まどマギ見たことねえんだけど、どうやら俺は主人公らしい   作:東頭鎖国

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5話

 ──暁美ほむら

 

「巴、マミ」

 

「あら、知っていたの。光栄ね、暁美ほむらさん?」

 

「……何故、私の名前を?」

 

「鹿目さんたちから聞いたの。それに、さっきの会話も遠くから聞かせてもらったわ。コソコソするようで悪いけど、キュゥべえに危害を加えかねないあなたを野放しにはできないでしょう?」

 

「聞いているなら、話は早いわ。私はもうアイツに危害を加えるつもりはないわ」

 

「その話、信用できると思って? と、言いたいところだけど……いいわ、信じてあげる」

 

「……なぜ?」

 

 正直、予想外だった。有無を言わさず敵対すると思っていたからだ。

 巴マミにとってキュゥべえは孤独を癒やす数少ない存在。私はそれを奪おうとしたのだから。

 実際、昨日の時点では怒りを露わにしていた。

 

「キュゥべえを狙う動機なんて、だいたい予想がつくもの。自分より才能のある魔法少女を生み出したくなかった……でしょう? 暁美さん」

 

「……」

 

「沈黙は肯定と受け取るわよ」

 

 実際のところは違うけど、もっともな推理だ。それに反論する材料を私は持っていない。

 違う、と言ったところで彼女は信じないだろうし、本当のことを言うなんて論外。

 彼女が出した結論は覆すことは出来ない。巴マミの中での私のイメージは狭量で卑劣な女、というもので固定されるだろう。心の中で舌打ちをする。

 彼女は一見穏やかで優しい人物に見えて、根本の価値観はかなりシビアだ。

 早いうちに両親を亡くし、友人とも疎遠になりながらも心折れることなく魔法少女として戦い抜いてきた彼女は、戦闘歴という点では群を抜いている。

 私のように、キュゥべえを狙う魔法少女とも戦ったことがあるのだろう。そうでなければ、このような結論は出せない。

 味方でいるうちは心強いが、敵に回すとこれ以上ないほど厄介な存在だった。

 

「でも、鹿目さんは貴女のことを信じたいみたいね。今回は鹿目さんの顔に免じて見逃してあげる。でも……次はないわよ?」

 

 巴マミが立ち去り、私は大きく息を吐く。

 一度敵対してしまった以上、今回も彼女が味方についてくれることはないだろう。

 それは元から期待していないし、悲観もしていない。本当に頼れるのは自分だけだから。

 即座に戦闘にならないだけ御の字といったところだろう。

 冷静で強かな女。おそらく単体での戦闘力なら、魔法少女最強の存在。

 

 ──そんな彼女でも、死ぬ時はあっさりと死ぬ。

 

 彼女の死も、まどかが魔法少女になるトリガーとしては十分すぎる出来事になってしまう。

 巴マミが死ぬ危険性が高い魔女が出てくるまで、もう猶予がない。巴マミに先んじてその魔女を仕留めることがベストだけれど、そう上手くいくとも思えない。

 

「……はぁ」

 

 もう一度、大きくため息をつく。焦燥感だけが募る。今回も、分が悪い。

 でも諦めるわけには、立ち止まるわけにはいかない。

 巴マミが死んだら、その時はその時だ。まどかが魔法少女にならないよう、全力で止めるだけ。

 目的を見誤ってはいけない。私の目的はまどかを守ること。

 それだけが今の私の存在理由だから。

 

 ・・・・・・

 

 ──鹿目まどか

 

 あっという間に時は過ぎ、放課後。

 俺とさやちゃんはマミ先輩の家にやって来ていた。

 

「魔法少女体験コース、ついてきてくれる気になったみたいね」

 

「はい、俺もさやちゃんも魔法少女になるかどうかとかまだなーんにも考えてないけど。どんな感じで活動してるのかとか、結局魔女ってなんなのかとか色々知りたくて」

 

「ふふ、それでいいのよ。願いを叶えるチャンスは一度きりしかないし、叶えた後も魔法少女として活動するのって結構大変なものだから。そのあたりもちゃんと知っておくと良いわ。それじゃあ早速、行きましょうか」

 

 マミ先輩がそう言うと、彼女の着けている指輪が光りだし、卵みたいな形の宝石へと姿を変える。

 

「すげぇ! なんだそれ!?」

 

「これはソウルジェムっていって、魔法少女であることの証よ。魔法少女が魔法を使うには、これが必要不可欠なの。魔女を探すときなんかもこれを使うのよ」

 

「きれい……」

 

 さやちゃんが見惚れている。確かに綺麗だ。

 ソウルジェム……魂の宝石かぁ。なんかちょっとカッコイイな。魔法少女はみんな魔法少女魂を燃やして戦うってわけだ。

 なんかそう言うと熱血アニメみたいだな。暗い話って聞いてたはずなんだけど。

 もしかして、ダークヒーロー系とかそういうやつ? ほむちゃんとかそんな感じの雰囲気あるし。

 

