ダンジョンカードバトル   作:ノジー・マッケンジー

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118話

「………え…?」

 

驚いた表情でこちらを振り替える管理人。

管理人を止めようとしていた2人の管理者も同じような顔でこちらを見ている。

 

聞こえてきたのはどこかで聞いたことのある声。

 

「悪いけど、ここは俺に譲ってもらうよ。」

 

記憶を掘り起こし、どこで聞いたかを思い出す。

彼は俺の若干斜め後ろにいるようで、今の俺からはその姿を見ることができない。

だが

 

「………誰だ、君は?」

「ん?変な事聞くなよ。俺は…、俺だ。」

「そんなことを聞いてるんじゃない!彼にそっくりな姿をしたお前は何者かと聞いてるんだ!!」

 

彼にそっくりな姿?

彼って…俺?

 

するとその男はゆっくりと管理人の前まで移動する。

 

(!!?お、俺…?)

 

その姿は完全に俺と同じ。

体つきや着ている服装、歩き方すら一緒。

違うのは、デュエルディスクをはめていないぐらいだろうか。

 

(…そうか、どこかで聞いたことのある声だと思ったら、ビデオなんかで録画した俺の声か。)

 

人は自分が思っている声と実際に発している声に若干の違いがある。

実際に周りに聞こえる声の方が、自分が思う声より高く聞こえるらしいけど…、っと、今はそんな事どうでもいいか。

 

「…俺は、俺だ。悪いけどあんたを犠牲にするわけにはいかない。この役目は俺に譲ってもらうぞ。」

 

突然現れたもう一人の俺?に場が混乱する。

 

(なんなんだあいつ…。いきなり現れたのか、それとも何かきっかけがあって現れたのか……ん?そういえばさっきディスクが一瞬光ってたような…。)

 

未だに顔を動かすことも出来ないので、何とか視線だけをずらし腕にセットされたディスクを見る。

 

(え…?こ、これは…。)

 

そこにはいつの間にか1枚の真っ白なカードがセットされていた。

 

 

 

  「おい、受け取れ!」「絶対に無くすなよ!」

 

 

 

49階で戦った干支デッキ使い、初代優勝者の言葉を思い出す。

そうだ、あの時からずっとエクストラデッキに入りっぱなしになっていたブランクカード…。

 

その白いカードは次第に色味を帯び、通常のカードと同じようにイラストと説明文が現れた。

 

 

ドッペルゲンガー 星? ? ???族/???

A? D?

 

 

人形であることは分かるが、その顔や体は全て黒く塗りつぶされているイラスト。

さらにすべての能力が?になってる。

 

これは一体…

 

 

「…む?そのカードは?」

 

不意に管理者から声がかかる。

どうやらディスクにカードがセットされていることに気が付いたようだ。

 

「おっと、悪いけど時間がないようだ。じゃ、こいつの事は俺に任せて、あんたらは後始末頼んだぜ。」

 

その瞬間、もう一人の俺は焦ったように早口で言葉を紡ぎ、そして

 

 

 ピカッ!!

 

 

「「うわぁあ!」」

 

一瞬、目を開けていられない程の眩しい光が走り、気が付くともう一人の俺の腕にデュエルディスクが装着されていた。

そして、先程まで左腕にあった重みを感じなくなる。

 

 

視線をやると、そこにデュエルディスクは無かった。

 

 

「っ!??」

 

 

困惑する俺に、何とも言えない表情でもう一人の俺は言う。

 

「…あんたに消えてもらう訳にはいかない。これは、俺たち(・・・)カードの総意だ。」

 

そして俺に背を向け

 

「…ソラを…、頼んだぞ。」

 

そう言い残し、厄災へ向かって走り出した。

 

 

「さぁ、デュエル開始だ!!行くぞ、みんな!!!」

 

もう一人の俺がデッキからカードを引くたび、それらはその手を離れ、1体づつ実体化していく。

 

空には朱雀と青龍、そして黄龍が、陸には白虎と玄武、それから融合の騎士にキメラ。

他にも俺のデッキのモンスターたちが次から次へと実体化し、厄災に向かっていく。

 

それらは先ほどまで厄災と戦っていた管理者達を遠くへと引き離し、炎、水、風、地、闇、光と夫々の攻撃を厄災に放つ。

 

「ぐぬうぅぅ!!き、貴様ぁぁぁ!!」

 

管理者達の攻撃に余裕で対応していたのが嘘みたいに、カードたちの攻撃は厄災に刺さる。

朱雀の炎が、白虎の牙が、青龍のブレスが、玄武の放つ岩塊が、融合の騎士の剣が、キメラの爪が、奴の体力を徐々に徐々に削っていく。

 

「ぐぐッ…、ガアアァァァッァア!!!!」

 

 

厄災が苦し紛れに放った、もう一人の俺への攻撃も

 

「無駄なあがきを!!」

 

その体から光を放ち吹き飛ばす。

そして

 

「そろそろ終わりにしよう…。…野郎の添い寝じゃ不服かもしれんが、我慢してもらうぜ。」

 

その光は光量を増しながら厄災を包み込み。

 

「い、いやだ!!我は…我はぁっ!!!!」

「心配しなくても付いて行ってやるから有り難く思えっての。」

 

そして彼はこちらを振り向き

 

「………じゃあな!」

 

最後にニカッと笑顔を見せて、厄災へ飛びついた。

 

「う、うおおおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!!!!」

 

光の中で1つになりながら、それは俺たちが立っている舞台の外、厄災が最初に現れた場所へと落ちて行った。

それを追いかけるように、厄災と戦っていた俺のカードたちも1体、また1体と飛び降りていく。

 

キメラ…、青龍…、白虎…、玄武…

 

最後に残った融合の騎士と朱雀が、俺に優しい瞳を向ける。

そして一つ頷くと、他のカードたちの後を追って飛び降りていった。

 

 

「…な…、何が…。」

 

誰かがそうつぶやいた瞬間、辺りは眩い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東方に青龍

 

南方に朱雀

 

西方に白虎

 

北方に玄武

 

そして中央に黄龍

 

さらにそれらを守るかのように、

 

大剣を携えた騎士

 

獅子と羊2つの頭に蛇の尾を持つ獣

 

他にも魔法使いの風貌の者や武器を持った者もいる

 

 

それらは全て、石像となって何かを守っている

 

 

全ての中心には、人の形をした何か

 

まるでマネキンの様に顔の部品が損失しているそれが、大事そうに手に抱えている小さな黒い玉

 

全てを飲み込む常闇色であったその玉は、この石像たちが作り出す光の結界の中でその影を薄れさせる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば、体の自由が戻っていた俺は、ふらふらとこの舞台の端へと移動する。

そして眼下に広がるこの光景を見て、体の力が抜けてしまう。

 

「おっと…。」

 

倒れそうになる俺を、近くにいた管理者が支えてくれる。

 

 

 

 

 

突然の出来事に皆が反応に困っている中

 

 

「………これを以て、『第666回管理者序列決定代理者大会』を、終了する…。」

 

 

前回優勝の管理者の声が、静かに響いた。

 

 

 


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