なんか更新に間が開いちゃいましたね。
そこまで気にしてる人はいないでしょうけど。
咲耶と一夏の試合が想像以上に呆気なく終わり、会場は何とも言えない静寂に包まれた。
だが、そんな空気にした張本人は平気そうな顔をしながらピットへと戻ってきた。
「咲耶の動きを見た時から、お前が勝つのは間違いないだろうとは思っていたが……」
「まさか、投げ技で決めてしまうとはな……」
「正直、咲耶ちゃんもびっくりでござる」
ヴァルシオーネを解除してから床に降り立つと、急に表情が激変して滝のような涙を流しながら足がガクガクになってブルブルと震えだす。
「うわぁ~ん! 本当に勝ててよがっだよぉ~!」
「えっ!? 自信満々じゃなかったんですかッ!?」
「何言ってんですか山田先生! 私はまだ超初心者ですよッ!? ピーピー泣いてるヒヨコちゃんなんですよッ!? ぶっちゃけ、オルコットさんに勝てたのだってウルトラミラクルでごじゃりますのよっ!? もしも私が専用機を持ってなかったら、間違いなく無様に負けて、その事を一夏に馬鹿にされた挙句にエッチな事をされてたに違いなんですから! エロ同人誌みたいに! エロ同人誌みたいに!」
「前半の部分は分かりますけど、後半の部分は完全に飛世さんの勝手な妄想ですよねッ!?」
「男は皆、狼なんですよッ!? ちょっとでも油断をすれば、それを突いて何を仕出かすか分からないんですからぁっ!」
「貴女がそれを言っちゃうんですかッ!?」
最近になって忘れがちだが、咲耶はあくまでも『男』である。
見た目がどれだけ可愛い美少女でも、生物学上は『男』なのだ!
腰が括れて、声が綺麗でも、胸があっても違和感ZEROでも、こいつは『男』なのだ!
重要なので3回言わせて貰った。
「咲耶ぁ~! 本当に勝って良かったなぁ~! お~…よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしっ!」
「あぁ~…落ち着く~……急に角砂糖が欲しくなるや」
号泣しながら千冬が咲耶の事を抱きしめて、その頭を素早く何回も撫で捲る。
どこかで見たことがあるとか言わない。
空の向こうで見守ってくれているディアボロ先生が嫌な事を思い出すから。
「角砂糖なんて言わず、なんでも好きな物を言ってもいいぞ~」
「それじゃあ……」
千冬から離れて、どこからか取り出したスマホを持ってステージのど真ん中で未だに上半身を埋もれさせている一夏を指差す。
「あの状態の一夏を写真に撮って、SNSで『犬神家なう』って書いて載せてもいい?」
「勿論いいぞ! どんどん載せろ!」
「わ~い!」
「流石にそれは止めてあげてください! 織斑君が可哀想すぎます! っというか、なんで実の姉である織斑先生がそれを促してるんですかッ!?」
「私は咲耶の事は全肯定するタイプの人間だから」
「えぇ――――――――っ!? それじゃあ、篠ノ之さんはっ!?」
「汗を掻いている咲耶……見ているだけで興奮する…♡ タオルで拭き取ってから永久保存とか出来ないだろうか?」
「この子もダメだった――――――――っ!?」
一夏がいないので、真耶が代わりにツッコミ役に。
出番が増えてよかったね。
「よくありませんからっ! 織斑く~ん! 早く復活してくださいよぉ~!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
真耶の祈りが通じたのか、少しして一夏が復活。
そのままフラフラとした足取りでピットまで戻ってきた。
「ちくしょー……見事にやってくれたな咲耶……ぺっ…ぺっ…」
口に中に入った泥を出しながらISを解除する。
持参していたタオルで顔を拭きながら、咲耶の事をジトーっと睨み付けた。
「何言ってんのさ。こっちとしては、かなり技を厳選して放ったつもりなんだけど?」
「どこかだっ! 明らかにオーバーキルな一撃だっただろうが! よりにもよって、あのゴンザレスの凶悪な投げ技を放つとか正気の沙汰じゃないぞっ!?」
「んじゃ、ザンギエフのファイナル・アトミック・バスターの方が良かった?」
「よりオーバーキルに磨きを掛けるなっ! 普通に死ぬわ!」
試合が終わったばかりだというのに元気だ。
若いって素晴らしい。
「…で? 咲耶が全戦全勝したってことは、クラス代表は咲耶って事でいいのか?」
「「「くらすだいひょー?」」」
「忘れたのかよッ!? 元々この試合は、それを決める為にやったんじゃねぇのかッ!?」
咲耶と箒と千冬が全く同じ顔で小首を傾げる。
期間が開いてしまったせいで忘れてしまったようだ。
「私は別にクラス代表でもいいけど? 私という名の太陽で一組を照らしてあげましょう!」
「よく言った! それでこそ私の嫁だ!」
「咲耶…成長したな……」
「自分で自分の事を太陽っていうヤツ、マジで初めて見たわ」
感動している千冬と箒の横で、一夏が冷静なツッコミをする。
もうこれが彼の定位置になりそうだ。
「え…えっとですね。経緯はどうあれ、飛世さんと織斑君は専用機を手にしたわけですが、ISの使用に関しては色々な規則があるんです。これが、その規則が書かれた本になります。よく読んでおいてくださいね」
そういって真耶が二人に手渡したのは、明らかに六法全書並の分厚さを誇る規則書だった。
しかも、一ページ一ページが障子紙クラスにペッラペラになっていて、見た目以上の重量がある。
「な…なんじゃこりゃ…! かなり重いぞ…!」
「ねぇ…一夏」
「なんだ?」
自分が両手で持っているのに対し、咲耶は左手で軽々と持ち上げている。
それこそが咲耶と自分との差だと思うと、何とも言えない気持ちになった。
「この本にピアノ線とか結びつけてさ、ぶん回してモーニングスターみたいな打撃武器として使えば大ダメージを与えられないかな? ISの絶対防御とか発動させられるかもしれない」
「一概に否定できないよな……この重量だと」
「というわけで、実験台どうぞ」
「嫌だよ! もし仮に頭に命中とかしたら、確実に頭蓋骨陥没しちまうだろうが!」
「大丈夫だよ。その時は反対側から同じ衝撃を与えれば元に戻るって」
「板金工か! 俺の頭蓋骨は鉄の板で出来てる訳じゃないんだよ!」
「「「え? 違うの?」」」
「なんで千冬姉と箒まで一緒に驚くのッ!?」
ある意味、これは驚かれても仕方がないかもしれない。
詳しくは原作を読むべし!
