魔王城に勇者っぽい奴が来たってよ。

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とりあえず筆を執りたくて。


魔王様、後ろ後ろ!

この世界は、魔族と人間がいる。

この二つは過去の因縁から、一度として共存せず二分されていた。

 

「ーーー魔王様、人間族への行進は着実に進んでおります」

『ご苦労。では引き続き頼むぞ』

「はっ」

 

そんな魔王の前に跪いたの幹部の一人、メイは立ち上がり自室に戻る。

彼女は比較的見た目は人間の幼女に近い、しかしその小柄な体躯と容姿からは考えられない力を秘めており、他の幹部からだけでなく魔王からも一目置かれている。

 

彼女は自室に戻り、そのまま重力に任せてベットに倒れた。

 

「あー面倒くさい…なによ仕事ばかり、これなら下っ端の時のほうが楽だったじゃない」

 

そういって、ベットで大きく伸びる。

 

「あ~でもそしたら固いベッドにオヤツも無しか……ぬ~考えるのもめんどくさいなぁ」

 

 

彼女は自分の怠惰に正直であった。

この事実を知る者は魔王を含めていない。

 

 

「上に上がって優秀そうな部下を捕まえれば勝手に動いてくれて楽できると思ったんだけどなぁ……あっ」

 

思い出したように呟いて、テーブルの上にクッションと共に大事そうに置かれた水晶を一瞥する。

そこにはこことは別の景色が見えた。

 

(今日は…確か新入り面接の日だったわよね…どーせ大した奴いないだろうけど)

水晶越しに見える景色は、スケルトンという肉体を持たない骸骨の面接官が、魔王軍に従いたい者に質疑応答している姿が移った。

 

「ま、一応見ておきましょうか」

 

まぁ、見所があれば直属の部下にしてあげないこともないといった感じで、ベッドにその中継水晶を置いて覗く。

 

人間側のスパイもいる可能性を考慮してその監視も兼ねている……という名目で覗き見しているのだ。

 

言及された際の文句まで用意している辺り、怠惰とはいっても保身を含めてやることはやる律儀さはあるのかもしれない。

 

 

「それにしても、さえない奴らばかりねぇ……なんかパッとしないし、インパクト弱いし……ま、部下にならないからどうでもいいけどさ」

 

そう言って嘆息を漏らす。

もう睡魔と怠惰に身を任せて寝ようかと思った、刹那。

 

 

 

 

 

『それでは次、ロット・ユーシャ君』

『はーい』

 

「―――待って、なんか凄いの来た」

 

入ってきた人族を見て、気だるさが一気に失せたのを感じた。

既に格好は軽装ではあるが、鎧と兜はおよそ最高峰の鉱石を使っているだろうことがわかる。

 

「え?何コイツ、なんかオーラ纏ってるんだけど?」

 

しかも、身体中から溢れでるような白いモヤが見える。

これは才能ある者が魔力の修練がある一定の基準を達した者が辿り着ける境地。

魔王軍でも見える者は稀有だ、それこそ幹部レベルでなければ。

 

(それが水晶越しでもわかるってどういうこと……スパイどころか最終兵器送り込んでない人間!?)

 

その異常さに面接官は気付かないまま、話は進んでいく。

 

 

 

(……ここから呪いとか掛けられないかしら)

 

メイは既にユーシャの存在を危険と判断した。

遠隔ならあまり強い呪いは掛けれないが、しかしそれなりに効果はあるはずだと。

 

「もし違ったらゴメンだけど……まぁ、その可能性はほぼないでしょ」

 

そういって水晶越しに呪いをかける。

本来呪いというものは術者が解除するか死ぬことで消えるものだ。

しかし今回は遠隔の中でもかなり強めの呪いだ、術者のメイを殺しても余波が残るタイプである。

 

勇者相手ならば油断は大敵である。

一応幹部としての仕事は全うするのであった。

 

「……あれ?」

 

しかし、呪いに全く手応えを感じない。

 

(まさか、既に呪いの対策をしていたの?……いや。敵の根城に入るんだものね、当然といえば当然か)

 

内心で舌打ちをする。

備えは万全で、よほどの聖職者に加護を貰っているのだろうと。

 

『特技は剣かな。鎧も軽装だが立派そうだね、ならやはり剣士志望かい?』

『はい。まずは気持ちからと呪いの掛かった装備一式とオムツを揃えてきました』

 

「はっ?」

 

―――既にデカイ呪いにかけられていた。

 

(どういうこと!?え、なに。バカなの?もはや図太いを通り越してバカなの?)

