やはりTS転生した僕は奉仕部の一員にはなれない。 作:だるがぬ
おっせえよ!
お気に入り、感想、評価ありがとうございます。
これからもドシドシお待ちしております。
それからというもの、買い物の翌日を除き、奉仕部に通う日々が続いた。
雪ノ下さんが淹れてくれた紅茶を頂いたり、由比ヶ浜さんと一緒に雑誌を見たり、比企谷君に漫画を押し付けたりして数日を過ごした。
目の前で三人が仲良く談笑する風景を見て、ああ僕はやっぱり奉仕部の『三人』の関係が好きなんだな、と改めて自覚した。
どんな形でもいいからこの人たちを見ていたいんだなと、そう思った。
ただ、戸部君の依頼についてはほとんど関与しない方針になっている。奉仕部が修学旅行前にやったことといえば自由行動のルート決めであり、同じ班の僕は聞いていても特に差し支えないという理由でそれには参加していたが、修学旅行中はアシストしない約束をしている。
それもあり、僕は修学旅行での動きを決めあぐねていた。僕がいなくても奉仕部のこれからは問題ない──それはきっと、彼らと少し仲良くなった今でも変わらない。
修学旅行で欺瞞を生み、生徒会選挙で破綻し、クリスマスイベントで再構築される。その関係性にはなんら影響は及ぼさない。
本筋に関わらないことを決めた。いや、決めざるを得なかった。僕が関わる理由など、どこにもないのだから。原作を歪めることは、むしろ恩を仇で返すことになるのだろう。約束を無視してまで動くことこそ……それこそ比企谷君への裏切りになるだろう。
だから、勇気が芽生えた。これから先の数ヶ月の間、ギクシャクする奉仕部の関係を心を痛めながらも見守る勇気が。
だから、海老名さんの来るその日──修学旅行前日、僕は奉仕部に行かなかった。
× × ×
さて、修学旅行当日である。
事前に決心と方向性を固めたこともあり、僕の心は幾分か身軽になっていた。僕は僕のことにだけ集中すればいいのだ。
迫り来る女子との共同生活から、いかに鼻血を抑えるかだけを考えれる。
うーんできるかなぁ。無理そうだ。
家からの準備や道のりは特に問題なく時間通りに集合場所に。
新幹線乗り場には、クラスのみんなが集まっていた。比企谷君や由比ヶ浜さんの姿もある。
点呼を取り、乗車。
最初の一人目が座るのに時間がかかったものの、葉山君が座り始めてからはスムーズに座った。
さすがはトップカースト、クラスの王とでも言うべきか。
葉山君は三人かけの窓側に座る。隣に戸部君。三浦さんが座席をグルッと回し葉山君の向かい側に座った。
「はいはい、結衣はそっち。私がここ。で、チヨチヨはお向かいだね」
「う、うん」
海老名さんは半ば強引に由比ヶ浜さんを三浦さんの隣に誘導すると、一番通路側に座った。
窓側から葉山君、戸部君、僕。向かい側が三浦さん、由比ヶ浜さん、海老名さん。
そして旅は始まり──
「そ! れ! で! チヨチヨはどっちが受けだと思う!? やっぱり私的には駅弁の誘い受けで──」
僕は海老名さんの口撃を受けていた。てかこれ何が攻めなんだよ。頭の中どうなってんの……。三浦さんもどうやら諦めてしまったようで、止めてくれない。
「あーなる。まぁそーいうのもわかる的な?」
戸部君はわからないなら口閉じた方がいいと思う。アシストに期待してるのか、こっちをチラチラと見てきていて辛い。頑張ってはいるけど空回りだ。
一歩引いた視点で見ていたからか気付いたことがある。海老名さんだ。息を切らしつつ、わりと強引に話を展開して他の人に割り込む隙を与えていない。
原作では川崎さんのせいでラブコメ要素が排除されていたが、川崎さんのいない今は海老名さん自身が頑張っているようだ。
正直言って、巻き込まれるのには疲れる。
この場から逃げたい気持ちと、戸部君を応援してあげたい気持ちが9:1ぐらいだった。
「ちょっと、席空けるね」
そういってスクッと席を立った。この程度なら海老名さんに怪しまれることもないだろう。トイレ! と言いづらいのが外面女の子の辛いところだ。
まあこの間に頑張れ、青少年。
「すぅ……」
「と、つかぁ……」
車両間のスペースで適当に時間を潰そうと前方に向かうと、三人席から二人分の寝息が聞こえてきた。
戸塚君は、比企谷君の肩に寄りかかるようにして寝ていた。比企谷君は少し寝苦しそうにしているものの、その顔はどこか幸せそうだ。
ここが……オアシスか。
さっそく空いている通路側の席に座り写真を──さすがに無断で撮るわけにもいかないか。指で四角を作り、片目を閉じて記憶にしっかり刻んだ。
「ち、ちよちよ……? 何してるの……?」
通路に立っている由比ヶ浜さん。バッチリ見られていたらしい。戸塚君が比企谷君の肩を離れてしまう。
「しー。起きちゃうから」
適当に誤魔化した。が、時既に遅しのようで比企谷君が「んっ」と伸びをして起きてしまった。
「おはよ」
「うぉ! びっくしりたぁ……」
声をかけた僕に比企谷君の背中がビクッとした跳び跳ねる。
「それちよちよに失礼だし……」
なぜか由比ヶ浜さんが不機嫌になった。
ちょっと騒がしくしすぎたかなーと戸塚君を見ると、むーっと小さく声を出すと軽く目を擦った。
「寝ちゃってた……」
かわいい。かわいい男の娘って起き方もかわいいんだなぁ。
「……もっと寝てていいぞ。なんなら肩貸す」
「い、いいよっ! 八幡こそ寝てていいんだよ?」
百合百合してるねー。いや? 薔薇かな?
