まどマギ見たことねえんだけど、どうやら俺は主人公らしい   作:東頭鎖国

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22話

 変身の掛け声と共に俺の服装は純白の衣装に変化し、ソウルジェムはチョーカーに変化して首元に収まる。これが魔法少女の服装ってやつか。

 それにしても……他のみんなのやつに比べて味気ないっていうか、何かが足りないっていうか。本当に白い布を被せただけ、みたいな非常に簡素な服装だった。他の人が持ってるみたいな武器もないし。これで本当に戦えるんだろうか? 

 

「おいキュゥべえ、なんかショボくないか? 俺のこと、すごい才能あるって言ってなかったっけ」

 

「僕だってわけがわからないよ。前代未聞だ、こんな事! 君の願いは魔法少女のルールに正面から喧嘩を売ったようなものだ。どんな魔法少女になるかなんて、僕にも想像がつかない!」

 

 キュゥべえがいつになく焦っている。なんだよ、いつもは聞いてなくても勝手に喋りだすくせに。もっとも、俺の疑問はすぐに氷解することになった。

 ……自分の身を以て。

 

「辺りが、光って……なんだこれ!?」

 

 赤、青、黄、緑、白、紫……様々な色の光が人魂のように俺の周囲に漂っている。

 そしてそれらが一斉に、俺のソウルジェムめがけて殺到してきた! 

 そのまま、すべての光が俺のソウルジェムに吸い込まれていく。

 

「なっ、なんだぁぁぁぁ!?」

 

「そうか、ルールを破壊するということは、既存のルールの上にあった願いの行き場がなくなるということ。それら全てのエネルギーが、まどかの身一つに集まっているというのかい!? でもその理屈ならまどかに集まるのは願いだけではなく、行き場のなくなった呪いもまた同じだ!」

 

 キュゥべえがなんか騒いでるけど、耳に入らない。それどころじゃない。

 世界中の魔法少女たちの祈りが、その想いが、俺の中に入ってくる!! 

 

『私、隣のクラスに好きな男の子がいるの。その子に告白したい……その勇気がほしい!』

 

 俺と同じくらいの女の子がキュゥべえに願っているのが見える。

 ……そして、その末路も。

 

『私……ふられちゃった。嫌いって、言われちゃった。こんなことになるなら、勇気なんて出さなければよかった。こんなことなら私、私っ……!』

 

 そう言って女の子は絶望し、ソウルジェムが砕けて魔女に成り果てた。

 その力が、その苦痛が、そのまま俺に流れ込んでくる。

 

「ぐ、あ……がぁぁぁっ!!」

 

 苦しい。身体が裂けそうだ……! 

 これが呪い。これが、魔女になったみんなが味わった苦痛。

 一人でも耐え難い苦痛が同時に数百人、数千人……いや、もっと多い。

 それだけの数の祈りと呪いが、俺の中に同時に入り込んでくる。

 

『あたしの願い? そりゃあ無論、金よ! 金は天下の周りもの、金さえあれば幸せになれる! こんな貧乏生活とはおさらばさ!』

 

 こう願って、お金持ちになった少女がいた。そうして彼女は暫しの幸福を得たが……金を持ったがゆえに増長していった。

 かつての友人たちは離れていき、やがて彼女は一人になった。あらゆるものは金で買えるが、人の心は買えない。それに気付いた頃にはもう手遅れだった。

 

『なんでだろうな……金さえあれば、幸せになれると思ってたのに。なんで、なんで……こんなに心がからっぽになっちゃうんだろうなぁ!? 畜生、なんで、こんなっ……あたしは!』

 

 そうやって嘆きながら、彼女は絶望して魔女になっていった。

 最期まで孤独を抱えたまま。

 

『私は人気アイドルになって、キラキラしたい! みーんなに私のことを好きになってもらいたいんだっ!』

 

 そう願って、売れっ子アイドルになった少女もいた。

 彼女が歌を出せば大ヒット、ドラマに出ればたちまち視聴率トップに。彼女が何をしても、みんなから絶賛されるようになった。そう……何をしても。

 

『なんでみんな同じリアクションしかしないの! 私がいくら頑張っても、いくらサボって適当にやっても! こんなの……こんなの、違うよ! 私がなりたかったのは、こんなアイドルじゃない!』

 

『なぜ泣くんだい? 君の願いどおりになったじゃないか。君は何をしても好かれる人間になったんだ。仮に君が気まぐれで殺人を犯したとしても、世間は君に同情するだろう。そして、罪には問われない。それだけ好かれて、君も幸せだろう?』

 

『キュゥべえ……幸せなわけ、無いでしょ! これじゃ、タダのずるっ子だよぉ……こんなことになるなら、真面目に努力するのをやめないで、自力でアイドルになればよかったのに。こんな……こんなんじゃ、なりたいアイドルになれないのなら、こんな人生、生きてたって……!』

