まどマギ見たことねえんだけど、どうやら俺は主人公らしい   作:東頭鎖国

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21話

 それから、キュゥべえは不気味なくらい俺に接触してこなくなった。

 他のみんなに聞いても、ここ最近は姿を見ていないという。この間はあんなにしつこかったのに、一体何だって言うんだ? 

 まあ、考えたってなんにもなるまい。俺はあんまり気にしないようにして毎日を過ごしていた。

 ここ最近あった変わったことといえば……。

 

「よう、はじめましてだな」

 

「あんたは、もしかして……佐倉杏子、って子? まどかとマミさんが言ってた」

 

 そう、ほむちゃんさやちゃんと杏子の初顔合わせである。

 俺たち五人はマミ先輩の家に集結していた。

 ワルプルギスの夜に関する話をするためにほむちゃんが提案したのだ。

 杏子除く四人が集まったところに、少し遅れて杏子がやってきた形だ。

 

「ああ、こっちも二人から話は聞いてるよ、美樹さやかってのはまどかの保護者みたいなヤツなんだって?」

 

「なっ!? 二人ともなんつー紹介の仕方してんのさ!」

 

 さやちゃんが顔を赤くしながら俺とマミ先輩の方を見る。

 俺とマミ先輩は平和にお菓子をつまんでいた。

 

「だって事実、俺さやちゃんにお世話になりっぱなしだし」

 

「美樹さん、鹿目さんのお姉さんみたいだしねえ」

 

「だってさ、愛されてるねえ」

 

「うぐぐ……!」

 

 恥ずかしそうにしているさやちゃんを、杏子はニヤニヤしながら見ている。

 さやちゃんはキッと杏子を睨むと、負けじと言い返す。

 

「そ、そういうことならあんたの話だって二人から聞いてるよ! とっても優しくて面倒見がいいけど意地っ張りなところもあって可愛らしい子だって!」

 

「なっ!? おめーら、そんな紹介の仕方してたのかよ!」

 

 今度は杏子が顔を赤くする番だった。

 俺とマミ先輩は平和にお茶を味わっていた。

 

「だって事実だし」

 

「佐倉さん、お姉さんみたいなところもあるけど妹みたいなところもあるしねえ」

 

「だってさ、愛されてるね~」

 

「このやろっ……!」

 

 今度はさやちゃんがニヤニヤする番だった。

 この二人、結構相性いいのかもしれない。打ち解けるのも早そうだ。

 

「二人とも、じゃれあいはその辺にしておいて頂戴」

 

 ほむちゃんが髪をファサッとかきあげながら二人を制する。

 あの仕草、かっこいいよなあ~。

 

「暁美ほむらよ。よろしく、佐倉杏子」

 

「あんたがほむらか……マミさんのこと、助けてくれたんだって?」

 

「たまたまよ。褒められたことではないわ」

 

「またまた、マミさんもまどかもあんたのことベタ褒めだったよ? 特にまどか。長くなるから内容は伏せるけど、聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらい褒めてたよ」

 

「あなた何言ったの、まどか!?」

 

「変なことは言ってないよ」

 

「私も聞いていたけど暁美さんのいいところを手当たり次第に挙げていただけよ? 80個くらいはあったかしら」

 

「いくらなんでも多すぎるわよ……!」

 

 ほむちゃんは頭を抱える。ほむちゃん口下手で誤解される可能性もあったから、できるだけ好印象を残したかった。まあ杏子相手にそんな心配は無用だったかもしれないけど。

 

「ははっ、一見スカしててやりづらそうだと思ったけどその心配はなさそうだね。よろしく頼むよ、ほむら。それで……あたし達を呼び出した用はいったい何なんだい? まさかただ親睦を深めようってわけじゃあないんでしょ?」

 

「そうね、本題に入りましょうか……これから二週間後、見滝原にワルプルギスの夜が来る」

 

「ワルプルギスの夜だって!?」

 

「ええ、伝説上の魔女。私も暁美さんから話を聞いた時は驚いたわ。よりによって、この見滝原に来るなんて……」

 

 マミさんには既に話してある。どうやらワルプルギスの夜というのは、魔法少女の中でも知名度の高い魔女らしい。もっとも、その姿を見た人は誰もいないらしいけど。姿を見た人は誰一人として生きて帰ることができないから、なんてうわさ話も有るらしい。

 ここにいる唯一の例外……ほむちゃんを除いて。

 

