まどマギ見たことねえんだけど、どうやら俺は主人公らしい   作:東頭鎖国

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6話

 一体どうなるのかハラハラしながら見ていたら、マミ先輩が突然、グリーフシードをほむちゃんに投げ渡した。

 

「あなたにあげるわ。後一回くらいなら使えるはずよ」

 

 それは、マミ先輩の好意だったのだろう。しかしほむちゃんは、グリーフシードをそのまま先輩に投げ返す。

 

「あなたの獲物よ。あなただけの物にすればいい」

 

 ほむちゃんはそれだけ言うと、背を向けてそのまま立ち去っていった。

 

「……そう。それがあなたの答えなのね」

 

「結局何しに来たんだ、転校生のヤツ……?」

 

 さやちゃんが怪訝そうな顔でその背中を見送る。

 マミ先輩はため息をつきながら、自分の推論を説明してくれた。

 

「おおかた獲物を先取りされた、ってところでしょうね。グリーフシードは魔女一体につき一つ。友好関係にない魔法少女同士だと、取り合いになることも少なくないの」

 

「でもさっき、マミさんは転校生にグリーフシードをあげようとしてましたよね?」

 

「ええ。だって余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない? 確かにあの子は危険だし、思うところもあるけど……私だって進んで魔法少女同士で戦いたいと思わないもの。お互いに何の得もないし、痛くて、虚しくて……悲しいだけだから」

 

 マミ先輩は神妙な顔でそう語る。

 俺はふと気になって、先輩に問いかける。

 

「先輩は、魔法少女同士で戦ったことあるんですか?」

 

「ええ、何度か。見滝原を縄張りにするために私を排除しようとした子を追い払った時もあるし、魔女を倒した直後にグリーフシードを奪われそうになって、返り討ちにしたこともあるわ。もちろん、トドメは刺さなかったけど。あとは……」

 

「あとは?」

 

「……いえ、何でもないわ。とにかく魔法少女同士で戦うなんて、本当は避けたいことなの」

 

 そう言って誤魔化すマミ先輩の表情は困ったような笑顔で、何故かやけに寂しそうに見えた。

 

「俺はほむちゃんとマミ先輩で仲良くしてほしいけどな」

 

「お互いにそう思えれば、ね。鹿目さんには悪いけど私は暁美さんの事を信用できないし、あちらも私と仲良くする気はないみたいだから」

 

「そっか……」

 

 なんだか、寂しいな。結局みんなまともにほむちゃんと話が出来てないから、信用に足る材料がないってことか。俺がほむちゃんの肩を持つのも、美人のエコヒイキってだけじゃねーかって言われたら反論しづらいし。

 ……でも、なんだか放っておけないんだよな~、あの子……。

 

「……あ、良いこと思いついた!」

 

「え?」

 

 マミ先輩がきょとんとした顔をしている。

 さやちゃんだけは俺が何をしようとしているか気付いたようで、ぎょっとした表情をしていた。

 

「まどか!? まさかアンタ……」

 

「俺、ほむちゃん追っかけるわ。マミ先輩、今日はありがとうございました! 次行くときはまた呼んでね!」

 

 やっぱり、ちゃんと話しなきゃダメだ! 学校でもなんとなく距離を置かれてるし、放課後になるといつの間にか姿を消してるから、ほむちゃんと喋るチャンスがとにかく少ない。

 今なら、走れば間に合う。このチャンスを逃すわけにはいかない! 

 思い立ったら即行動、俺は走ってほむちゃんを追いかけるのであった。

 

 ・・・・・・

 

 ──巴マミ

 

「……行っちゃったわね」

 

 鹿目さんは全速力で走り出し、あっという間に去っていってしまった。

 

「すいませんマミさん、あいつ、ああいう奴なんで……」

 

 苦笑いしながら美樹さんが言う。

 身内の代わりに謝罪するその様は、まるで保護者のようだった。

 

「いえ、別に気にしてないわ。それにしても、鹿目さんが心配だわ……私、今からでも追いかけたほうがいいかしら」

 

「いや、あいつ足速いから今からじゃ追いつかないですよ。それに、心配はいらないと思います」

 

「それはどうして?」

 

「うーん、それは……まどかだから、かな? あいつバカで向こう見ずで図々しいけど……不思議と人には慕われるんです。だから、あの何考えてるのか分からない転校生相手でもワンチャンあるかな、みたいな?」

