まどマギ見たことねえんだけど、どうやら俺は主人公らしい   作:東頭鎖国

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12話

 俺たちはマミ先輩の家で、テーブルを挟んで向かい合わせに座っていた。

 マミ先輩は『少しでも落ち着けるように』と言ってハーブティーを淹れてくれて、いい匂いのアロマまで焚いてくれていた。おまけに、邪魔にならないように少し離れたところの椅子で話を聞いてくれていた。もう本当に、先輩の気遣いには頭が上がらない。

 そんなマミ先輩の尽力もあって、俺とさやちゃんはなんとか話が出来る状態まで持ち直していた。

 

「単刀直入に聞くんだけどさ、さやちゃんはジョーのことどう思ってるの?」

 

「あたしが、恭介のこと……」

 

 さやちゃんは黙りこくってしまう。やはり、まだハッキリ言葉にして言うのは恥ずかしいらしい。でも大事な質問だ。恋心を自覚しているのかしていないのかで変わってくるから。

 

「まあ大体わかってるから、素直に答えてくれ。さやちゃん自身の口から聞きたいから」

 

「あたしは……あたしは、恭介のことが好き。一つのことにひたむきに頑張る姿が眩しいと思ったし、だから恭介の奏でるバイオリンの音も好き。繊細なところも好きだし、それでいて実は根性あるところも好き。あとは──」

 

「オッケー、よくわかった。要するにジョーの事は好きなんだな、恋愛対象として」

 

「……うん」

 

 このままだと結構長いこと続きそうなので、俺はさやちゃんの言葉を遮るようにして話を進める。でもこれなあ……やっぱ言いづれえんだよな~……でも仕方ない、ここまで来たなら言っちゃわないとダメだ。

 

「実は俺さ……小学校の頃告白されたことがあるんだ。ジョーに」

 

「え、えぇっ!?」

 

「鹿目さんが、男の人に!?」

 

 さやちゃんが目を白黒させる。マミ先輩もガタッと立ち上がる。驚きすぎな気もするけど……確かに恋愛関係の話とか全然しないしそういうイメージないっぽいからな、俺。

 

「まあ、そういう反応になるよな。あれは6年生の頃だっけ。俺特設合奏部やってたじゃん? んでジョーもバイオリンで特設合奏部に入ってたんだよ。ちなみに俺は大太鼓。練習が夕方まで続くことも結構あったんで特設の活動期間中は二人で帰る時も多くてさ。その時に告白された」

 

「こ、告白された、って……そんな、サラッと……でも、恭介はなんでアンタに告白を?」

 

「俺も告白された時に同じこと聞いた。俺らちっちゃい頃はよく四人で遊んでたじゃん。さやちゃん、とみちゃん、ジョー、あと俺で」

 

「うん」

 

 ・・・・・・

 

 ──上条恭介

 

 まどかは、僕にとって眩しい存在だった。

 小さな頃、公園で遊びの輪に入れなかった僕のことを、

 

『なあ、お前も見てないで一緒に遊ぼうぜ!』

 

 といって半ば無理矢理に鬼ごっこに混ぜてくれた。

 全力で走って転んで、泥まみれになって遊んだのはあの時が初めてだった。

 膝を擦りむいて泣きそうになっていた僕にすっと手を差し伸べて、

 

『お前、やるじゃん! さっきの全力疾走、ガッツあったぜ、ジョー!』

 

『……ジョー?』

 

『ああ、上条だからジョー。いいだろ?』

 

 まどかはニカっと笑いながらそう言った。あだ名で呼ばれるなんて初めてのことだった、嬉しかった。あの時のことをキッカケに、僕にも何人か友達ができた。さやかなんて、その代表だ。すごくいい友達だと思っている。まどかがいなければ、さやかと出会うこともなかった。

 

 まどかがいなければ、ぼくの世界はもっと狭いものになっていたと思う。家とバイオリン教室と、コンサート会場。それを行き来するだけの生活になっていたかもしれない。学校を楽しいと思えるようになったのも、合奏部に入って、一人じゃなくてみんなで音楽をしようと思えたのも全部、まどかがいたからだ。

 僕にとって、彼女は太陽みたいな存在だった。だから──

 

「キミのことが好きだ、まどか」

 

 ・・・・・・

 

「……とまあ、そんな感じのことを言われた」

 

「何よ、それ……あたし、勝ち目ないじゃん……」

 

「でもちゃんとキッパリ断ったぞ。お前のことは好ましく思ってるけど、だけど恋愛対象として見ることは出来ないって。さやちゃんがジョーのこと好きっぽいって知ってたのが理由の一つ。あともう一つあって、それが今まで秘密にしてたことなんだけどさ。俺……男のことを恋愛対象として見れないんだ。普通に喋ったりする分には別にいいんだけど、キスしたりとか、更に上のことをすることを想像すると……やっぱ生理的嫌悪感がある。サブイボ立っちゃう」

 

 それが俺の秘密の一つだった。これは今まで、両親を除けばジョーにしか言っていないことだった。俺に直接告白してきた気概に応えるために、これはハッキリと言っておくべきだと思ったからだ。

 やはり俺の中には男として生きていた時の価値観が残っているのもあって、とてもじゃないけど男と恋愛する気にはなれなかった。

 

「それって、同性愛者……ってこと? あんたが美人好きだったのって、そういうこと?」

 

