メテノール・オーヴァラン(33歳男)が引退後に隠居した町
そこは平和なようでいて
やはり帝国の手は伸びていた
だから書いた、今は反省している
だが後悔はしていない
これが私のメテノールのイメージだ
ダタッツ剣風シリーズを見ていないと世界観はわからないと思いますので、原作既読推奨
かつ全く違うステージなので原作知識は役に立たないという残念世界観なので、頭空っぽにしてどうぞ
俺の爺さんは、凄腕の冒険者だったらしい
別に伝説のどうとかってわけじゃなく
ローカルな、1地域での
凄腕だったらしい
「おじさん!」
そう、いまや30を過ぎたオヤジである俺も、かつては冒険者だった
空の彼方の飛竜撃つ剣技、投剣術を修めた
…だったらしい父と
かつて魔法使いだったという一族の血を引く母、どちらの才能も受け継ぐことなく
出涸らしじみた生まれ方をした俺は結局、その道以外に生きる方法はなかった
「おじさん!」
どうしようもない生まれの俺だが
それでもなんとか、何かを殺すことはできた
剣術も棒術も杖術も、筆記も計算も交渉も
考察も検証も勉強も全てが苦手な俺でも
「おじさん!」
「うぉっ、なんだよガキ
俺は今釣竿垂らしてんだよ邪魔すんな」
背後から声をかけられて驚きながら
俺はガキの頭を小突く
当然、気配には気付いているが
それでも驚いた振りをしてやるのが大人って奴だ
「おじさん!冒険者なんでしょ
お話聞かせてよ!」
「聞かせるような話があるほどの高名な冒険者様じゃないんでな、お前に話すようなこたぁねえよ」
素っ気なくかぶりを振って
釣竿に戻る
どうせ魚なんて掛かりはしないが
それでもそれはそれ、引退冒険者じじいの遊興に文句は付けさせねぇ
「ねえおじさん!」
「うるっせぇなぁ…全くよ
そもそも、冒険者ってのはそんなド派手な冒険ばっかしじゃねえんだよ
下積み8割、上澄2割
実際はもっと酷い割合だぞ」
そう、実際はもっと酷いのが普通
百分の1あるかないか、と言ったところだ
「そんな冒険なんか追い求めてるようじゃあ、挫折して辞めるか死ぬかどっちかだ
お前さんの求める冒険譚じゃあ
主人公はいっつも冒険冒険と言っていたのか?」
「…むぅぅぅっ!もう!」
「そこで黙るんじゃガキだな
大人はそこで引き下がる、そんで勇者ってのは、それを認めた上で『それでも』と言うんだよ」
ふと、自虐的に笑いながら
スキットルに入った酒を飲む
「おじさん、いつもそれ飲んでるよね、なにそれ」
「お、露骨に話を逸らしたな?
こいつは…百薬の長って奴だよ」
軽くスキットルを振って見せる
「こいつさえありゃあ、
どんな病気も吹っ飛んでいかぁな」
冗談を飛ばしながら、海に視線を戻す
…と、やっぱりガキはこっちに
いや、膝に置いたスキットルに目が寄ってやがるな?
「飲んでみるか?」
「良いの?」
「おう、オヤジの身からすりゃあ
早く知っておいた方がいい味だ」
そっとスキットルを放ると
ガキはよろけながらも受け取って…あ、栓が開けられないでやんの
「ほれ、貸してみな?…と」
力を入れて栓を開けると
ガキの表情が露骨に明るくなる
「ほら、飲んでみろ」
「ん、いただきます」
軽く一口…あぁ、全くか
「うげぇ…苦ぁ…辛い…」
「そりゃあそうだろうさ
そいつぁガキにはまだ早いんだよ
苦く感じるうちは、まだそれは飲んじゃ行けねぇんだ」
しかめっ面になったガキからスキットルを取り上げて、軽く笑う
「おじさん、なんかちょうだい
口の中へんな味でいっぱい」
「…あのなぁ、自分で選んだ事だろ…まぁいい、ここなら水はあるしな」
あの故郷の砂漠なら
水は貴重なものだった
ここは海と森と山と川
およそ望み得る地形全部が揃った場所だ
あとねぇのは雪くらいか?
「ほれ、こいつをやろう
お前の選択と交渉の成果だ」
出された手のひらに、ぽと
と落としたのは油紙に包まれた
食用の緩いゴム塊に
たしか名前はメンソールガム
「これはちょっと辛いが、気分を変えるにはちょうどいいだろうよ」
声をかけながら背を向ける
…おっと、魚一匹掛かってらぁ
「…チッ…小魚かよ、シケてんなぁ」
針を外して、元の海面に放り込む
小魚はデカくなるまで放っておく
それが釣り師のマナーって奴だ
「デカくなったらまた釣られに来いよ」
ここ最近はチビばっかりだ
デカイのは大半取られちまってるらしい
だが、何に?