まあどっちでもいいか。目の前でイチャイチャしてて最高だな。だが男だ。
「で、お前らはなんでいんの?」
目を細め、嬉しそうにしている僕を咎めるように比企谷君が嫌そうな声をした。
僕はとくに理由があるわけでもないので、由比ヶ浜さんに視線を送る。
「それがね、姫菜が──」
海老名さんと戸部君の会話がうまく弾んでいない話だった。まあ僕にはあんまり関係ないので奥を見る。すると、戸塚君と目があった。どうかしたの? といわんばかりに小首を傾げている。あまり喋ったことがないので気まずい。
気まずくて目を逸らした窓の先には──
「あっ! 富士山!」
「あ、あたしも見る!」
僕と由比ヶ浜さんが通路側から身を乗り出して外の景色を見る。三人分の陽だまりに四人はちょっと入れないが、かの富士山の前とあってはそんなことどうでもよかった。
「あ、あのなぁお前ら」
「ふぁぁ……すごい……」
比企谷君の言葉もよく聞こえない。とにかく見たことない圧巻の景色を前に、周りの状況が頭に入って来なかった。やっぱ迫力あるなぁ……。
「ち、ちよちよ? そろそろ、よくない?」
富士山が見えなくなっても窓の外を名残惜しく眺める僕の腕を、由比ヶ浜さんが小さく引っ張った。
見るとその腕は由比ヶ浜さんの腕と組まれている。
もう片方の腕は比企谷君の背中にしっかりと添えられていた。
「ご、ごめん! そろそろ戻る!」
慌ててどちらもひっぺがし、席を立つ。この場から離れるように、由比ヶ浜さんとスタスタと歩きだした。
「ちよちよ、やっぱ子どもっぽいね」
由比ヶ浜さんがそう笑いかけてくる。否定する余裕もなく、顔を背けた。今は心臓が暴れてて忙しい。
果たして、男の子と女の子どちらに僕はドキドキしたのだろう。
× × ×
新幹線を降りると京都駅だ。少しの肌寒さを感じながら、今度はバスに乗り込む。これから向かうのは清水寺だ。
初めて見る京の景色に、少しテンションが上がっていた。要はどこか浮かれている。
バスが止まり、外に出て仁王門をバックにクラスで集合写真を撮る。
「ちよちよ、こっちこっち!」
どうやら誰かの影に隠れる必要はなさそうだ。由比ヶ浜さんに圧倒的感謝。そこ被ってるよーって言ってくるカメラのおじさん怖いんだよなぁ……入学式とか本当に厄介。ボッチの敵だ。
写真も無事撮り終わり、清水寺の入り口にてそんな益体もないことを考える。入場口はごった返していて、しばらく進みそうにない。
「ヒッキー」
「どうした、おとなしく並んどけよ。抜かされちゃうぞ。人生そういうもんだぞ」
由比ヶ浜さんが比企谷君に声をかける。……確か胎内めぐりに行くんだったか。暗い中でお堂を巡るんだっけ? 由比ヶ浜さんと比企谷君のラブコメイベントだ。新幹線ではイベント取っちゃったし大人しくしていようかな……。と思っていたのに、由比ヶ浜さんは僕にも声をかけてくれた。
言われるがままについていき、やや小さめのお堂へ。
そこには僕ら以外に葉山君、戸部君、三浦さん、海老名さん。
「八幡こっちー」
「お、おう」
そしてなぜか戸塚君もいた。
男子は同じ班なこともあり、他の人は違和感をもっていないようだ。
