拠点に帰り、早速パソコンで確認。
特殊レベルアップや特殊ランクアップの場合、それが可能な時にしか組み合わせが出てこないらしく、1枚でも素材カードが足りないと確認することもできないようだ。
祈るようにパソコンを操作し、そして
「……!あ、あった!!!」
先程手に入れた『本能覚醒』のカードを使用する、特殊レベルアップの画面が表われた。
『本能覚醒』+『魔喰人狼』+『獣の残影』=???
必要カードを確認し、迷わずレベルアップのボタンを押す。
ガシャン、ピカー!!!!
大量の光と煙が部屋を満たし、それが晴れた時1枚のカードが現れた。
ビャッコ 星5 風 獣族/効果
A2100 D1900
このカードは1度のバトルフェイズで2度攻撃することができる。
キターーーーーー!!!!
これで四聖獣が揃った!
4枚のカードを取り出して並べてみる。
ふ、ふつくしい…!!
聖獣だけあってどれもなんだか神々しさを感じる。
これでかなりデッキの強化はできたはず。
DP稼ぎで結構な時間を費やしたから、そろそろ奴にリベンジと行きたいところだが…
『ふん、雑魚が!』
奴の言葉が頭をよぎる。
いや、俺はあれから強くなったんだ!
ぶんぶんと頭を振って奴の言葉を消そうとするも、1度思い出してしまうと頭の隅にへばりついて離れない。
そこへ家の扉がギイっと開き、ソラがやってきた。
「おかえりなさい、マスター。…どうされたんですか?」
俺の様子を見て不思議そうな顔で聞いてくる。
「いや、実は…」
特殊ボスの条件付きドロップカードを手に入れたこと、それでビャッコが手に入り四聖獣が揃ったこと、それでも奴の事を思い出すと本当に勝てるのかどうか不安なこと、全てソラに話した。
するとソラは真剣な表情で俺の顔を見つめながら言った。
「先ずはカード入手おめでとうございます。マスターのおっしゃる通り、その4枚のカードがそろったことでマスターのデッキはかなりパワーアップしたかと思います。ですが…」
そこで1度言葉を切る。
言っていいのか迷っている様子だったが、意を決して彼女は続けた。
「おそらく、今のままでは勝てないと思います。もちろん勝率が0というわけではないですが、良くて3割…でしょうか…。」
そう…か。
正直俺も、彼女の意見と同じだった。
確かに四聖獣の能力や効果は非常に強い。うまく立ち回れば勝てる見込みはある。
しかし前回奴が使用したカードや、まだ使っていないであろう他の強カードを考えると、どうしても不安は拭えない。
…こりゃ思った以上にトラウマになってるな…。
どうしたもんかと悩む俺に、道を示してくれたのはやはりソラだった。
「…マスター、もう一つだけ、マスターのデッキを強化する方法があります。」
「だけど、可能な限りカードのレベルやランクは上げたし、特殊ボスのドロップカードも入手した。後は30階代の特殊ボスがまだいるけど、流石にまた100万DP貯めるのは結構きついんだが…。」
できる限りのことはしてきたはずだ。これ以上カードの強化と言っても…。
「…これは、マスターの目で直接見ていただいて、そして決めていただく必要があります。カードのランクアップのページを見てください。」
言われるがままにランクアップのページを開く。
しかし今持っているカードでは、上げれてもSRまでしか上げれないと思うんだが…………ん?
さして期待はしていなかったが、ソラが言うのなら何かしら理由があるのだろうと思いページを開くと、そこに表示されたカードの内、スザク、セイリュウ、ゲンブ、ビャッコ、そして歴戦の聖戦士の5枚のカードが光っていた。
つまり、ランクアップ可能な状態だ。
「え…?確か前見たときは出てなかったはずなのに…。」
俺が呟くと、横からソラが答えてくれる。
「おそらく、その4枚のカードをすべて揃えることが条件だったのでしょう。」
なるほど。
だとすれば今まで気が付かなかったことにも納得がいく。
しかし、そういうことならば、これは特殊ランクアップということになる。
特殊ランクアップの場合、素材カードが全て揃っていないと表示されないはずだが…何が必要素材になるんだ?
そう思いながら試しにスザクのカードを選択する。
そして現れた表示を見て、俺はその場で固まってしまった。
『スザク』 + 『命の灯火』鬼火 + 『聖天使エリー』献身の天使エリー + 『黄泉国の大王カエル』黄泉ガエル = ???
『セイリュウ』 + 『大海を統べるもの』ビックアイシャーク + 『ハイグロウドラゴン』ハイパワードラゴン + 『蠅の王』魔蠅 = ???
『ゲンブ』 + 『世界樹』 + 『巨大角竜』トリプルホーンザウルス + 『スカルレギオン』スケルトンズ = ???
『ビャッコ』 + 『風の支配者フウカ』 + 『ダンジョン雷ネズミ』雷ネズミ + 『猫怪盗ニャパン』泥棒猫キャットアイ = ???
