノール。この程度のことで狼狽えていては、私の魔王様の配下としてだらしないわよ……?」

 

 金の髪をファサッとかき上げながら、サーシャが優雅に現れた。

 

「わーお……。こういうときに一番狼狽えそうなサーシャちゃんには言われたくないんだぞ……」

 

 まあ実際エレオノールが現れるまで狼狽を繰り返していた訳だが。

 

「サーシャ。これは、おち◯ち◯、ですか……?」

 

 ゼシアは歯に衣着せずに直球で訊ねた。

 

「断じておち◯ち◯などではないわ……」

 

 余裕をたっぷり含んだ口調で、髪をかき上げながらサーシャは断言する。

 

「わーお……。サーシャちゃんがおち◯ち◯って言っちゃうなんてびっくりだぞ。ディルヘイドに雪が降るんだぞ。あっ、もう降ってたんだった」

「じゃあ……。おち◯ち◯じゃないなら……何ですか?」

 

 ゼシアの問いに、サーシャが髪を三度かき上げて答える。かき上げ過ぎてちょっとツインテールが乱れてきた。

 

「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲よ。完成度高いわね」

「アームストロングって2回言ってるぞ!? サーシャちゃん酔ってるの!?」

 

 エレオノールは、サーシャが気の効いた誤魔化しを言ってくれることを期待していたので、動揺を隠せない。

 

「私は酔っ払ってないし、この雪像はおち◯ち◯ではなくネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だわ。間違いなく、ね……」

「ネオアームは、どんな大砲、ですか……?」

 

 ゼシアが訊ねる。

 

「ネオ・アーム・ストロング・サイクロン・ジェット・アーム・ストロング砲、はね……」

 

 やたらサーシャの語り口調がゆっくりな上に途切れ途切れなもは、逸話を考えながら、これまでのネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の逸話を思い出しながら話しているからだ。

 サーシャの脳裏で、逸話と思い出が再生される──。

 

 

──ふむ。しかしよく見ると……少し小さいか。

──いい? わたしはね、男の裸が好きなのっ! たまたまあなたの体が好みだっただけよっ。体だけが目的なのよっ!!

──アノスの裸は芸術的。好き。

──そんなに見たいのなら、見せてやろう。写真ではなく、直にこの俺の裸をな!

──だから、あれだ、あれ。その、入れる方なのかっ!? それなら、父さん、ギリ理解できるぞっ! だけど、入れられる方だとすると、さすがに父さん、理解が……理解したいけど……理解して、やりたいけど──

──あ、アノッス棒……です……。

──妊娠妊娠っ!

──間接兜で八本八本!

──本番本番っ

──初夜初夜ー

──なかなか重厚で強さを感じさせるアームストロングですね。

──えーっ、でもシンのアームストロングの方が逞しくて好きだよ?

──アノスにも、レイにも、シン先生にも、アノシュにも、おち◯ち◯は……あります……!

 おち◯ち◯は、悪いものじゃ……ないです……!

 

 

「……アーム、ストロング、は……」

 

 サーシャの顔も口も固まってしまう。

 

「……サーシャ?」

「……サーシャちゃん?」

 

 ゼシアとエレオノールが名前を呼ぶも、サーシャの硬直は戻らず。

 

「……あーー……」

 

 ズドーンと。そのままサーシャは、見事に昏倒してしまった。

 

「サーシャちゃああああああん!?」

 

──※──

 

──後の診断結果に曰く。サーシャが倒れたのは限界を超えた思考回路が発熱したことによる熱中症であった。

 さらに後、ディルヘイドでは雪まつりが毎年恒例の行事になるのだが、後にも先にも雪まつりの最中に熱中症で倒れたのは、サーシャ・ネクロンただ一人だけだったという……。

 

 

──【完】──

 




『解説タイム』

【蓮葉氷の指輪の暴走】
 公式コミックアンソロジーの『Artfact-アーティファクト-(作:きぃやん様)』が元ネタです。

【国民の1割以上は大なり小なり火炎魔法が使える国】
 6章の『盟珠の使い方』にて、「魔力の有無は竜人だと10人に1人程度。これは人間と魔族の中間程度の割合(意訳)」と書かれており、まさか火炎(グレカ)がそんなに難しい魔法とも思えないので、このように解釈しました。

【雪像大会での魔力封じ】
 創造建築(アイリス)を使えば手や剣で雪像を創る意味がないので。あと作者の都合で思念通信(リークス)を封じたかったからです。

【1200年前の統一派の決起】
 原作には出てません。まあ比較的平和な江戸時代ですら大塩平八郎の乱とかありましたし、こういう決起の1つや2つはあってもおかしくはないかと思いました。この決起自体がでまかせの逸話の可能性もありますが。

【雪像精霊ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の噂と伝承】

グスタ・イザベラ→アゼシオンにいた頃、アノスが生まれる前から知っていた。

アノス→グスタから教えて貰ってエニユニエンに確認した。今年知ったので来年まで他人に教えてはならない。

ミーシャ→イザベラから教えて貰った後、アノスと答え合わせ。このときサーシャは寝坊していたので聞いていない。今年知ったので来年まで他人に教えてはならない。

ミサ・レノ→種族:大精霊なので誰かから教えて貰わなくても知っている。

シン→精霊王なので知っている。

レイ→ミサから教えて貰った。今年知ったので来年まで他人に教えてはならない。

ファンユニオン→まあ彼女たちなら自力で深淵に辿り着くでしょう……。

【ふむ。しかしよく見ると……少し小さいか。】
魔王学院の不適合者~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちとデフォルメマンガになる~の第5話です。
https://maohgakuin.com/special/comic/

お読みいただきありがとうございました。
お気軽に感想を書いていただければ幸いです。今回出てないキャラとネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の絡みについても書いてもらって構いません(笑)


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