まどマギ見たことねえんだけど、どうやら俺は主人公らしい 作:東頭鎖国
「……さっきから魔法少女だのなんだのって言ってますけど、それってなんなんスか? 一体」
一人でショックを受けている俺をよそに、さやちゃんが至極もっともな質問をぶつける。
「そうね……あなた達もキュゥべえに選ばれたみたいだし、そのあたりも説明する必要がありそうかしら」
そう言うと、金髪の人──巴マミさんの身体は一瞬光り……魔法少女の服から、見滝原の制服に戻っていた。
「こんなところで話すのもなんだし……もしよかったら、私の家に来ない? お茶くらいはご馳走するわよ」
・・・・・・
そんなこんなで、巴マミ先輩の家にお呼ばれしたわけである。
綺麗で片付いていて、上品な女の子! って感じの印象の家だった。
聞くところによると一人暮らしだから、インテリアも全部自分でやっているらしい。すごい人だ。
「お茶めっちゃウマいっすね! ケーキも! おかわり!」
「あんたちょっとは遠慮しなさいよ! もうお茶5杯目じゃん!」
「うふふ、ありがとう。喜んでくれて嬉しいわ。それで、本題なんだけど……」
「本題?」
「……あんたまさか、忘れてたわけじゃないでしょうね?」
「あっ……いや、覚えてたぞ! 魔法少女の話だよな!」
危ない危ない、お茶とケーキが美味しすぎて忘れるところだった。
さやちゃんが「ぜったい直前まで忘れてた……」って言いたそうな顔をしているけど、結果的に思い出したからセーフ。
「そうよ。キュゥべえに選ばれた以上、あなた達にとっても他人事じゃないから」
マミ先輩はお茶のおかわりを注ぎながら話してくれる。
この人、めっちゃいい人かもしれん。初対面の俺達を助けてくれただけじゃなくて、お茶とケーキまでご馳走してくれるなんて。
「まず魔法少女っていうのはね、キュゥべえと契約をした人たちのことを言うの」
「契約って?」
「ああ、その辺の話もしていなかったわね」
キュゥべえがマミ先輩の膝の上からぴょこっと顔を出し、先輩の代わりに言葉を続ける。
「僕と契約して魔法少女になれば、君たちの願いをなんでも一つ叶えてあげる」
「願いをなんでも一つ?」
「ああ、なんだって構わない。どんな奇跡だって起こしてあげるよ」
「まるで伝説上の生き物だな……でも、それだけじゃないんだろ?」
「ああ。僕と契約して魔法少女になったものには、魔女と戦う使命が課せられる」
「魔女って、全身黒い服着てイーッヒッヒッヒ! って言いながら大鍋グツグツかき混ぜてるみたいな、あの?」
「うーん、そういう典型的な魔女、って感じではないわね。そもそも人型をしていない事も多いし」
マミ先輩は苦笑しながら言う。
「こればっかりは、実際に見てもらったほうが早いわね」
「実際に」
「見てもらう?」
「そこで提案なんだけど……魔法少女体験コース、なんてどうかしら?」
・・・・・・
もう外も暗くなりだしたため、その場はとりあえず一度お開きになった。
『すぐに結論を出さなくてもいいけど、もし決心がついたら教えてちょうだいね』
とマミさんは言ってくれた。
「魔法少女体験コースねえ」
「まどか、アンタどうする?」
「んー」
正直、魔法少女になる理由もない。魔法少女になって叶えたい願いもない。
でも──マミ先輩、このままだと首取れて死ぬんだよな……近い未来に。それこそ、明日でもおかしくない。マミ先輩、美人だしいい人だったよな……死んでほしく、ないな。
「俺はとりあえず、ついていってみるよ」
多分、一緒にいたほうがいい。近いうちに死ぬ可能性が高いっていう事実を知っているのは俺だけだ。何も出来ないかもしれないけど、何かしらはできるかもしれない。
……それに、ワクワクしている気持ちもある。マジでアニメの設定みたいなことが現実で起きている! その渦中に、俺がいる! 心の中の高揚は、今持っている危機感に勝るとも劣らないものがあった。
「そっか。そんじゃあたしも行くわ」
「さやちゃんも? やっぱ魔法少女とか興味ある系?」
「いや、特に今はないんだけど……やっぱり知っておきたいってのはあるかな」
「あ、俺も同じ感じ!」
「それに、あんた一人で連れてったらマミさんに迷惑かけそうだし。放っとけないっての」
「さやちゃん俺のこと何だと思ってんの!?」
「ん~……手のかかる妹かなぁ」
「なに~!?」
なんだか釈然としない。俺、一応前世も含めたらさやちゃんより年上なんだが?
