ごゆっくり。
人間だけでなく、妖精、妖怪、仙人、挙句の果てには神。様々な存在が生きる世界。
そんな世界の人里と、妖怪の山と呼ばれる山に近い所に、小さな店がある。
見た目はただの民家であり、一見何かを売ったりするようには見えない。
それもそのはずで、此処はいわゆる何でも屋。飲食店などでは無く、ある青年が自分の家をそのまま使って営んでいるのだ……いや、とあるツテで手に入れたコーヒー豆を売ることはあるのだが。
ところで、この店の店主たる青年については、謎がかなり多いのだ。
先程、とあるツテでコーヒー豆を仕入れている(実際は売るためではなく、青年がコーヒーを好むから)と言ったが、このツテと言うのがまた大物なのだ。
彼女が外の世界で手に入れたコーヒー豆を貰っているそうだ。件の大妖怪ご本人がとある巫女に語っていたらしいのだが、巫女は紫の言うことあまり信用していないので、実際の所はわからない。
青年に聞けばいいとは思われるかもしれないが、青年の方はほとんど何も語らないのだ。聞いてもフワフワとはぐらかされるだけ。
しかし、彼の名は所々で聞くことができる。
とある二柱の神から始まり、湖に住まう妖精達まで。店の場所が関係してか、人里や妖怪の山を中心として、彼の名は語られる。
知る者ぞ知る様な、そんな人物。人妖問わず集まる世界で、人妖問わず惹きつける青年である。
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「──だなんて言われちゃいるが、実際何も言わないんだもんなぁ、お前」
そんな青年の家で、白黒の魔女っ子服を着た金髪の少女が、寝転び新聞を見ながらそんな事を宣う。
「いやいや、間違ってはいないから何も言わないだけだよ。僕から言うことは何もないのさ」
青い着流しを着た白髪の少年が、その隣に寝転びながらそう返す。言うまでもなく、家主は彼の方である。
少女は
青年が何でも屋を開いた頃に噂を聞きつけて真っ先にやってきた少女であり、以来、少女の図々しさと青年のおおらかさが奇跡の融合を果たした。
その結果、この様に寛ぐ様になったのだ。
「はいはい、いつものな。耳にたこができる程聴いたぜ、その台詞」
「あはは、語る言葉も過去も無いのは事実だからね。生まれも育ちも普通だよ、僕は」
ゴロゴロしながら話す二人。少なくとも青年の方は仕事が来ないので暇なのである。
「そうやって何も言わないから、あの鴉天狗に目を付けられるんだ」
「美人さんに目を付けられるのは悪い気はしないなぁ」
青年はコロコロと笑う。ちなみに、二人の言う鴉天狗は、魔理沙の読んでいる新聞を書いた人物だったりする。青年の所へ新聞の押し売りに来たので、せっかくだからと青年は新聞を取り始めたのだ。
それ以来、何かと取材を申し込まれるが、青年は依然としてのらりくらりとして話さないのである。もはや意地の勝負と、何度も何度も何度も何度も何度も取材を申し込まれる。が、青年は話すことは無いと断っている。
「……でも実際素性は謎なんだよな。霞って確か外の世界から来たんだろ? 何で帰らないで何でも屋なんか……」
言い忘れていたが、青年の名は
「なんだい魔理沙、そんなの決まってるじゃないか」
「決まってる?」
「そうそう、僕が幻想郷で何でも屋を開いたのは……」
「開いたのは……?」
「……楽しそうだからだよ」
「……緊張して損したぜ」
ほわほわとした微笑みを絶やさない霞に、呆れたように溜息をつく魔理沙。思いっきり気が抜けたらしい。
「あっははは、そう言わないでよ魔理沙。何事も娯楽は大事じゃないか。僕にとっての娯楽が、幻想郷での何でも屋だったってだけじゃないか」
「いや、やたらと引っ張るから何があるのかと思っただけだ……期待した分、拍子抜けというか……」
そんな会話をしていると、ドンドンと戸を叩く音がする。幼い少女の声も聞こえてきた。
「おーい、カスミー! いないのかー!? いないなら返事しろー!」
「チルノちゃん、いなかったら返事出来ないよ……」
「……チルノに、大妖精か?」
「ああ、よく彼女達の遊び相手になるんだ。寺子屋も終わった頃だろうし、そんな感じだろうね」
「おーいー! いたら返事するなー!」
「返事してくれなきゃカスミさんがいるのかわからないよチルノちゃん……」
「何かややこしい事になってるな」
「微笑ましいだろう? ……さて、大ちゃんがもっと困る前に行こうかな」
霞は立ち上がり、戸を開ける。それと同時に言う言葉は決まっている。
「──何でも屋、“夢幻”へようこそ。今日はどんなご用事かな?」
彼はこうして、皆と関わりを持って日々を過ごしていく。これは、そんな秘密の多い彼の幻想郷生活を追っていく物語。