まどマギ見たことねえんだけど、どうやら俺は主人公らしい 作:東頭鎖国
そして翌日。俺とマミ先輩は再び、廃教会の前まで来ていた。
「おーい杏子ー! お弁当持ってきたぞー! ついでに昨日の弁当箱の回収も!」
大声で呼びかけて見たが、返事がない。今日はいないのかな。それとも居留守かな?
とりあえず昨日と同じように入ってみればわかるか。
「待って、鹿目さん……今は入れないわ」
マミ先輩はいつの間にかソウルジェムを取り出していた。ソウルジェムは不規則なリズムで点滅している。いつしか見た光景だ。
「もしかして、魔女がいるってことスか?」
「ええ。おそらく佐倉さんもこの中で戦っているはずよ」
「マジか! 助太刀に入りましょ、マミ先輩!」
「……い、いえ。佐倉さんは強いわ。ここは佐倉さんが魔女を倒すまで待ちましょう」
言葉とは裏腹に、マミ先輩は前のめりになっている。でも、そこから動かない。
ホントは行きたくてたまらないけど、行けない。そんなふうに見えた。
「先輩。それは本心ですか? 本当は助けに行きたい、とかじゃなくて?」
「それは……それは行きたいわよ! でも、身体が動いてくれないの……動いてくれないのよ!」
先輩は小刻みに震えていた。こんな状態の先輩に無茶させるのは酷な気もするけど、自分の思う通りに行動できないのってすごく辛いことだから……なんとか克服してほしい。だから!
「逆療法じゃ~~!!」
「かっ、鹿目さん!?」
俺は自ら魔女の結界に突っ走り、身を投げる。
杏子の場合は本当に助太刀なしでも勝つ可能性が高いから、自分がいなくても大丈夫だっていう気持ちがどこかにあるから身体が動かなかったんだと思う。でも、俺は違う。魔法少女じゃないから十割死ぬ。こういうの自分を人質にするみたいでずるくてヤなんだけど、他にいい方法が思い浮かばなかった。ほむちゃんだったらもっとスマートな方法思いついたりするんだろうけど、俺はそこまで頭の出来がよろしくない。
早速、真っ黒な触手が俺に躍りかかる。さすが魔女の結界、わかっちゃいたけど危険が過ぎる。なんかトゲトゲしてるし、捕まったら怪我ではすまないだろう。
まあ、大丈夫だろうという確信はあった。だってマミ先輩、めっちゃいい人だから。
「大丈夫、鹿目さん!? あなた、なんてことを!」
思ったとおり、マミ先輩は来てくれた。大量の銃を取り出しての連続射撃で触手を撃ち落としつつ、俺を抱えて飛び退く。その動きには恐怖心による躊躇いは感じなかった。
「へへへ、マミ先輩が助けてくれるって信じてたから。ごめんなさい、ズルいことして」
「まったく、後でお説教だからね? でも、あなたのおかげで覚悟は決まったわ。自分可愛さに後輩見捨てて逃げて……それで死んじゃったら、助けられる命が助けられなかったら……私は一生後悔すると思う、パパとママの時みたいに。私はもう、二度とあんな思いはしたくない! 鹿目さん、私に離れないようしっかりついてきてね!」
「そうこなくっちゃ!」
俺たちは影絵のような結界を走り抜け、魔女本体を目指す。杏子がいれば助太刀に入り、いないならいないで魔女を倒せば結界は消えるので全て解決するとはマミ先輩の言だ。
襲い来る触手のことごとくを銃で薙ぎ散らしながら、一度も足を止めることなく駆け抜ける。先輩も俺の足の速さを信頼してくれているのか、かなりのハイペースだ。
その甲斐あってか、魔女の元にはすぐに辿り着くことができた。
「いたっ、あれだ!」
槍を振り回し、触手を切り裂く赤い影。おそらくあれが杏子だろう。
それに対峙する黒い影がおそらく魔女の本体。なんか触手めっちゃ伸びてるし。
しかもこいつらの触手はただの触手ではなく、それぞれに別々の頭部がついている。犬、鼠、蛇、竜、その他諸々。その一つ一つが杏子を取り囲み、一斉に牙を向ける。
魔女の攻撃の勢いは凄まじく、杏子もなんとか防いでいるが防戦一方だ。やがて触手の一つが杏子の腕に食らいつく。
「ぐうっ!? ちっ……くしょう! 離れやがれ!」