…いや、漁業屋が根こそぎにしているのか
「さて、ガキ」
「なに?…ていうかガキじゃない!」
「良いんだよガキで、お前はガキなんだからよ」
そっとガキの頭を小突いて
立ち上がる
今日はこれ以上の釣果は望めないだろう
一旦帰って、それからセットを考える
なぁに、引退冒険者様は金がある
生活には十分な量は揃ってるんだぜ
「んじゃあな、ガキは帰って親の手伝いでもしてな」
追いかけてくるガキを撒いて
俺は釣り場を後にした
翌日の朝、日がな一日することもない俺は、とりあえず習慣通りに
冒険者ギルドに顔を出して
スキットルに酒を補充する
「よう、爺さんや」
「おうガキンチョ、なんだ?」
酒場のオヤジとは古い馴染みだ
こんな鍔迫り合い程度なら流してくれる
もちろん、酒にな
「さて、今日もかい?」
「あぁ、
「あいよ、銀貨8枚だ」
上物、これは特に良い品を意味するが
ブランデー、リキュール、スピリタスなんかの蒸留酒については少し違う
ビールやワイン、清酒は醸造酒
それを蒸留して精製するのが蒸留酒
そして、蒸留器は瓢箪のような形状の瓶がついた塔型の装置で、それには
段差が付いている
これが高い段であればあるほど
酒精の度が強くなる
この上中下の段をそれぞれ『上物』『中物』『下物』と称するのだ
オヤジは上物を銀貨10枚
中物を8枚、下物を5枚で売るが
故あって以来、俺には一つ下の値段で売ってくれる
「あいよ、ありがとさん」
「安定収入ってのはありがたいもんだねぇ」
「全くだね」
軽口を叩きながらスキットルを受け取り
酒場の隅に陣取る
現役時代から変わらない、古い席だ
「はぁ………」
ギシリと軋みながら
それでもしっかりとした椅子は
かつての光景を現在に伝える数少ないメモリアルでもある
「さて、しばらくはゆっくりするかねぇ」
現役時代と同じ空気
同じ匂い、そして同じ装備
すでに習慣となって久しいその感覚は、やはり気分を研ぎ澄ましてくれる
「よし」
目を閉じて、かつてを思い起こす
かつて、共に戦った友を
そして、かつて倒した敵を
もう昼過ぎになってしまったな
これは堪らない
「オヤジ、シラット鳥の唐揚げと
ベーコンと報連草のソテー、
「お前さんは昔っからそればっかりだな、たまにはこっちのVボーンステーキとか食べんのか?」
「そいつぁ引退冒険者の胃袋にゃ収まらねえ代物だなぁ…わかったよ
んじゃあ唐揚げはキャンセル
そっちの白羊のロース、付け合わせは要らない、ドリンクは…炭酸水で」
「あいよ、んじゃあ白羊ロース肉焼とベーコンと報連草のソテー、コーンポテトポタージュだな?炭酸水は出してやるから待ってな
それぞれ
銀貨3枚、銅貨8枚、銅貨6枚、銅貨2枚だ」
「銀貨4と銅貨6でいいか?」
「おう」
オヤジは手際がいい
一階一つで20人入れる店なのに
一人で回しているあたりが流石か
「……見てるだけで腹が減ってくるぜ」
こりゃあ本格的に財布の紐を締めなきゃダメだな
なんて、考えていたその時だった
「おうおうおう!良い匂いじゃねえか!」
反対側の隅で飲んだくれていたらしい
無駄に体格の良い…悪く言えば太った連中が立ち上がる
「そいつぁこの帝国兵様に譲りな!」
「そうそう、旨そうな肉だ
俺達が食うに相応しい」
「…全く」
辺境の国であるここにも
帝国の兵士が来ていたとはな
「おい、お前さんら」
そっと立ち上がり、声をかける
「あ?なんだよジジイ
俺らは帝国の一員だぞ、帝国に楯突く気か?」
「大人しく下がった方が身のためだぜ」
「それともお前が支払いしてくれんのか?」
ギャハハハ、と品のない笑い声を上げる兵士達、その姿を内心で笑いながら
穏やかに声を出す
「ここは酒場なんだけどな?
この町唯一の…ゴロツキの溜まり場でもあるんだ、アンタらこそ
大人しく下がった方が身のためだぜ?」
牙を剥くように笑うと
赤ら顔の兵士が露骨に機嫌を悪くする
「んだよ邪魔すんなクソが!」
「表出んのかオラァッ!」
「………はぁ…」
ため息を一つ、吐く
「オヤジ、すまんが
ポケットに突っ込んでいた
右手を開いて、上げる
その瞬間、剣が抜かれた
帝国兵の剣が
黒革のロングコートを貫く
筈だった
「甘えよ…バカ共が」
剣は抜かれた、しかし
それが振るわれるより早く
空中から突然降ってきた3本の剣が、兵士達の腕をテーブルに縫い止めていたのだ
「…オヤジ、
「タダにしといてやる」
テーブルに突き立った剣を蹴り飛ばし、ドアごと帝国兵を放り出す
そして、
「お前ら、なにボサッと見てんだ?」
声を上げる
それは反逆の嚆矢、
俺の飯は譲らねえという絶対的な意志
たとえ帝国に反逆してでも、俺はこの旨い飯を食う、そういって見せたのだ
それに、燃えない奴が居るだろうか?
居るとしたら…そいつはゴロツキになんかならねぇな?
「やった…メテノールさんが
俺たちのオジさんがやったんだ!」
「俺だってえっ!」
「やってやろうじゃねぇか!」
先ほどまではちびちびとエールを飲んでいたような輩達が、次々に立ち上がる
「さぁて…バレなきゃ犯罪じゃねえ
バレないように、やれ」
《うぉぉぉっ!》
どうも帝国はどこでもやり過ぎる癖があるみたいだな、予想以上の盛り上がりだ
「さて…オヤジ、炭酸水くれや」
「……お前は変わらんなぁ…」