「さぁ、魔女を探しに出かけるわよ」

 

 ・・・・・・

 

 マミ先輩はソウルジェムを掌に乗せながら探索を始める。

 俺達はそれにカルガモのようにひょこひょこついていく感じだ。

 

「結局魔女ってなんなんですか? 魔法少女とは違うんですか?」

 

「願いから産まれるのが魔法少女ならば、魔女は呪いから産まれた存在なんだ」

 

「おわっ! アンタいたの!?」

 

 さやちゃんの疑問に答えたのは、マミ先輩ではなくキュゥべえだった。

 いつの間にか付いてきていたらしい。こいつ、ホントどこからともなく出てくるんだよな……。

 

「魔法少女が希望を振りまく存在なら、魔女は絶望を撒き散らす。それも、普通の人間には姿が見えないからタチが悪い。それでいて獲物と決めた人間に不安や猜疑心、それに過剰な怒りや憎しみをもたらすんだ」

 

「理由のハッキリしない自殺や殺人事件の大半は魔女の仕業なのよ。神隠しって言われるような行方不明事件なんかも、大抵はそう。直接的に魔女の犠牲になった人は死体すら残らないから」

 

「それ、もしかしなくても放っておいたらヤバいやつなんじゃ?」

 

「そういった被害を抑えるために私達魔法少女がいるのよ……と、どうやらビンゴみたいね」

 

 マミ先輩が足を止める。どうやら魔女の居場所を突き止めたらしいけど、俺には何もない空間にしか見えない。さやちゃんも俺と同じ認識のようで、目を見合わせる。

 しかしその認識は一瞬で覆される。景色が霞み、歪んでいったからだ。

 

「マ、マミさん、これってあの時の!?」

 

「ええ、これが魔女の結界。ここに人間を取り込み、獲物にするのが魔女の習性なの。決して自分から人前には出ないからこちらから探す必要があるわけ」

 

 驚くさやちゃんとは対照的に、マミ先輩は努めて落ち着き払っている。

 こんなものは日常風景だと言わんばかりの様子だった。

 

「じゃあ、昨日の俺達はこの結界ってのに取り込まれてた状況だったんだな」

 

「そういうこと。二人共、結構危なかったのよ? 普通は生きて帰れないから。一緒にいた暁美さんもあなた達を守るとは限らないし、仮にそうしたとしても対価を求めないとも限らないから」

 

「対価って……お金ってこと?」

 

「ええ。魔法少女の力っていうのは使おうと思えばいくらでも私欲を満たすために使えるから、そういうことをする人も少なくないわ。さて……お喋りはここまで、いくわよ、魔女退治!」

 

 そう言ってマミ先輩は欠片の恐れも見せずにずんずんと進んでいく。

 昨日見たまんじゅうの化け物やヒゲ生えた蝶みたいな化け物とかが邪魔してくるが、そんなものは意にも介さず次々と魔法の銃で仕留めていく。

 

「すげえ! 魔女がいっぱいいるのに相手になんねぇ!」

 

「これは魔女じゃないわ、ただの使い魔。本命はもっと手強いわよ……と。噂をすればなんとやら、かしら」

 

 マミ先輩がドアを開けると、開けた場所に出る。そこには無数の薔薇と……クソでかい化け物がいた。

 

「うへぇ、グロっ」

 

 さやちゃんがドン引きしている。無理もない。

 目の前の化け物は今まで見たどんな生き物にも該当しない、珍妙不可思議な姿をしていた。

 なんか頭は薔薇がいっぱい入ったドロドロのゼリーみたいになってるし、胴体はチューリップの球根みたいな形してるし、足もひげ根みたいな形してるし。

 それに背中には蝶の羽が生えてるし……全てがチグハグで、不気味な姿だった。

 

「マミ先輩、あれが魔女!? なんかイメージしてたやつと全然違うんだけど!」

 

「だから、実際見たほうが早いって言ったでしょう? これが魔法少女が倒すべき相手。人間に仇なす怪物よ!」

 

 マミ先輩は勢いよく跳び、両手を広げる。すると不思議なことに空中に大量の魔法銃が生成され、それら全ての銃口が魔女に向く。

 

無限の魔弾(パロットラ マギカ エドゥ インフィニータ)!」

 

 魔女の頭上に銃弾の雨が降り注ぐ。これが、マミ先輩の魔法! 

 銃撃で巻き上がった煙で魔女の姿は見えないが、これだけくらえば無事では済むまい。

 しかし、その予想は完全に外れる事となる。煙の中から素早く触手が伸び、先輩の身体に絡みついたのだ! 