「んー、そういう単純な問題でもないんだよな。別に女の人に欲情するわけでもないし……」

 

「よ、欲情って……」

 

 マミ先輩がなぜか顔を赤くしている。先輩、こういう話弱いのかな。

 俺にとっちゃ男として生きてきた価値観も残ってるけど、女として14年生きてきたっていう事実も心のなかに脈々と流れているのだ。

 いちいち意識してたら体育の着替えもろくに出来ないし、銭湯なんて一生行けない。

 俺はどっちでもあるし、どっちでもないって感じだ。強いて言えば、男と触れ合うのは抵抗あるけど女の子だったらそんな抵抗ない、ってくらいか。あとイケメンよりも美女の方が見てて目の保養になるくらい。

 

「まあそういうわけで、告白には応えらんないからこれからも友達でなって感じでお開きになった。その後すぐコンクールがあって、特設の活動期間も終わったから二人で帰る機会もなくなってさ。結局そのまま気まずくって疎遠なまんま」

 

「そうだったんだ……そりゃ、恭介もまどかに会いたがるわけだよ。あたし何にもわかってなかった……あはは、ははっ……」

 

 さやちゃんが乾いた笑いを浮かべる。一度は収まったはずのさやちゃんの涙が、また溢れそうになっていた。

 でも、さやちゃんは何にも悪くない。こんなこと、言わなきゃ通じない。言わない俺たちが悪かったのは明白なのだ。

 

「ごめん、今まで黙ってて。さやちゃんに辛い思いさせちゃって」

 

「……ううん、いいの。なんとなく納得いったから。バカなのはあたしだった。恭介の気持ちなんてなんにも知らないで、あたし……」

 

「言ってないことなんてわかんなくて当たり前だよ、伝えたいことって言葉にしないと伝わんないもの。だから俺も言いたいことは言っておきたいし、今回みたいな隠し事もあんまりしたくないんだ」

 

 ただでさえ、俺には前世の件があるしな。といっても、隠すつもりもそんなに無い。話すタイミングもないし、言う必要性もそんなに感じてないから言わないだけで。前世が何でも俺は俺だし。

 それに、仮に前世のことを言っても案外みんな受け入れてくれるって思ってるからだ。元々俺は女っぽい仕草全然しないし、俺の周りみんないい人だし。わりとみんな納得してくれると思ってる。

 

「言葉にしないと伝わらない、か……ほんと、その通りだよね。ありがと、まどか。なんかスッキリしたわ。マミさんも、ありがとうございます。色々気遣ってもらっちゃって」

 

「いいえ、二人が仲直りできたみたいで良かったわ。それより……いい時間になっちゃったわね」

 

 時計を見ると、既に10時を回っていた。

 

「げっ……お母ちゃん、心配してるかも。急いで帰んなきゃ! マミ先輩、今日はありがと! さやちゃん、一緒に帰ろう!」

 

「うん。それじゃあマミさん、また明日!」

 

 ・・・・・・

 

 ──巴マミ

 

「……言葉にしないと伝わらない、か。私も……」

 

 仲良く家に帰る二人の背中を見送り、家の鍵を閉めた後……静かになった家の中で、独りごちる。

 本当はあの時『二人とも、よかったら泊まっていかない?』って言いたかった。でも、言えなかった。勇気が出なくて。断られたらどうしようって、一歩踏み出すのが怖くて。

 鹿目さんも美樹さんも私の情けないところを見て、その上で私のことを受け入れてくれているのに、まだ『いい先輩』を演じたい自分が邪魔をして、ワガママを言えなくて。

 

「……あの時もワガママを言ってたら、少し違ったのかしら」

 

 忘れもしない、大切な後輩……佐倉杏子さん。

 彼女と別れてしまった時。あの時『寂しいから行かないで』って、恥も外聞も、自分のポリシーも全て捨ててそう言ってたら、あなたはなんて言うのかしら。側にいてくれたのかな。それとも……やっぱり、幻滅されちゃったのかな。

 

「……寂しいな」

 

 枕を抱きしめながら、呟いた。

 キュゥべえもあの日以来、結局一度も姿を見せてくれていない。友達だって思っていたのは、私だけだったのかな。魔女を倒せない私には、もう用はないのかな。

 

「パパ、ママ……」

 

 ──この家は、独りで暮らすには広すぎるよ。

 

 

 ・・・・・・

 

「──それで、マミがダメになったってのは本当なのかい?」

 

「ああ、確かだ。かろうじて死は免れたけど、恐怖に囚われた巴マミはそれ以降、一度も魔法少女として戦っていない」

 

「それじゃ、見滝原はフリーになったってわけだ」

 

「いや、残念だけど既に暁美ほむらという魔法少女がいる。今、マミを除いて見滝原にいる魔法少女は彼女だけだ。実質的に見滝原を縄張りにしていると言っても過言ではないだろう」

 

「へぇ……気に食わないね。知らないやつがあの土地を縄張りにしてるってのは」

 

「行くのかい?」

 

「当然。マミが魔法少女として戦えなくなったんなら、アタシが遠慮する理由もないだろ? その暁美ほむらとかってやつをブッ潰して……あたしが見滝原をもらうよ」

 

「彼女は僕が契約した覚えのないイレギュラーだ、くれぐれも気をつけてくれ。()()()()

 


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