後には小さな希望のみが残った。
「ねね、かみさま〜!」
私が椅子に座って本を読んでいると、一人の少女がこちらに向かって走ってきた。
年齢は十歳前後といったところで、髪は綺麗な黒髪。
容姿はかなり可愛い方だがその肉体の殆どは生身のものでは無い。
いわゆる義体というやつだ。
かっこよく言えば彼女はサイボーグという事になる。
だが実際はカッコイイものなどではなく、戦争の被害によって死に絶えそうだった彼女を私が救っただけだ。
「あかり、そんなに走ったら転ぶかもしれないぞ」
「かみさまがくれたこの体は頑丈だから大丈夫!」
「……まあ、いいか」
「それでね! それでね!
お水を見つけたんだよ!」
「そうか、でも飲んだらダメだぞ?」
「うん! 喉渇かないから大丈夫!」
2046年11月、その戦争は緩やかな電子戦から始まった。
要はクラッキング対決だ。
そのクラッキング対決に負けた国が痺れを切らして敵対国にミサイルを何発もぶち込んだことから一気に戦火は広がって、何でもありの血で血を洗う戦争が始まった。
文明なんてものは最初の数日でほぼ崩壊し、こうして汚染されていない水や食糧を求めて人々が争い会う世紀末な世界へと早変わりしたわけだ。
だが、そんな状況も長くは続かない。
生き残った国々はそんな状況でも、いやそんな状況だからこそ手を取り合うなんて事はせず、更に戦禍は広がっていった。
細菌兵器やウイルス兵器を初めとした生物兵器に毒ガス、大量破壊兵器を使い切ってからの方がむしろ過酷な戦争になったと言えるだろう。
こうしてあっという間に人類の築いた威光も文明も完全に崩壊し、地球上の生物が98%以上もの生物が死に絶える歴史上でも最も大規模な大量絶滅が起こってしまった。
そんな中でも人類はまだ一応微かに生き残っている。
だがそれももうすぐ終わるような気はする。
人間という生き物は自分に余裕がなければ相手と手を取り合うなんて事ができるような生き物ではない。
本当の極限状態では大抵の人が他者を拒絶し、他者に手を差し伸べるような人間は真っ先に死ぬ。
ここはまさにそういう世界だ。
人と人が手を取り合っているようなコロニーなどこの世界にはほんの数箇所しか存在しないのだ。
このままでは人類はもってあと50年といったところだろう。
いや、あかりがいるし3万年くらいは大丈夫だな。
待て、サイボーグを生きている人類にカウントしても良いのだろうか?
…………無しだな。
「それにしても最近は暑いな」
「環境破壊のせいなんだよね?」
「ああ、このペースだと割と直ぐに100℃超えるかもな」
「そうするとお魚とかも滅んじゃうね」
「魚だけじゃなくてほぼ全ての動物は死に絶えるな」
現在の外気温は45℃、どこの砂漠だよとか言われそうだがここはれっきとした日本だ。
戦争による環境破壊のおかげで地球温暖化がどんどん進み、あっという間に外気温が急上昇した。
この高温のせいで植物とか殆ど育たないし、育つとしても極々一部の地域に限られる。
この温度のせいでどんどん水が蒸発して大量の水蒸気が発生し、そのせいで地球温暖化が加速してまた水が蒸発して水蒸気が発生するという悪循環。
地球で最も温室効果を持ったガスが水蒸気だということを改めて理解できる綺麗な悪循環だ。
さっさと南極に逃げる事にした一部の人類は結構賢いと思う。
そのうち終わりは必ず訪れるが、他の地域よりは非常に長い間生き残る事ができるだろう。
他の地域は文明の残り火を使って生き残っているので機材の修理ができなくなりしだい滅びる。
日本の島根にあるコロニーには技術者が何人かいるためもしかしたら再起する事ができるかもしれない。
だがかなり運の要素が強いのでどうなるかはまさに神のみぞ知るって感じだな。
「かみさま?」
「ん? どうした?」
「かみさまはどうしてずっとここにいるの?」
「私か? いや、別に動いても良いんだがな。
まあ、なんというかめんどくさい」
「寂しくないの?」
「……もしかしたら私は寂しいからお前を救ったのかもな」
私が人類に救済の手を差し伸べてもいいのだが、それはきっと無意味だ。
人は縋れるものがあるのなら何にだって縋り付くもので、全てを私がやってしまうのならばお前らなんで生きているのって事になる。
せっかくだから醜く人間が生きる様でも見ながらのんびりと生きていけばいい。
人間を救った所で寂しくなくなる位のメリットしかなく、デメリットの方が間違いなく大きいのだ。
「別に私がここに居るからといってお前もここに居なきゃいけないなんて理由はないんだぞ?」
「ん〜、でも私もここにいるよ!
かみさまもその方が寂しくないでしょ?」
ああ、あかりは神だろうが不死者だろうが殺せる魔法をどうしてこんなに上手く使ってくるのだろうか?
優しさ、気遣い、思い遣り、愛情。
色々な言葉で現すことができる「ソレ」は間違いなく最強の武器として使う事ができるものだ。
まさに究極の毒だ。
相手に何かしらの感情を覚えさせてしまえばその相手を洗脳したも同然なのだから。
「……そうか」
「でもね、他の人達にも会いに行ってみたいからもしどこかに行くなら教えてね?」
_______私が死ぬとしたらきっとそれは彼女が死んだ時なんだろうな。
そんな事を考えながら私は言った。
「行ってみるか? 人間のコロニー」
「うん!」
私は大きく頷いて喜ぶ彼女の手を取って歩き始めた。
この荒廃した世界を二人で。