 

彼女は思わず水晶を掴む。

 

(というかオムツ!?脱げないってなにそこまで?そこはなぁなぁでいいものじゃなかったの!?なんでそんなに輝いた顔でパンツ履いてること豪語できるの!?)

 

『ふーむ、動機も明確だしやる気にも溢れているね』

 

(溢れてるというか漏れてるんじゃないかしら……何がとは言わないけどさぁ!)

 

「……というか、やる気というか殺る気よ面接官!スパイ!そいつスパイだからね!? 気付きなさいよ!」

 

音声を届けられないのがこの水晶の欠点でもあるため、その現場に警告をすることもできない。

 

『……まぁ、私の目が節穴じゃなければスパイだなんてことも無いだろうしね。最近は物騒だからねぇ』

『なぁに言ってるんですか面接官殿、もう節穴ですよ?』

『おや?こりゃ一本取られた!アッハッハッハ』

 

(なに笑ってんだぁぁ!!?穴どころか頭蓋骨貫通させてやろうか!?)

 

『えぇ、と。それで話は戻すけど、君は人族なのかな?』

『はい、最初はゾンビとか被り物して獣人だと通そうと思いましたが。面倒なんで思いきりました』

 

「思いきりすぎじゃない?人間と魔族の存亡の危機にどんな心臓でここに押し掛けてるの?」

 

『なる程ね。良くも悪くも正直、と……』

 

「ちょっと面接担当?あんた加点対象にしてない!?」

メイがその場にいない事をいいことに、面接は進んでいく。

 

『んー、と。では志望動機を教えてくれるかな』

『余りにも憐れな人類に復讐を、と考えて闇堕ちして主人公辺りとのライバル関係を築きたいと考えています』

 

「長い!長い上に拘りが強い!しかもそれ何やかんや仲良くなるパターンのやつじゃない!?つーか主人公アンタじゃないの!?完全に勇者の名前してるじゃん!嘘も大概にしてよ!」

 

『あ~、その手の類いは人気だから倍率キツいよ?』

「倍率?倍率なんてあるの?というか人気なのライバルポジション!?」

『んー、じゃあ止めときます………代わりに終盤辺りで主人公の偽物として現れて心の傷を抉り出す感じで』

 

「やっぱり勇者への拘りが強いのね?」

 

『それも厳しいかなぁ、変身能力がないとねぇ』

『大丈夫ですよ、自分勇者に似てる!って言われてるんで』

 

「つーか本人よね?隠す気ないわよね?」

 

『似てるだけじゃあパンチが弱いかなぁ―――今の有力候補はそっくりそのまま再現できるからねぇ』

『マジすか、じゃあ………』

 

そして、ユーシャがどのポジションに入るか会議が始まった。

 

「いや……どうでもいいんだけどっ。そういうのは入ってから自然と決まるものじゃなかったの?」

 

そうツッコミながらも、メイは指を噛みながら思考を巡らせる。

 

(流石にこれはマズイ……!というか、他の幹部達は何してるのよ……!どうせ暇してるんだからさっさと気配感知して向かいなさいよねっ)

 

 

とにかく、この状況はまずい。

そう確信したメイは立ち上がり部屋を出て、その小さな身体を使って魔王の元に駆ける。

 

「あぁもうっ、本当に最悪……なんで私がこんな目に合わなくちゃいけないのよっ」

(……いや、私が行く必要ないんじゃないかしら?面倒くさいし)

 

先程までは流れで眼が覚めていたが、よくよく考えれば自分が行く必要はない。この状況を説明する者がいれば大丈夫な筈だ。

 

唐突な怠惰が押し寄せ、徐々に走る速度も落ちていく。

 

「あ、ねぇそこの貴方」

「……はい?」

 

ちょうど目先の扉の近くに誰かいたので、伝言を頼もうかと思った。

 

「……ん?」

 

