“継承”のセンブランス   作:飴玉鉛

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難産な繋ぎ回。次回から本番へ。
感想…評価…ほしい…(絶息)
作者に燃料を焚べてくれぇ…!(飢餓)




幕間【啓蒙】

 

 

 

 

 

「ガシャンガシャン」

 

 擬音である。

 

「ガチャンガチャン」

 

 擬音である。

 

 まるで幼児退行しているかのようだが、これは無意識に付いた癖のような物だ。

 

 一人きりで設計図を引き、武器を作る。

 多様なセンブランスによって無機有機問わず構造体を任意の形に改造できる故に、どんな廃材も製品に使用できる能力がありながら、ヨナタンは既存の部品を用いての武器製作を好んでいる節があった。

 そして組み上がった武器の仕掛けを試す為に、変形を繰り返すのを密かな趣味にしているのだ。そこに高尚な意味などない。あるのは酔狂だけである。そして当然ながら擬音を口走る事にも意味はなかった。

 傍から見れば狂ったようにしか見えないだろう。だが、ヨナタンは狂ってなどいない。寧ろ彼の狂態を無視すれば、驚嘆に値する技術の結晶が手元にあるのに、武器マニアなら瞠目するに違いない。

 

 彼の手で変形を繰り返すのは、ヨナタン作の射撃武装『多目的銃火器ミストルテイン』である。

 

 通常形態は噴射機構内蔵型大剣ガラティーンの白鞘だ。ガラティーンの抜剣と同時に変形し、第一形態である散弾銃と化す。オーラで強化していようと並の膂力なら発砲時に肩が外れる反動を有するが、桁外れの膂力も有するヨナタンであれば最大限に性能を引き出し、秒間三発もの散弾を吐き出せる。

 これを下から上に振り上げれば変形機構が作動し、下部に備わっていた大口径の銃身が持ち上がり、第二形態の突撃銃となる。そしてトリガーの前に飛び出たスイッチを押せば銃身が伸び、第三形態の狙撃銃となり――左右に切り離せば第四形態の短機関銃が二挺現れるようになっていた。

 その火力は現行の携帯火器の中でも最高峰に位置する。間違っても擬音などを口走りながら弄んでいい代物ではない。下手に扱えば誤爆し、握っていた腕が跡形もなく吹き飛んでしまうだろう。

 

「ガションガション」

「………」

 

 そんな危険物を弄ぶ兄の姿に、幻想を破壊されたような微妙な貌でワイスは佇んでいた。

 休日、ではない。ワイスは休校日だがヨナタンには仕事がある。事実ヨナタンの私室にあるLED映像表示装置には、彼がこれから携わるという仕事についての会議が開かれている様が映し出されていた。

 それはヴァキュオを除いた三カ国の首脳部と、各国にあるアカデミーの学長達が参加しているテレワークによる会議の様子だ。ML上層部の一人として、ローマンも参加している。

 

 オフィスにいるらしいローマンの後ろにはニオがいるのが確認できる。またそれ以外にはグリンダ・グッドウィッチを傍に控えさせているオズピンや、アトラス軍の将軍アイアンウッドも画面端に映っていた。

 無論、ヨナタンの様子も向こう側には見えているだろう。真剣な会議の場でふざけているようにしか見えないヨナタンの姿に、一応画面に映らないようにしているらしきワイスは気が気でなかった。

 率直に言って、無礼である。空気が読めていないにも限度があった。ただでさえ憧れの兄だった人の微妙な振る舞いに目眩がしているのに、恥を晒し続ける兄を見るのは妙な忍耐をワイスに与えている。

 

「……お兄様!」

 

 たまりかねて、小声で怒鳴るという器用な真似をしてヨナタンを諌める。

 質が悪いことに擬音を口にするヨナタンは、本気で恥ずかしいと思っていない。それが分かる表情で振り向いてくる兄に、身内の無様さでワイスは羞恥に駆られるまま言った。

 

「ん、何かな?」

「何かなではありませんわっ! こ、こんな重大な会議の場にわたくしを招いた不可解さはさておくとしても、お兄様の態度は相応しいものとは思えません! 早急におやめになってくださらない!?」

 

 至極まっとうな台詞に、ヨナタンはふっと笑って集音マイクに手を押し当てた。

 

「安心しなよ。僕の側から送られる映像はフェイクだから。画面の向こうの皆様には、真面目くさった貌で話を聞く僕が見えているはずさ。ガション」

「……そういう問題ではありませんわっ! お兄様の態度が場に相応しくないのが問題なんですの!」

「そうは言ってもさ……」

 

 擬音を用いるのに羞恥は覚えておらずとも、客観的に見れば軽薄な態度で不真面目にしているように見えるのはヨナタンも承知していた。が、しかし。いまいち真面目になりきれないのだ。

 ちら、と映像表示装置を一瞥すると、そこでは会議が踊っていた。

 

『――故にカオスの問題はアトラスやML、ミストラルだけの話ではないと何度も申し上げている。動員可能なハンターや軍を動かし、総力を挙げて叩くべきだと納得して頂きたい』

