まどマギ見たことねえんだけど、どうやら俺は主人公らしい 作:東頭鎖国
翌日の昼飯。俺はさやちゃんとマミさんと3人で弁当をつついていた。
ほむちゃんは呼べてない。今の段階だと気まずい空気になるのは目に見えていた。
とみちゃんには前回と同じように断りを入れると、『もはや言葉はいりませんわ。二人でお幸せに~!』と言いながら走り去っていた。どう考えても言葉が足りない気もしたけど、まあ大丈夫だろう。俺とさやちゃんが仲良くするとああいうリアクションをするのはとみちゃんの持ちネタみたいなもんだし。たぶん本気で言ってるわけじゃない。
とみちゃんも本当はさやちゃんの好きな人が誰なのか知ってるだろうしな。というか、クラスで知らない人は当人同士くらいしかいないんじゃないかってレベルだ。さやちゃん、嘘や隠し事するのが致命的に苦手だし相手は相手で死ぬほど鈍いから……。
「そういえば二人とも、願いについて考えてみた?」
「俺はぜーんぜん。さやちゃんは?」
「んー……あたしも悩み中」
結局ほむちゃんと喋ってあー楽しかったなーって思いながらそのまま飯食って風呂入って寝たので、願いのこととかすっかり失念していた。
まあ、どのみち差し迫ったものは今のところ無い。マミ先輩が死にそうになった時に俺が魔法少女だったら都合がいいんだけど、流石にそのためだけに魔法少女になるのは気が引けた。
ほむちゃんは俺が魔法少女になってほしくないみたいな空気出してたし、もし俺が魔法少女になるとしたら本当にギリギリの、どうしようもなくなった時だけにしたい。
「まあ、簡単に思いつくものではないわよね。文字通り一生ものの願いだから。慎重であることに越したことはないわ」
「素朴な疑問なんですけど、マミさんはどんな願い事したんですか? やっぱあたし達みたいに悩んだりしましたか?」
「いえ、即答よ。あの時は選択の余地なんてなかったから」
「あの時?」
「ええ……あの時は車に乗ってお出かけしてたの。パパとママと、私の三人。パパとママはとっても仲が良かったし、私のことを可愛がってくれていた。幸せだったわ。でもあの時、暴走したトラックが正面から突っ込んできて……」
「事故、ですか」
「パパとママは即死だった。私は後部座席にいたから即死は免れたけど、多分あのままだったら死んでたわ。そんな時キュゥべえが現れて……私は願ったの。『生きたい』って」
俺もさやちゃんも、言葉を失っていた。華やかで上品で強くて、普段はそんな事をおくびにも出さないマミ先輩がそんなに壮絶な状況で魔法少女になったとは思っていなかった。
「魔法少女になった事自体は後悔してないわ。でもあの時、私だけが生きたいって願うんじゃなくて、パパもママも救える願い方があったんじゃないかって後悔することは……たまにあるかしら。そうすれば今ごろ、一人ぼっちじゃなかったのかも……なんて。ごめんなさい、暗い話になっちゃったかしら。大丈夫よ、私の中ではもう割り切ってることだから」
俺たちの様子を見て、マミ先輩は取り繕うように笑う。
先輩の弱い部分を初めて見た気がした。多分本人も言う気はなかったんだろうけど。
なんかめっちゃお姉さんみたいな雰囲気を醸し出していたからめっちゃ年上だと思って接してたけど、冷静に考えたら俺らと一歳しか年変わらないんだよな。
なんなら前世含めたら俺より年下じゃん。めっちゃしっかりしてるな、マミ先輩……。
感心すると同時に、無理してそうで心配になる。だから──
「先輩、今度お泊り会とかしようぜ!」
突然の提案に、マミ先輩は目をぱちくりさせていた。
「ど、どうしたの? 藪から棒に」
「いや、一人ぼっちってのがちょっと引っかかって。俺たちもいるじゃんって。なあ、さやちゃん!」
「え、あたしに振る!? でもまあ、そうですよね。あたしたちまだ出会ってそんな経ってないけど、あたしはマミさんのこと好きですよ。すっごく頼れるし、尊敬してます!」
「なー!」
「二人とも……ふふっ、ありがとう。後輩に慰められちゃうなんて。私もまだまだね」
「なに、気にすんなよ。こういうのに先輩も後輩もないんだぜ!」
「なんで偉そうなのよアンタは!」
まあそんな感じで、和やかな空気で昼休みを過ごしていたわけだ。
元のアニメでは『魔法少女の子がひどい目に遭う』らしいんだけど、マミさんの場合ひどい目に遭った末に魔法少女になってるんだけど。これ以上ひどい目に遭うの? 首取れるの? こんな美人でいい人が?
……そりゃ暗い話だよ! シャレにならんわ!!
こうなったら何が何でもマミ先輩に幸せになってもらなきゃ割に合わねえ! 最低限、これ以上不幸な目には遭ってほしくねえ!
