まどマギ見たことねえんだけど、どうやら俺は主人公らしい   作:東頭鎖国

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16話

「んー」

 

 結局あの後、ほむちゃんと一緒にお昼ごはんを食べに行った後で俺は家に帰っていた。

 流石に家に帰らなさすぎたので一度帰宅したかったのと、お母ちゃんに相談したいことがあったからだ。

 

「ねえ、お母ちゃん。聞いてほしい話があるんだよ。悩んでることがあるんだけど、一人じゃ解決できそうにないから」

 

「あんたが悩みなんて、珍しいね。何があったんだい?」

 

「あのさ、昨日ゲーセンで友達になったヤツがいるんだけどさ。そいつ年は俺と同じくらいなんだけど……そいつ、常習的にお金を盗んでたんだよ。それって、良くないことじゃん。でもそいつ身寄りもなくて、家もなくて……そうしなきゃ生きていけないやつだったんだよ。だから俺、何も言えなくって……でも、そいついいヤツだからそんなことしてほしくなくて……」

 

 杏子のことだ。こればっかりは、俺一人の頭じゃどうすることも出来ない。

 だから、ハッキリと自分の意見を持っている大人であるお母ちゃんの意見を参考にしたかった。

 

「その友達、養護施設とかには駆け込まなかったのか?」

 

「うん。大人は信用できないし、自由を奪われるのがイヤだって言ってた」

 

「なんで大人を信用できないかとかって聞いてるか?」

 

「いや、そこまでは聞いてないや」

 

「そうか……そいつは、難しいな」

 

 お母ちゃんは考え込む様子を見せる。いたって真剣な表情だった。

 俺が突然こんな相談をしても笑ったり困ったりせずに、一緒に本気で考えてくれる。

 だからこそ、いつも頼りにしている。

 

「苦しい環境だってのに誰にも頼らず一人で生活してるってことは、よっぽど他人を信用してないってことだからね……そんなやつを施設に押し込めたって、かえって逆効果かもしれねーな。なんたって集団生活するトコだ、警戒心丸出しで過ごしてちゃいい人間関係も築けねえし、居づらくなるのは目に見えてる。だからまずは、本人の意識からちょっとずつ変えてくしかねーだろうな」

 

「意識かぁ……でも、どうすりゃいいんだろ」

 

「友達ってことは、アンタには多少心を開いてるんだろ? だったら説得を続けるのが唯一の手段だけど……難しいだろうね。何かしらのキッカケがあればいいんだけど」

 

 うーん、と二人で思い悩んでいるところに、と湯気の出たマグカップが2つ置かれる。

 お父ちゃんが気を利かせてコーヒーを淹れてくれたのだ。

 

「お、ありがとうお父ちゃん!」

 

「煮詰まっているみたいだね。こういう時は一旦休憩してリセットしてみたらどうかな? リラックスしている時のほうが良い答えが出るはずだよ」

 

「おいし~」

 

 お父ちゃんの淹れてくれるコーヒーはとても美味い。

 ドリップコーヒーとかコンビニのコーヒーとかとはわけが違う。

 なんたって豆から淹れてるのだ、香りが違う。詳しい名前は忘れたけど、なんかガチもんのコーヒーマシーン使ってるし。お母ちゃんも大概スゴい人だけど、お父ちゃんも凄いと思う。QOLの向上に余念がない。

 

「ぱぱー、ぱぱ~」

 

「いけない、タツヤが呼んでる。それじゃあ、僕はこれで」

 

 そう言ってお父ちゃんはタッくんのところに行く。

 俺はコーヒーをすすりながら一息つく。ああ~、うめえ。

 やはり、美味しいものを味わっている時は幸せだ。生きてるって実感を得られるし、笑顔になれる。

 そういや杏子もオヤツ食べるの好きだったっけな。でもあの様子だと食生活荒れてそうだな、あいつ。人の手料理とか、随分食べてないんじゃあ……あっ! 