『そんな大掛かりに動けばミストラルに潜伏しているというアッティラに勘付かれてしまう! ここで逃し行方を晦まされたらどう責任を取る? 少数精鋭で急襲し、電撃的に始末を付けるべきだろう!』

『だが事に当たるのがアトラス軍というのはどうなんだ。ミストラル王国内の問題であるなら、当政府が作戦を決行するべきだ。同盟国アトラスの申し出は検討するが、ミストラルの主権を冒しかねない。わたしはオズピン学長の意見を推させてもらおう』

『現実的に考えろ。アイアンウッド将軍の意見は行き過ぎているというのは同意するが、相手はヴァキュオ王国を傀儡にまでした裏世界の首領(ドン)だ。ミストラルだけで対処できるとは思えんし、ヴェイルや他国のハンターの応援を待っている間にアッティラが所在を晦ませない保証もない。であればアトラスとミストラルが協同し速やかに動くべきで――』

 

「――ほら、ご覧の有様だ。オズピン教授とアイアンウッド将軍は意見を対立させ、他は自分の意見を述べず当たり障りのない物言いに終始している。こんな会議でやる気なんか出ないね」

 

 ヨナタンが露骨に失望して見せると、ワイスはなんとも言えず口籠る。

 だがワイスはワイスなりに、この会議の重要性を理解していた。故に兄に対して言うのだ。

 

「……ですがこの方たちはこの方たちなりに、事態の重さを理解して真剣に話し合ってるんですのよ。それにわたくしからすると、当たり障りのないと酷評するような内容の会議ではない気がしますわ」

 

 秘密裏に各国首脳部が顔を突き合わせ話し合っているのは、悪名高きテロ組織【カオス】の首領を如何にして捕殺するかについてだ。

 カオス。それはヴァキュオを傀儡にまで貶め、他国にまでその影響力を広げつつある世界最悪の武装組織。()()ホワイト・ファングをも傘下に収め、暴虐の限りを働くばかりか、遂には()()()()()を独自に開発し一国家に投下した外道の巣窟である。

 もはやグリム同様、世界の敵だ。世界の敵であるという事は、ハンターを志すワイスにとっても敵である。元々ホワイト・ファングに対して最低の心象を懐くワイスは、カオスを倒すべき悪と見做していた。

 

 ワイスは思う。ヨナタンはワイスの知る限り、並ぶ者のないハンターだ。ワイスにとっての憧れであり、ヒーローでもある。そんな彼がカオスと戦うのは自然であるし、きっと打倒してくれると信じている。

 だが、どうだ。兄のこの――乗り気ではない様は。

 まるでやる気の感じられない態度は、人々を守るはずのハンターには相応しいものとは言えない。カオス打倒の為の会議なら、真剣な態度でいないといけないのに。

 もどかしいような、なんとも言えない心境でワイスは兄を見詰める。するとヨナタンはフッと表情を消した。

 

「ワイス。どうして僕が、君に会議を見せていると思う?」

「え……?」

 

 唐突な問いは、しかしワイスにとっても疑問だった事だ。

 何故なのか。考えてみても、分からない。

 しかし『分からない』と簡単に口にするようでは、頭の中身の価値を落としてしまう。分からずとも考え、思考を途絶えさせないようにNアカデミーで教わってきた。

 

「えぇと……わたくしがこの方たちを通して国や軍、アカデミーがどのように意志を統一するかを見て学べるようにしてくださっている……?」

「流石ワイス、概ね正解だ」

「概ねという事は、一部は違うんですの?」

 

 褒められて気分が良くなるも、聡明な少女は増長せずに反駁した。

 するとヨナタンは無表情で告げる。

 

「火急の事態に際して、強力な決定権を持つ人間がいない会議が、どれだけ無駄に時間を浪費するかについても見せておこうと思った。ハンターは現場の判断を強いられるだろう? 上の人間の腰の重さを知っておくのは必要な事だ。そして――」

 

 一瞬口籠り、意を決したようにヨナタンは言った。

 

「カオスとの戦いは長引く。たとえアッティラを捕れたとしても、一度纏まった組織が簡単に離散するとは思えない。しかも奴らは()()を持っている……()()をチラつかされたら、及び腰になる国は絶対に出てくるだろうからね。ワイスが一人前になった時、どう考えて行動するべきか判断し易くしてあげたいから、僕が勝手にこの会議を見せているんだ」

「……職権乱用ではありませんの?」

 

 あけすけな身内贔屓に気恥ずかしくなり混ぜっ返してしまうと、ヨナタンは明らかに用途の異なる方便を述べた。意地悪な笑顔を覗かせながら――

 

「権力は使うためにあるんだよ、ワイス。それにバレなきゃ犯罪じゃない」

 

 ――その顔は。そういう顔は、今まで見せた事のない表情だった。

 兄は近頃、急激に稚気を見せ始めている。それはヨナタンに恋人ができた時期と符合した。

 良い変化だとは思う。以前までの、どこか超然として、浮世離れした佇まいも好ましがったが、今のヨナタンはこれまでよりずっと親しみやすい人間性を発露し、身近に感じられる人になっている。