 

 心配いらない、と言い切った美樹さんの顔には一点の憂いもなく、本当に鹿目さんのことを信頼しているんだというのが見て取れた。

 信頼……か。私の元を離れて風見野に行ったあの子は、今も元気に暮らしているだろうか。

 本当の意味で信頼できると思った仲間は、彼女が最初で最後だった。

 今は……もう、会えない。どんな顔をして会っていいか、わからない。

 

 だから、惜しみない信頼を送る美樹さんの横顔がやけに眩しく思えた。

 大切にしていたはずなのに、私が久しく失ってしまったものだったから。

 

 ・・・・・・

 

 ──鹿目まどか

 

「ほむちゃ~~ん!!」

 

 全力疾走で追いつく。いやー、ほむちゃんが歩きでよかった。この間みたいにいきなり消えられたりしたら到底追いつけなかっただろう。

 大声で名前を呼ぶと、ほむちゃんの背中がびくっと跳ねる。どうやら聞こえたらしい。

 

「……どうして追ってきたの? まどか」

 

「どうしても何も、話したいから。この間はほむちゃん結局どっか行っちゃったし」

 

「何を、話すというの? あなたと私が話すことなんて、何もないはず」

 

 ほむちゃんは後ずさり、俺との距離を保とうとする。

 理由は分からないけど、俺はやっぱり避けられてるっぽい。

 ……だからどうした。俺はそういう時に遠慮して引き下がらず、逆にグイグイいく。

 ほむちゃんみたいなタイプ相手に引け腰で縮こまってちゃあ、永遠に仲良くなんてなれないと思うからだ。いや嘘、別に誰にでもこんな感じだったわ俺。人によって態度を使い分けられるほど器用じゃない。

 

「俺はあるぞ。まだ好きな食べ物も聞いてないし、ほむちゃんの趣味がなんなのかも知らない。それに話すことなんて、話してるうちに増えてくもんさ」

 

「……」

 

「な? ま、歩きながらで良いから話そうぜ」

 

「……わかったわ」

 

 ほむちゃんは控えめに頷いた。やった! やっとちゃんとお話できる! 

 

「そうこなくっちゃ! それじゃ、好きな食べ物とか教えてくれる?」

 

「好きな食べ物……」

 

 ほむちゃんは少し考えた後、申し訳なさそうにこう言った。

 

「……ごめんなさい、思い当たらないわ。ここのところの食事はカロリーブロックや栄養ゼリーばっかりで、何かを美味しく感じたことなんて久しくないから」

 

 俺は目をぱちくりさせる。なんだその食生活!? 飯を食べることに至上の喜びを感じる俺としては信じられない食生活だ。

 

「へぇ~……だからそんなにスレンダーなのか。でも食べないダイエットは身体に毒だぜ?」

 

「別にダイエットしているわけではないのだけれど……食事の嗜好に凝るよりも、効率的に短時間でエネルギーの摂取を行えるからそうしているだけよ」

 

「すげーな、めっちゃストイックだ。それはそれでちょっとかっこいいな……でもやっぱ、どうせなら美味いもんも食ってほしいな。今度の昼休みに俺の弁当分けるから食ってみてくれよ。ダイエットしてるわけじゃないなら大丈夫だろ? 俺のお父ちゃんの料理、うますぎてひっくり返るぞ」

 

「……大丈夫だけど。本当にいいの?」

 

 ほむちゃんはさっきまでのキリッとした様子からは信じられないくらい控えめに、小さな声で聞き返す。

 

「もちろん。だって美味しいって幸せなことだからな。うまい飯を食うとパワーがついて気合も入って、次の飯まで全力でがんばろー! って気になるんだよ。こういう気持ち、ほむちゃんにも分けてやりたいからな」

 

 よく動きよく学びよく遊びよく食べてよく休む。人生を面白おかしく張り切って過ごす! これが俺のモットーだ。まあ、昔大好きだった漫画の受け売りだけど。

 ……あとまあ、『よく学び』の部分は微妙だけど。好きなことの勉強は楽しいけど、好きじゃないことの勉強って身が入らないからな! 