 

「ひらめいたぁっ!! お母ちゃん、相談乗ってくれてありがとう!」

 

「おぉう、突然だね。どこ行くんだい?」

 

「マミ先輩んとこ!」

 

「まったく、忙しない子だね……行ってらっしゃい」

 

「行ってきま~す!」

 

 ・・・・・・

 

「……というわけで、先輩の家に遊びに来たわけですよ」

 

「突然連絡が来た時はビックリしたわよ、鹿目さん。『マミ先輩の力を借りたいんですけど、今日空いてますよね?』って。そのあとすぐ家に来るし」

 

「いやー、昨日買い物行ってたみたいだし、魔女退治もお休みしてるんだったら今日フリーかなって思って。もしかして迷惑でした?」

 

「いえ、鹿目さんの言う通り退屈していたところだから丁度よかったわ。それで、力を借りたいって言うのは?」

 

「それはですね……」

 

 かくかくしかじか、と俺は事情を話した。

 昨日ゲーセンで知り合った魔法少女の友達がいること、そいつが生きるために犯罪に手を染めていること、だから俺がしてやりたいこと。それは──

 

「お弁当を作ってあげてほしい? それはまた、変わったお願いね……」

 

「最初はお父ちゃんに頼もうと思ったんだけど、あいつ大人のこと信用してないから、もしかしたら食べてくれないかもしれないし、俺は食べるのは得意だけど作るのはできないし……っていうと、マミ先輩がいちばん頼れるかなって。一人暮らしで料理上手そうだし」

 

「お弁当、ねえ……何を作ろうかしら。その子の好物なんかが分かれば作りやすいのだけれど」

 

「料理じゃないけど、オヤツ好きでしたねあいつ。ずっとオヤツ食ってました」

 

 マミ先輩はそれを聞いて、なぜかハッとしたような表情を浮かべる。

 なにか引っかかる部分でもあったのかな? 

 

「鹿目さん、あなたは……その子とゲームセンターで知り合ったって言っていたわね」

 

「え、うん。そうですけど……」

 

「その子ってもしかして、赤髪の子……?」

 

「え!? よくわかりましたね先輩。もしかして杏子の知り合いだった?」

 

 マミ先輩は驚愕の表情を浮かべる。

 やっぱり、杏子とはなんらかの関係があるらしい。

 

「やっぱり、佐倉さんなのね……あの子、見滝原に来ていたんだ」

 

「ちなみに参考までに聞きたいんスけど……どんな関係だったの?」

 

「師匠と弟子、だったわ。最初は仲が良かったんだけど、ケンカしちゃって……それ以来、会ってないの」

 

 マミ先輩は寂しそうに笑う。先輩がたまに見せる寂しそうな表情の理由が、わかった気がした。杏子と仲が良かったけど、会えなくなっちゃったから寂しいのかもしれない。周りに友達が増えても、仲が良かった友達と会えなくなる寂しさを感じないかと言われたら嘘だ。俺にも経験があるからわかる。

 心にぽっかり空いた穴は、埋めて浅くすることは出来るけど消すことはなかなか難しいのだ。

 

「マミ先輩、せっかくの機会だから一緒に行きましょうよ、杏子に会いに行こう」

 

「でも……私、どんな顔して会ったらいいか……」

 

「よっ、久しぶり! くらいでいいでしょ。どんな内容でケンカしたかは知らないけど、見たとこマミ先輩は杏子のこと嫌いじゃないんでしょ? だったら多分大丈夫だよ。杏子もマミ先輩のこと嫌ってないって!」

 

「り、理屈が滅茶苦茶なんだけど!?」

 

「だってマミ先輩いい人だから、誰かに憎まれるとこなんて想像できないし。それに!」

 

 俺はずいっと距離を近づける。ここからが大事なところだ。

 

「大事なのはマミ先輩が仲直りしたいかしたくないかでしょ。先輩、どっち?」

 

