まどマギ見たことねえんだけど、どうやら俺は主人公らしい   作:東頭鎖国

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18話

 ──美樹さやか

 

 今日は休日だ。ここ最近密度の濃い生活を送っていたからか、やけに久しぶりに感じられる。

 よほど疲れが溜まっていたのか、起きたのはお昼過ぎだった。

 

「やべっ、寝過ごした……」

 

 とはいえ、別に用事もない。今日は両親もいないので、咎める人もいない。

 手早く顔洗って歯磨いて着替えると、親がテーブルに置いていってくれた食事代を財布に入れて家を出た。

 

「さーて、どこ行きますかね」

 

 街に繰り出し、とりあえずショッピングモールに足を向ける。

 ここならお店もいっぱいあるし、選択肢には困らない。

 うーん、外食もいいけど、ここはパンで安く済ませてお昼代をお小遣いとして着服するってのもアリかな。よしっ、そうしよう! 

 そんなことを考えながら食料品売り場に行くと、意外な顔を見かけた。転校生……暁美ほむらだ。

 どのコーナーに行くでもなく、食料品売り場のド真ん中でキョロキョロしていた。

 

「おーい、転校生!」

 

 あたしが声をかけると、転校生は嫌そうな顔で振り向いた。確かに特別親しくないけど、何もそんな顔しなくても……。

 

「なんであなたがここにいるの、美樹さやか……」

 

「あたしはお昼ごはんを買いに。アンタは?」

 

「……食べ物を買いに来たの」

 

「いやそりゃ分かるよ、食料品売り場にいるんだもの。何を買いに来たの?」

 

「わからないわ……」

 

「え、それって……自分が何を買いにココに来たかわからないってこと!?」

 

 転校生は苦々しい顔で首を縦に振る。

 えぇ、そんなことある……? 

 

「昨日、まどかがうちに泊まったの」

 

「そうなんだ。そういやアンタ、まどかと親しかったね」

 

「それで今朝、まどかがお腹空いたっていうからカロリーブロックを渡したの。私の家、それくらいしかないから。そうしたらまどかは一瞬で食べちゃって。美味しいって言って笑顔を見せてはくれたけど、明らかに足りなさそうな顔をしていたわ……眉が下がっていたもの……」

 

「まあまどかのやつ、めちゃくちゃ食うからね……それで次まどかが泊まってもいいように食べ物を買い込んでいくっていうわけ?」

 

「それもあるわ……でも……」

 

 なんだか妙に歯切れが悪い。転校生ってもっと、ビシッ! バサッ! とハッキリ物を言うイメージがあったんだけど。

 

「……よければ、相談に乗ってくれるかしら。あまり親しくないのは承知だけれど、今頼れるのはあなたしかいないわ。必ず礼はする」

 

「まあ別にいいけどさ、丁度ヒマだし……それで、一体なにを困ってるわけ?」

 

「……まどかに、お料理を作ってあげたいの」

 

「料理って、あんたが?」

 

「ええ。やっぱり変かしら……?」

 

 さっきから、今日の転校生はやたら弱気というか、おどおどしているように見えた。

 もしかしてマミさんみたいに魔法少女の時にすごく気を張っていて、素のキャラはこんな感じだったりするんだろうか。

 なんだ、結構可愛いところあるじゃん。

 

「いや、変じゃないよ! よーし、この美樹さやかちゃんがバッチリ面倒見てやりますからね!」

 

「少し不安だけれど……頼んだわ、美樹さやか」

 

「せっかくだから、その『美樹さやか』ってのやめない? なんかすごい他人行儀だし。あたしもこれからアンタのこと転校生じゃなくてほむらって呼ぶからさ」

 

「……構わないわ、美樹さん。それじゃあ早速、まどかの好きな食べ物から教えてもらおうかしら」

 

「あいつマジでなんでも美味しく食べるからアンタの好きなのでいいと思うよ。とりあえず、色々見て回ろっか」

 

 ・・・・・・

 

 

 それからしばらくほむらに付いて買い物をしていたが、ほむらは予想以上に料理について知らなかった。魔法少女の時はあんなにキリッとしていたのに、あまりのギャップに困惑しきりだった。

 

『ほむら……米をカゴに入れるのはまだわかるよ。でも、なんで洗剤まで一緒に入れたの?』

 