呼び込んでいたおじさんがペラペラと説明を始める。ぼーっと聞いていたら、葉山と三浦さんが早速暗闇の中に入っていった。あまり間隔を開けず、海老名さんと戸部君が続く。
「じゃ、じゃあ戸塚君、いこっか」
「うん!」
由比ヶ浜さんの邪魔をしてはいけないと思い、戸塚君に声をかけた。急だったけど元気よく返事を返してくれてよかった。……比企谷君が残念そうな顔をしている。こっちの方がよかったのか。贅沢な。
「足元、暗いから気を付けてね」
「う、うん」
中に入ってすぐ、戸塚君がそう声をかけてくれる。
少し進むと外から僅かに差し込んだ光は見えなくなり、黒洞々たる闇が訪れる。……暗い。てか怖い。
「八千代さんはこういうとこ苦手?」
「うん……暗いのとか、怖いのとか、ダメかも」
そういう戸塚君の声は、少し弾んでいる。そういえば怖いの得意って話があったな……。原作のお化け屋敷で……。え、それ明日じゃん。ずる休みって修学旅行中もできます?
「僕、こういうとこ平気だから頼ってね」
戸塚君が自信満々にそう言う。一気に頼もしく思えた。男の子、なんだよなやっぱり。同じ一人称を使ってるのに、どこか自分の方が弱々しく見える。
そのまま進むと、ライトアップされた石が見えてくる。確か、石を回しながらお願い事をするんだったか。
ごりごりごり、と石を二人で回す。どちらも言葉はない。真剣に願っている。
願わくば、彼ら彼女らに──
終わると、互いに一息ついた。
「なにお願いしたか聞いてもいい?」
戸塚君がいたずらっぽく聞いてくる。下からの光もあって小悪魔のようだった。
「うーん。……秘密で」
言わないことにした。言ったら願いが霧散してしまうような気がしたから。戸塚君も本気で聞いてくるつもりはないようで「そっか」と一言だけ発すると、すぐそこに見える出口に歩きだす。
「あのね」
トテトテと先にいった戸塚君が振り向きながら言う。
「八幡のこと、よろしくね」
どういう意図か聞く間もなく、出口へと駆けていった。
…………あの、怖いから置いてかないで。
× × ×
拝観し終えた清水寺を後にする。
おみくじ? 恋占いの石? 霊水? なにそれ知らない。おみくじで一喜一憂する平塚先生とか全然見てない。恋占いの石を余裕でクリアする平塚先生も全然見てないし、柄杓の間接キスを気にする比企谷君と由比ヶ浜さんの桃色空間を見てハンカチ噛みながら悔しがる平塚先生も全然見てない。君たち、名誉毀損だぞ!
南禅寺も巡り終えると、最後は銀閣寺だ。
銀閣寺までは哲学の道を通る。
哲学の道はもともと文人の道という名だったが、その後京都大学の哲学者が好んで通るようになり、名前が変更された。哲学者たちは、この道を歩きながら物思いに耽ったという。
途中で『よーじや』が見えた。あぶらとり紙で有名な店だ。原作で小町ちゃんが買ってくるように頼んでたアレ。
「あー、そういやおつかいあったな」
比企谷君がクラスの列から抜け、フラフラと小道を抜け店に入っていく。ステルスヒッキーのせいか誰も気付いていない。大丈夫? このままはぐれない?
