まどマギ見たことねえんだけど、どうやら俺は主人公らしい   作:東頭鎖国

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後日談その1

 あれから、数日が経った。

 俺たちはワルプルギスの夜を知っているわけだが、一般の人からすると観測史上トップクラスの台風が突然消滅するなんてのは異常現象もいいところで、ちょっとしたニュースになっていた。

 被害規模は大きかったものの、奇跡的に死傷者は出なかったのが不幸中の幸いだ。

 まあ、それはそれとして……俺は今、すごく困っていた。

 

「暇だ~……」

 

 そう、台風の影響で遊び場がなくなってしまったのだ。

 通い詰めていたゲーセンもカラオケもすべて臨時休業。学校も休校。

 ちょっと遠出をしようにも交通機関は止まっているし、瓦礫が片付いていないから自転車も使えない。

 幸い家自体はノーダメージで電気、ガス、水道などのライフラインは生きているからその辺の心配はないが、うちもお父ちゃんの家庭菜園が大打撃を受けてしまった。

 お父ちゃんには気の毒だが、それくらいの被害規模で済んでよかった。

 

 そういうわけでここ数日は庭の掃除を手伝ったり、タッくんと遊んだりして過ごしていたわけだが、それだけで済ますには一日という時間は長すぎる。

 家にあるゲームもちょうど全部クリアしてしまったせいでやるものがない。

 

「そういや、祝勝会は楽しかったなあ……」

 

 ワルプルギスの夜を倒したその日の昼は、予定通りマミ先輩の家で飲めや歌えやの大騒ぎだった。(飲んでたのは当然紅茶とジュースだけど)

 特にマミ先輩はなんだかんだ言って魔法少女としての活動が相当の重圧になっていたらしく、柄にもなくはしゃいでいた。

 

 ・・・・・・

 

「みんな~! 今日は私の奢りよ~!! おいしいもの、いっぱい用意してきたからね~!!」

 

「わ~い!!」

 

「マミさん、最高~!!」

 

 マミ先輩が音頭を取り、俺とさやちゃんがそれに乗っかる。

 みんな無事にこの日を迎えられたことに対して喜びの感情でいっぱいだった。

 特にさやちゃんは俺以上に気を揉んでいたみたいだから、喜びもひとしおだろう。

 

「おいマミさん、ちょっとテンション高すぎじゃねーか?」

 

 杏子が苦笑しながらそう言うと、マミ先輩はうきうきした様子を隠さずに言う。

 

「高くもなるわよ、やっと普通の女の子らしく出来るんだもの。心置きなく遊んだり、勉強したり、将来のこと考えたり……魔法少女だった時は、大人になった時の夢を考える余裕なんてなかったから」

 

「将来、か……あたし、どうしたらいいのかな」

 

 杏子は暗い表情をしていた。マミ先輩とは違い、魔法少女の能力に依存して生活を送っていた杏子にとっては今後の展望が見えなくて不安なのだろう。

 これが、俺の願いの弊害でもある。杏子のように魔法少女として生きる道しかなかった子達は、みんな悩むと思う。辛い思いもすると思う。

 ……でも、魂を縛られて、絶望とともに怪物になってしまう最期を辿るよりは絶対に良いと思っている。

 今でも、あの時入り込んできた呪いと絶望の記憶が鮮明に残っている。魔女になる最期を辿った人々の悲しみの記憶が。もう二度と、絶対に誰にもあんな思いはしてほしくなかった。

 

「そうね……佐倉さん、よかったら私の家にいっしょに住まない?」

 

「マミさんの、家に?」

 

「ええ。それなら住むところにも食べるところにも困らないでしょう?」

 

「そりゃまあ、そうだろうけど……本当にいいのか? あたし、もう金も稼げないし……重荷になっちまわないか?」

 

 遠慮がちに言う杏子に対して、マミ先輩は笑顔で返す。

 

「大丈夫、一人くらい増えたところで生活に困らないくらいのお金はあるから。お父さんとお母さんの遺してくれたものの他に、遠い親戚の人が金銭的な援助もしてくれているから」

 

「マミさん、親戚いたんだな……てっきりあたしと同じで天涯孤独だと思ってた」

 

「もっとも、本当に書類上の保護者といった感じだけどね。嫌われているわけではないしむしろ気の毒に思ってくれているみたいだけど、現実問題として私みたいな子供の面倒を見るのは重荷みたい。それに私も見滝原に残りたいって言っていたから、お互いに納得はしているわ。それに……」