なんにせよ、さやちゃんも一緒に来てくれるのは頼もしかった。それにさやちゃんも魔法少女になる可能性大だから、近くで見ているに越したことはないと思った。
……もしさやちゃんが魔法少女になるんだったら、一体どんな願いで魔法少女になるんだろう?
・・・・・・
翌日。
「ふぃ~、今日も遅刻ギリギリ……い゛ッ!?」
教室に着くと、俺の机にキュゥべえが鎮座していた。
「やあ、おはようまどか」
「おま、なんでここにッ……!」
(落ち着きなよ、まどか)
「え!?」
頭の中にさやちゃんの声が響く。思わずさやちゃんの方を見ると、にかっと笑いながら手を振ってきた。
(キュゥべえを中継して、こうやって頭の中で考えるだけで会話とかできるみたいだよ。さっきマミさんに教えてもらったんだ)
(マジか……あと、クラスのみんながここにいるはずのキュゥべえに無反応なんだけど、これって)
(見えてないよ。どうやら、魔法少女の才能がある子にしか姿が見えないみたい)
半信半疑でテレパシーを送ってみると、返事が返ってくる。本格的に魔法感があるムーブになってきたな……あ、そうだ。
(なあキュゥべえ。これって、俺とさやちゃん以外とも喋れるの?)
(魔法少女か、その才能を持っている人間なら可能だよ。もちろん、マミと話すこともできる)
ほう、なるほど。じゃあ、もしかして……。
(イェーイ、ほむちゃん聞こえる~?)
……反応がない。聞こえていないのか、それともしらばっくれているのか。
(暁美ほむらには聞こえないよ。彼女は危険だ、流石に念話を仲介してあげるわけにはいかない。今は人目もあるから仕掛けてこないけれど、いつ何があっても不思議じゃないからね)
うーん、駄目か。イケると思ったんだけど……。
っていうか、やっぱりテレパシーの内容ってキュゥべえに筒抜けなんだな。
・・・・・・
その後は特に大きな出来事もなく、お昼休みになった。
人のいないところで魔法少女の件についてゆっくり話したかったため、さやちゃんと一緒に屋上に向かう。
いつも一緒に弁当食ってるとみちゃんを仲間外れにするようで心苦しかったけど、
「今日はさやちゃんと二人で弁当食いたい気分なんだ。ちょっと秘密の話があってさ」
って言ったら『二人の仲はいつの間にかそこまで進んでいましたのね~!』って意味わからん事言って走り去っていったので、俺とさやちゃんは二人で顔を見合わせた。
まあ、そんなことはどうでもいい。
「結局、願いとかって決まったん? さやちゃん」
「んー、あたしは結局、決まってないな。まどかは?」
「俺もないな。なんか軽々と決めていいことじゃないと思うんだよ、こういうの。タダで叶えてもらうってわけでもないみたいだしな。魔女、っていうのと戦わさせられるんだっけ?」
屋上までひょこひょこ歩いてついてきたキュゥべえに向かって俺は訊く。
そのへんの詳しい説明をまだしてもらってない。
「ああ。願いの対価として君たちは魔法少女となって、魔女と戦ってもらうことになる」
「……それって、やっぱ危なかったりするんだよな?」
「えぇ、命懸けよ」
その問いに答えたのは、キュゥべえではなかった。
たった今屋上に入ってきた、三人目の人間。
「ほむちゃん!」
ほむちゃんが屋上にやってくると同時にキュゥべえは俺の後ろに隠れ、さやちゃんが身構える。
「アンタ、何しにきたのさ。転校生」
「別に、ただ忠告しに来ただけよ。魔法少女として」
「キュゥべえを殺そうとしたアンタの言葉を聞けっての? 悪いけど、信用できないね」
ほむちゃんとさやちゃんの間に、バチバチと火花が散る。キュゥべえは何考えてるのかわかんない無表情でじっと二人を見ていた。こいつ、怖がったりしないのな……肝が据わっているのか、それともただ何にも考えていないのか。
「ま、まあまあ! 二人共落ち着いて。ほむちゃんもケンカしに来たわけじゃないんだろ?」
「……ええ、そうね」
「でもまどか、こいつ放っといたらキュゥべえのこと殺すかもしれないんだよ!?」
「別に、もうそいつに手を出す気はないわ。意味がないもの。本当はそいつが鹿目まどかと接触する前にケリをつけたかったけど、それももう手遅れだし」
「なんで俺とキュゥべえが接触しちゃいけないんだ?」
「……答える必要はないわ」
「そっか~……それじゃあ、質問変えよう。ほむちゃんの好きな食べ物ってなに?」