「ちょっと、比企谷君」
追うように店に入り、声をかける。
「うぉっ! ……なんだ八千代か。どうした」
比企谷君はビクッとしてこちらを見る。心配して追っかけたのにこれだ。由比ヶ浜さんも新幹線で怒るはずだな。
「いや急にこんなとこ来ちゃダメだって。はぐれちゃうよ?」
「いいんだよ。俺はもともと集団から逸れてるからな」
堂々と言うことじゃない気がするけど、ここまで自信タップリだとなんかかっこよく見えてくるから恐ろしい。やっぱ比企谷君はこうじゃなくっちゃ。
とはいいつつも、比企谷君はあぶらとり紙を二人分買う。とくに迷う余地もない。
「それ、おみやげ?」
「妹とかーちゃんが買ってこいってな。全く……最近は通販とかあんだろ。めんどくせぇ……」
そういいつつも律儀に買っている辺り、らしいなぁと思う僕だった。
「お前はなんか買わないのか」
うーん。商品に用事があって来たわけじゃないしな。でもまぁ、何かの縁か。
適当に見繕い、買うものを決める。小遣いがあるとはいえ、あんまり高いのはなぁ。よし、決めた。
船を模したポーチを手に取る。抹茶色だ。実に京都っぽい。正式名称を京ぽーちというらしい。
「……かぶれすぎかな」
ちょっと修学旅行に影響されすぎだろうか。僕の感性の幼稚さが全面に出ている気もする。少し恥ずかしくなって比企谷君に聞いてみた。
「ま、いーんじゃねーの?」
思うところはあるものの、否定しきれないといった様子だった。過去に似たような経験があるのかも。適当にカマをかけてみようか。
「……比企谷君。小学生のころ、ドラゴンくっついた剣のキーホルダーとか買ってたでしょ」
「な、なぜそれを……。だが甘いな。俺は中学生になっても買ってた」
「やっぱりね」
僕は得意顔になる。男の子ってアレ好きだよね。
「……引かれると思ったけどな」
比企谷君は意外そうに僕を見る。
「…………合計3つ。今までに買ってるから」
人のこと言えないんですよ。
いや本当に男の子はアレ好きなのだ。僕含めて。
なんか買っちゃうんだよね、アレ。赤とか青とか色々あってかっこいいし。ついね。
比企谷君と僕は目を合わせてクスクス笑う。
こいつバカだなーって多分お互い思ってる。そんな距離感が男としてのプライドをちょっとだけ取り戻せた気がして、すごく心地よかった。まあきっかけがアレなんですけどね。
店を出ると、クラスの人はとっくにいなかった。置いてけぼりだ。
「だから言ったのに……」
「……悪かったな。でも目的地はわかってるから合流はできるだろ」
目指すは銀閣寺。哲学の道をまた歩く。比企谷君と一緒なこともあって、考え事もすることなくポケーっとしながら道を歩く。
すると、石碑が目に入った。
『人は人 吾はわれ也 とにかくに 吾行く道を 吾は行くなり』
と記されている。
「西田幾多郎か」
比企谷君が感慨深く呟く。知らない人だなぁ。これの意味もよくわからない。
「へー知ってるんだ。どういう意味?」
「ちょっと調べてただけだ。意味は……自分の道を貫けとかそんなとこだろ、たぶん」
いわれてみればそんな気もする。要はゴーイングマイウェイってところか。つまりこれは僕よりも──
「比企谷君にピッタリだね!」
「…………どうだかな」
照れくさそうに下を向く比企谷君。肯定してこそいないが、僕はそのことをよく知っている。はずだ。
「……おい、そろそろ行かないと本当に置いてかれるぞ」
「うん!」
× × ×
部屋だ。女子部屋だ。キングクリムゾンだ。
あと知らない天井も追加で。
夕食を済ませたあとすぐ布団に横になり、今に至る。
実はこの時間まで寝ていた──わけでもなく狸寝入りだった。
なぜかというと。
「おろ? チヨチヨ今起きたの? もう大浴場閉まっちゃったよ?」
そう、お風呂が閉まるまで待ってたのだ。空いてたら嫌でも入らなきゃいけなくなる。
「そ、それは残念だなー。部屋のシャワー入るねー」
下手な芝居をしつつ、シャワーへと。
シャワーシーンは精神衛生上カット。すぐに記憶から吹っ飛ばした。
ドライヤーをかけ、しっかりスキンケアもして部屋の輪に混ざる。混ざりたくはないけど、仕方ない。
「でさーそんとき隼人がさー」
たわいもない話だ。ところで部屋着の女子ってまた違った魅力がありますよね。頑張って見ないようにするのも大変です。
「ね、ちよちよも来たし、コイバナしない!?」
由比ヶ浜さんが唐突に切り出す。……海老名さんの本心を探ってるんだろうなぁ。
一応、今日戸部君は奮戦していたわけで。その効果が少しでも出ていないのか気になったのだろう。
ところでこれ巻き込まれるやつじゃないですか?
「あーしパス」
三浦さんは即降り。葉山君が好きなのは、まぁ確かに言わなくてもわかるか。
「あはは……。じゃあ、ちよちよは?」
待ってくれ。そこで僕かよ。確かにすぐ海老名さんに矛先を向けたら警戒されると思うけどさ……。
どう答えたもんかなぁ……。
比企谷君──質問者と修羅場になるから却下。他の女子みたいに葉山君とか──三浦さんと修羅場になるから却下。え、詰みじゃない? これ詰んでない?
