結局あれから、俺は朝食を全てソラの「あーん」で食べることになった。
あ、いや、嬉しいのは嬉しいんだけど…何で急に?って思いの方が強い。
その後も、ソラは俺に付っきりで甲斐甲斐しくお世話をしてくれた。
そして、
「いいって!流石にそこまではいいってば!!」
「いえ、いけません。今日はマスターに休んでいただくと決めましたので。」
「だからってここまでしなくても!」
「いえ、私はマスターのメイドです。マスターのお世話が私の仕事ですので。」
「だ、だから~!!」
俺たちが何を言っているのかというと…
「だからって風呂ぐらい1人で入れるから!!」
「いけません。今日はマスターのお背中をお流しする事に決まっているのです。」
そんなことは決まっていません!!
あーだこーだと押し問答を繰り広げ、結局俺が折れることになった。
心なしか上機嫌のソラだったが、俺はもう心臓がバクバクしてゆっくり風呂に入るどころじゃなかったよ。
あ、ちなみにソラはメイド服のままだったよ。自分が濡れない様にマスターの体を洗うのはメイドの必須技術だそうな。
そして今、俺はさらなる難関を目の前にしている。
「さ、マスター。どうぞ遠慮なさらず。」
今彼女がいるのは俺の部屋の俺のベッドの上。
所謂女の子座りの状態で、普段枕がある位置に座っている。
そして自分の足をポンポンと叩き、早くここへ来いと催促している。
「い、いや~、流石に膝枕までは……。」
そう、彼女は俺に膝枕をしようとしているのだ。
「何をおっしゃいますか。これが殿方が最もゆっくり安心してお休みいただく為の最高の枕だというのに。」
その情報源はどこだ。
「で、でも…」
「でもではありません。さ、どうぞ。」
い、いや…、お風呂も結構きわどかったけど、流石にこれは…
「どうぞ。」
「……………。」
「どうぞ。」
「……………………はい。」
結局彼女の眼力に負けて膝枕されることに。
ううぅ…、嬉しいのには違いないけど、何か思ってたシチュエーションと違う…。
もっとこう…何ていうんだろ、甘酸っぱい感じでさぁ…。
にしても、彼女は何でいきなりこんなことを?
いきなり昨日との差がすごいんだけど…。
「…なぁ、ソラ。」
「はい、なんでしょう、マスター。」
膝枕された状態で話しかける。
…上を向いても、彼女の胸部装甲のせいで顔が半分見えない。
「あのさ、なんで今日はここまでしてくれるんだ?」
分からないので本人に直接聞いてみることにした。
すると彼女は少し困ったような表情になる。
困っているというよりは、言うべきか言わないべきか悩んでる感じか?
「そう…ですね。まず最初に、本当は私はここまでの事はするつもりありませんでした。」
え?そうなの?なら何で…
「昨日帰ってこられたマスターを見て、私たちは一晩考えました。私たちはマスターの事をずっと見てきました。だからあの時マスターがどんな思いだったのかも分かるつもりです。」
そこで1度言葉を切り、そっと俺の頭を撫で始めた。
「私たちはマスターと共にある存在。ならば、今私たちはマスターに何ができるのか。そう考えてたどり着いた答えが、マスターの心を癒すことでした。」
頭をなでる手つきがとても優しくて気持ちいい。
「マスターの悲しそうな顔は見たくない。そう思い、今日は1日マスターの為に尽くすことに決めました。…本当はまだ駄目だったんですけどね…。母性を刺激されたといいますか、みんなの思いが溢れてきたからと言いますか…。」
みんな?私たち?誰の事だろう…?
「ですから、もうやってしまったからには隠す必要もありませんし。これからはしっかりとマスターの側でお仕えさせていただきますからね。」
…気持ちよくて段々眠くなってきた…。
段々声が遠くになっていく。
「私たちはいつでもマスターの味方です。常にお側でマスターを支えます。だから、今は安心して…、ゆっくり休んでください…。」
まどろみの中でソラの優しい声が聞こえた。
……おやすみなさい、マスター…。
真っ白な世界の中
俺はふわふわとした意識の中、当てもなく進んでいた。
ふいに、その白い世界に赤い光が見えた気がした。
視線を向けると、小さな赤い光がふよふよと飛び回っていた。
それは不規則な動きであっちこっちに飛ぶ。
まるで飛ぶことを覚えたばかりの小鳥が、必死で思う方へと飛ぼうとしているようにも見える。
…とり…?
そう思った瞬間、赤い光は小さな鳥に姿を変える。
そしてその鳥は俺を見つけると、嬉しそうに近づいてきて、俺の肩に留まり頬ずりをしてきた。
さらに、ふと気が付けば、少し離れたところに1本の剣が刺さっているのを見つけた。
?さっきまでなかったような…?
そう思っていると、どこからともなく人の形をした白い影のようなものが現れて、その剣をつかんだ。
するとその瞬間、人型の白い影は急速に色を持ち始め、1人の戦士が現れた。
戦士は剣を持ったまま俺に近づき、そして俺の前で膝をつき頭を垂れる。
…そうか、こいつらは……。
そう思った時、白い世界は急に動き出し、俺の回りからたくさんの生き物が飛び出してきた。
「おまえら…。」
それらは皆、同じように俺のそばへとやってきて、あるものは体に寄り添い、あるものは俺の回りを飛び回り、またある者は戦士の様に忠誠を誓うようなポーズをとる。
ベビー・バード、戦士の卵、ミニマジシャン、ボロット……
俺の初期デッキのカード、20体がここにいる。
そして
「…ん?」
モンスターたちが一斉に一方を向く。
そこには人型のシルエットがあった。
そしてそれは段々形を変え、色を持ち、俺の知っている姿へと変わった。
「………ソラ…。」
彼女は俺の前までやってくると、俺の目を見てニッコリとほほ笑んだ。
…あ…そういう、ことだったのか…。
彼女の顔を見て、すべてが分かった気がする。
彼女の存在、あり方、思い。
色んな感情が俺の中に流れ込んでくる。
…そうか、だから……。
俺は彼女の方を向いて微笑み返す。
そして、俺の最高に頼れる仲間たちに、最高の笑顔を見せた。
つられてみんなも騒ぎ出す。
ふと視線を感じて後ろを振り向く。
そこには人型の白い靄。
表情は一切分からないけど、何となく笑顔で頷いているような、そんな気がした。
俺は…こんなにも恵まれてたんだな…
周りで騒ぐ仲間たちを見て心からそう思った。
その瞬間、俺の意識は徐々に薄くなり、白い世界の中へと消えていった…。