まどマギ見たことねえんだけど、どうやら俺は主人公らしい   作:東頭鎖国

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8話

 最初に感じたのは、圧迫感と浮遊感。

 俺の身体はふわっと浮き上がり、死の(あぎと)から逃れていた。

 といっても、俺が突然空を飛べる不思議超パワーに目覚めたわけじゃないし、ましてや魔法少女になったわけでもない。

 

「ほ、ほむちゃん!!」

 

 ほむちゃんが俺を小脇に抱えて跳び上がり、魔女から救い出してくれたのだ。

 どう考えても間に合わなさそうなタイミングだったけど……不思議なことに、魔女の動きは止まっている。

 いや……マミ先輩の動きも、さやちゃんとキュゥべえの動きも止まっている。

 比喩とかじゃなくて、マジで時が止まっていた。

 

「ありがとう、助けに来てくれたんだな。これって、ほむちゃんの魔法?」

 

「ええ、そうよ……ねえ、まどか」

 

「ん?」

 

「私、言ったわよね。危険なことに首を突っ込まないでって」

 

「え、あー……うん」

 

 どうやら、聞こえないふりをして無視をしたのはバレていたようだ。気まずい空気の中、俺は頬をかきながら答える。

 

「ごめん。でもこれだけは譲れないことだから。仲良い人が命の危機だってわかったら放っとけないよ、俺。何にもしないで俺だけ助かるよりも、危険を冒して誰も死なないですむ可能性があるなら、俺はそっちを選ぶって決めてるから」

 

「……それであなたのことを心配する人の気持ちを考えたことがある!? 私がどれだけあなたのことを……!」

 

 ほむちゃんはそこまで言って、ハッとした様子で我に返る。

 

「……あとでゆっくり、話をしましょう。今はこの魔女をなんとかするのが先決だから」

 

「う、わかった……頑張ってな、ほむちゃん」

 

 ほむちゃんが俺のことを離した瞬間、彼女の姿が掻き消える。

 次の瞬間、魔女がいた場所で立て続けに爆発が起こる。何が起こっているか全くわからないが、とにかくほむちゃんが攻撃したんだという事だけはわかった。

 魔女が苦しそうに鎌首をもたげると、その顔面を狙い澄ましてほむちゃんがロケットランチャーを撃ち込む。

 

 ズドォォォォン!! 

 

 一際大きな爆発が起こり、思わず耳を塞ぐ。

 爆炎が晴れると、そこに魔女の姿はなく……グリーフシードがほむちゃんの掌にぽとりと落ちてくる。

 それと同時に魔女結界も解け、現実の景色に帰ってくる。どうやら、やっつけたみたいだ。

 

「やったなほむちゃん!」

 

 俺はほむちゃんに駆け寄ろうとする……と、なんだか周りの様子がおかしい。

 

「あ、暁美さん」

 

「転校生、なんでここに……」

 

 呆然としているマミ先輩と、状況が呑み込めていないさやちゃん。意外と何のリアクションも見せないキュゥべえ。そして、何も言わないほむちゃん。

 

「……用は済んだし、私は帰るわ。まどか、話は次の機会にしましょう」

 

 数秒の沈黙を破ってほむちゃんはそう言うと、本当に帰ろうとしてしまう。

 ほむちゃんにとってものすごく居づらい雰囲気だ。無理もない。

 

「待って、暁美さん!」

 

 その背中を呼び止めたのは、マミ先輩だった。

 今まですごくほむちゃんのことを警戒していた人だっただけに意外だった。

 

「ごめんなさい……私、あなたのこと誤解してた。ひどい態度も取ったわ。それなのに、命を助けてもらって……なんて言ってお詫びしたらいいか、私……!」

 

 マミ先輩は震えた声で言う。先輩は……泣いていた。

 ほむちゃんは振り向くと、冷淡な声で答える。

 

「別に、まどかを危険から救うついでにあなたを助けた。ただそれだけよ。次からはせいぜい気をつけることね。あなたが死ねば、まどかが悲しむから。

 ……それと、次からは魔法少女でもない普通の人間を連れて行くことはやめなさい。次に同じようなことがあれば、犠牲になるのはあなただけでは済まなくなるから」

 

 それだけ告げると、ほむちゃんは今度こそ本当に帰っていってしまった。

 ……と、ほむちゃんも大事だけど、マミ先輩大丈夫か!? 