 ワイスが当たり前と思っていた、「完璧で清廉潔白な超人」という偶像が、実は遠くて理解のできないモノを見ていたという事で。以前の兄よりも、ずっと魅力的な風情を湛えているという事。

 それが、なぜだか面白くない。

 自分を全肯定して、受け入れて、かと思えば正しい道に導いてくれて、尽きない愛を無条件に注いでくれる唯一無二の「家族」だった。自分の、自分だけの兄だったのだ。

 なのに、いつの間にか兄は自分のものではなくなっている。画面に映っている少女――ニオ・ポリタンのものになっていた。耐え難い情動が心の芯を揺らし、胸のざわつきがこうした新しい兄の姿を見ると発生して、つい拗ねたように唇を尖らせてしまう。

 

「わたくし、その考え方は嫌いですわ」

「そうなのかい? 潔癖だね。でも一つ賢くなったろう? 好きか嫌いかで物事を捉えられるのは今だけなんだ。それを知る事が出来たのは重畳だよ」

 

 口の上手さでも、どう足掻いても勝てない。けれど反抗するように言ってしまう。

 

「使わなくともいい時に権力を乱用し、一学生に過ぎないわたくしに重要な会議を見せているのは、それらしい理屈を並べても正しい行ないとは言えませんわ。お兄様の行ないは誠実とは言えません」

「はは、言うようになったね。確かにその通りだ。けれどワイス、君は一つ思い違いをしている」

「……何をですの?」

 

 ワイスが反駁すると、ヨナタンは肩を竦めて多目的銃器ミストルテインを変形させ、通常形態の鞘にした。それに噴射機構内蔵型大剣ガラティーンを納めると、なんでもないように肩を竦める。

 

「僕は聖人なんかじゃない。君が僕をどう思い、どう捉えるかも自由だけど、僕は僕だ。僕が君の望む偶像で在り続ける保証はどこにもない。だからねワイス、そろそろ兄離れをして探すんだ」

「兄離れだなんて、まるでわたくしがブラコンみたいな……それに、何を探すんですの?」

「君はブラコンだよ。僕がシスコンであるようにね。探すべきなのは――その答えを探すのもワイスのしなければならない事だよ」

 

 ヨナタンは慈しみを込めてワイスを見る。

 自らをシスコンと称する兄、ワイスをブラコンと断定する兄。少女はそれに赤面してしまいながら、聡明な知性は疑問符を浮かべていた。兄離れしろと言うからには自分は妹離れをしているという事。しかしシスコンを自称しているという事は、ブラコンである事は否定していない。それに何を探せというのか。

 ワイスは兄を世界で一番尊敬している。世界で一番家族として愛している。だからその事実を指摘されても恥ずかしくはないし、他者から揶揄されてもなんら恥じる事もないと断言できた。

 なんなら公言もしている。ワイスがヨナタンを如何に敬愛しているかはNアカデミーでも周知だ。

 

 自分の言葉を受け考え耽る妹にヨナタンは微笑を向ける。

 そうして彼は、結局会議で一度も発言しないまま時を過ごした。

 所詮は茶番だ。会議がどれだけ踊ろうと、やるべき事に変化はない。

 ヨナタンはワイスとの憩いの時を過ごして――翌日、ローマンからの通達を聞きMLを発つ。

 

 結局、以前の手筈通りに動くことになっていた。

 あの会議は「皆さんの意見も聞きましたよ」という、各国の面子を立たせるための舞台に過ぎない。

 故にあらかじめ決められていたプラン通りにアトラス軍は展開し、ヨナタンはミストラルへと向かうのだ。

 

 壮大な茶番、非道なるマッチポンプの始まりだ。

 全ては一言で収められないエゴと、使命の為である。

 

 区分けと、腑分けの時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヨナタン・ナーハフォルガー最終装備

・噴射機構内蔵型大剣ガラティーン
レッドダストのみを大量に搭載した両刃の大剣。バイクのアクセル状の柄が特徴。最大出力を発揮すると変形し、刀身が真ん中から左右に割れ、太陽の表面温度に匹敵する光刃が噴射される。
光刃は最大で三百メートルまで伸びるが、故障を覚悟すれば四百メートルまで伸長可能。全長百八十センチ、刀身長百四十センチ、柄四十センチ、刀身幅も四十センチ。赤を基調としたカラーリング。

・多目的銃火器ミストルテイン
通常時はガラティーンのメタリックな鞘。白色。散弾銃、突撃銃、狙撃銃、短機関銃二挺の四形態に変形可能なよくばりセット。ガラティーンとの合体機能もある。

・短剣クラウソラス
最初期の愛剣。もはや無用の物だが最初に作った記念品として常に所持している。現在は改良を加え、リストバンドに擬態して手首に巻いている。何気に初見で武器とは判断が付かず、探知機に掛けても反応しない優れもの。

深淵狩りの齎すもの

  • 狂い哭け、お前の末路は『英雄』だ
  • 真に愛するなら壊せ!
  • 新世界の開闢に散る華となれ!
  • お前は、要らない
  • 泣き叫べ劣等――今宵、ここに神はいない
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