 前の人生でも全力で実践して、そして全力で死んでいった。だから未練はそんなに無い。

 あれがしたかった、これがしたかったっていう未練はだいたいこっちでも出来ることだし。強いて言えば、突然のことだったからみんなに挨拶出来なかったことくらいかな? まあ死ぬ前に挨拶出来る人のほうが少ないし、それは求めすぎってもんだろう。

 

「幸せ、か……」

 

 ほむちゃんは難しい顔をしている。何やら考え事をしているようだった。

 俺と比べると、普段色んな事を考えながら生きてるんだろうな。ほむちゃん、賢そうだし。

 飯を効率的に済ませてるのも、浮いた時間で色々やってるんだろうな~……。

 

「あ、そういやほむちゃんの趣味ってなに? それも気になってたんだよな」

 

「趣、味……」

 

 そう聞くと、ほむちゃんはさらに難しい顔になってしまった。

 そして数秒の沈黙ののち、愕然とした顔をしながら口を開く。

 

「私……趣味が、ないわ。いえ、昔はあったのかもしれないけど……思い出せない。私が何をして、何を楽しいと思っていたのか、思い出せない……!」

 

「マジか……」

 

 食事の件といい、ほむちゃんはどうやら俺が想像しているよりも重い事情を抱えているようだった。家庭の事情なのか、それとも別の何かなのか俺には分からない。でも、そういうことなら俺に出来ることは一つだ。

 

「それじゃあ今度一緒に遊びに行こうぜ、ほむちゃん」

 

「まどかと、遊びに?」

 

「ああ、色んなところにな。そうすりゃ、何かしら好きなことが見つかるかもしれないだろ?」

 

 ゲーセンでも飯屋でも映画でもウィンドウショッピングでも、とりあえず片っ端から。

 行くべきところはいっぱいあるから、遊び場には困らないのがここ見滝原だ。

 

「でも、そんなことにまどかを付き合わせるわけには……」

 

「いやまあ、ただ俺がほむちゃんと遊びたいだけなんだけどな……ダメかな?」

 

「……」

 

 ほむちゃんは黙り込んでいた。でもイヤとかそういう感じじゃなくて困惑しているような、迷っているような感じだった。どうやら、まんざらダメな感触ってわけでもないらしい。

 

「まあ今すぐに決めなくてもいいよ、そっちも色々忙しいだろうしな……と、もう家に着いちまった」

 

 歩きながら話しているうちに、気づけば家の前まで着いてしまっていた。すっかり日も沈んだし、帰るには丁度いい時間になっちゃったな。

 

「それじゃ、またなほむちゃん! 楽しかった!」

 

「……まどか!」

 

 手を振って玄関まで走ろうとすると、突然ほむちゃんに呼び止められる。

 今まで聞いたほむちゃんの声の中で、一番の大声だった。

 

「どしたん?」

 

「……気をつけて。次の魔女との戦いで、巴マミが死ぬ可能性が高い」

 

「な、なんだって!?」

 

 いきなり、突拍子も無く、衝撃的な事を言われる。

 でもほむちゃんの顔は冗談を言うような感じではなく、至って真剣だった。

 

「それは、どういう……っていうか何でそんな事がわかるんだ?」

 

「うまく説明は出来ないわ……でも、信じて。そして、気をつけて」

 

「信じるよ」

 

 マミ先輩の首が取れて死ぬっていうのは、事前に知っている。

 だから……ほむちゃんの言葉もすっと信じることができた。

 

「俺もマミ先輩が危なくなったら助けられるように頑張るけど、ヤバくなったらほむちゃんが助けに来てくれな! それじゃ、また明日!」

 

「そういうことじゃなくて、巴マミが死んでしまうほど危険だからあなたはこれ以上首を突っ込まないようにしなさいって言おうと……ちょっと、まどか!」

 

 俺は聞こえないふりをして、家の中に入った。

 悪いなほむちゃん、マミ先輩めっちゃいい人だから、俺がちょっと危なくなっても死んじゃいそうになるのを見過ごすわけにはいかないんだわ、やっぱ。

 死んでから後悔したって遅い。勇気一瞬、後悔一生って言うしな! 俺は一生楽しく過ごしたい! だからやりたいようにする! 

 この世界に生を受けてから、俺はそうやって生きると決めたのだ。元のアニメが暗い話だろうが関係ない。俺はハッピーに暮らしてみせるぜ!


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