溢れ出るオーラ、呪われた装備。

無駄に整った顔は怪訝そうな顔をしている。

 

 

なんだろうか、大分タイムリーに見た顔である。

 

 

「いや、何でここにいるの!?」

「えっ?」

 

ロット・ユーシャは目の前にいた。

彼は怪訝そうな顔から一転、快活な笑顔を向ける。

 

「あ、もしかして遠隔で見てた奴?」

「バレてるし!?」

「いやぁ、面接で話し合った結果、最終的に『扉の開け閉め係』ということになったんだよ」

「どこに落ち着いてんのっ!?」

 

彼女は目を剥いた。

話し合いの中では少なくとも戦闘職になる手筈だったのに。

勇者の因縁の相手になるはずだったのに。

 

(それが、どうして『扉の開け閉め係』になるのよ!?ドアマンになるだけじゃん!私とかがちょっと便利なだけじゃん!)

戦闘職はおろか何職というカテゴリーにすら存在しなかった。

 

「………ってそれどころじゃないわね。撃退しないと!」

 

とにかく、奴が勇者サイドなのはほぼ確定している。

メイはすぐさま臨戦態勢を取る。

 

「私はメイ、魔王の幹部の一人……!正直面倒くさくて嫌だけど、腐っても幹部としての役目は果たすわよっ」

「……へぇ」

 

そこで初めて、勇者は眼を細める。

 

「なによ、油断してーーーっ!?」

 

 

そこまで言って、メイは口を閉ざす。

それ以上の言葉は紡ぐことができなかった。

 

ユーシャが、静かにオーラを放ったのだ。

 

伊達に実力者じゃないメイは、それを間近に感じ取った。

水晶越しに見えたオーラ全てを、直接受けた。

 

「うん。オーラが見えて、尚立ち向かうその姿勢と才能は評価するよ」

 

 

ただ、それだけだった。

 

 

「……!」

 

それだけで、魔王の幹部を黙らせるには十分だった。

 

 

「俺の潜伏に気付いたのも評価する」

 

 

勇者とは、溢れ出る才能で魔王軍と渡り合うまさしく一騎当千の力を持つ。

 

とはいっても、過去の勇者達は仲間を組み、人望を得て、連携を使い、過去の魔王と渡り合ったと聞いている。

 

「でもそれだけだ。魔王の根城に君レベルの奴がウヨウヨいれば話は別だったかもしれないけど……幹部だって?」

 

……しかし、目の前にいる者は単騎で魔王軍に来たのだ。

 

各地に監視の名目で置かれている、幹部とは言わずとも実力者達だっていたはずだ。

いや、そもそも幹部達はどこへいった?

かいくぐったのか、それとも本当にこの事態に気付いていないのか?

 

……この事態を気付かせない程の力があるのでは?

 

どちらにせよ、それは異常事態ではないだろうか。

 

「恐れるには、あまりにも足りない」

 

まるで、勝てる気がしない。

どんな搦め手を使っても、ここら一帯を焦土としても。

圧倒的すぎる差を、眼前に突きつけられた。

 

 

(失念していた……っ疑う余地なんてない……!コイツは、目の前にいるのは……勇者だ!!)

 

 

 

「今もまだお前らが、魔王が、俺に勝てるとでも?」

 

 

とてもじゃないが、オムツしてる奴の台詞には聞こえなかった。

 

 

 

 

 

彼の力が覚醒したのは、数年前。

 

もともと貴族の育ちらしく、暇潰しに家の倉庫を漁っていたら呪いの装備を見つけたらしい。

試しに着けてみたら呪いの装備と相性が『良すぎた』らしく、爆発的に力を手に入れてしまったらしい。

 

 

しかも勇者として選ばれたのは自分の実の弟。

 

長男なのに選ばれなかった事もあって周囲から同情されたり疎まれていた経験もあり、元々の才能の差も感じていてあまり貴族らしい振る舞いはしていないらしい。

 

呪いの装備を手に入れてからはそれは顕著になり、敢えて力の一部は自身が悪用されないために隠しておいていたのだという。

 

 

「ということは、本当に勇者ではないのね……?」

「そんなに驚くことか?さっきも言ったけど勇者は弟。兄弟のなかもあまり良くないしな、まぁ俺が一方的に突き放したんだが」

 