 俺は仲直りしてほしい。友達と友達が仲悪くしてるのイヤだ。仲良くしてるほうがいい。

 でも、最終的には先輩の意志だ。仲直りしたくないっていうんなら、無理強いはできない。

 

「私は……難しいわ。理由が理由だったから。鹿目さん、私のお話……聞いてくれる?」

 

「もちろん」

 

 マミ先輩はぽつりぽつりと自分の話をしてくれた。

 かつて杏子とコンビを組んで一緒に戦っていたこと。はじめはマミ先輩と一緒に人のために戦う正義の魔法少女を名乗っていたけど、杏子自身の願いが原因で杏子の家族が無理心中してしまったことを。それをキッカケに、杏子がやさぐれてしまったこと。

 

 他人のための願いなんて、一つもいい結果を生み出さない。自分の魔法は、徹頭徹尾自分のためだけに使う。そのためなら、他の誰かが犠牲になっても構わない。そういった思想を掲げるようになったこと。

 

 それはマミ先輩にとって看過できない思想だった。マミ先輩は自分がどうなろうと、頑張って人のことを救おうとして戦っていた人だから。そのうち二人の関係はどんどん険悪になっていって……最後には喧嘩別れをしたらしい。杏子は見滝原から出て風見野に行き、それ以降マミ先輩の元に姿を表すことはなかった。

 

「見滝原に戻ってきたのは、おそらく私が今戦えないことをどこかで聞きつけたんでしょうね。それをチャンスと見て、見滝原を縄張りにしに来たんだと思うわ。見滝原には、私以外の魔法少女はいなかったから」

 

「でも、今はほむちゃんがいるじゃないスか」

 

「そうね、それが問題だわ。暁美さんと佐倉さんが遭遇してしまったら、おそらく戦闘になる。佐倉さんは強いわ。おそらくお互いに怪我じゃ済まない」

 

 ほむちゃんと杏子が、喧嘩する。お互いに傷つけ合う。その光景を想像するだけで、胸がキュッとなった。

 

「……イヤだな、そういうの。みんな仲良くできればいいのに」

 

「そうね……でも、佐倉さんは変わってしまった。今は私欲でのみ動く人になっているはずよ。だから仲直りできるかどうか分からない」

 

 それは俺にとって聞き捨てならない言葉だった。杏子はそんな利己的で冷血なやつではなかった。実際、俺はあいつに何かと世話を焼いてもらった。

 

「……杏子は変わってないよ。だって俺が疲れて倒れたら肩貸してくれたし、オヤツも分けてくれた。人のために何かをしてやれる人間なんだよ、あいつ。根っこはきっとマミ先輩が好きだった頃の杏子のままだよ!」

 

 マミ先輩はハッとした表情で、目を丸くしていた。俺がそんなことを言うとは思ってなかったんだと思う。

 でも、すぐに笑顔になってこう言ってくれた。

 

「ありがとう、鹿目さん。私……怖かったんだと思う。佐倉さんにもう一度拒絶されるのが。幻滅されるのが。でも……勇気を出さなきゃダメよね」

 

「それって、もしかして……!」

 

「お弁当のメニューで迷う必要はなくなったわ。とびっきり美味しいの、腕によりをかけて作ってあげないとね!」

 

「さっすがマミ先輩、そうこなくっちゃ! 俺に手伝える事があれば言ってくださいね! 料理はできないけど、料理以外のことはなんでもやりますよ!」

 

「ふふっ、ありがとう。それじゃあ早速、お買い物に行ってほしいの。私は普段食べないから昨日買ってきてないんだけど、佐倉さんの好物があって──」

 

 やっぱり……マミ先輩に頼んで正解だった。料理が上手い人は数いれど、杏子に対する愛情を込めた料理が作れるのは、俺の知る限りマミ先輩しかいないだろうから。

 待ってろよ杏子。心があったまるような、マミ先輩謹製の美味いもん食わせてやるからな!


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