まどマギ見たことねえんだけど、どうやら俺は主人公らしい   作:東頭鎖国

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9話

 ──美樹さやか

 

「……ねぇ。さやかは、僕をいじめているのかい?」

 

「……え?」

 

 予想もしていない言葉に、思わず、間の抜けた声が出てしまう。

 いつものように病室に向かい、いつものようにお見舞いにクラシックのCDを持ってきて、それでいつものように喋って。この日も、そうするつもりだった。

 でも……いつもとは違って、恭介の声色からは怒りが滲み出ていた。

 

「何で今でもまだ、僕に音楽なんて聴かせるんだ……嫌がらせのつもりなのか?」

 

 恭介の言っていることが理解できなかった。

 今まで嬉しそうにしてたのに。なんで今日に限って、突然? 

 

「嫌がらせって……だって恭介、音楽好きだから」

 

「もう聴きたくなんかないんだよ! 自分で弾けもしない曲、ただ聴いているだけなんて!!」

 

 恭介は怪我している方の左手でCDプレイヤーを叩き割る。

 CDの破片が突き刺さり、鮮血が白いベッドシーツを汚す。

 

「恭介ッ!?」

 

「動かないんだ。もう、痛みさえ感じないんだ。こんな手なんてッ……!」

 

「だ、大丈夫だよ! きっとなんとかなるよ。諦めなければきっと!」

 

「もう、諦めろって言われたのさ」

 

 その一言に、頭が真っ白になる。恭介は、泣いていた。

 ……あたしは、何も言えなかった。

 

「先生から直々に言われたよ。今の医学じゃ無理だって。僕の手は二度と動かない。奇跡や魔法でもない限り」

 

 ……魔法。その言葉を聞いた時に思った。

 あたしの一生に一度の使い所は、ここなのかもしれないって。

 窓の外にはお誂え向きにキュゥべえの姿が見える。私は決心しようとして──

 

「……まどかに、逢いたいな」

 

「……え」

 

 なんで? 

 なんでまどかの名前が、今ここで出てくるの? 

 

「まど、か? まどかって、あのまどか? なんで?」

 

「それは……言えない」

 

 秘密? なんで? まどかと恭介の間に、いったい何があったの? 

 心の中が色々なものでかき混ぜられてぐちゃぐちゃになって、わけがわからなくなる。

 キュゥべえの姿は、いつのまにか消えていた。

 結局その日に理由を教えてもらうことはできなかったし……あたしは、一度も恭介と目を合わせることができなかった。

 なぜだか、目を合わせることが怖くてたまらなかった。何が怖いのかは……自分でも、よくわからなかった。

 

 ・・・・・・

 

 ──鹿目まどか

 

 放課後、俺はマミ先輩のおうちにお邪魔していた。

 マミ先輩は昨日の出来事がショックだったのか学校をお休みしていたためお見舞いに来たのだが、思っていた以上に元気で安心した。俺が来るなり、

 

「あっ……来てくれたのね! 嬉しいわ!」

 

 って言いながらウキウキでお茶の準備してくれたし。

 お茶おいしい。ケーキもおいしい。

 ……俺一応お見舞いに来た立場なのに、ご馳走になっていいのかな? 

 と思いつつ、飲み食いする手は止めない。出してもらった以上、遠慮するほうが逆に失礼! 残さずおいしく食べるのが俺のポリシーだ。

 先輩は俺がパクつく姿を見てニコニコと笑っている。

 

「……どしたんスか? さっきからじっと見て」

 

「いえ、おいしそうに食べるなあって。鹿目さんのそういうところを見ていると、心が癒やされるわ」

 

「あはは、俺ハムスターみたいな扱いすね」

 

 マミ先輩はしばらく何も喋らずに笑顔で俺のことを見ていたが、やがてぽつりと零し始めた。

 

「……怖いの。戦うのが」

 

「え?」

 