ほむちゃんの話だと、マミ先輩の首取れる可能性が高いのは今日。今日の放課後が今後マミ先輩がどうなるか、ひいては俺がハッピーに暮らせるかどうかの分水嶺だ。
やるぞ!!
・・・・・・
そして、放課後。
「あー、言いそびれてたんだけど、今日はちょっと合流遅くなります。ごめんなさい!」
さやちゃんは申し訳無さそうにそう言った。
別にいつものことだからいいじゃんって思ったけど、そういやマミさんにはまだ説明してなかったっけ。
「いいよ。見舞いだろ? 終わったら電話で教えてな」
「お見舞い?」
「はい。さやちゃんの好きな男が事故で入院しちゃってて、定期的に通ってるんですよ」
「き、恭介はそんなんじゃねーって何度も言ってるでしょ! それじゃ、また後で!」
さやちゃんは恥ずかしがりながらそう言うと、慌てて走り去っていった。
「恋、か。ふふっ、いいわね美樹さん……青春してるって感じで」
本当に、俺もそう思う。さやちゃんの恋、報われてほしいんだけどな。あんなに健気でいいやつの好意に気づかないって割と絶望的なんだよな……。
まあ、俺は何があってもさやちゃんのこと応援するけど。ジョーのやつもそんなに悪いやつではないしな……女の趣味以外は。
上条恭介。通称ジョー。(そう呼んでるの俺だけだけど)
さやちゃんの想い人で……俺の幼馴染、最後の一人である。
「さ、私達も行きましょうか」
「おっす!」
・・・・・・
マミさんと二人で魔女探索をするも、今日はなかなか見つからなかった。
「いないッスね」
「まあ、毎日見つかるわけではないから。それでもいつ誰がどこで魔女に襲われるかわからないから、パトロールは欠かせないけどね」
「なんか魔法少女ってめちゃくちゃ大変そうに思えてきた……」
「ふふっ、毎日こうしているのは私がやりたいからそうしているだけであって、義務ではないのよ? みんな自分の生活があるし、魔法少女だけやっているわけにはいかないもの」
そんな会話をしていると、さやちゃんから着信があった。
見舞い、終わったのかな。そう思いながら通話を繋げると……。
「まどか、今マミさんと一緒にいる!?」
切羽詰まった声だった。どうやら、何かがあったらしい。俺は通話をスピーカーモードにして、マミさんにも聞こえるようにする。
「いるけど、なんかあったのか?」
「病院の駐輪場に、グリーフシードがあったの! 一緒にいるキュゥべえは孵化するまでにはまだもう少し時間があるって言ってるけど……」
「危険だわ美樹さん、今すぐそこから離れないと結界に巻き込まれるわよ」
「でも、放っておけないよ。ここで魔女が出たら、病院の人が……恭介も危ない! 私がいればマミさんがテレパシーで探って最短距離で魔女のところにたどり着けるから大丈夫ってキュゥべえも言ってる。だから!」
「……わかったわ、今すぐ行くから待ってて!」
マミ先輩がそう言った直後に通話が切れる。さやちゃんが切ったのか、それとも結界が開いて電波の届かない状況に陥ったのか。どちらにせよ、急がなければいけない状況に違いはない。
マミ先輩だけでなく、下手すりゃさやちゃんもひどい目に遭っちまう!
「行くわよ、鹿目さん!」
先輩が走りだし、俺もそれに続く。
「マミさん、さやちゃんのこと止めなくてよかったんスか!?」
「そうしたいところだったけど、下手に言い合いになるよりもその時間で病院に向かったほうが早いと判断したわ!」
「なるほどね!」
マミ先輩と俺は大急ぎで病院までダッシュする。
幸いそこまで遠くない。俺なら3分もかからない距離だ。マミ先輩を置いてけぼりにしてしまう不安もあったが、先輩も相当足が速いおかげで杞憂だった。
「足速いっすね、マミさん」
「魔法少女になると、身体能力の強化もできるからね。むしろ何もなしに私より速いあなたのほうが凄いわよ……と。見つけたわ。ここが魔女の結界」
先輩が手をかざすと、俺たちは結界の中に入り込む。
そこは前回とはまた違う雰囲気の不気味な空間で……なんだろ、病院?