『歴戦の戦士』 + 『汎用ロボB-RT04』 + 『闇影』影武者トカゲ + 『質量を持った亡霊』生を求めし亡霊 = ???
※『』の後ろの名前はレベル3時のもの(レベル4未登場のカードのみ)
必要なカードは全て、これまでの苦楽を共にし激戦を潜り抜けてきた、初期デッキのカードたちだった。
う、うそ…だろ?
ランクアップの素材になるということは、そのカードは消えてしまうわけだ。
いくらカードが強くなるからと言って、今まで共に苦難を乗り越えて共に戦ってきたカードたちを素材にするなんて…
どうしていいかわからず、頭が真っ白になってしまった俺の後ろから、普段より優しい声色のソラの声が聞こえた。
「マスター。私たちはマスターがどれだけカードを大事に扱ってきたかを見てきました。弱いカードだからと捨ててしまうことなく、共に成長をしここまでやってきました。だからこそ、カードたちはあなたの役に立ちたいと思ってるのです。」
俺は振り向いて彼女の顔を見る。
「それに、たとえ素材になったとしてもその思いはなくなりません。新しいカードに引き継がれ、そしてどんどん大きくなっていきます。マスターはただ素材として使用していただけかもしれませんが、どんなカードもみんな、少なからずマスターの役に立ちたいという気持ちを持っていました。そして素材となり1つのカードとなる事で、素材となったカードすべての思いは1つにまとまるのです。」
彼女は手を伸ばし、俺の頬に優しくそえながら続ける。
「ですからマスター、カードたちは、ただ消えるわけではないんです。一つになって、いつでもマスターの力になる為見守っています。だから、カードたちの思いを、私たちの思いを受け取ってください…。」
そう言って、彼女はそのまま俺の顔を自身の胸へと誘い、ぎゅっと抱きしめてくれた。
そうか…そうだったのか……。
少し前に彼女から聞いた話。
プレイヤーに与えられた『メイド』カード。
これはプレイヤーたちの生活のサポートをする事が主目的ではあるが、実はもう一つ、プレイヤーにとって重要な意味合いを持っていた。
このダンジョン、最初の頃からカードとの絆が大事という雰囲気を出していた。
実際後半になればなるほどその大事さは身に染みてわかるようになるのだが、カードとの信頼関係によって、例えば初期手札や、ピンチの時のドローカードに差が出るのだ。
俺の場合、カードたちを信じて戦い抜いてきたから、ピンチの時などには必ずと言っていいほどその時に必要なカードが来てくれる。
…カードを大切にしてたって言われても、自分じゃあんまり分かんないんだけどね。
ただ逆に、カードを雑に扱ったり、初期デッキのカードをすぐにDPに換えてしまったようなプレイヤーは、基本手札も悪く、ピンチで逆転もほぼ不可能らしい。
初期デッキのカードたちは基本的にそのプレイヤーと相性がいいカードが選ばれており、それをすぐに捨てるようなプレイヤーは、カードたちから見たらかなり印象が悪いって事だ。
で、何が言いたいかというと、今でこそ実体化し、超絶可愛いメイドさんとなっている彼女だが、その元は『カード』である。
つまり、カードの扱いが悪いプレイヤーに対してはメイドさんも冷たく対応するし、扱いが良いプレイヤーにはメイドさんの態度も軟化するということだ。
これは逆も同じ事。
いくらそれまでカードたちを大事に扱ってきていたとしても、メイドさんに対して彼女が嫌がることをしてしまえば、デッキのカードたちはプレイヤーに答えてくれなくなる。
さらに言えば、この『メイド』カード、デッキのカードたちからしたら、お姉さん的なポジションらしく、彼女に何かあった時には、すべてのカードからとても嫌われるということになる。
逆に、カードたちからの所謂好感度が非常に高い場合、メイドさんの好感度もそれにつられて高くなる。
メイドさんとカードたちの思いは繋がっているのだ。
俺が45階の中ボスで負けた日、彼女が優しくしてくれたのは、その時すでに好感度がかなり高かったから。
でもカードから実体化した時はそうでもなかったけどなんで?と聞くと、一応メイドたちのルールがあるらしく、いきなりデレるのは禁止になっているとの事。
あの時はカードたちが俺を思う気持ちが溢れて、彼女もそれにかなり引っ張られて、ルールを破ってでもあのような行動をとったんだそうな。
それからは開き直ったかのように距離が近くなったけど…ま、今はいいや。
そんな彼女が語ってくれたカードの気持ち。
それは嘘偽りなく、デッキのカードたちの本心だろう。
俺は彼女の胸の中で目を瞑り、そして決意を固める。
それだけ俺のことを慕ってくれるカードたち。
その気持ちに俺は答えないといけない。
それが、カードたちへの恩返しになると信じて。
俺は…歴戦の聖戦士と四聖獣たちを、ランクアップさせることを決めた。
……………ただ、もうちょっとだけ、この柔らかさを堪能してからね。