 慌てて駆け寄る。さやちゃんは泣き崩れるマミ先輩に寄り添い、心配そうに背中を撫でていた。

 

「情けない先輩で、ごめんなさい……私、わたしぃ!」

 

 号泣、というのがふさわしかった。

 そこには強くて優雅なお姉さんの姿はどこにもなく、弱くて頼りない女の子の姿だけがそこにあった。

 やっぱり、今までずっと無理していたのかもしれないな……なんて、なんとなく思った。

 

「大丈夫ですよマミさん、落ち着いて? 誰もマミさんのこと情けないなんて思ってないから」

 

「そうだよ、尊敬はしても見損なうなんてことするわけないでしょ」

 

「でも、でもぉ……!」

 

 先輩はえぐえぐとしゃくり上げながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

 

「私、ダメな子なの。魔法少女は辛くて苦しくて、何より危険なのにっ、二人を巻き込んで。今回だって暁美さんがいなかったら、あなた達を私と同じ目に遭わせるところだった!」

 

 同じ目──要するに『選択の余地なんて無い』状態のことだろう。

 ほむちゃんが助けてくれないままマミさんがやられた場合、俺かさやちゃんが魔法少女になる以外に生き残る道はなかった。

 

「マミさん……」

 

「本当は、寂しかったっ! だから今日、あなた達が言ってくれたことが嬉しかった。一人ぼっちじゃないんだって。だから、思っちゃったの。『このまま二人が魔法少女になってくれたら、ずっと一緒にいられるのに』って!」

 

「別に魔法少女じゃなくても一緒にいるじゃないスか」

 

「わかってる、わかってるの。でも……魔法少女の仲間が欲しかった! 秘密を共有してくれて、一緒に戦ってくれる仲間が! 鹿目さんと美樹さんがそうだったら、どれだけ良かったかって。私のワガママでっ……二人のこと、連れ回しちゃった……ごめん、なさい」

 

「別に、謝ることないですよ! 強制されたならまだしも、あたし達は進んでついていってたんですから! それにあたし、魔法少女にならないなんてまだ一言も──」

 

「え!?」

 

「さやちゃん!?」

 

 さやちゃんはハッとした様子で口を押さえる。どうやら、言うつもりのない言葉だったらしい。

 一瞬ぱっと明るくなったマミ先輩の顔は、また暗く沈んでしまった。

 

「すいません、今のは弾みで……ごめんなさい、ヘンに期待を持たせるようなこと言って」

 

「……ううん、いいの。ごめんなさいね、美樹さん」

 

 まずいな……マミ先輩、泣き止まない。小康状態にはなったけど、未だにひっく、ひっくとすすり泣いている。

 その様子を見ていると、俺まで心が痛くなってくる。誰かが、それも仲のいい人が悲しんでる姿を見るのが死ぬほど苦手だった。なんとか元気づけてあげたいけど、適当なことは言いたくないし……。

 

 あっ、そうだ! 閃いた! 

 

「なあ先輩。俺さ、魔法少女になるのは本当にどうしようもない時って決めたから、先輩の仲間にはなれないかもしれない。でもさ。『友達』にはなれると思うんだ」

 

「とも……だち?」

 

「そう、友達! 仲間は同じ目的のために一緒に頑張る人たちだけどさ、友達は同じことしてなくてもお互い心の支えになれる人! だと思うんだけど……どう?」

 

「どう? って……」

 

 マミ先輩が困ったようにさやちゃんに視線をやる。さやちゃんは苦笑いしながら、先輩にハンカチを差し出す。

 

「まあ、まどかの言うことも一理あるんじゃないですか? あたしはまどかのバカと違って、いきなり友達だとか言ってこんなに気安く出来ないけど……マミさんのことは人として好きですよ。なーんて、へへ」

 

 そう言って、さやちゃんも気恥ずかしそうに笑う。

 

「鹿目さん、美樹さん……ふふふっ」

 

 先輩もハンカチで目尻の涙を拭いながら、思わず笑い出す。

 いつのまにか、涙は止まっていたみたいだった。

 

「ありがとう。私……ほんとうに幸せ者だ」

 

 その笑顔は、俺が今まで見たマミ先輩の表情の中でいちばん素敵だった。

 