杏子はすぐさま食らいついた触手を斬り飛ばすが、新しいのが二つ三つと次々食らいつく。
「ぐああああぁぁぁぁっ!!」
杏子の悲鳴が響き渡る。これは、まずいんじゃないのか!? 俺はマミ先輩のほうを見る。
「わかってる! 今助けるわよ、佐倉さんッ!!」
マミ先輩は裂帛の気合を込めて、トリガーを引いた。
・・・・・・
──佐倉杏子
『今助けるわよ、佐倉さんッ!』
聞き慣れた声に、聞き慣れた銃声が3発。あたしに食らいついた触手の頭部が弾け飛び、解放されたあたしは宙に投げ出される。
それを受け止めてくれたのは……やっぱり、マミのやつだった。
「苦戦しているようね、佐倉さん。やっぱり、ここに来て正解だったわ」
「マミ、あんた……戦えないんじゃないのかよ……」
「さっきまではそうだった。今だって戦うのは怖いわ、とってもね。でもそれ以上に、大事な人が死んじゃうのはもっと怖い! そう思ったら、身体の方が最初に動いちゃった」
マミはそう言って笑う。あたしを抱くその手は未だに震えていた。この人はまだ怖いんだ。だってのに……だってのに、それでもまだ人のために戦うってのかよ、アンタは!
「あとは私に任せて。佐倉さんはゆっくり休んで傷を癒やしてちょうだい」
そう言ってマミはあたしを地面に下ろし、魔女と対峙する。
その背中はやけに大きく見えた。ああ……やっぱり、眩しいや。まるでヒーローじゃないか。自分も辛いってのに、一度は心も折れたのに、それでも立ち上がってまた戦って。
……それに比べて、あたしはなんだ。何も背負っていないってのに、一人で戦って無様晒しちゃってさ。だから、せめて……!
「あたしも一緒に戦うよ。あんた一人に背負わせてらんねーからな。いくよ、
「……っ! ええっ! 一緒に戦いましょう!」
「あたしが突っ込む! 援護任せたよ!」
──真っ直ぐに突っ込み、本体を目指す。防御のことは考えない。
あたしに迫る触手達は全てマミさんが撃ち落としてくれるからだ。
事実、ひとつの撃ち漏らしもなく触手を片付けてくれるおかげでなんの憂いもなく接近できた。
槍の届く距離まで近づくと、身体を樹木のように伸ばしてこちらの接近を邪魔する。
「それが……どーしたよッ!」
そんな悪あがきは時間稼ぎにもならない。ぶった斬って突き進む。
今のあたしは、負ける気がしなかった。
──どれくらいぶりだろう、誰かに背中を預けて戦うのは。
どれくらいぶりだろう、こんなにがむしゃらになって戦うのは。
どれくらいだろう、戦っててなんにも怖くないって思えるのは!
「いい加減に、くたばりやがれぇぇぇっっ!」
魔女の本体に、深々と槍を突き刺してやる。
スピードの乗った一撃は魔女の身体を容易に貫き、それが決定打となった。
影の魔女はカタチを保てなくなり、泥のように溶けていく。
それと同時に魔女の結界もぱりんと割れ、元の景色に戻っていく。
……戦いは、終わった。
「……はぁ」
なんだか気が抜けちゃって、その場にへたり込む。
いつもならそんなことないのに。本当に、らしくない。
「佐倉さんっ!」
「杏子!」
マミさんとまどかが心配げな表情で駆け寄ってくる。
まどかも一緒についてきてたんだな。
「大袈裟なんだよ、二人とも。ちょっと疲れただけだっての」
「嘘よ、ソウルジェムを見せなさい」
半ば強引にソウルジェムを奪われる。あたしは抵抗しなかった。
ソウルジェムを手にとったマミさんは険しい表情になっていた。
「以前と比べて明らかに動きが悪いと思ったら、やっぱり……ソウルジェムの浄化を行っていなかったわね、佐倉さん。一体なぜ? グリーフシード、持っていないわけではないんでしょう?」
「……なんでだろうな。なんか、わかんなくなっちゃってさ。自分がなんのために戦ってんのか、なんのために生きてるのか。最初はこうじゃなかったハズなのに……なあ、マミ。あたしはどこで間違えたのかな?」
