(モンスターが復活…?確かあのカードは融合素材となったモンスターを復活させる効果だったはずでは…??)
3体のモンスターが場に復活する様子を見ながら、マッチョモンスターを使う彼は考えていた。
彼が思うように、【融合素材となったモンスター】を復活させる効果であったならば、今回の様に融合ではない方法で特殊召喚されれば【素材となったモンスターは存在しない】扱いになり、場にモンスターは復活しないはずであった。
しかし土壇場でのカードの成長により、その効果は変更され、墓地に指定のカードがあるだけで効果を発動できるようになった。
(私の記憶違いか…?いや、だが確かに…。)
彼が混乱するのも無理は無い。
本来デュエル中にカードの効果がいきなり変わることなんてありえないのだから。
しかしここは彼らとは違う存在が管理する世界。
彼らがルールであり、カードとの絆が重要視されるが故に、そういったことも起こってしまうのである。
だが、ダンジョン内での魔物との戦闘と比べ、このような対人戦では成長が起こる可能性は相当低く設定されている。
それでもその奇跡のような出来事を起こしてしまう相手。
今回彼にとって一番の不幸は、そんな奇跡を平気で起こしてしまう理不尽な相手に当たってしまったことであろう。
まぁ、それを不幸ととらえるかどうかは彼次第ではあるが…。
「さらに俺は、手札から魔法カード『二者択一』を発動する。このカードは2つの効果の内どちらかを選んで発動するカードだが、今回俺が選ぶ効果はこっちだ!」
カードより不思議なエネルギー波が発せられ、モンスターたちに降り注ぐ。
これによって場のモンスターたちの攻撃力がアップした。
「俺の場のモンスターの数×100ポイント、つまり400ポイント俺のモンスター全員の攻撃力はアップする。」
草原の王レオ A1800→2200
ナイトメア A900→1300
邪毒蛇 A800→1200
魔界の商人 A1500→1900
合計で6600ポイント。対するライフは6400。
「さぁ、これで終わりだ。モンスター全員で、ダイレクトアタック!!!」
う、うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!
相手LP6400→0
初めての感覚だった。
小さなころから私は、何をしてもうまくいき、誰とどんな勝負をしても負けることは無かった。
最初の内は楽しかった。誰よりも自分が一番。それは子供が何よりあこがれるものだから。
だがしばらくして、私と遊ぶ友達はいなくなった。
絶対に自分が負けることが分かっているからつまらない。そう言っていた。
それでも学生の間は私の回りには常に誰かがいた。
ある日、彼らが話しているのを聞いた。私のそばにいるのは、優秀な私のそばにいるだけで自分も優秀にみられるようにしたいから。
それから私は、できるだけ他人との距離を置くようになった。
このころから、少しづつ私の心には亀裂が入り始めていたのだろう。
大人になり、仕事を始め、私はどんどん業績を伸ばしていった。
入社した頃仲の良かった同期は、すぐに私のそばから離れていった。
周りからは、何も努力しなくてもすべてが手に入るうらやましい奴、と妬まれ、時には嫌がらせも受けた。
だが私は真正面から彼らと対峙し、結果彼らは謹慎、又はクビになった。
私の心にはぽっかりと穴が開き、何をしても満たされなくなった。
会社を辞め独立し、新しい企業を始めてもその悉くが成功し、やりがいというものも感じなくなった。
そんな時、私はこの世界へと召喚される。
最初は理解不能な状況に戸惑ったが、しばらく過ごすことで生活にも慣れ、考える余裕も出てきた。
そして管理人とやらの言葉をよくよく見なおすことで
「ここでなら、私の心を満たすことができるかもしれない。」
そう思うようになった。
遊戯王とやらは1度前の会社の同僚から話を聞き知っていた。
彼は重度のカードオタクだったからな。
何度かダンジョンに潜ることで何となくコツをつかみ、私はどんどんと攻略を進めていった。
しかし、私の前には常に一人の人間がいた。
掲示板では『某氏』と呼ばれていたが、彼が常に1番先頭を走ることで、私は忘れていた『追いかける』という心を思い出した。
それからは毎日が楽しかった。
元の世界では私は常に勝者であったが、ここでは私は1番ではない。チャレンジャーだ。
そう思うだけで私の心はどんどんと満たされていった。
そして今日、私は目の前の男に、生まれて初めての『負け』というものを与えられた。
これが敗北…、これが負けるという事…!
私は今、敗者となった!!!
私の胸にはかつてないほどの喜びがあふれている。
まるで、欲しかった玩具を買い与えられた子供の様に。
この世界に感謝を。
ここに連れてきてくれた管理人に感謝を。
私にチャレンジャーの心を思い出させてくれた某氏に感謝を。
そして、私に初めてをくれた彼に、最大の感謝を…。
モンスターたちの攻撃により、相手のライフは0となった。
(か…ったー…。)
喜びたい気持ちとは裏腹に精神的な疲れが大きく、その場で伸びをするにとどめる。
…しかし強敵だったな…。管理人は楽勝とか言ってたけど、全然そんなことなかったし。
伸びの為に上に上げていた手を下ろし、何とか倒すことのできた相手を見ると、彼は何やら熱っぽい顔でこちらを見ている。
……なんだか嫌な予感…。
「………やぁ、とてもいい勝負だった。…ありがとう。」
「え?あ、いえ、こちらこそ…。」
思ったより普通のセリフに思わずどもる。
しかしその直後、
「私の初めてを奪ってくれた君と、もっと親しくなりたいと思っている…。どうだろう?この後一緒に食事でも…。」
デュエル前のおちゃらけた感じは一切なく、むしろ潤んだ瞳で見つめながら話す相手を見て思う。
ヤバい、これガチの奴だ…!!
思わず後ずさりながら答える。
「え、えっと、ありがたいですけど、この後もまだ決勝続くし…、さ、さよなら!!」
決して背中は見せず、手はお尻を抑えながら彼と距離を取る。
【勝敗が決しました。勝者は控室へ、敗者は拠点へと移動されます。】
いいタイミングでアナウンスが流れる。
フワッとした感触の後、俺は最初の控室にいた。
……ふぅ、助かった…。
控室に置いてあった椅子に腰かけ背もたれに体重をかける。
(後はもうプレイヤー同士で接触する機会が二度とありませんように…。)
そう祈りながら、俺はモニターの電源を入れ、次の対戦相手になるであろうプレイヤーたちのデュエルを見るのであった。
………つれないねぇ…。