『米は炊く前に洗う必要があるのでしょう? それくらい知っているわ』

 

『水で洗うんだよ! 洗剤なんてかけたら食べられなくなっちゃうでしょ!!』

 

『い、言われてみればその通りね……』

 

 ・・・・・・

 

 

『そういやアンタの家、調理器具ってあるの?』

 

『電子レンジがあるわ』

 

『……他には?』

 

『……電気ケトルがあるわ』

 

『……』

 

『……ごめんなさい、調理器具のことを失念していたわ』

 

『そりゃ普段料理しないんだったら家にないわな……そっちも買いに行かなきゃだね。ここがショッピングモールでホントに良かったわ……』

 

 ・・・・・・

 

 そんな調子で、買い物を終えた頃には既に夕方になっていた。

 ほむらはすっかり疲労というか意気消沈というか、とにかく魂が抜けたような表情になってしまっていた。

 あたしは結局お昼ご飯食いそびれた……お腹空いた。

 

「本当に何から何まで世話をかけて……ごめんなさい、美樹さん」

 

「別に謝らなくていいよ、こうなったら最後までとことん付き合ってやるから……料理作ったことないんでしょ? 上手く出来るようになるまでちゃんと見といてあげるよ」

 

「そんな……悪いわ。ここからは私一人の力でやるから、あなたは帰ってもらって構わない」

 

「いーから頼りなって。あんた、どうにも危なっかしくて放っておけないんだよね。そういうところはまどかと似た者同士かも。まぁ、まどかは自分で出来ないことは必ず他人にやってもらおうとするからそういうところは真逆だけどね!」

 

 あたしがそう言ってやるとほむらはため息を吐き、観念した様子で

 

「好きにしてちょうだい……」

 

 と言った。お言葉に甘えてほむらを徹底的にコーチしてやることにしよう。

 ここまで来たら、中途半端で投げ出したくない。

 

 ・・・・・・

 

 ──暁美ほむら

 

 美樹さんの指導の元、わたしはキッチンに立っていた。包丁のなんと手に馴染まないことか。

 でも、これもまどかのため。なんとしても料理を習得してみせる! 

 

「ほむら、まずはこの人参を切ってみようか」

 

「わ、わかったわ……えいっ!」

 

 私は気合を入れて両手で包丁を握り、思い切り振り下ろす。

 一太刀で人参を一刀両断……したのはいいが、切った時の勢いで両断された人参は吹き飛び、転がりながら床へ落ちてしまった。

 

「あー、包丁で切る時はちゃんと食材を押さえながら切らなきゃいけないんだよ。ほら、こういう風に左手で支えて包丁で切れば吹っ飛んだりしないでしょ? あ、その時は自分の指切っちゃわないように左手は猫の手にしてね。こんなふうに」

 

「なるほど……」

 

 意外にも美樹さんの指導は分かりやすく、私は少しずつ料理のやり方を覚えていった。

 ……当然、失敗も沢山したけど。そのたびに美樹さんが同じ失敗をしないように懇切丁寧にアドバイスしてくれた。

 そうして、ついに……ついに! 

 

「……か、完成したのね?」

 

「そのはずだよ。あとは味見して、問題さえなければ……」

 

 鍋の中のものを皿によそって……一口。

 ……おいしい。ぴりっとした辛味に加え、確かな旨味がある。

 成功だ! 苦節三時間、ついにまともなカレーを作ることに成功した! 

 

「やった! やったわ、美樹さん!」

 

「すごいよほむら! 今日一日でちゃんとした料理作れるようになったじゃん!!」

 

「いえ……ほとんど美樹さんに手伝って貰ったから、まだまだよ」

 

「ううん、立派だよ。これならまどかにも美味しいもん作って上げられるね!」

 

 美樹さんはまるで自分のことのように喜んでくれている。

 ……私は正直、彼女のことが苦手だった。元々、今までのループでも反りが合わない時間軸のほうが多かったし、彼女を見殺しにしたり私自身が引導を渡したりしたケースも少なくなかったので後ろめたさもあった。感情的で浅慮な人。今までずっとそんなイメージを引きずっていた。

