スピード狂の男が哀れなオーバーロードを救う話。




*注意!
この作品は見切り発車で始まっているため、度々加筆・修正が行われています。
一巻まで書きましたら、以降は推敲並びに校正を行いながら投稿する予定です。
当然、投稿速度は落ちますが何卒よろしくお願いします。

なお、この作品はストックがございません。






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初投稿なので駄文やエタりお許しください。

あと、是非感想・批評・評価お寄せくださいませ。

(ちょっとずつ修正中)


終焉と開演

「モモン…ガ?」

 

 理解はしていた。

 

「モモンガさん!」

 

 していたつもりだった。

 

 ──何をしている? 

 

 所詮自分は部外者で。

 

 ──我々は選ばれた者なのだ

 

 全く理解なんてしてなかった。

 

「時間が経つのは早いナァ、モモンガ……」

 

 煌びやかな夢と。

 

 ──塵と関わったところで何の意味がある? 

 

 余りに惨い現実と。

 

 

「また……会おう、モモンガ……」

 

 

 

 このクソッタレな世界を。

 

 

 

 

 ──―オクタビオ・シルバが退出しました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ…。俺を殺すには。お前にこそ相応しいよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハッ……楽しかったナァ。本当に」

 

 男は静かにつぶやいた。

 僅かに反響する音は終わりを探して彷徨っている。

 

「好き勝手やってやるって思ってたさ、実際な。ギルドマスターになって王になることも考えて。今考えると笑けるな。あんな奴らをまとめ上げるのなんて出来やしねぇのに」

 

 独白は続く。男の手元から、カチャカチャと玩具をいじるような音が聞こえる。

 

「そう思うとやっぱモモンガはスゲェよ。イヤホントに。フフッ…、ハハハハハッッ!!」

 

 男はしばらく思い出を噛み締めていた。

 

「………ふぅ、ホント俺らがギルドとして成立してたのはモモンガのおかげなんだよなぁ」

 

 男は微笑を浮かべ、手元の作業を続けた。しばらく作業しやがて満足したのか溌剌と顔を上げる。

 

「うし、点検も終わったしこんなもんで十分ですかネェ」

 

 男はその小さな物体を様々な角度から眺めた。右に左に、上に下に。少しも間違いもあってはいけないかの様に。熟練の職人が自らの打ち上げた刀を見るように。誰かがその様を見たら、不格好なダンスでも踊っているかに見えたことだろう。男の手の中には小さな箱があった。一定の間隔でピカピカと光を放っている小さな箱だった。目を凝らすと赤いボタンのようなものが、ハザード柄に囲まれているのが見える。世界をやり直しさせることができる魔法の箱だった。

 

「運命の悪戯か、はたまた必然の積み重ねか。どっちなんだろうナァ」

 

 くるくると箱を回転させながら男は言った。部屋には僅かに光を放つモニターがあった。もやもやと光るその退廃的な輝きは人類を魅了してやまない魔性の輝きだった。「ウシ」と、男は体を解した。それから、箱を太ももの上に置き車椅子を動かす。その手にある車輪はどこか軽く、夢の中の出来事を思わせた。僅かな距離だった。男はモニターの前に移動した。慣れた手つきでプラグを首に差しメッセージを確認する。今日が運命の日で在るはずだから。

 

 

 

 ──―≪ユグドラシル≫:モモンガからのメッセージが届きました。

 シルバさんお元気にしていますか? モモンガです。ご怪我はよくなりましたか?以前連絡をいただいてからお会いできていないので心配です。それから、今日はユグドラシルのサービスが終了する日です。ですので、今までの感謝や思い出を書き連ねておきます。また会いましょう!

 