「私、今までずっと魔法少女として戦ってきたの。その中で負けそうになったことも何度かあったし、実際に勝てなくて逃げた時もあったわ。だから、命のやり取りをしているっていう覚悟は出来ていたはずだった。でもあの時……私は緊張感を失ってた。あなた達にいいトコ見せようって事ばっかり考えてて、魔女との戦いが命を賭けたものだっていう認識が欠けてた。あの時、私は……死んでた。あんなにも死の実感が近づいたのは生まれて初めてだった」

 

「もしかして、今日学校に来なかったのって」

 

「……ええ、立ち直れなかったの。怖くて外に出れなかった。もし魔女を見つけてしまったら、戦わなくちゃいけない。でも、戦うのが怖い……そう思ったらどうしたらいいか、わからなくなって」

 

「魔女を見過ごすっていうのはダメなんスか?」

 

「ええ、魔女を見過ごしたら、その魔女に殺される人が出るかもしれない。誰かが死んでから『もっと早く戦えばよかった』って思っても手遅れだから」

 

 やっぱ真面目な人だな、って思った。正義感が強くて、知らない他人のために身を張れる人。俺も身体張るのにあんまり躊躇はないけど、さすがに知らん人のために頑張るのは無理だからな……。

 どっちにしろ、無理は身体に毒だ。一人っきりで頑張ってきたのは凄いと思うけど、今は事情が違う。

 

「先輩、たまには戦わなくても大丈夫なんじゃないですか?」

 

「でも、私が戦わなくちゃ魔女は……」

 

「ちっちっち、なんか忘れてませんか? 魔法少女は先輩一人じゃないんだぜ!」

 

 俺はそう言ってスマホを取り出す。

 

「鹿目さん、あなたまさか」

 

「あ、もしもしほむちゃん? 今マミ先輩の家にいるんだけど来れる? あ、来てくれる! ナイスゥ! えっと、家の場所は……ああ、もう知ってるの? オッケー! じゃ、また後で」

 

 ふふん、俺は得意気な顔でマミ先輩を見る。

 

「そう、この町にはほむちゃんもいるんスよ~! 自分が出来ないことは人にやってもらう、これが楽しく生きるための秘訣っスよ。ついでにこれを機に、二人に仲良くなってもらおうと思って! マミ先輩も昨日助けられたし、ほむちゃんが悪いやつじゃないってわかったでしょう?」

 

「そ、そうね……」

 

「?」

 

 マミ先輩は、すごく微妙な顔をしていた。

 気まずいのはわかるけど、頑張ってくれ。今後のためだし、友達同士が微妙な関係なの俺は見たくないし。

 そんなことを考えているうちに、ピンポーンとチャイムが鳴る。

 インターホンのカメラを見る。ほむちゃんだ! 

 

「来たわよ」

 

「早っ、一分も経ってないぞ!? ほら、先輩ドア開けてあげて」

 

「……ほ、本当に開けなきゃだめ?」

 

「なんで今になってビビってんの! できないなら代わりに開けますよー」

 

「あ、ちょっ!」

 

 がちゃりとドアを開ける。ほむちゃんはいつもの無表情で玄関先に立っていた。

 

「よっ、ほむちゃん! 来てくれてありがと。それで、呼んだ理由なんだけどさ」

 

「大体なんの用かは察しがつくわ。巴マミの件でしょう?」

 

「そうそう、そうなんだよ。後はマミ先輩のほうからほむちゃんに説明してくれよ」

 

「えっ、私!?」

 

「うん。ほむちゃんも邪険にはしないだろうから、試しに話してみなって!」

 

「……じ、じゃあ……」

 

 ・・・・・・

 

 ──巴マミ

 

「まずは、改めてごめんなさい。それと、ありがとう。あの時助けてくれて」

 

「別にいいわ。気にしてないから」

 

 勇気を持って第一声を切り出したけど、暁美さんは顔色一つ変えずに切り捨ててしまう。

 

「……あ、あの。紅茶いるかしら?」

 

「別にいいわ」

 

「……」

 

「……」

 