 

「きゃあっ!?」

 

「マミさん!」

 

「先輩!」

 

 魔女はそのまま先輩を振り回し、遠心力を利用して思い切り壁に叩きつける。

 

「かはっ……!」

 

 背中をしたたかに打ち付け、先輩が肺の中の空気を吐き出す。

 常人ならしばらくは動けないダメージだ。触手で拘束され、身動きも制限されている絶望的な状況。まさか、ここか? ここが先輩の死に場所なのか!? 

 

「大丈夫よ! 危ないから下がってて!」

 

 思わず駆け寄ろうとするが、他でもないマミ先輩に止められる。

 

「そんな顔しなくても大丈夫……未来の後輩に、あんまりカッコ悪いところ見せられないもんね!」

 

 そう言うとマミ先輩は首元のリボンを外し、一振りすることで触手の拘束を断ち切る。

 そのままリボンは大きく膨らみ、先輩の身の丈よりも大きい銃へと姿を変える。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 掛け声と同時に放たれた巨大な銃弾は魔女の頭を吹き飛ばし、そのまま全身を爆散させた。

 魔女の姿は、もはやチリ一つ残っていない。先輩の完全勝利だ! 

 

「か、勝ったの? マミさん!」

 

「か、かっけええ~~~~!! すげー! マミ先輩!」

 

「うふふ、ありがとう。あなた達が見てるから、ちょっとだけ普段よりも頑張っちゃった」

 

 魔女をやっつけたからか、風景が元の町並みに戻っていく。

 激闘を制したにも関わらず、マミ先輩は普段と変わらずニコニコ笑顔だった。

 どこからともなく紅茶を取り出し、優雅に口にする余裕すらある。

 

「さて、と」

 

 先輩は地面に落ちている、何か黒いものを拾う。

 それは……例えるなら、300円くらいのガシャポンから出てくるキーホルダーみたいなデザインをしていた。

 

「先輩、これは?」

 

「これはグリーフシード。魔女の卵よ」

 

「げっ、卵!? じゃあ、それもヤバいんじゃないの?」

 

「大丈夫、その状態では安全だよ。むしろ役に立つ貴重なものだ」

 

 キュゥべえが代わりに説明する。こいつ、マミ先輩が戦っている間もずっとノーリアクションだったな。仲良さそうだし、ちょっとくらい心配してもよさそうなもんだけど。それとも負けるとは微塵も思ってない信頼の表れだったりするんだろうか? 

 

「役に立つって、孵化させたら仲間にできるとかそういうやつ?」

 

「それはないでしょまどか、ゲームじゃないんだから……」

 

「うふふ、ユニークな発想ね鹿目さん。でも外れ。それより、私のソウルジェムを見てみてちょうだい?」

 

「……ちょっと、汚れてる?」

 

「汚れてるっていうか……黒くくすんでるよ、これ。宝石の外じゃなくて、中が」

 

「よく見ているわね、美樹さん。そう、ソウルジェムは消耗するとこうやって内側に穢れが溜まっていくの。でもグリーフシードがあれば、ほらこの通り」

 

 そう言って先輩が自らのソウルジェムにグリーフシードを押し当てると、穢れはグリーフシードに移り、ソウルジェムは再び綺麗な輝きを取り戻す。

 

「こうすれば、消耗した魔力も元通り。魔法を使うだけじゃなくて、普通に暮らしているだけでもソウルジェムは少しずつ濁っていくの。でも魔女を倒してグリーフシードを手に入れればソウルジェムが綺麗になって、今まで通り魔法を使える。これが魔女退治の見返りってわけ」

 

「濁ると、どうなるんスか?」

 

「そうね……体の動きが重くなるし、魔法の力も衰えるわね。だから常に綺麗な状態を保っておきたいところではあるわ」

 

「じゃあもし、濁りきって真っ黒になった場合は?」

 

「そうなった状態を見たことがないから分からないわね。もしかしてキュゥべえなら知──」

 

「マミ、話は後だ!」

 

 マミさんの言葉を遮り、キュゥべえが叫ぶ。

 なんだよ、せっかく気になるのに。

 

「ええ、分かってるわ。悪いけど、先を越させてもらったわよ──暁美さん?」

 

「あ、ほむちゃん!!」

 

 ほむちゃんが俺たちの後ろに立っていた。

 そういや、この子も魔法少女だった。マミさんと同じく、魔女の居場所を特定してここに来たのだろうか? それとも、目的は俺だったり……いや、それは自意識過剰か。

 まあ、目的自体はどうでもいい。今重要なのは、この場の雰囲気が最悪なことだ。

 マミ先輩がすごく強いのはさっき見たし、ほむちゃんも魔法少女ってことは多分同じくらい強い。この二人がケンカしたら、ただのケンカじゃなくて命のやり取りになっちゃいそうで怖い。

 マミ先輩とほむちゃん、どうか穏便に済んでくれ~~!!

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