現在、メイは部屋に戻ってきていた。

ユーシャも連れて。

 

かなり砕けた口調になったユーシャに、メイは複雑な心境を隠せない。

 

 

「それじゃあ……魔王側につく気?」

「それはないな」

「!」

「まぁ、かといって人間側につくつもりもないけど」

「……はぁ?」

 

曖昧な返事にメイがそう言うと、ユーシャは笑う。

 

「家名は捨てた、それは胸糞悪かったからだ。それは清々してるんだが……俺の目的はこの呪いの装備を外すこと。それが第一優先、この年でオムツは死にたくなるからな」

「あ、やっぱり嫌なのねオムツ」

「当然だろ。それにそんな奴に魔王軍やられてみろ、倒されたお前らも倒した俺も一生を超えて歴史に残る恥だぞ」

「確かに……それは嫌ね」

 

ん?とメイは疑問符を浮かべる。

 

「というかオムツの替えは?」

「そこは安心しろ、呪いのオムツは出したものを全て闇に消す」

「いやオムツも呪いなのね?なんなのあなたの家系」

 

一通り話を終えたところで、メイは結論を下す。

 

「ぶっちゃけ、面倒くさいわね」

「……なぁ、お前本当に魔王の幹部か?」

 

呆れた顔でそう言われ、メイは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「うるさいわねぇ……アンタがほぼ無害だとわかったんだし、有害だとしてももう完全に敵わないのわかったし。もう好きにしたら?」

 

寝る、と付け加えて諦めたようにベッドに横になる。

 

「わざわざ話がしたいとまで言うから、部屋にまで連れてきたのに」

「……わざわざ部屋に、ねぇ」

 

ユーシャは足元に落ちている鏃等の金属片の山を見ながら、小さく笑った。

 

「わざわざ誘い出してまで俺を殺したかったのか」

「当然でしょ……まぁ、敵わなかったけどね」

「お前勤勉だな?部屋に常にこのレベルの罠を仕掛けるなんて、人間でも中々しないぞ」

「それを看破した化け物に言われるなんて嬉しい限りね」

 

勿論、メイは無策で部屋に招いたわけではなかったのだ。

自分の安眠を妨げる者が現れないように、また暗殺者等の類いに寝首を掻かれないように張った無数の罠があるのだ。

 

まぁ、ユーシャの呪いの鎧を前にしたら全て無意味だったのだが。

 

「全ては私が楽をするために用意したのよ」

「しかしここまでやるなんてなぁ?怠惰のための勤勉ってところか……なんか、本末転倒というか、矛盾してるなぁお前って」

「それが私よ、やるべきことはそれなりにやったんだし文句言われる筋合いなんてないし」

「働き者の怠惰ねぇ……まぁ、気持ちはわかるけどよ」

 

ん?とユーシャは呟く。

 

「なぁ、アンタ確か魔法特化型だよな?」

「何でそうだと思うのよ?」

「オーラが見えて感じ取ってたし、見た目的にも明らかに物理じゃないだろ」

「……まぁ、そうね。その通りよ」

 

答えを淡々と返すのは、殆ど諦めているからだ。

実力差は歴然、用意していた罠を看破された。

あまりにもいきなりであるが、お手上げなのだ。

 

しかしメイはプライドか、それすらを怠惰で流したのか。

あまり焦りは感じていなかった。

 

「何が言いたいのよ」

「お前なら解除の方法わかるんじゃねぇの?」

「……さてね。今日はたくさん考えて動いたから疲れてるの、寝かせて。もし殺すなら痛くしないで。もし生きてたら明日か明後日か、来年くらいに考えるわ」

「殺さねぇよ。それは兄貴の役割であって、俺は精々敵対してきた奴を倒すくらいしかしないよ」

 

はぁ、とユーシャは嘆息を漏らす。

 

「……お前の仕事引き受けると言ったら?」

「っ」

 

ピクン、とメイは反応する。

 

「生憎、事務は得意なんだぜ俺」

「へ、へぇ?それで?」

「お前は解読して呪いを解いたら魔王の脅威はひとまずは去るし、お前の仕事を手伝ってやれる……どうせ上の立場になれば楽できるとか思って昇進した口だろ?」

「っ」

 

図星だった。

 

「お前はやるべき仕事がかなり減る。俺は鎧を解呪されるかもしれない、互いにメリットあるだろ?」

 

(……どうしよ、これ中々にいい案件じゃない?)