 うぅ、会話が続かない。

 やっぱり暁美さんのこと、苦手かも……。

 

「……そういえば、キュゥべえの姿が見えないわね」

 

「ああ、キュゥべえならあの時以来姿を見せてないわ。私が情けないところを見せたから、愛想を尽かしちゃったのかしら……」

 

 そう、私が凹んでいたのはキュゥべえの不在もあった。しーんとして静かな家の中に一人ぼっちでいると、今度こそ本当に孤独になってしまった気がしていた。

 だから鹿目さんがお見舞いに来てくれたのは、すごく嬉しかった。私は本当に一人じゃないんだって思えた。

 ……本当は、暁美さんとも仲良くなりたい。でも、暁美さんの方はどう思っているのかしら。今も鹿目さんが言ってくれたから仕方なく付き合っているだけで、本当は煙たがっているのかも──

 

「キュゥべえのことは気にしなくていいわ。あいつには愛想なんて可愛げのある感情は存在しないから。あなたのそばにいることにメリットが感じられなくなったら姿を消す。それだけよ」

 

「え……?」

 

「先輩、今のはほむちゃんなりの慰めですよたぶん。ほむちゃん不器用なんで伝わりづらいけど」

 

「……茶化さないでちょうだい、まどか。とにかく、あなたが気に病む必要はないわ」

 

 鹿目さんと暁美さんのやりとりで、思わずクスッとしてしまう。

 暁美さんって怖い人だと思っていたけど、誤解されやすいだけで本当は愛嬌のある人なのかも。

 そう思うと、今まで緊張で縮こまっていた身体もリラックスして、いつも通りに話すことができる気がした。

 

「ありがとう、暁美さん。それじゃあ、本題に入りたいのだけれど」

 

 ・・・・・・

 

 ──鹿目まどか

 

 話し合いが終わった~~。

 俺は途中から半分くらい寝てたけど、なんかうまいこと話がまとまってくれたみたいでよかった。

 ほむちゃんとマミ先輩も仲良しとはいかなくても、普通に会話できるくらいには打ち解けたみたいだし。

 それにしても……。

 

「どうしたの鹿目さん? さっきからスマホを気にしているみたいだけど」

 

「いや、さやちゃんから連絡がねえなって。実は今日さやちゃんも誘ってたんだけど、あたしは病院行くから後でねって言われたんスよ。もうとっくに見舞いなんて終わってる頃だろうから連絡あるかなって思ったけど、なんにも来てなくて」

 

「あら……何かあったのかしら」

 

「好きな男のトコに行ってますからね。時間を忘れるほど話が弾んでたりして」

 

「いい方に考えるわね、まどか……何かしらの事件に巻き込まれた可能性も十分に考えられるわ。それこそ、魔女に遭遇してしまったり」

 

「仮にそうだったとしても、なんも出来ることないしなあ……あっ、そうだ!」

 

 俺は名案を思い付く。我ながらここ最近名案閃く頻度多いな。閃きの神か? 

 

「遊びに行こうぜ、三人で! 親睦を深めつつ、運が良ければさやちゃんと遭遇できる一石二鳥の提案! それにほむちゃんとそのうち遊ぶ約束もしてたしな!」

 

「まどか、それあなたが遊びたいだけでしょう?」

 

「あはは、流石ほむちゃん察しがいいな。で、どうする?」

 

「ふふ、私は良いと思うわ。気分転換には丁度いいし、暁美さんと親睦を深めたい気持ちもあるしね」

 

「……私も別にいいわ。反対する理由もないし」

 

「決まりだな! さっそくしゅっぱ~つ!!」

 

 ・・・・・・

 

 そうして、やって来た先は。

 

「ゲームセンター?」

 

「そ、ここなら気軽に遊ぶにはもってこいだし、二人でできるゲームもいっぱいあるし。先輩とほむちゃんが一緒に遊ぶには丁度いいかなって」

 

「まどかはどうするの?」

 

「俺は入りたくなったら入るよ。それじゃ、早速これなんかどうよ」

 