 

「それに?」

 

「私が佐倉さんともっと一緒にいたいのよ、今まで一緒にいられなかった分……嫌だった、かしら?」

 

 マミ先輩が後半不安げに萎んだ声でそう言うと、杏子は少し当惑した後に……恥ずかしげに頬を掻きながら頷いた。

 

「……ああ、よろしく。今日からここにお世話になるよ」

 

「本当!? 改めてよろしくね、佐倉さん!!」

 

 マミ先輩が杏子の手を取り、ぶんぶんと振り回す。よっぽど嬉しかったのだろう。

 杏子も恥ずかしそうにしながらも、満更でもない表情で笑っている。

 ともあれ、これで杏子の抱えている問題は解決、なのかな? 

 

「おー、意外な展開。でもマミさんも杏子も、これでいいのかもね」

 

「そうね、本当に……本当に、よかった」

 

 軽い調子のさやちゃんと、噛みしめるように二度呟くほむちゃん。

 普通の暮らしをしてきた子と、魔法少女として長いこと戦ってきた子。

 その対比がリアクションに出てるのかもしれない。

 そういえば……もう遠く掠れたアニメの記憶だと、元々さやちゃんも魔法少女になるハズだったんだっけ。真実を知った後だと、さやちゃん魔法少女にならなくてよかった~~……って心底思う。

 とはいえ、魔法少女の世界に片足突っ込んだおかげでここのみんなと出会えて仲良くなれたんだから世の中分からない。まあ、終わったことの話は後にして……。

 

「マミ先輩! そろそろお腹空いた~!!」

 

 今は目の前のテーブルに並べられた沢山の料理だ。いい加減生殺しだった。早くいただきますの合図がほしい! 

 

「あらいけない。それじゃあみんな、コップを持って」

 

 俺たちは、思い思いの飲み物を入れたコップを掲げる。そして……。

 

「「「「「「乾杯!!」」」」」

 

 かちゃん、と始まりの音色を奏でた。

 コップの中のジュースを思い切り飲み干し、さっそく目の前のご馳走に飛びつく。

 

「すげ~、鳥の丸焼きとか初めて見た! うまそ~!」

 

「でっかいエビもある! なにこれ、ロブスターってやつ!? すご~……小市民のあたしには縁がないもんだと思ってたけど、まさか実物をこの目で見れるなんて」

 

「うふふっ、今日のために思い切り奮発しちゃった」

 

「ふふん、マミさんの料理はすげーだろ? あたしも最初は驚いたもんさ」

 

 見たことのない食材に色めき立つ俺とさやちゃんと、なぜか得意気にしている杏子。そんな中、端っこにちょこんと置かれている鍋があった。

 

「マミさん、これなんスか?」

 

 俺がそう訊くと、隣りにいるほむちゃんが手を挙げた。

 

「あっ、それは! 私が、作ったの……まどかに……食べて欲しくって」

 

「えっ、ほむちゃん料理できたの!?」

 

 正直、めちゃくちゃ意外だ。あまりにも食に頓着していなかったから、てっきり料理なんてしないもんかと思っていた。

 

「実は、まどかに内緒で美樹さんに教えてもらっていたの。それに、今日は巴さんにも手伝ってもらって……凝った食材はないから他の料理と比べて地味だけど……よかったら食べて」

 

「楽しみ~~!!」

 

 ぱかっと鍋の蓋を開けると、独特の美味しそうな香りが広がる。中に入っていたのは、カレーだった。野菜がゴロゴロ入っている、家庭的なやつだ。

 俺は米といっしょに皿によそい、試しに一口、パクっと食べてみる。

 

「うま~い! すごい! 美味しいよほむちゃん! とても料理始めたばっかりだと思えない! 美味しい!」

 

 めっちゃ美味しかった。一口と言わずパクパクと入る。ご飯によく合う中辛だ。具材も大きく切られていて食べごたえがある。俺好みのカレーだった。

 

「そう、よかった……!」

 

 ほむちゃんは安堵の表情を浮かべていた。そんな俺たちの様子を見て、さやちゃんがドヤ顔を浮かべる。

 

「ふふん、あたしがまどかの喜ぶカレーの作り方を教えてあげたんだよ! ほむらは私が育てたといっても過言ではないのだ」

 

「マジか、どうりで俺の好みドンピシャのカレーだったわけだ。ありがとうほむちゃん!」

 

「喜んでもらえて嬉しいわ、ずっと食べてもらいたいと思っていたから……よかったらみんなも食べてみて頂戴、まどかのお墨付きよ」

 