 

実はメイは、諦めていなかった。

寝ると言って横になり、死角から他の幹部に連絡を取ろうと中継水晶とは別の水晶を使おうとしていた寸前だったのだ。

 

本当の奥の手でもある。

その指が、触れるか触れないか辺りで止まっている。

 

「ダラダラする時間も増えるぞ?仕事の量も減るぞ?解呪と俺の存在を秘密にしてくれるだけでかなりの特典がつくだろ?」

「う、うぅ……!」

 

(しかし、コイツの脅威は拭いきれてない……ぶっちゃけて魔王軍とかはどうなってもいいかもだけど、お金も手に入って豪華な部屋があって掃除とかの手間もいらない所なんてここの他に何処にも……)

 

「あ、ちなみに料理とか作ってやろうか?菓子作るの得意だぞ俺」

「採用」

 

(まぁ、その時はその時よね!)

 

彼女はいざというときに怠惰であった。

 

 

 

 

 

「兄さん……」

 

少年は、迫り来る魔物達を斬り倒しながら実の兄を想う。

 

自ら家を出ることを公言した兄。

 

 

『自ら厄介事が消えてくれた、それが奴の最大の親孝行だったな』

 

 

それに鼻で笑うように答えた親。

 

親は弟の自分の事を上げ続けるだけで、兄に対して一切の感情を持っていなかった。

 

しかも、自分を見る目も道具を見るそれ。

誰一人として個人として見てくれるものはいなかった。

 

たった一人、兄を除いては。

しかしその兄もいなくなってしまった。

 

『何故ですか兄さん!どうして兄さんが家を出るなんて!』

『……弟よ、お前にだけは言っておく』

『?』

 

『俺は、魔王軍の元に行く』

『っ』

『止めてくれるな、弟よ。もしお前が家名を捨てた俺をまだ兄と慕ってくれるなら止めるな……これは、兄というか人としての尊厳がかかっているんだ』

『そ、そんなことが……?』

『あぁ、人とは敵対する気はない……これ以上は言えない!邪魔はしないでくれっ』

『にい、さん……?兄さん!!』

 

彼はその言葉を最後に、弟の元を去っていった。

人と敵対しない、最初はその言葉が理解できなかったが、今なら理解できる。

 

(兄さんはどれだけ嫌われても、人を裏切る真似はしなかった……)

 

「つまりは兄さん……わざわざその身を危険に曝してまで魔王軍に入って……!!」

 

整った顔に皺が寄る。

 

「スパイ活動までするなんて……どれだけ兄さんは、兄さんはっ」

 

(全ては勇者として選ばれたにも関わらず、人々を守りきれない弱い僕の責任なのに……!!)

 

自責の念に囚われながら、天を仰ぐ。

 

 

「強くなるよ、兄さん。待ってて」

 

足元には、魔物達の死骸の山が出来ていた。

 

 

 

 

 

 

「んじゃ~俺ちょっと近くの村か街に行ってくるわ。上には適当に人間の調査とでも入れておいてくれ」

「ちょっと待ちなさいよコラ」

 

「なんだよ?」

「なんだよじゃないわよ!何その背中の大量の荷物?さてはどっかに献上するつもりでしょ」

 

「ちげーよ、質屋に持ってくだけだよ」

「尚悪いわよそれ!最近武器の備品が減ったのはアンタが原因だったのね!」

 

「だから誤解だって。これは魔王軍が武器を新調しないから俺が無理矢理無くしたことにして新調させる為に犠牲になるだけ……しゃあねぇ取り分は一と九な」

「取り分っていってる時点で不正を隠す気ないわね?ふざけないで。ちゃんと証拠は残してないわよね?」

 

「証拠?お前なぁ、俺をドアマンから部下にしたからってそこまで心配するなよ。上手くやったに決まってるだろ?」

「よし、取り分は六と四よ。それに人間達のお菓子お土産待ってるから」

「……怠惰な割に意外とがめついよなお前って」

 

勇者が来るのも、割りと早い未来だったりする。


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