「これより決勝戦に入る前に少し休憩時間を取る。各自10分後には再びここへ集まるように。」
準決勝が終った後、俺たちはリング外へと転移する。
どうやらすぐに決勝戦を始めるわけではなさそうだ。
リングから視線をずらすと、未だに呆然とした表情でリングを見つめている先程の対戦相手。
ああまでなるとは、よほどショックだったのか…。
まるで人生で初めて負けを経験した人みたいな表情……、えっと、流石にそれは無い…よね?
まあ他人の事ばかり気にはしていられない。
なんてったって、次は決勝戦。
ようやくここまで来たかという感じだ。
ふと視線を感じたのでそちらへ顔を向けると、決勝の対戦相手がじっとこちらを見つめていた。
が、目が合うとフイッと視線を逸らした。
ま、お互いに意識はするわな。
何にせよ、俺は自分のデッキとカードを信じて戦うだけだ。
デュエルディスクにハマったデッキを一撫でして、気合を入れる為ストレッチをする。
そして、準決勝終了後から10分が経ち…
「時間だ。ではこれより決勝戦を行う。」
パチンッ
ここに来てもう何度聞いたか分からない指の音が聞こえると、俺と対戦相手はリング上へと転移していた。
「第666回『管理者序列決定代理者大会』決勝戦、…デュエル開始!」
俺と相手は同時にディスクを構える。
さあ、泣いても笑ってもこれが最後だ!!
先行は…相手!
「いくぜっ!俺のター「どがーーんっ」!!??」
「っ!!???」
相手がターン開始の宣言をしようとしたその瞬間、俺たちの立っている場所の真下から巨大な破壊音が聞こえてきた。
「な!?なんだっ!??」
加えて地面が揺れ出し、支え無しには立っていられなくなる。
「ぐっ!こ、これはまさかっ!?」
リング上にいた管理者も慌てたような表情をしている。
そして
ドゴーーーーーーーンッ!!!!!!!
巨大な音をたてて、今俺たちがいる部屋の壁が全て崩れ落ちて言った。
「なっ!!?」
それは端から見れば、巨大な塔に見えただろう。
その頂上に俺たちはいる。
壁がなくなったことで見晴らしがよくなった(よくなりすぎ)この場所からは、遥か眼下に1つの大きな街のようなものが見える。
「こ、これは一体…?」
誰かが呟いた次の瞬間
ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!
「きゃあっ!!」
地の底から響いてくるようなおぞましい声が聞こえてくる
…ようやく……
…ようやくだ……
…私の邪魔は……
…誰にもさせない…!!!
一言で言うならば『闇』。
全てを塗りつぶすように黒く、そこにあるだけで不安を掻きたてられる。
決して大きくは無いのに、その存在感はここにいる誰よりも大きい。
手のひらほどの大きさの黒く丸い物体が、下から浮き上がって来た。
「……なんなんだよ…こいつ…。」
誰かが呟く。
「ち、ちがうっ!わたしじゃない!私はわるくない!!!」
突如、あの10番を連れてきた管理者が騒ぎ出す。
「貴様っ!この期に及んで…!!」
管理者たちはこれが何か知っているのか…?
そう思っていると、突如目の前にいつもの管理人が転移してきた。
「うおっ?!…っとビックリした…。」
「おっとごめんねー。でも緊急事態だから許してねー。」
口調は軽いが、いつものおちゃらけた感じとはちょっと違う。
まるで緊張してるのを隠そうとしているみたい…?
それに管理人はこちらに背を向けたままで…俺を守ろうとしている…?
「時間が無いからこのまま聞いて。あいつは『厄災』。本当は色んな名前があるけど僕たちは分かりやすくそう呼んでる。」
いきなり説明を始める管理人。だが普段のチャラチャラ感を微塵も感じさせないその雰囲気に、俺は黙って耳を傾ける。
「あいつは色んな場所、時代、時空で悪意を振りまいてきた。でも最終的にはこの地に封印された。」
この地に…封印…?
「もうずっと前の話だよ。その時は、一人のデュエリストがそのカードと自身の魂を犠牲にして封印することに成功したんだ。」
ってことは、その封印が何らかの原因で解けてしまったってことか。
「彼が使っていたデッキこそが、さっき君が対戦したデッキ。つまり初代優勝者だ。」
まじか…。ん?ってことは、前に戦ったあいつは……?