「い、いないかなぁ……」
「わかる。わかるよーチヨチヨ。自分より他人の恋路を眺めてたいんだよね! つまりはやはちだよね! 二人の距離が少しづつ縮まるのを間近で……ぶはぁ」
血、出まくってますよ。三浦さんがしっかり拭き取ってあげている。僕の布団とかに飛んでないだろうな……。
それにしてもうまーく誤魔化されたな。
「そ、そうなんだ……」
「で、結衣は?」
三浦さんの鋭い指摘が飛ぶ。言い出しっぺも話せということだろう。
「い、いやあたしは……あはは」
これではコイバナも何もあったもんじゃないな。全員棄権とはねぇ。
「えー? いうてみ? やっぱヒキオっしょ」
「い、いやヒッキーは関係ないし!」
三浦さんが楽しそうに由比ヶ浜さんをいじり倒す。海老名さんも結構ノリノリだ。……居づらいな。
「ちょっと……風に当たってくるね」
そういって部屋から逃げた。……僕、逃げてばっかじゃね?
ロビーに降りて、適当に時間を潰す。
いつ戻ったもんかなぁ……。
そう思っていると、微妙な距離を保ちながらロビーに入ってきた男女一組が目に入った。
「……送ってくれて、ありがとう」
「……おう」
そういや平塚先生とラーメン食べに行ってたのって一日目の夜だったな。……食べたかったなぁラーメン。
羨ましそうな目で見ていたのがよくなかったのか、雪ノ下と比企谷君がこちらに気付いた。
「……あ、えと、八千代さん……そのこんばんは」
「こんばんは」
雪ノ下さんがあたふたしてる。珍しい姿だ。二人でいるところを見られて驚いているらしい。これ、もしかして修羅場だと思ってる?
やましいとこなんか無いんだから堂々としていればいいのに……。
一方比企谷君は落ち着いている。
「おう、八千代か。平塚先生に呼ばれてちょっとな」
「大丈夫。連れてかれるとこ見てたから」
嘘だけど。
でもこれで修羅場は回避したぞ! よかった~。
「あら、あなた。いつから八千代さんを呼び捨てるほど偉くなったのかしら?」
──空気が凍りつく。
い、いや、やましいところは無いんだから堂々としていれば……ほら堂々と……。
「えといや、比企谷君は、そういうのじゃなくて、あの、ほら、ね?」
ダメみたいですね。発言しない方がマシだったかも……。
「はぁ……まあいいわ。それで、八千代さんの依頼の方はどうなの?」
僕の酷い弁護でも、一応は察してくれたらしい。よかった……のか?
「う、うーん。まあうまくやれてるとは思うけど……。部屋とかは居づらい、かも」
こればかりは付け焼き刃でどうにかなるものじゃない。女子と一緒の部屋で寝たことなんてないし。正直、大変だ。
「そう……。ごめんなさいね、力になれなくて」
「ううん。これは自分の問題だから……」
「何か力になれることがあったら言ってちょうだいね。……じゃあ二人とも、おやすみなさい」
そういって雪ノ下さんは部屋に戻った。そう言ってくれてありがたい限りだけど、これ以上頼るわけにもな。
「俺も戻るわ」
比企谷君も部屋に戻ろうとする。悪いとは思いつつ呼び止めた。
「あ、ちょっと待って」
「え、なに?」
「おやすみ比企谷君」
「……おう、おやすみ」
今度こそ部屋に戻ろうとする比企谷君。
「あ、あと」
「え、なに? まだ何かあんの?」
ごめんね、何度も引き留めて。でも食べたくなっちゃったから。あの男性が大好きな食べ物。
「今度、ラーメン食べ行こっか」
「それ平塚先生に言えよ……」
今度の今度こそ、比企谷君は部屋に戻っていった。
そろそろ消灯時間も近い。
僕も部屋に戻ろう。……女子部屋に。
おやすみ、と雪ノ下さんに言えなかった分も含めて誰もいない廊下で呟く。
こうして、修学旅行一日目は無事に終わった。
…………女子のいる部屋で寝れれば、だけど。
俺ガイルみたいなパロネタ入れたいんですけど、脳みその回りかた次第で多かったり少なかったりします。
あと誤字脱字報告ありがとうございます。
隅々まで読んでいただけて嬉しいです。
まとめて手直しする予定なので修正はちょっとだけお待ち下さい。