「私も作る時に味見したけど、とても美味しかったわよ」

 

 マミ先輩もドヤ顔を浮かべる。そういやマミ先輩も手伝ったって言ってたな。というかそこそこ大きめのテーブルを埋め尽くすほどの料理を作ったうえで、ほむちゃんの手伝いもする余裕あるのか。マミ先輩、魔法少女以外の分野でも地味に凄い人だ。

 

「なんだよ、じゃあ味知らないのあたしだけじゃん。あたしにもくれよ」

 

 杏子もカレーを皿によそい、ガツガツと勢いよく食べる。

 一気に頬張ったカレーライスをごくっと飲み込むと、ご機嫌な様子で笑った。

 

「ん~、ウマいじゃん! 料理の才能あるよ、アンタ」

 

「そ、そうかしら?」

 

「あたしもー……うん、前作った時より美味しくなってるよ、ほむら!」

 

 さやちゃんもカレーを食べてサムズアップする。ほむちゃんはみんなに褒められ、はにかみながら顔を真っ赤にしていた。ほむちゃん、変わったな。それも、すごくいい方向に。

 ちょっと前までは感情表現が苦手……というか押し殺している感じがあったけど、今はこういう可愛らしい一面も見せてくれる。それだけ俺達に心を許してくれている証拠だろう。

 

「さあ、他の料理も忘れてもらっちゃ困るわよ。みーんな気合い入れて作ったのばっかりだから!」

 

「もっちろん!」

 

 満漢全席と表現するにふさわしい料理の山をみんなで囲んで盛り上がる。

 味の感想、将来のこと、もっと他愛ない話題。俺達の会話が途切れることはなかった。

 ご飯もペロリと食べてしまった。(半分くらい食べたところで他のみんなはお腹いっぱいになってしまったため、俺と杏子しか箸を動かしてなかったけど)

 

 ご飯を済ませた後は、みんなでゲームで盛り上がった。

 マミ先輩の家にはゲーム機とか無いと思っていたけど、実は二世代ほど前のゲーム機がホコリを被ったまま家の中に放置されていたのだ。コントローラも四人分ある。

 

「うわー、なっつかし~! これ、俺が小学生の頃のやつだ! マミ先輩、こんなの持ってたんスね!」

 

「ええ、まだ魔法少女になる前はパパとママや家に来た友達なんかとよく遊んでたわ。魔法少女になってからは忙しくなって一緒に遊ぶ友達もいなくなっちゃったし、一人でする気にもならなかったから……」

 

 その話を聞き、四人とも静かになってしまう。マミ先輩、ホントに長いことしんどい思いしてきたんだな……今までの苦労が偲ばれる。

 

「心配すんなよマミさん、今はあたしたちがいるからさ。一人じゃないよ」

 

「そうそう! 今まで遊べなかった分いっぱい遊んじゃいましょーよ、マミさん!」

 

 杏子とさやちゃんが各々の言葉で励ましつつ、コントローラを握る。

 ちなみにさやちゃんのゲームの腕は人並み、って感じだ。

 杏子はゲーセンに通い詰めていたみたいだし、たぶん家庭用も上手いだろう。

 ほむちゃんはドがつく初心者で、マミ先輩は未知数だ。

 結構ゲームの腕にバラつきがあるメンバーっぽいな。

 

「私、ゲームなんて殆どやったことないのだけれど、大丈夫かしら……」

 

「大丈夫だよ、ほむちゃん。同時に遊べるのは四人までだから、俺がついて色々教えるよ」

 

 そう言って俺はほむちゃんの後ろについて、アドバイス役になることにした。

 それと同時に運要素と逆転要素の強いゲームを適当に見繕い、みんなに見せる。

 

「みんな、やるゲームこれでいいかな? これなら腕前に差があってもいい勝負になると思うんだけど」

 

「いいと思うわ。私、このゲーム好きだったのよね」

 

「異論ねえ」

 

「あたしも何でもいいよ」

 

「わからないから任せるわ」

 

 四者四様の賛同意見が出たので、さっそくゲームソフトを差し込み電源を入れる。

 結構前のゲームなので、俺にとっても非常に懐かしい。

 俺はほむちゃんの手を取りながら操作を教える。

 

「これは敵を場外に吹っ飛ばすと勝ちのゲームなんだ、まず、このボタンでキャラクターを決めて……」

 

「ちょ、ちょっと、近すぎるわまどか……」

 