それにそんな昔から遊戯王カードってあったのか?
「まあ君たちの世界とは時間の流れというか、世界の仕組み自体が違うから、もしかしたら初代優勝者が、元の世界で君のよく知っている人間って可能性も0じゃないけどね。」
そうなのか…。でも前戦ったあいつに見覚えは無い………無い?
「おそらく今回あいつが…ああ、あの騒いでる管理者ね。あいつが何かやらかしたんだろうけど。」
うーん、確かに何か企んでそうな顔はしてたけど…。
多分あの管理者にとってもこの件は予想外なんじゃないか?
「…ま、何にしても、ひっっじょーーーーーーっに、ヤバい状態なわけだね!」
若干やけくそ気味に言い放った管理人の頬を冷や汗が流れる。
この管理人がこれだけ警戒をしている。さらに視線を動かすと、他の管理者達も他の参加者を守るように構え、奴を警戒している。
あの管理人たちがここまで警戒するって…どんだけヤバいんだよ…。
そしてついに、プカプカと上空に浮いていた黒い玉は俺たちがいるリング上へと降りてきた。
…感じる……感じるぞ……
…忌々しいやつの力を……
ブシュッッ!
「ぐうぅっ!!」
「…?…!!??お、おいっ!!?」
全く見えなかった。
気がつけば黒い玉はその1部を鋭い槍のような形に変え、俺の前にいた管理人の腹を突き刺していた。
「おいっ!大丈夫か!!?」
背中から黒い槍が付きだしているというのに、気丈な顔で答える管理人。
「だ、大丈夫…。それよりも気を付けて…、奴は君を狙ってる……っぐっ!!」
貫通していた槍が引き抜かれ、その場に倒れこむ管理人。
…貴様……
…匂う…、匂うぞ……
…奴の、忌々しい匂いが…!!!
再びその体を槍に変え、俺を貫かんと迫ってくる。
その瞬間
パリィィン!!!
ガラスの割れたような音がして、その直後、俺たちがいるリングを囲うように円状の透明なドームが現れる。
「きっ、貴様ーーーーーーっ!!!!!!!!」
「ひぃっ!!!で、でもこうするしかないだろっ!他に何か方法でもあるのかっ!?」
「だからと言って貴様これはっ…!!」
何やら管理者同士が揉めている。
「…け、結界…だよ。デュエルの為の……。」
「!?お、おい、大丈夫なのか…?」
声がした方を向くと、管理人が立ち上がろうとしていた。
「大丈夫…。僕たちは体を消滅されたぐらいじゃ死なない…。ただあいつの攻撃は特殊だからね…。ちょっと、治るのに時間が掛かるかな…。」
見ると貫通していたはずの腹の傷はすでに塞がっている。
改めて俺たちとは違う存在だという事を感じた。
「…結界ってのは?」
「さっき話した、初代優勝者がした事と同じだよ。デュエルで全てが決まる、特殊な結界。」
デュエルで…?
「この結界の中ではデュエルがすべてのルールであり、デュエル以外のあらゆる力が無効化される。これでさっきみたいな攻撃を食らっても一切ダメージは喰らわない。ただ1点、デュエルが終るまでここから出ることはできないんだけどね。」
は?ってことは、こいつをデュエルで倒さないと出られないって事?
も、もし負けたら…?
「そ。ここから出るには、デュエルであいつを倒すしか方法が無い。…ま、もし負けた場合は僕たちだけじゃなく、結界の外の人も皆殺しになるだろうけどねー。一回この結界使っちゃうと、次に使えるようになるまでかなり時間かかるし。」
お、おいおい…まじかよ……。
「さらに言うと、あいつは決して倒せない。…ああ、勿論デュエルでは倒せるよ。でも物理的に消滅させることはできない。だから初代の優勝者も、この結界内でデュエルに勝つことで、奴を弱らせて封印することに成功したんだ。」
今結界の中に居るのは、俺とこの管理人だけ…。
決勝戦の相手は先の地震でリング外に落ちてしまっていた。
…ってことは……?
「そ、世界の命運は君に委ねられたって事。」
ま、まじか…