「はぁ~…ったく。さっきまであった悔しさとか、全部吹き飛んじまったじゃねぇか……」
「良かったじゃん。ずっと悔しいって気持ちを引きずるよりは、どんな形であれ吹っ切れた方が。その方が次に繋げやすいんだよ」
「咲耶…まさか、お前……」
自分の事を慰める為に、今みたいな茶番を繰り広げたのか?
なんて思ってたら大間違い。
「お蔭でいい写真も撮れたしね」
「いい写真? …って! それはまさかっ!?」
そのまさか。一夏の犬神家だ。
「ちょ…それ寄越せ!」
「だが断る!」
「ならせめて写真を消せ!」
「ダメだね。というか、もう遅い」
「え?」
「この写真はもう、私が密かに接触していた新聞部に所属している二年生の黛薫子先輩のスマホにコピーを転送しているから。仮にここで消しても意味が無い」
「よりにもよって新聞部っ!? しかも、いつの間に知らない先輩と知り合ってやがったッ!?」
「私のような美少女の中の美少女には、沢山の秘密があるのだよ」
「お前がそれを言うなっ!」
「今頃はもう、選挙ポスターのように犬神家を披露した一夏の姿を晒した新聞が大量生産されてるんじゃないかにゃ~?」
「やぁ~めぇ~てぇ~!!」
一夏、血の涙を流しながらの懇願だが時既に遅し。
サイはとっくに振られているのだ。
「一夏……」
「千冬姉……」
久し振りに千冬が優しい笑みを浮かべながら、一夏の肩に手を置いた。
「諦めろ」
「そこは普通、慰める場面じゃないのッ!?」
まさかの実姉による諦めろ宣言。
しかも、サムズアップのおまけ付き。
「そこまで気にすることは無いって。学園唯一の男子なんて肩書がある以上、遅かれ早かれ学園中で有名になっていくのは必然なんだからさ」
「咲耶の言う通りだぞ。大人しく受け入れろ」
「言いたい事は分かるんだけどさ、だったらせめてもっとマトモな事で有名になりたかったよ!」
「「「「あ。それは無理」」」」
「なんでさっ!? というか、しれっと山田先生も交じってるんですけどっ!?」
真耶、あっという間に立場交代。
「さて…と。休憩は充分に出来たから、オルコットさんに会いに行こうかな~」
「私も一緒に行くぞ、咲耶」
「俺はまだ休憩出来てないんですけどぉ!?」
そんな一夏の訴えを無視して、二人はすたこらと更衣室へを向かって行った。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
咲耶たちがそんなやり取りをしている中、セシリアは一人、シャワー室にて汗を流していた。
「飛世…咲耶さん……」
最初は、普通に可愛らしい女の子だと思っていた。
自信に溢れ、それを裏打ちする実力も併せ持っていて。
頭だってよかったし、何より、誰にも臆することなく話しかける人懐っこさ。
セシリア自身、咲耶と実際に話して、その気さくさに思わず笑みを浮かべてしまったほど。
あぁ…彼女のような人物こそが人々に好かれるのだと、頭ではなく心で理解出来た。
「試合の時の飛世さんはまるで……」
彼女の中にある純粋さを表現するかのような、純白に輝く天使のようなIS。
そんな美しい姿とは裏腹に性能は非常に高く、それを操る咲耶の実力も初心者とはとても思えなかった。
冷静に自分の事を分析する頭脳。
MAP兵器を放つ絶妙なタイミング。
そして、手に入れたチャンスを最大限に生かす大胆さ。
試合の最中に見せた咲耶の、普段は決して見せないであろう戦士としての顔は今でもセシリアの脳裏に深く焼き付いていた。
日常的に見せている笑顔を知っているからこそ、そのギャップの破壊力は凄まじかった。
(試合が終わってからずっと感じている…この胸の高鳴りは一体……)
最初は、試合の時の興奮がずっと抜けないでいるのだと思っていた。
だがしかし、一夏との試合の際にはそんな事は全く無かった。
彼との試合が終わり、モニター越しに再び咲耶の戦う姿を見て、彼女の胸の鼓動は更に激しさを増した。
「胸が…苦しいですわ……咲耶さん……」
頭の中には咲耶の事しかない。
彼女の事ばかりを考え、その笑顔を思い浮かべるだけで顔が熱くなる。
まだセシリアは、その気持ちの正体を知らない。
「貴女と会って…お話をすれば、この気持ちが何なのかも分かるのかしら……」
その咲耶がこちらに来ようとしている事を知らないセシリア。
千冬と箒に強力なライバルが誕生するまで、あと少し。
因みに、一夏の事は全く頭には無かった。
ここから咲耶を巡ってのドロドロの関係が始まる?
そして、一夏の気苦労が増える。
影と一緒に頭まで薄くならない事を祈ろう。