「あいつが来たら最後、見滝原は壊滅するわ。だからお願い……ワルプルギスの夜を倒すために、力を貸してちょうだい。私は、まどかを……大切な人を守りたい」

 

 ほむちゃんはそう言って頭を下げる。

 

「逃げるって選択肢はねーのか?」

 

「ないわ。逃げた先にワルプルギスの夜が来ない保証はないし……なにより、逃げる場所なんてどこにも無いから」

 

「私も逃げるのには反対よ。もし逃げたらこの町の人たちがどうなってしまうか……考えたくもないわ。ううん、人だけじゃない。私はこの見滝原が好き。辛くて悲しいことも沢山あったけど……嬉しいことも楽しいことも沢山あったから。それに、この町には……パパとママのお墓もあるわ。絶対に壊させるわけにはいかない」

 

 マミ先輩の目は決意に満ちていた。先輩はずっと一人でこの町を守り続けていた人だ。頼りになる。ほむちゃんも心なしか安堵の表情を見せている。

 

「……まあ、マミさんならそう言うと思ったよ。そういうことならあたしも戦う。どんだけ強い魔女だって、ここにベテランが三人もいるんだ。勝てない相手じゃないだろ? 見滝原がぶっ壊れちゃ困るのはあたしも同じだからね。それにあたしにだって守りたいものがある」

 

「守りたいものって……もしかして、あの教会?」

 

 俺がそう聞くと、杏子はため息をつき、苦笑しながら答える。

 

「……まーな。あたしにとっちゃ忌々しいクソッタレな想い出のある場所だけど、それでも……できるだけ無くなってほしくないんだよ。そりゃいつかは取り壊されるってわかってる。でもさ……よそから来た魔女にブッ壊されるってのだけは我慢できないんだよね。というわけで……よろしくな、二人とも」

 

「……ええ。一人では無理でも三人なら、もしかしたら勝てるかもしれない」

 

「しれない、じゃなくて勝つのよ暁美さん。そして……鹿目さん、美樹さん。事情を聞かせておいて、こんな事を言うのもなんだけど……早まって魔法少女になる、なんて思わないでね。ワルプルギスの夜は今までの魔女と格が違う存在よ。私達三人ならなんとか渡り合えるかもしれないというだけで、新人の魔法少女がなんとか出来るほど甘くはないわ。だから……命を大切にしてね。私の守りたいものには、あなたたち二人の命も入っているんだから」

 

「マミさん……じゃあ、あたしたち二人には何も出来ることはないってことですか?」

 

 心配げに言うさやちゃんに、マミ先輩はウインクしながら笑顔で答える。

 

「いいえ。あなたたち二人が私達の戦いを知っているだけで励みになるわ。応援してもらえると、もっと嬉しい。魔法少女の戦いって誰にも称賛されることのない、孤独な戦いだけど……一緒に戦う仲間がいて、一緒に勝利を喜んでくれる友達がいればこんなに嬉しいことはないわ」

 

「私も同意見よ。二人は自分の命を大切にしてちょうだい。あなた達を守るために戦う。それを忘れないで」

 

「ま、あたしはどっちでもいいけどさ。目の前で知り合いが死なれると流石に寝覚めが悪いからね。それに……仮にワルプルギスの夜を無事やっつけたとしても、魔法少女としての人生は続くんだ。それを忘れるんじゃねーぞ」

 

 三者三様の忠告に、俺とさやちゃんは頷くしかなかった。

 

 ・・・・・・

 

 それから、三人と遊ぶ機会は減った。どうやら、ワルプルギスの夜を倒すための作戦会議とグリーフシードを稼ぐための魔女退治を繰り返しているらしい。俺に出来ることは……何もない。

 俺だって何か役に立ちたいけど何も思いつかないし、それこそ今、魔法少女になったりしたら元も子もない。そのため悶々とした日々を送っていた。

 

「さやちゃん」

 

「ん?」

 

「何も出来ないのって、怖いな」

 

「……そうだね。あたしも恭介の時、そうだったもん。だから必死で、なにか出来ないかって探してた。その結論が、CD持ってお見舞いに行くことだった」

 

 結果として裏目に出ちゃったけどね、とさやちゃんは自嘲気味に笑う。

 あれはさやちゃんが悪いっていうか、間が悪かったよな……。

 それにしても……何か出来ないかって探す、かあ。

 

 ・・・・・・

 

 俺はふと思い立って、手芸部に足を向けていた。

 俺が変に考え込みすぎるとロクなことにならない気がするので、集中して無心になれるここに来るのが一番いい気がしたからだ。

 

