暗い。
辺り一面はただただ闇で黒く塗り潰されている。
一寸先も見えない無明の闇。
なぜ自分はこんなところにいるのだろうか?
記憶が判然としない。
「目が覚めましたか?」
声がした方を見れば、1人の女が立っていた。
美しい、と言えるだろう。
くりくりとした可愛らしい目。
すっきりと整った小さな鼻。
肌は透き通るような白さ。
可愛らしい上品な形の唇。
綺麗でさらさらと流れるような金の髪。
だが、この暗闇の中で、女の姿だけがはっきり見えるのに違和感しか覚えない。
まるで背景をベタ塗りした、人物だけが描かれた絵画が動いているような。
「この度はこちらの手違いで申し訳ありませんでした」
「手、違い?」
手違いとは何だ?
この女は何を言っている?
「私はあなたがた人間が言う神というものにあたります私の手違いであなたは死んでしまったのですが覚えてはおりませんか?」
死んだ?
自分が死んでいる?
そんな・・・・・・馬鹿なことが。
「信じられないかもしれませんがあなたは本来死ぬ運命にはなかったのですしかし私の手違いで運命が変わってしまいましてお詫びに伺ったのです」
「お、詫び・・・」
神が、お詫び?
なんだこの状況は?
人なんて世界中でいくらでも死んでいる。
だというのにわざわざお詫びに現れるというのか?
手違いだろうがなんだろうが、放っておけばいいだけではないのか?
「この世界での生命は終わってしまいましたので代わりに別の世界へ転生させることになりますそして何でも好きな力を与えましょう」
別の世界に転生?
いや、そこまではまだいい。
だが好きな力とは何だ?
なぜそんなものを与える必要がある?
「どのような力がいいですか?無限に剣を作り出す能力ですか?どんな魔法でも使える力ですか?巨大ロボを創造し自由に使役する能力?無敵の武術?最強の剣?絶対的な防御能力?再生力?知識?それとも全ての能力とそれを使いこなす究極の力を与えましょうか?」
何だそれは?
あまりにも都合が良すぎる。
たかが人一人が死んだくらいで、神が現れお詫びに究極の力をくれる?
気持ちが悪いくらいに、都合の良い妄言だった。
そもそも、この女神と名乗ったナニカは、その一挙手一投足の全てが不快に感じられた。
何か違和感があると。
そうだ、と確信に似た何かがあった。
この不快感こそは、本能が鳴らす警鐘なのだと。
人ならざるモノが、人を演じているような気持ちの悪さ。
これは、絶対に信じてはいけない類の、モノだ!
ただ、ただ、悍ましかった。
悍ましい、悍ましい。
それ以外の単語が見つからない。
それを構成する全てが悍ましい。
そのくりくりとした眼が悍ましい。
その整った鼻が悍ましい。
その透き通るような肌が悍ましい。
その可愛らしい口元が悍ましい。
その綺麗な髪が悍ましい。
一つ一つは、理想的なものでも、それらを併せ持ったこの女神の姿は、ひたすらに悍ましさしか感じられなかった。
ちぇっ、と、舌打ちが響いて。
それは、ソレは、呟いた。
残念そうに、それでも喜色の混じった聲で。
「こいつは引っかからないかぁざーんね~ん」
真っ赤な口内が覗く、三日月の形につり上がった口がニイっと笑みを形作る。
否、否・・・否、否、否!
三日月などというものではない!!
切れ目のような口は、ようなではなく、もはやただの切れ目のように、顔全体に満月の形となって張り付いていた。
ナンダコレハ?
ゲラゲラと不快な笑い聲が耳から入り込んでくる。
女神の姿、人の姿、だからこそ言い知れぬ悍ましさがあったと思っていた。
だけど、人の姿ですらなくなったそれは・・・・・・それは、ソレハ・・・・・・ソレハモウ
「うわあああああああああああああああ!!」
絶叫。
それが自分のものであると気付いたのは、肺の空気を吐き出せるだけ吐き出した後だった。
それはいつも通りの、見慣れた光景。
寝慣れたベッドの上。
何も変わらない、自分の部屋だった。
「ゆ、め?」
夢、か?
夢だ。そうこれは夢だ。
夢に、違いない。
そうでなければ。
そう思わなければ。
この耳にこびりついた、悍ましい笑い聲から逃げられそうになかった・・・・・・
朝の光が部屋を照らすまで、身動きするのも憚られてただずっと体を丸めて、耳に響く笑い聲の残滓に耐えていた。
今日もまた夜が来る。
また眠らなければならない。
眠ってしまったら、またあれが現れるのではないかと、不安でたまらない。
今日もどこかで引っかかってしまった誰かがどこかにいるのでないか。
その誰かを眺めて、アレがゲラゲラと悍ましく笑う光景を幻視する。
「転生特典!? やった、じゃあこの能力とこれとこれを」
「ゲラゲラゲラゲラかかったかかった!!」
ゲラゲラとゲラゲラと。
悍ましく笑うナニカを。
思い付きのネタを即興で書いてみましたがいかがだったでしょうか?
ホラーって普段の自分はどうも、立ち向かわせちゃう気質があるのでホラーにならないというかなんというか伝奇バトルに傾いちゃうというか。
実験的に書いてみましたがさてどうなんでしょうねこれは?