「……え?」
ほむちゃんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
まあ当たり前だろう。いきなり突拍子もないこと聞かれたら誰だってこんな顔すると思う。
「まどか、いきなり何言ってんの!?」
「いやさ。ほむちゃんが魔法少女関係のことについて話したくないのはわかったから、魔法少女関係じゃないことなら喋ってくれるかと思ってさ」
「そんなこと聞いてどうするのさ、こいつはキュゥべえを襲ったんだよ!? 絶対悪いやつに決まってる!」
「いや……まだわかんないんだよ。だって俺達、ほむちゃんがどんな人間か知らないから。だからお喋りしたい。どんなしょうもないことでもいいから、ほむちゃんのことを知りたい……それじゃ駄目か?」
「……ごめんなさい、今日は、無理よ。それじゃ、さよなら」
ほむちゃんは後ろを向き、俺の顔を見ないまま答える。
そのまま足早に屋上から立ち去っていった。
「駄目かぁ、今度こそちゃんとお喋りしたかったんだけど」
「まどか、なんであんなヤツの肩持つのさ。怪しいし愛想もないし、キュゥべえ襲った前科もあるのに」
「さっき言った通り、どんな子かちゃんとわかんないからだよ。もし本当に悪いやつだったら会話なんてしないでいきなり襲ってくると思うし」
「それは確かに、そうかもしれないけど」
「それに……」
「それに?」
「すっげえ美人さんだしな!」
俺の発言に、さやちゃんが思わずズッコケる。
「本音はそれかい!! そういやアンタ、昔から『美人に悪い人はいない!』とか言ってたけど、あれ本気だったの!?」
「本気も本気、大マジよ。ほむちゃん以外で俺が知ってる美人っつったらまずお母ちゃんだろ? それにさやちゃんとみちゃん、あとマミ先輩。ほら全員めっちゃいい人」
「あ、あたしも入ってるの?」
さやちゃんが困惑気味に言う。何を今更?
本人には自覚が足りてないけど、さやちゃんはめっちゃ美人だ。
過ぎた謙遜は卑屈だということをいいかげん自覚していただきたい。
「だってさやちゃん、めっちゃ美人でめっちゃ良いやつじゃん」
「あ、あたしは美人なんてガラじゃねーだろ……そういうので茶化すのやめろって」
「茶化してないんだけど」
「あ~、もうこの話はやめよう! ハイ、やめやめ! とっとと弁当食うよ! お昼休みが終わっちゃうから!」
さやちゃんが顔を赤くしながら強引に話を打ち切り、弁当に手を付ける。
美人はいい人理論、完璧だと思うんだけどなあ。そもそも俺が美人って言っているのはただ顔立ちが整っているだけじゃなくて、もっと総合的な……いや、やめよう。
この話めっちゃ長くなるから、どうせ誰にも話すことないだろうしな……。
・・・・・・
──暁美ほむら
私は逃げるように立ち去った。屋上のドアを閉めてからは、走った。走って走って、私が辿り着いたのは人目につかない校舎裏だった。心を落ち着けるために、少しでも一人になれる時間が欲しかった。
……心臓が、まだドキドキしている。
まどかにあんなに優しく歩み寄られたことは、久しくなかった。
いつも私は怯えられ、困惑されるばかりで、ループを繰り返す度にまどかと私の心の距離はどんどん離れていく。
いつしか私は、まどかと深く関わることを諦めていた。割り切るように努めていた。例えどれだけまどかに突き放され、嫌われたとしても絶対に守ってみせると。
それなのに……ちょっと優しくされただけで、きっぱり突き放せないで、そのまま逃げて。
……なにより、どうしようもなく嬉しいと感じてしまう自分が情けなくなった。あまりにも、単純すぎて。
今のまどかは異質だ。これまでのどのループとも違う、ともすれば別人と言っても良い人間性……それなのに優しいところだけは、誰にでも手を差し伸べようとするところだけは今までのまどかと同じだった。
だからこそ心配だった。今までと同じなら、まどかはちょっとしたキッカケさえあれば魔法少女になってしまうだろう。それも自分のためではなく、誰かのために自らを犠牲にして。
──そして今、私の目の前に現れた女も……そのキッカケになりうる人物だった。
「さて。こんなところで何をしているのかしら、転校生さん?」
「……巴、マミ」
この見滝原でもっとも強く、もっとも厄介な人物。
そして……かつて私が尊敬していた人。