「まどかちゃん、久しぶりだねぇ」

 

「そッスね。ここんとこ顔出してなかったし……作りたいものもあったんで」

 

「作りたいもの?」

 

「はい。よかったらコツとか教えてもらえると嬉しいッス」

 

 俺は作ろうとしたものの下描きを、手芸部の部長に見せる。

 今まで作ったことのないものだったので、是非アドバイスを仰ぎたかった。

 

「いいよ~……へぇ~、かわいいねぇ。プレゼント?」

 

「はい、そんなところッス。ここの刺繍のとこ、どうしたらいいかわかんなくて」

 

「なるほどね~、まどかちゃん、刺繍あんまりやったことないもんねぇ。でも意外と簡単だよ~? まどかちゃんならすぐに出来るようになるから、頑張ってね~」

 

「はい!」

 

 部長に教えてもらいながら、俺は作業に没頭する。

 少しでも完成度を上げるために。少しでも、余計なことを考える時間を減らすために。

 

 ・・・・・・

 

 そうして、二週間はあっという間に過ぎていって。

 決戦前日、俺たちは5人でマミ先輩の家に集まっていた。

 

「ついに……明日ね」

 

「ええ、明日が正念場。ここでワルプルギスの夜を倒さなければ……未来はない」

 

 マミ先輩とほむちゃんは緊張感に満ちた顔をしている。

 二人の様子だけで、今までの戦いと今回とはまるで違うのだとわかった。

 

「大袈裟だな、もっと気楽に行こうぜ? ちょっとでかい魔女、くらいに思っとけばいいのさ」

 

 杏子も言葉ではそう言っているが、表情が固い。

 やっぱり、緊張しているんだ。

 

「あの、みんな! 今日はみんなに渡したいものがあって、持ってきたんだ。はい、これ」

 

 俺は手芸部でコツコツ作ってきたものをみんなに手渡す。

 少しでもみんなの心が楽になればいいなと思って作ってきたものだ。

 

「これって……お守り?」

 

「うん。みんなが無事で帰って来れますようにって思って」

 

「これ、もしかしてあたし達の顔か? 意外な特技持ってたんだなお前、すげえ」

 

「本当、とっても可愛らしいわね。ありがとう鹿目さん、嬉しいわ」

 

 お守りにはデフォルメしたみんなの顔を刺繍してある。

 それを見てマミ先輩と杏子は喜んで受け取ってくれた。

 ほむちゃんは渡したお守りをぎゅっと握りしめて、こう言ってくれる。

 

「ありがとう、まどか……勇気をもらったわ。これで百人力よ」

 

「そう言ってもらえるなら作った甲斐があったよ……みんな、絶対無事でな!」

 

「あたしは、まどかみたいに形に残る物は渡せないけど……応援してる! 三人とも絶対に勝ってね! そんで祝勝パーティやろうよ、みんなでさ!」

 

「いいわね、楽しみだわ。ふふっ……勝たなきゃいけない理由がひとつ増えたわね」

 

「そうだな。言ったからにはうまいもん奢れよ、さやか!」

 

「ちょっ、なんであたしが出すことになってんの!? しょーがないなあ……お小遣いの範囲内でね!」

 

「よっしゃ!」

 

 重い空気と緊張感は晴れ、楽しげなムードが流れ始める。

 その中で一人だけほむちゃんが暗い表情をしていたのが気になったため、俺は両手を握って声をかける。

 

「大丈夫だよ、ほむちゃん。みんながいるし、ほむちゃんだってずっと頑張ってきたんだ。絶対に勝てる!」

 

「まどか……そうね。私、弱気になってた。絶対に勝つわ。勝って、あなたと一緒に新しい未来を作っていきたい」

 

「俺もだよ、ほむちゃん。何度でも言うけど、絶対に無事で帰ってきてくれよな!」

 

 ・・・・・・

 

 そして、翌日の朝。

 見滝原に未曾有の巨大台風が来ているとのことで、俺は家族と一緒に避難所に逃げ込んでいた。

 おそらくこれがワルプルギスの夜なんだろう。

 

「今日はおとまり~? きゃんぷなの?」

 

「ああ、そうだよ。今日はみんなでキャンプだぁ~」

 

「わ~い!」

 

 お父ちゃんがタッくんをあやしている。タッくんはご機嫌だ。

 台風の時ってなんか無性にワクワクする時あるよな。避難所っていうのも非日常な空間だし。

 俺も事情を知らなかったら、もう少し明るく過ごせたかもしれないけど。

 ……やっぱり、胸騒ぎがする。三人なら勝てるって信じたい。

 信じたいけど、この不安感はなんだ? 