 でも……この間の件で考えを改めた。まどかと同じで、この時間軸の美樹さやかは替えのきかない、世界で唯一の存在だ。他の美樹さやかを重ねて見るのは失礼にあたる、と感じた。

 だから彼女が話しかけてきた時、意を決して頼ってみた。

 それは結論から言うと正解で、彼女はすごく面倒見が良くて優しい人だった。

 幼い頃からあのまどかとずっと友達付き合いしているのも、面倒見がいい一因かもしれない。

 今までの私は、そういったパーソナルの違いに目を向けてこなかった。

『美樹さやか』という先入観だけで、私は目の前にいる人間を見誤っていたのだ。

 

「美樹さん。今日は本当にありがとう」

 

「いーよ、あたしがやりたくてやっただけなんだからさ」

 

「それにしても美樹さん、料理に詳しいのね。意外だったわ」

 

「ん? ああ。実は好きだった男子がいてさ……そいつのことビックリさせてやろーって思ってこっそり練習してたんだよ。まあ、昨日フられちゃったんだけどね」

 

「それは……ごめんなさい、なんて言ったらいいか」

 

 フラれた? 美樹さんが、上条恭介に? パッと見はずっと普通だったし、全然そんな風に思えなかった。

 今までの美樹さやかは恋愛事情が上手くいかない時は必ず精神不安定になって、そのまま破滅の道を辿っていたのに、この美樹さんにはそういった様子は見られない。今日だってずっと明るかったし、無理しているような様子もなかった。

 

「あ、ごめんごめん、そんな事言われても反応に困るよね。あたし的にはもう終わったことだから、あんまり深く考えないでくれると助かるかな。それより、もうすっかり夜じゃん。あたしお腹ペコペコだよ。はやく二人でカレー食べよ!」

 

「……ええ、そうね……その、美樹さん。大事な話があるのだけれど」

 

「ん?」

 

「一ヶ月後に、ワルプルギスの夜……最強最悪の魔女が来るわ。今までの魔女とは違って、見滝原をまるごと滅ぼしかねない魔女よ。私も全力で戦うけど、もしもの時があるわ。その時はまどかを連れて逃げて」

 

「……なに、それ」

 

 美樹さんの表情が変わる。楽しそうな笑顔から、一転して真剣な表情に。どこか怒っているようにも見えた。

 

「ごめんなさい、今まで黙っていて。あなたは魔法少女ではないし、知ったところで何かが出来るわけではないから言うつもりはなかったのだけれど……わかった? 逃げるのよ」

 

「……いやだ」

 

「何故? あなたに出来ることは何もないのよ!」

 

「それでも! 友達一人戦わせて自分だけ逃げるなんて出来ないっての!」

 

「戦うのは私一人よ、巴さんは戦える状態じゃない」

 

「だからっ、アンタを置いてくわけにはいかないって言ってんのよ、ほむら!」

 

「なんで!」

 

「もう友達でしょッ、あたし達!」

 

 え……私と美樹さんが、ともだち? 

 

「……そうなの?」

 

「えっ、友達だと思ってたのあたしだけ!? それは傷つくんだけど……今日一日で絆深まったから、そんな気したんだけどなー」

 

「いえ……私も今日で美樹さんのことを好ましいと思うようになったわ。でもそれって、友達って言っていいの? 友達ってそんなに簡単に出来るものなの?」

 

「ん、まあお互いがお互いのこと友達って思ってれば友達なんじゃない? あたしはほむらのこと、もう友達だと思ってるけど」

 

 今まで……今までまどかしか友達と呼べる人がいなかったから分からなかったけど。

 友達ってそんなに気軽でよかったのね。それと同時に、今までの私にどうして友達がいなかったのかもわかった。友達になるためには、心を開かなきゃダメなんだ。私が心を開ける存在は、今までまどかだけだった。でも、今は違う。今のまどかが心の壁を叩き壊してくれたから。

 もう一度、人を信じようっていう気持ちにさせてくれたから。

 

「なら……私達は、友達、ということになるのね。美樹さん」

 

「そういうこと! とにかく、あたしは逃げないからね。いい?」

 

「駄目、と言っても聞かないんでしょうね……わかったわ、美樹さん」

 

 これで、負けられない理由が一つ増えた。

 新しく出来た友達を……絶対に死なせるわけにはいかない。

 

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