なんか看護婦みたいな服の使い魔もいるし。あとなんか、でっかいお菓子が地面に突き刺さってる。チョコレートとかマカロンとかクッキーとか。その他もろもろ。
統一性があるんだか無秩序なんだかよくわからんな、魔女の結界って。
あれ食えるのかな……とか一瞬思ったけど、それどころではない。事は一分一秒を争うのだ。
「急ごう、マミ先輩!」
「ええ! 美樹さんの反応は……あっちよ!」
走る、走る、走る。
途中何度か使い魔の妨害があったが、マミ先輩はそのことごとくを薙ぎ散らして突き進んでいった。どうしよう、めちゃくちゃ強いぞマミ先輩。この人が死ぬ光景想像できん。
……だからこそ、死んだのが衝撃的だったのだろう。元の世界のアニメ視聴者にとっては。
「着いたわ、この扉の先よ」
マミ先輩が扉に手をかける前に、俺が扉に手をかける。
「なんか罠とかあるかもしれないんで、俺が開けます。なんかあったら先輩が対応しといて!」
「え? ええ、わかったわ」
「よっしゃ!」
勢いよく扉を開け放つ……何も起きない。俺はふう、と息を吐く。
どうやら、今じゃないみたいだ。クソ強いマミ先輩が死にかねない一番の理由といえば、不意打ちと推理した。細心の注意を払わねばなるまい。
「今日はいやに慎重ね、鹿目さん」
「いや、なんか嫌な予感がするんで……あ、いた! さやちゃんだ!」
キュゥべえを抱いたまま不安げな表情をしているさやちゃんが見えた。俺とマミ先輩の姿を確認すると、安堵の表情を見せる。
「二人とも! 間に合ってよかったぁ……グリーフシードはまだ孵化してないよ」
「いや、もう時間の問題だ……来るよ!」
そうキュゥべえが言うが早いか、魔女が姿を表す。どんな恐ろしいやつがくるんだと戦々恐々としていたが……姿を表したのはぬいぐるみのような、小さな魔女だった。
ちょっと可愛いかも、と思ってしまうそのデザイン。
しかしマミ先輩は容赦なく攻撃を加える。まず連続射撃で先制し、浮いた魔女の身体を思い切り銃で殴りつけてホームラン。さらにリボンで胴体をがんじがらめにして……。
「ティロ・フィナーレ!」
ズドン! と大砲の一撃が魔女の胴体を撃ち貫く。決まった?
……そのはずなのに、嫌な予感が消えない。
魔女の胴体が萎み、顔が膨らむ。なにかヤバい。何か来る!
「先輩ッ!」
俺は走り出す。先輩は決まったと思って油断してしまっている。なんなら紅茶でも取り出しそうな勢いだ。魔女が口から何かを吐き出すのが見えた。巨大なヘビ花火みたいな、海苔巻きみたいな……とにかく、黒くて長くて、でかいやつ。
そいつが牙を剥き出しにし、猛然とマミ先輩に襲いかかる。先輩の反応は遅れ、回避の動作に入っていない。見えるのは、え? といった表情。なぜ魔女が目と鼻の先にいるのか、命の危機を実感する段階に入っていない状況。
間に合え、間に合え、間に合え、間に合え!
「間に合えぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」
俺は全速力でマミ先輩に飛び込み、突き飛ばす。
その結果、魔女の牙はガチンと空を切った。
「ま、間に合った!」
あ、足速くて良かった~~! 警戒もしててよかった~~!
足と反応、どちらかが遅かったら間違いなく間に合わなかった。
とりあえず、マミ先輩の最大の危機を救うことは出来たけど……問題が一つある。
それは状況がまったく好転していないことだ。
「……あ、あぁ……!」
マミ先輩は遅れて恐怖がやって来たらしく、立ち直れていない。今襲われたら間違いなくお陀仏だろう。それじゃ意味がない。
……こうなったら、やるしかない!
「おら! こっちだ魔女! 素手で勝負しやがれ!」
俺は大声で叫び、魔女を挑発する。先輩が立ち直るまで、なんとか時間を稼ぐ構えだ。
魔女がこちらを睨みつける。食事の邪魔をされて、お冠のようだった。少なくとも俺が生きている限り、マミ先輩にヘイトが向くことはなさそうだ。
逃げられるか? 俺の足で? いや、出来るできないじゃない。やるしかない!
魔女は高速でこちらに突っ込み、捕食しようとしてくる。くっそ、やっぱり速い!!
「うおおおおおっ!?」
反対方向に全速力で逃げるが、あいつのほうが速い。このままじゃ追いつかれる!
「くっそ!」
思い切り飛び込み、体勢を低くすることでギリギリ回避する。しかし……まずい。
ここからじゃ、後が続かない。魔女は振り向き、すでにこちらに飛びかかる準備を整えている。対する俺は、うつ伏せになった姿勢から立ち上がり、走り出さなければいけない。あいつのスピードを考えると、とてもそんなことをしている暇はない。
それでも立ち上がろうとするが、もう遅い。魔女の顔は既に俺の鼻先まで近づいていた。魔女と目が合う。牙が剥かれる。魔女の口の中がはっきり見える。
その光景が、やけにスローモーションに見えた。
逃げようとしても、俺の動きもスローモーションだから間に合わない。
あ……俺、死んだかも。
流石にここからじゃ、どうすることもできない。
ゆっくりゆっくりと魔女の口が閉じられる。俺の死が迫ってくる。
そして──
時が、止まった。