 そう言って、俺は一つの筐体を指差す。

 エアホッケー。二人対戦でルールは非常にシンプル。ゲーセンの定番だ。

 

「いいんじゃないかしら。暁美さんは?」

 

「……遊び方がわからないから、ルールを教えてもらえればできるわ」

 

 あら、ほむちゃんってもしかしてゲーセンで遊んだこととか無いタイプの人か。確か、こっちに来る前は病気でずっと入院してたんだっけ? 今じゃそんな様子おくびにも出さないから忘れてたけど。

 ルールを簡単に説明したのち、ほむちゃんとマミ先輩がお互い向かい合う。

 

「さあ、最初はお手並み拝見よ」

 

 マミ先輩が加減してパックを打つ。ほむちゃんは冷静に捌き、打ち返す。さすが魔法少女、センスがいい。

 そのままラリー合戦は続き、マミ先輩も徐々に加減がなくなっていく。ほむちゃんも激しくなっていくラリーに食らいつき、必死で打ち返す。

 気づけば周囲にギャラリーが集まるほどの激戦になっていた。

 

「ふッ!」

 

 正面に来たパックを押さえ、ほむちゃんが渾身の1打を放つ。それは真っ直ぐにマミ先輩のゴールに向かっていき、勝負が決まった……かと思った瞬間に、パックが急激に勢いを失った。

 

「えっ!?」

 

「残念だったわね。終わりよっ!」

 

 マミ先輩の放ったショットに反応が追いつかず、無情にもゴールを許してしまうほむちゃん。

 1-0で勝負は決したのであった。

 

「どうやら私の勝ちみたいね、暁美さん!」

 

 マミ先輩はふんすとドヤ顔をしている。年相応のはしゃぎ方って感じで可愛らしい。

 対してほむちゃんは納得がいっていないようで、憮然とした表情をしていた。

 

「なぜ最後、急に弾の勢いがなくなったの? アレさえなければ勝てていたのに……」

 

「あれは時間切れだよ、ほむちゃん。エアホッケーは時間切れになるとエアの放出が終わって、パックが飛ばなくなっちゃうんだ」

 

 どうやら、仕様を知っているか知らないかの差が勝負の決め手だったようだ。

 ほむちゃんは悔しそうにしている。

 

「……もう一回よ、巴マミ!」

 

「いいでしょう、受けて立つわ暁美さん!」

 

 ・・・・・・

 

「結局、エアホッケーだけで夜になっちゃったよ」

 

 あの後ヒートアップした二人はエアホッケーに連コしまくっていた。他の客もみんな二人の勝負に見入っていたため、文句を言う人は誰もいなかった。

 勝敗のほうは完全に五分五分といったところだった。

 

「ごめんなさいまどか、私達だけ楽しんでしまって」

 

「いやいや、二人の試合見てるだけでめちゃくちゃ楽しかったから気にすんなよ。ゲームは他にもいっぱいあるし、また今度みんなで行こうな?」

 

「ふふ、楽しみだわ。今日もとっても楽しかった」

 

「いい気分転換になりましたか? マミさん」

 

「ええ、それはもう。こんなに楽しかったのは久しぶり。暁美さんもありがとうね」

 

「……別に、感謝されるようなことはしていないわ」

 

 ほむちゃんがそっぽを向きながら言う。多分照れてる時のやつだな、これ。

 そんなこんなで三人で夜道を歩いていると、遠くに見慣れた人影を発見した。

 

「さやちゃんだ! こんなところでなにやってんだろ……お~い!」

 

 大声で呼ぶ。返答がない。あれ、おかしいな? 

 もう一度呼ぼうとしたところ、ほむちゃんに腕を掴まれる。

 何やら、真剣な表情をしていた。マミ先輩も血相を変えている。

 

「巴マミ、見た?」

 

「ええ、美樹さんの首筋に確かに刻まれていたわ。あれは……魔女の口づけ!」

 

 

 ……魔女の、口づけ?

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