 ・・・・・・

 

 というわけで一件落着めでたしめでたし。

 そんな風に行かないのが世の中である。

 いや昨日の件はそれで落ち着いたんだけど、今度は俺の問題が残っていた。

 

「まどか」

 

「うん」

 

「私言ったわよね、危ないことに首を突っ込むなって」

 

「……うん」

 

 そう、ほむちゃんのお説教だ。昼休みに校舎裏に呼び出され、もう5分くらいこうしている。

 忠告完全無視で突っ込んだ上に、ほむちゃんいなかったら普通に死んでた案件なのでそりゃ怒られるに決まってる。俺が悪いのも分かっていたため、甘んじて受け入れる。

 

「今回みたいに絶対に間に合うわけじゃないのよ。もし貴女になにかあったら私はどうすれば──」

 

「あっ、良いこと思いついた! ほむちゃん、俺と一緒に行動しようぜ!」

 

「へっ!?」

 

 ほむちゃんが面食らったような顔をする。

 我ながら名案だと思うんだけどな。

 

「いや、俺が危ないことした時に助けに間に合わなかったらやばいから、一緒にいれば絶対助けが間に合うんじゃないかなって」

 

「それは、理屈の上ではそうだけど……危ないことを避けるっていう選択肢はないの!?」

 

「ごめん、それは無理なんだ。そういう生き方をするって決めてるから。でもほむちゃんが助けてくれるなら安心かなーって」

 

「あなたねぇ……!」

 

 ほむちゃんが頭を抱える。最初は無表情だったのに、ここのところ表情の変化を色々と見れて嬉しい。どんな顔してても美人だな、この子。でも、笑った顔は一回も見たことないんだよなぁ……。

 俺が危ないことをやめても、安堵はするかもしれないけど笑顔にはなってくれなさそうなんだよな~……あっ、そうだ。

 

 俺はふと思い立って、ほむちゃんの脇腹をすっと指先で撫でてみる。

 

「ひゃいっ!?」

 

 ほむちゃんが聞いたことのない声を上げる。意外とこういうの弱いんだな、新発見。

 

「い、いきなり何するのよまどか!?」

 

「いやー、ほむちゃんの笑ってるところ見たいなーってふと思って。それより飯だよ飯、はやく食べないと昼休みが終わっちまう! ほら、俺のお父ちゃん自慢のからあげだぞー」

 

「はぐらかさないでちょうだ……んぐっ!?」

 

 俺はほむちゃんの口を塞ぐようにして、からあげを詰め込む。ほむちゃんはなにか言いたげな顔をしながらもぐもぐと咀嚼して……ごくり、と飲み込んだ。

 

「……おいしい」

 

「だろォ~~っ!?」

 

 ほむちゃんの顔が思わず綻ぶ。流石は俺のお父ちゃん特製の料理だ。本人がその気だったならばプロの料理人も余裕でなれてたとはお母ちゃんの弁。とにかく、めっちゃ美味いのだ。

 それでも、笑顔とまではいかないみたいだったけど……おいしそうに食べてもらえて、嬉しい限りだ。

 

「ほら、もいっこ唐揚げ食べな! ミートボールに生姜焼きも有るぞ!」

 

 ほむちゃんが飲み込んだのを見計らって、俺はおかずを口に放る。たまに何か言おうとするけど、食べ物を口に含んでいる時に喋るのはよくないという意識が働いてしまうのか、大人しくもぐもぐ咀嚼していた。こういう細かいところに出てくる育ちの良さに好感が持てる。

 結局、昼休みが終わるまでその作業は続いた。

 

「やべっ、チャイムだ!? 教室急ぐぞ、ほむちゃん!」

 

「まどか、お腹いっぱいで走れないわ……!」

 

「しょうがない、俺にも責任があるし、遅刻する時は一緒だ!」

 

「なんなのよその無駄な責任感は……あなた、自分のペースで煙に巻いて話を有耶無耶にする気満点だったくせに」

 

「ありゃ、バレた?」

 

「……本当に、あなたは~……!」

 

 ・・・・・・

 

 わーわーぎゃーぎゃーと言いながら、つかの間の平和は過ぎていく。

 次の問題はすぐそこまで迫っていることを、この時の俺はまだ知らなかった。

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