 

 そう言って、彼女もまた絶望と共に人間としての生命を終えていった。

 張り裂けそうな心の痛みが、身体的苦痛と共に内側から俺を蝕んでいく。

 

「ぐぉ、お、おぉぉあ……!」

 

「まどかぁっ!!」

 

 ほむちゃんが悲痛な声を上げる。それと共に、ほむちゃんから紫色の光がぽう、と浮かび上がり、俺の中に入り込んできた。

 

『私は……私は、鹿目さんとの出会いをやり直したい。彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい!!』

 

 眼鏡を掛けた三つ編みのほむちゃんの姿が映る。それを皮切りに、今までのほむちゃんの歩みが余すことなく俺の中に入り込んでくる。ほむちゃん……俺の想像の何百倍も頑張ってきたんだな。やっぱ、すごいや。俺もほむちゃんに負けないように頑張らないと。

 ほむちゃんの努力に比べたら、こんな苦しみなんて、屁でも無いッ! 

 そのまま、今度は生きた魔法少女の記憶が、思念が入ってくる。みんなの望んだ願いが、歩んだ人生が。マミ先輩の想いが。杏子の後悔と悲しみが。

 

 魔法少女って言っても色んな人がいた。良いやつだっていたし、悪いやつだっていた。

 でも……みんな純粋な想いを抱いていた。どうしても叶えたい願いがあった! 

 でっかい願いも、素朴な願いも! 立派な志の願いも、他人からしたらバカみたいなんじゃないのって言うような願いも! みんな、みんな真剣に叶えようとしていた! 

 そんな願いが踏みにじられることは……もう二度とあっちゃならないんだっ!! 

 だから、今までの分俺が全部肩代わりする! これからの未来、同じ苦しみを味わう人がいなくなるように! 

 

「こん、にゃろおぉぉぉぉぉぉっ……!」

 

 脳が焼き切れそうになる。呪いを吸収しすぎたのか、透き通っていたソウルジェムは既に真っ黒だ。その余波なのか、服まで真っ黒になっていく。身体が呪いに染まっていく。

 ……ヤバい、ちょっと……キャパオーバーかもしれない。

 

「無茶だ、人の身で全ての魔法少女の生み出したエネルギーを抱え込もうだなんて! 魔法少女のルールから解き放たれた今、魔女が生まれるどころじゃない。このままでは集約された呪いが爆発して、地球ごと破滅するぞ!」

 

「しないっ! なんとかなる! 気合でなんとかする! 俺が受け止めきる!!」

 

「そんな根性論が通じる問題じゃない! 君がとんでもない願いをしたせいで、僕のエネルギー収集能力も消えて無くなってしまった! このままでは、宇宙の寿命を維持することも出来なくなる! 君は宇宙ごと滅ぼすつもりなのかい!?」

 

「うるせえ! 宇宙の寿命だって未来の人類がなんとかする! 人間様の叡智ナメんなよ!」

 

「滅茶苦茶だ、根拠がない! 君は取り返しのつかないことをしようとしているんだよ!」

 

「うるせ~! 知らね~~~~!!」

 

 叫ぶことでなんとか意識を保ってはいるが、正直もう限界が近い。だってのに……本命がまだ残っている。ワルプルギスの夜が。

 あのでっかい呪いの塊というべき存在を、俺はまるごと取り込んで受け入れなければいけないわけだ。

 これは……ちょっと、詰んだかもしれん。

 

 意識が、遠のいていく。身体のコントロールが、俺の支配から離れていく。

 ほむちゃんの叫びがやけに遠く聞こえる。おかしいな、目の前にいるはずなのに。

 ごめん、ほむちゃん。約束、守れないかも。

 ……もう、駄目か……。

 

 

 

『大丈夫』

 

 

 ・・・・・・

 

 目を覚ますと、宇宙だった。

 自分でも何言ってるかわかんないけど、マジで周囲の景色がキラッキラの銀河で、俺はその中にふよふよと浮かんでいた。

 

「えっ、何ここ!? ワルプルギスは!?」

 

『落ち着いて、大丈夫だから』

 

 目の前には桃色の髪をした長髪の女性がいた。

 その顔立ちは、とても見慣れたもので。

 

「もしかして、俺!? いや……もしかして、俺以外の鹿目まどか、なのか?」

 

『うん、以前はそうだった。でも今は違う。私がそう願ったから』

 

「願ったって、一体なんて?」

 

『全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい。全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女を、この手で……って。そのために私は新しいルールそのものに……概念になったの』

 

「すごいな!? 俺、ルールぶっ壊すところまでしか考えてなかった。俺には自分を捨ててまで……って覚悟はできなかった。それが、このザマだよ。ここってあの世なんだろ、多分?」

 