 

「まどか、ずいぶん静かだね。大丈夫かい?」

 

「うん、大丈夫だよお母ちゃん」

 

 そう言った瞬間、ずずぅん、という大きな音が聞こえ、避難所が揺れる。

 おそらく三人が戦っている余波だ。

 

「外はずいぶんすごいことになってるね。それなりに人生長くやってるつもりだけど、こんなのは生まれて初めてだよ」

 

 それから何度か音と振動が断続的に伝わってきたが、暫くすると突然大人しくなった。

 聞こえるのは激しい風の雨の音だけだ。戦いが、終わった? 

 でも、台風が収まらないってことは……三人は、もしかして!? 

 俺は立ち上がる。

 

「ん、どうしたまどか?」

 

「あ、ちょっとトイレ」

 

 そう言って俺は誤魔化し、避難所エリアから出る。

 避難所指定エリア以外の建物内は当然のように人っ子一人いない。

 だからこそ、白い獣の姿がひときわ目立って見えた。

 

「やあ、まどか」

 

「やっぱり、いると思った……今、外はどうなってる?」

 

「壊滅状態さ。巴マミも佐倉杏子も暁美ほむらも、なんとか立ってはいるがもはや限界ギリギリだ。それに三人の総攻撃でもワルプルギスの夜は全くダメージを受けていない。勝敗は明らかだね」

 

「もしかして、最初からこうなるって知ってたのか?」

 

「ああ。当然だろう? ワルプルギスの夜は最強だ。たった三人ぽっちがチームを組んだところで戦力差が埋まるはずもないからね。蟻が三匹集まったところで、巨象を仕留められるハズがないだろう?」

 

 ああ……やっぱり。こいつが今までなんの干渉もしてこなかったのは、結果的にこうなると知っていたからかもしれない。

 そしてこうなった場合……俺に選択肢がないってこいつはわかっているから。

 

「今ならまだ間に合うかもしれないよ。契約してくれる気になったかい?」

 

「……ちょっと、待っててくれな」

 

 俺はキュゥべえに背を向け、再び避難所エリアまで戻る。

 そしてお父ちゃんとお母ちゃんにこう言った。

 

「ねえ……お父ちゃん、お母ちゃん。俺さ、行かなくちゃいけない。突飛なこと言うけどさ。外で暴れてる台風の正体は魔女っていうでっかい化け物でさ……俺の友達が、そいつらと戦ってるんだ。だから、助けに行かなくちゃいけない」

 

「いきなり何言ってんだまどか、外は危険なんだぞ!?」

 

 お母ちゃんが俺の腕を掴んで止める。当たり前だ。こうなるのはわかってる。

 でも……どうしても二人に言わないわけにはいかなかった。

 

「嘘みたいな話だけれど……本当なんだね、まどか?」

 

「うん。ごめんね、いきなり変なこと言って。正直、信じてくれるとは思ってなかった」

 

「信じるさ、まどかは僕たちの娘だもの。こんな時に嘘をつくような子じゃないからね」

 

 お父ちゃんの言葉が心に沁みる。ああ、この人はやっぱり優しい。突飛な事を言っても一笑に付すことなく、ちゃんと聞いた上で娘のことを信じてくれる。

 俺にとって、自慢のお父ちゃんだ。

 

「なら、あたしも連れてけ。娘一人、危ないとこに連れていけるかよ」

 

 お母ちゃんの気持ちが心に沁みる。ああ、この人はこんなにも心強い。

 俺のことを真剣に心配してくれている。力になろうとしてくれている。

 俺にとって自慢のお母ちゃんだ。

 

「ありがと、お母ちゃん。でも、タッくんについててあげてほしいんだ。今からやることって……俺にしか出来ないことだから。心配しないで、やること終わったらすぐに帰ってくるから」

 

「……決意は固いみたいだね。絶対に下手打ったりしないな? 誰かの嘘に踊らされてねえな?」

 

「うん、大丈夫。愛してるよ、お母ちゃん、お父ちゃん」

 

 俺は二人をぎゅっと抱きしめたのち、タッくんの頭を撫でる。

 

「まろか?」

 

「タッくん、いい子でな。愛してる」

 

 タッくんは不思議そうな顔をしていた。それでいい。

 泣かれたりしたらかなわないから。

 