マミさんは答えづらい表情をしながらあたしのソウルジェムを浄化する。そりゃそうだ。あたしだってきちんとした答えが帰ってくるなんて思っていない。でも、どうしても言わずにはいられなかった。
「そうね……佐倉さんはもっと早く誰かに頼るべきだったと思う。私がもう少しちゃんとしていれば……いえ、違うわね。私がもう少し早く『ちゃんとしていないこと』を許容できる人間になっていたら、もう少しあなたの力になれたのに……ごめんなさい」
「まるで今は許容できるみたいな物言いだね」
「ええ、そこのヤンチャな後輩のせいでね。今回だって私に発破をかけるために自分から魔女の結界に飛び込んでいったのよ? 身を守る手段もないっていうのに」
「はぁ!?」
「ごめんなさい、俺バカだから他の手が思いつかなくって……」
まどかは申し訳無さそうに頭を下げる。そんなことのために命を懸けたっていうのか、こいつは? ブッ飛んでやがる。この間から思っていたけど、頭で考えるより先に行動の典型的なタイプなんだな、こいつ。
「でも、あの行動がなければ私は佐倉さんを助けに行けなかった。鹿目さん一人でも佐倉さんを助けに行くことはできなかった」
「そういうこと! 自分ができないことは出来る誰かにやってもらうし、誰かが出来なくて困ってることを自分が出来るなら、代わりにやってあげる。それが人生楽しく生きるための秘訣! って俺がマミ先輩に教えたんよ」
「それはそれとして、手段としてはとても褒められたものではないからね? と、まあそういう訳で……私は思ったの。私と佐倉さんも、お互いに足りないものを補い合っていけばもう一度一緒にやっていけるんじゃないかって。佐倉さんが自分のためにしか戦わないのならそれでもいい。私が佐倉さんの撃ち漏らした魔女や使い魔を倒せばなんの問題もないでしょう? 幸か不幸か、この見滝原は魔女の多い土地よ。使い魔を倒したところでグリーフシードが枯渇することはないわ」
……今まで、ずっと一人で生き抜こうと決めていた。だから、ずっと強くあろうとしていた。
でも、だめだ。あたしはすっかり弱くなっちまったみたいだ。いや、それとも……ずっと弱いままだったのか。あたしは。あたしのほんとの気持ちは──
「……なあ、マミ」
「何かしら?」
「……もう一度、
「え……うんっ、もちろん! もちろんよ!」
マミさんはあたしの両手を包み込むように握って大喜びする。ほんと大袈裟なんだよ、全く。
まどかは後ろで微笑ましいものを見る目で見ている。くっそ、ちょっと恥ずかしい。
でも……恥ずかしさよりも嬉しさの方が上回っていた。
あたしは、独りじゃない。独りじゃなくてもいい。
そんな思いに浸っていると、ぐぅぅ~……と気の抜けた音がした。
音の先を見ると、まどかが恥ずかしそうな表情をしていた。
「あ、あはは……一件落着って思ったら、お腹空いてきちゃった」
「……ふふ」
「ぷっ……!」
「「「あはははははははっっ!!」」」
三人揃って笑い出す。こんなに腹の底から笑ったのは、いつ以来だろう。
「持ってきたお弁当……だけでは、流石に少ないわね。私の家で食べましょう。一緒に来てくれるわよね、佐倉さん?」
「さんせーい! ほら、行こうぜ杏子!」
「……ああ!」
二人がこちらに向かって手を伸ばす。あたしはそれをしっかり握り、一緒に歩き始めた。
簡単に離したりしないように、しっかりと。
……それにしても、なんで教会内でグリーフシードが孵化したんだ?
あたしが持ってたグリーフシードはまだ余裕のあるものばかりだったし、昨日までは魔女の兆候なんてまるでなかったのに。
……ま、考えても仕方ないことか。
・・・・・・
「佐倉杏子は持ち直してしまったか。僕の目算ではあのまま魔女になるハズだったんだけど、まさかあそこで巴マミが戦線復帰してしまうとはね。本当に人間の感情というものは度し難いものだ。まあ、それはいいさ。どちらにせよ、僕らには誤差のようなものだ。本来の目的を達成する障害にはなり得ないからね」
その呟きを聞くものは、誰もいなかった。