やはりTS転生した僕は奉仕部の一員にはなれない。 作:だるがぬ
1.やはり僕がTS転生するのは間違っている。
『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』
通称、俺ガイル。
僕はこのライトノベルが何よりも好きだった。
中学生のころからハマり、何年もシリーズを楽しみに追いかけ、思春期の数年を串カツにつけるソースよりもドップリと俺ガイルに漬け込んだ。
影響を受けたなんて生易しい表現では足りないほど、人格形成に携わったようにも思う。
友達や彼女といった存在への淡い想いはなりを潜め、孤独に憧れるようになった。
少し鼻につく子どもから、皮肉っぽい斜に構えたクソガキにランクアップ、もといランクダウンした。
とにかく俺ガイルが大好きで千葉ソウルならぬ八幡ソウルを(勝手に)受け継いだ僕はいま。
「やっはろ~!」
総武高校2年F組の教室にいた!
何が起きてる。
朝起きて、顔を洗って、学校に来て、席に座った記憶はある。それまではいつもの僕だったし、着ていた制服は自分の学校の学ランだった。
もちろん死んだ記憶などなく、これは転生と呼べるか定かではない。どちらかというと憑依が近しいのかもしれない。僕には総武高校生であった記憶などないのだから。
いやそれよりも、これがただの夢であり現実の僕もといボケ野郎は、教室でヨダレ垂らしながら眠りこけてる可能性すらある。いわゆる明晰夢というやつだ。
問題がそれだけならまだよかった。
なにせ夢である可能性が大きいとはいえ、好きなラノベの世界に来れたのだ。八幡ソウルに感化された僕に元の世界の友達などいるはずもない。ゆえに未練など一つもなく、大手を振って俺ガイル世界を満喫できる。夢だったら夢だったで一生の思い出になるだろう。
ただそれはこの後の大きな問題を無視した場合のお話であった。
「修学旅行まじ楽しみっしょ!」
「おいおい、あんまりハメ外すなよ?」
お調子者といった風体の男子がやや大きめの声で叫び、爽やか風イケメンの男子がそれを窘める。
修学旅行の前。浮かれているクラスメイト。
それはつまるところ、「彼」の学校内での立場がすでに最悪であることを意味していた。
そしてこれから近い未来、彼の居場所に暗い影が射すことも、同時に意味していた。
……どうやら僕は最悪のタイミングでここに来たらしい。
「ちよちよもやっはろ~!」
暗くなった僕の思考を消し飛ばすように、お団子の髪のかわいい女の子が、変な言語で挨拶してくれた。
……いやデカイ。どことは具体的にいえないけど、やっぱデカイ。ていうか挨拶する仲なのかよ、僕らは。あとあだ名のセンスもやっぱない。
初やっはろ~攻撃を受けた感動はそんな困惑の波に押し流されてあっけなく消えた。
「や、やっはろ~」
ぎこちなく挨拶を返した。なにか大きな違和感がある。いや、今すでに違和感のバーゲンセールなんだけど、それよりも聞き逃してはいけないあだ名があった気がする。
……ちよちよ? 僕が?
自分の現状を確認する。
教科書に書かれた名前。
ちよちよ。
男の名前とは思えない。
足元をみて制服を確認。
黒のタイツ、そしてスカート。
当然だが男の服装ではない。
目線を少しあげ体を見る。
腰より上が少し膨らんだボディ。推定Cカップ。いやこれは適当。
僕の自意識。
もちろん男。
女子の胸をついつい意識してしまう普通の男。
この状況を一言でいうなればこう。
…やはり僕がTS転生するのは間違っている。