「それじゃ、行ってきます」

 

 ・・・・・・

 

「家族とのお別れは済んだかい?」

 

「お別れっていうんじゃねーよ! 俺はまた帰ってくるの!」

 

「まあ、僕としては契約さえしてくれれば君がどういう意気込みであろうと関係ないけどね。さて……外の様子はひどいものだね」

 

 キュゥべえの言う通り、外は瓦礫の山と化していた。かつて夢で見た光景と似ている。

 辺りを見渡すと、三人がそれぞれ離れた場所で倒れていた。満身創痍だが、かろうじて生きているらしい。だが、とても戦う力が残っているとは思えない。

 俺は近くにいるほむちゃんに駆け寄る。

 

「ほむちゃん!」

 

「まどか、あなたどうして……まさか!」

 

 ほむちゃんは俺の横のキュゥべえを見て絶望の表情を浮かべる。

 それはダメ! 俺は安心させるためにほむちゃんを抱きしめ、頭を撫でる。

 

「大丈夫だから。俺はね、いつだって俺がハッピーになるために生きてきたんだ。俺の願いで俺が不幸になるのはイヤだし、ましてやほむちゃんを不幸にさせるなんて絶対にしない。だから、信じて? 安心しながら俺のこと、見守っててくれよ」

 

「できるわけ、ないでしょう……!」

 

 ほむちゃんは泣いていた。俺はそれをあやすように頭を撫でる。

 ワルプルギスの夜は今は落ち着いているみたいだが、いつ動き出すかわからない。

 俺はほむちゃんから手を離し、キュゥべえに向き直る。

 

「待っていたよまどか。さあ、君の願いを言うといい。どんな願いだって叶えてあげるよ」

 

「本当に、どんな願いでもいいんだな?」

 

「ああ。君の抱える因果の大きさならば、どんな願いだって叶えられるだろうさ」

 

「本当に、本当だな?」

 

「いやに念を押すね。本当だとも」

 

 俺は胸に手を当て、深呼吸する。

 俺の願い。マミ先輩が死にかけたあの日から、ずっとうっすら考えていた。

『魔法少女って、幸せなのか?』って。マミ先輩もほむちゃんも杏子もみんな魔法少女になったことでいっぱい苦しんだし、いっぱい悲しんだ。でも……みんなが魔法少女だったおかげで、俺たちには絆が生まれた。魔法少女であることがキッカケにならなければ俺はマミ先輩ともほむちゃんとも友達になることはなかったかもしれないし、杏子とマミ先輩も出会うことなく終わっていたかもしれない。

 そして……キュゥべえに見せられた映像群。本人に悲しみの結末が訪れたとしても……魔法少女になった誰かのおかげで、幸せになれた誰かがいた。救われた誰かがいた。そういった事実は確かにあるのだ。

 過去に起こったことをなかったことには出来ない、しちゃいけないと思う。でも……未来は変えていける。

 魔法少女である限り、ずっと未来を縛られる。だから、俺の願いは。

 

「魔法少女システムも、それを生み出す者も……もう必要ない! 今存在する、そのルールを破壊する! それが俺の願いだ!」

 

「なっ……!?」

 

 これから先、みんなが人として生きていけるように。これから先、キュゥべえのせいで悲しむ人が二度と出てこないように。

 俺の身体が激しく光り、ソウルジェムが生成される。おそらく、契約が履行された証。

 

「君は……君はなんてことを願ってしまったんだ! そんなことをしたら!」

 

 キュゥべえが柄にもなく慌てている。ほむちゃんは泣いている。

 もっといい願い方があるのかもしれないけど、俺の頭じゃこれが限界だった。

 俺の掌には、透明なソウルジェムが乗せられていた。これが、俺の魂。意外とでっかいな。

 みんなのより一回りくらいでかい気がする。強そうで縁起がいい。

 

「泣くなよ、ほむちゃん。全部上手く行けば、みんなハッピーに終われるから、多分」

 

「でも、でもッ……みんなハッピーに終わったとして、()()()()()()()()()()()()

 

「当然、そのつもり! だからそこで安心して見ててくれよ。俺のデビュー戦をさ!」

 

 気合を入れるための掛け声と共に、俺はソウルジェムを掲げる。

 あとは賭け。文字通り、魂をチップにした命がけだ。

 上手く行けば、大勝利。上手くいかなかったら、そのときは……考えてない! 

 なぜなら、ベットの直後に負けること考えるアホはいないから! 

 

「いくぜ~……俺の、変身!!」


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