 俺は自嘲気味に言う。大見得切っといて、約束守れないなんて、不甲斐ないったらありゃしない。みんなのことも助けられなかったし……ほんと、情けない。

 そう思っていたが、もう一人の俺は首を横に振る。

 

『ううん、私が呼んだの。今までは繋がりが薄くて出来なかったけど、あなたが魔法少女になって私と似た願いをしてくれたから、私はあなたとこうして会うことができた』

 

「そうなのか……それで、どんな用件なんだ? 俺まだ死んでないんだったら、戻らなきゃいけないんだけど」

 

『ほむらちゃんのこと、お願いしたかったの』

 

「ほむちゃんの?」

 

『うん。私がこの願いを叶える直前に時を遡って、私のいる世界からいなくなっちゃったから……それがずっと心残りだったの。あの時宇宙に新しい理が生まれた。でも、ほむらちゃんは理の外に出ちゃってたの。『私』がいないから『私』が捕捉できなくて、理の影響下にない世界……それがあなたのいる場所なの』

 

「うーん、ややこしいけど俺がまどかであってまどかじゃない……前世持ちだから、ってこと?」

 

『そう、だから私はほむらちゃんがどこにいるか見失っちゃった。私が生み出した理は魔法少女の願いを絶望で終わらせないこと。誰も恨まなくて、呪わなくて良いように……最期に呪いを抱くことなく、魔女になることがない世界。でも、ほむらちゃんは理の外に出ちゃったから……』

 

「救われない、ってこと?」

 

『うん。でも、あなたなら大丈夫。私と似てるようで違う答えを出したあなただったら。私は『悲しみをなかったことにする』ことでみんなを救おうとした。でもあなたは『なかったことには絶対にしない』って願った。私は自分自身が概念になることによってみんなを救おうとした。あなたは自分は人間のまま絶対に生きて帰りたいって願った』

 

「そうやって並べられると俺、お前と比べて……いや、お前って呼ぶのやりづらいな。なんかあだ名とか無いの?」

 

『魔法少女の間では、円環の理って呼ばれることもあるかな』

 

「円環の理か。じゃ、かんちゃんって呼ぶわ。俺、かんちゃんと比べて欲張りすぎない? 二兎を追う者は一兎をも得ずの典型的な感じになっちゃったんだけど。俺、間違ってたのかな?」

 

『ううん、願いに間違いなんてないよ。全ての魔法少女の願いは、絶対に無駄じゃない。無駄になんてさせない。それはあなただって例外じゃないよ』

 

 かんちゃんはそう言って、俺の首元に手をかざす。

 すると真っ黒になっていた俺のソウルジェムはみるみるうちに浄化され、元の光を取り戻した。

 

『あなたの中のものは私に任せて。願いも呪いも、私が引き受ける。あなたにとっては重荷だけど、私にとってはどっちも大事なものだから』

 

「マジ? 正直すごい助かる。俺、受け止めた後のこと何にも考えてなかったから」

 

『無計画すぎて私が見つけてなかったらって思うと、ちょっとゾッとするね……でも、これだけじゃないよ』

 

 そう言ってかんちゃんが俺の服を掌でなぞるとたちまち服がほどけ、裸になってしまう。

 

「おおおっ!? ちょっ、どういうこと!?」

 

 突然の出来事すぎて、さすがに困惑する。

 かんちゃんは笑顔で俺の両手を握る。すると……白い手袋が光とともに俺に装着された。

 

「おおっ!?」

 

 かんちゃんが俺に抱擁すると、触れたところから次々と服が装着されていく。さっきまでの味気ない服じゃない。桃色でフリルの付いた、いかにも魔法少女って感じの服装だ。

 

「な、何これ!?」

 

『私の力をちょっとだけ貸してあげる。だから、ほむらちゃんのこと……よろしくね』

 

 かんちゃんがそう言って俺の額に口づけをする。すると桃色の光とともに、かんちゃんがいなくなっていた。

 いや……そうじゃない。かんちゃんは俺の中にいる。これなら、なんとかなる! 

 

 見てろよ、ほむちゃん、マミさん、杏子。

 それに、世界中全ての魔法少女達。今から俺……みんなの力、全部持ってくわ。ごめん、俺のワガママに付き合わせちゃって。

 いきなり魔法少女としての自分を奪われたら、怒る人もいるだろうし、悲しむ人もいるだろう。

 でも俺は……抱えなくていい重荷を下ろしてやりたい。

 今は良くても、20、30歳になってもなお魔女退治を続けるのは至難の業だろう。

 なんで魔法『少女』って呼ばれるのかって、つまりそういうことなんだろう。

 魔法少女である限り……自分の魂を人質に魔女と戦う運命を背負う限り、ほぼ間違いなく長生きはできない。人として終われるかどうかもわからない。

 そんなの、悲しすぎるから!! 俺が、俺たちが! 全部ぶっ壊す!! 

 

「いくぜいくぜぇぇぇぇ~!!」


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