管理人が帰った後、自室にこもるのもなんか違うと思って、そのままリビングで過ごしている。
体調が少しだけ良くなったことも理由の一つだろう。
ソラと二人ソファーに体を委ね、無音の時間が続く。
ふと、彼女の顔を覗くと、その表情はいつもの穏やかで柔らかな物とは異なり、少し緊張しているようにも見えた。
「…マスター、どうされました?」
俺の視線に気づき、そう聞いてくるソラ。
「…いや。」
「…そうですか…。」
その表情は俺を気遣うで、そんな顔をさせていることに罪悪感が生まれてくる。
…そうか、俺はずっと彼女にこんな表情をさせていたのか…。
あの日から何も聞かずに甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれたソラ。
言いたいことも、聞きたい事もあっただろうに…。
「………ごめんな…。ずっと、…そんな顔させてたんだな…。」
そんなことに気付かなかった自分に腹が立ってくる。
「…申し訳ありません。マスターにそのようなお気遣いをさせてしまい…。」
違う、違うんだ。
ソラの顔を見つめ、乾く唇を何とか動かそうとするも、脳がどの言葉を発するのか決めきれずにその口を閉じる。
(だめだ…、頭がぐるぐるで、考えもまとまらなくて、何言ったらいいか分からない…。)
それでも、ソラの為に何か言わなければ。
そう思った俺の手は自然にソラの方へと向かい、
「あっ…。」
ソラを抱きしめた。
「………マスター……。」
そのまましばらく静かな時間が流れる。
何か言わなければいけない。
でも何も言わなくても伝わるような、そんな感覚。
おもむろに口を開いたのはソラの方で
「マスター…、あの子たちを、褒めてやってください。そして、あの子たちの思いを…無駄にしないで下さい…。」
その言葉に、俺の気持ちがソラに伝わっていることが分かり、そして、ソラの思いが俺の心へと流れ込んできた。
少し前にソラから聞いたことがある。ソラは、俺の他なカードたちにとって『お姉さん』みたいな存在なんだと。
そして、彼女もまた、他のカードたちを大切に思っていた事を俺は知っている。
そんな彼女が、自身も思うところがあるはずなのにそれをグッと押し込み、俺のために尽くしてくれる。
朱雀や融合の騎士の最後に見た顔…
ドッペルゲンガーの最後の言葉…
…ああ、俺って本当に仲間に恵まれたんだなぁ…
それから、1分とも1時間とも分からぬ時間が過ぎ、俺はようやくその口を開いた。
「………ありがとう…ソラ…。俺…がんばるよ…。」
何に対しての『ありがとう』で、何を『がんばる』のか。
それは詳しく言わずとも、きちんとソラに伝わったようで
「っ!…はいっ!!」
目じりに涙を浮かべた彼女は、俺を強く強く抱きしめてくれた。
それから数日。
俺の体調は徐々に徐々に回復していった。
気持ちを前向きに切り替えることができたからなのか、はたまたあの管理人が何かしたのか、それは分からないけど、少なくとも日々の生活が楽になってきているのは確かだ。
だが、少し困った事?もあって…
あれからソラが俺の世話をすることにハマってしまって…、あ、いや、元々家事とか色んなことをしてくれてたんだけど、俺が引きこもってる間、食事を食べさせてくれたり、お風呂で体を洗ってくれたりしてたのを、そのまま続けたがって…
流石に食事は何とか自分で食べると説得したけど、お風呂だけは「これだけは絶対に譲れません!」と、何言っても聞いてくれない。
この前までは俺も気持ちが沈み、体調も良くなかったから、その、そんな元気も無かったわけだけど、少しずつ回復してきた今となっては…。
お風呂なので当然俺は裸。そしてソラも同様もしくはタオルが1枚だけ。
そうなったら、もう…ねぇ?
我慢できずにその場で…って日もあれば、なんとかその場は我慢したけど夜寝る前に…とか、管理人の言葉を使うなら、イチャイチャ、イチャイチャして過ごした。
ただそれは、もう触れ合う事の出来なくなったカードたちの分も、俺と触れ合っていたいと思っているようにも感じられた。
…まぁ、今まで我慢していた反動で甘えられているだけかもしれないけど。
そして、そんな日が続き、体調もほぼ回復。気持ちの整理も大分できてきた頃、管理人から連絡が入った。
『前に話をした、君を元の世界に戻すための方法が見つかったよん。詳しくは午後にそっちに行って話すからー』
珍しい。普段なら何も言わずに来ていたのに。
そう考えていると追加メッセージが届く。
PS
午前中は他の管理者達との会議があるから、それが終ってから行くねー。
…なるほど。
とりあえずソラに話をして、昼からいつ来ても良いように準備をしておく。
そしてお昼ご飯を食べ終え、二人でコーヒーを飲みながらまったりとしていた時
コンコンコン「やっほー、来たよー。」
管理人がやってきた。
「や、久しぶり。…んんー、やっぱりこの家いいよねー。何か心地良い空間っていうの?」
軽くそんな話をしながら席につき、ソラが入れてくれたお茶を飲みながら本題に入る。
「さて、メッセージでも送ったけど、君が元の世界に戻る方法、つまりその為のエネルギーを集める方法が確定したから教えるねー。えーっと、まずは…」
管理人の話を聞き、これからについて思いを馳せる。
今から俺は再びデュエルの世界へ飛び込むことになるだろう。
その中できっと、今まで使ってきたカードたちの事を思い出す事もあると思う。
でも俺は、前へ進むことに決めた。
みんなが望んでくれた、皆が繋いでくれた俺の未来。
「…ソラを…、頼んだぞ。」
ドッペルゲンガーの最後の言葉。
その思いを裏切らない為に。
カードたちとの思い出は胸に、そしてその願いと共に、俺は未来への道を進む。
さぁ、皆が守ってくれた輝く未来の為、もう一度デュエルを始めよう。
第1章 完
これで物語はひとまず完結となります。
ここまで書き続けることができたのは、読んで頂いた皆様のおかげです。
本当にありがとうございました。
活動報告の方に、執筆時の裏話?なんかを書かせて頂こうと思います。
その後第2章へ進む予定ですが、今後の簡単なあらすじなんかも一緒に載せる予定です。
是非ご覧頂ければと思います。