「あ、ごめんごめん、やりづらいよな」

 

「いえ、大丈夫よ、気にしないで……」

 

 ほむちゃんは初めてとは思えないくらい覚えが早く、いい戦いも結構していたんだけど、たまに『うぅ……』って言ってうつむきながら動きが止まってしまう時があった。やっぱり初めてだから緊張とかがあったのかな。そんなほむちゃんの姿をみんな微笑ましい様子で見ていた。

 途中からは俺も一位を取った人と交代で入ったりして、みんな交代で回しながらゲームを楽しんでいた。気付いた頃には、すっかり外は暗くなっていた。

 

「わ、もうこんな時間か。そろそろ帰らなきゃ」

 

「楽しい時間って、とても過ぎるのが早いわね……今回みたいに豪華な食事はご馳走できないけど、今度またみんなで集まって遊びましょ?」

 

「いいっスね! まだやってないゲームもいっぱいあるし!」

 

「それじゃあ、私達は帰るわ。またね、巴さん」

 

 そう言って俺とさやちゃんとほむちゃんは帰り支度をする。

 杏子も俺達と一緒に立ち上がるが、すぐにもう一度座り直した。

 

「あっ、あたしは出ていく必要ないのか。今日からここに住むんだから」

 

「あはははっ、も~、しっかりしなよ杏子!」

 

 さやちゃんの笑い声を皮切りに、笑いが伝染していき……みんなで一緒に笑い合う。

 ああ、本当に……楽しい時間だった。

 

 ・・・・・・

 

 そんな想い出を反芻していると、突然スマホに着信が入った。ほむちゃんからだ。

 

「もしもし、ほむちゃん。どうしたの?」

 

「まどか……今、暇かしら?」

 

「暇も暇、大ヒマだよ。やること何にもなくて困ってるところ」

 

「それなら……あのっ、よかったら今日、私の家に来ない?」

 

 それは願ってもいない遊びのお誘いだった。友達の家は台風の影響で各々大変そうだし、マミ先輩と杏子も色々な手続きを控えてて忙しいって言ってたから遊びに誘えなかったところだ。

 

「マジで! 行く行くー! 今すぐ行くわ!!」

 

 そういって通話を切り、さっそく出掛ける支度を始める。

 久しぶりにほむちゃんの顔が見れる。嬉しい! 

 ほむちゃんの家なんにもないっぽかったし、とりあえず家にある遊び道具いくつか持っていこう。今日はほむちゃんの家で二人っきりで遊ぶのか。なんかドキドキするな。

 ……なんでドキドキしてるんだろう。俺。なんか最近ほむちゃんの事考えると、こうなっちゃう気がする。一応、思い当たる節はあるんだけど……どうなんだろうな。

 俺は自分の中のモヤモヤした気持ちに、未だに確信を持つことが出来ないでいた。

 

 ・・・・・・

 

 暁美ほむら

 

 ついに、ついに呼んでしまった。

 通話が切れても、ずっと心臓がバクバクしている。

 以前は半ば事故のようにしてまどかを家に迎え入れたわけだけど、今回は違う。

 自発的に呼んだのだ。呼んでから何をしようとかは、考えていない。ただ、無性に会いたかった。顔が見たかった。

 なんとなく、頭に着けている白いリボンに触れる。あの時、『まどか』と逢えたことで、自分の気持ちに整理がついた。ついてしまった。

 私は……まどかの事が好きだ。それは『まどか』に抱いていた親愛の気持ちとはまた、種類が違うものだ。もっと熱くて、止まらない気持ち。熱すぎて、制御できない気持ち……いわゆる『恋』と呼ばれるものなんだろう。

 

 まどかが愛おしいって思う。愛されたいって思う。近くにいたいって思う。もっと触れ合いたいって思う。気持ちを通わせたいって思う。

 でも、こんな気持ちになった経験は初めてで……その気持ちとどう向き合っていいか分からないまま、ここ数日は悶々とした日々を送っていた。

 でも……それじゃ駄目だ。行動を起こさなきゃ何も変わらない。そう思って、思い切ってまどかに電話をかけた。まどかは即決で快く誘いを受けてくれた。

 

 ──まどかは私のこと、どう思っているんだろう。

 仲のいい友達? それとも……。

 いや、考えるのはやめよう。どちらにしても、私の気持ちは変わらないから。

 私は、自分の気持ちに整理をつけた。だから──勇気を出そう。

 歩みたい未来に一歩踏み出すために。


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