以下本文

 

~~~

 

 

 そこには、仲間達との思い出や感謝の言葉が長々と書かれていた。

 

 

「アァ、やっぱり来てたか」

 

 男は深く息を吐いた。不安があった。自分という異物が入ったことで世界が変わってしまうのではないかと。だが世界は変わらなかった。相変わらず優しい男であったし、正義の男であったし、悪に憧れた男であったし、バカ姉弟であったし、迷惑かまってちゃんであった。ただとあるギルドの人数が41人から42人になっただけ。

 

「そう、ただそれだけ」

 

 チラリとモニターに映る時間を確認し男はだらりと背もたれに体重をかけた。モモンガから送られてきたメッセージを隅々まで読んだ。読み終わりしばらくしてゆっくりと体を起こした。22:53と表示していた。それから男は、滑らすように自分の体に乗る魔法の箱を見つめる。軽く、重みを感じさせないはずのその箱は異様に重く感じた。顔は歪んでいた。「死なねぇって言ってただろうが…ベルリバー………」声が漏れた。口が酷く苦かった。僅かに呼吸が乱れたがすぐに平生に戻した。男は箱を手に取り、ポンポンと投げて遊びだした。重みを感じぬように。顔には聖母のような微笑みを浮かべていた。

 

「モモンガは気づいてねぇんだろうナァ。自分がどれだけ俺らにとって大事な人物だったか。どれだけ愛されていたか。場所とか時代が違ければきっとあんたは、カリスマとか魔性とか呼ばれてたんだろうナ。なんとなくわかるよ。んまぁ、そんじゃなきゃこんなことしてねぇしナ」

 

 男は自分を嘲るかのように笑った。いつのまにか、手遊びは止まっていた。手にはしっかりと箱が握られている。手は汗ばみ、体は強張っていた。失ったはずの足が震えた。男は瞳を閉じ、深呼吸する。"これから"のことに思いを馳せる。恐怖を誤魔化すかのように、男はもう一度懐古した。今までの最高の記憶達を。二度と会えない仲間達を。

 

 

 

「後は頼むぜウルベルト、頑張れよたっち。ごめんな。みんな」

 

 

 

 男は瞳を開け、魔法の赤いボタンを押した。遠くから微かな爆発音がした。ピカピカと手の中にある箱のように空が光った。続いて首に繋がれたケーブルが振動を伝えてくる。罪の清算だった。理不尽な暴力だった。正義の鉄槌だった。そして、終わりの始まりだった。男は一仕事終え、体から力を抜き背もたれに体重をかける。口から息が抜けた。だらりと手から力が抜けた。もう一度深呼吸をした。男にはほんの少しだけ休息が必要だった。

 

 


 

 

 

 

 

 

 男は大きな電子音で目を覚ました。寝起きのぼんやりとした頭でアラームを止めた。ほんの少しの間、宙に目を向けていた。すぐに焦ったように時間を確認した。外からは大きな喧騒が響いていた。時間は23:48を指し示していた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 モモンガはナザリック地下大墳墓の玉座へ向けて一人で歩いていた。その後ろにせめてもの慰みとして多くのNPC達を引き連れながら。モモンガはチラと後ろのNPC達の顔を見た。

 

(セバスにデクリメントにフォス、フィース、シクスス。あれは──)

 

 モモンガは後ろに付かせている者たちの名前を想起する。彼はナザリック地下大墳墓にいる名前付き(ネームド)NPCのほぼ全ての名前を憶えていた。もちろん、曖昧な者はいるがそれですらなんとなく憶えている。「俺らしか覚えておいてやれないだろ?」と、ある男の言葉に影響を受けたモモンガは積極的にNPC達の名前を憶えている。当の本人はNPCにプログラムされたコマンドや動きなど全てを憶えていた。後ろに付き従うNPC、ナザリック地下大墳墓に存在する凡そ全てのNPCの名前を暗唱し終えモモンガは静かにため息をついた。

 

(ヘロヘロさん大丈夫かなー。どうか明日の業務が簡単なものでありますように。………少し寂しいな。もう少しいて欲しかった)

 

 先ほど早くに睡魔に負けて出て行ったヘロヘロを想いモモンガはギルド:アインズ・ウール・ゴウンの加盟者リストを開く。そこにはたった4人の名前しかなかった。42人いた仲間たちの多くが、ゲームを引退する際にアカウントを消してしまったからである。モモンガはもの悲しい思いに囚われる。[ヘロヘロ・三分前にオンライン]という表記がさらに悲しみを誘う。溜め息が出た。これ以上誰も来ることがないだろうと理解した。理解なんてしたく無かったが。ヘロヘロの上にいる[オクタビオ・シルバ]という名前が目に入る。前日にだいぶ長いメールを送り付けた男だった。

 

(シルバさん大丈夫かなぁ。大きな事故に遭っちゃってしばらく来れないって言ってから、何回かオンラインになってたらしいけど、ユグドラシルには来てなかったしなー。俺とは住んでる地区が違うし。メール読んでくれてたら嬉しいな)

 

 そのままモモンガは先ほどまでの哀しみを、寂寥を封じ込めまっすぐに玉座の間へと歩を進めた。その男との出会いを思い出しながら。

 

 

 


 

 モモンガがその男──オクタビオ・シルバに出会ったのはクラン:ナインズ・オウン・ゴールを結成した頃であった。その当時、異形種狩りが流行りに流行っていた。鳥系のキメラとなっていたシルバもまたその対象だった。有名なPKグループ──モモンガも幾たびも倒された──に追いかけられ、逃げきれずに殺されてしまいそうなところに偶々、たっち・みーとともに通りすがり助けたのであった。助けられた当のシルバといえば、頻りにたっち・みーとモモンガの名前を聞いて驚くことを繰り返していた。どことなく嬉しそうでもあった。そんな不思議な男であったためかよく覚えていた。その後、紆余曲折ありクランに入れてほしいと請われクラン:ナインズ・オウン・ゴールに将来ユグドラシル最速となる男が加盟することとなった。

 

 

 その後、シルバは着々と実力をつけギルド:アインズ・ウール・ゴウンとなる頃には、速さが競われるような大会において多くの記録を残した。当然PK・PKKに於いてもその速さを活かし遊撃やデバフ効果を持つアイテムを敵に投げつけるなどして、『速くて鳥みたいなキモいやつ』というアンチスレがよく散見されたがシルバは速さ以外の分野においても才覚を発揮していた。ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明と称されるぷにっと萌えと謀略についての会話中に豊富な知識を驚嘆されていたり。博識な『ベルリバー』、『死獣天朱雀(しじゅうてんすざく)』とモモンガにはわからない難しそうな話をして盛り上がっていたり。他にも正義の人である『たっち・みー』と意見が合致していながら、社会を憎悪し、勝ち組を憎む『ウルベルト・アレイン・オードル』とでさえ仲が良好であった。そのため、度々二人の仲介役として召喚されていたのは笑い話だ。速さを求めるがあまりワールドアイテムの無断使用などはあったが、とにかく速ささえ絡まなければ博識であり寛容な男であった。しかし、モモンガにはそれを些末に思える理由があった。否。オクタビオ・シルバという男を知るアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーは彼の真価はその才覚などではなく、時々見るという"予知夢"にあった、と答えるだろう。その予知夢は事前に知りえたかのようにピタリと未来を当ててみたりしてアインズ・ウール・ゴウンを支えていた。伝説の1500人侵攻の時も事前に"夢で見た"といい、その頃にはアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバー達はシルバの予知夢の精度に全幅の信頼を置いていたので、準備する時間さえできた。他にもワールドアイテムを手に入れてからは、速さにかかわる競技に殿堂入りして出れなくなっていたり、ワールドアイテムを単身で3時間守り抜いたりついにはギルド武器破壊一歩手前などを単騎で成し遂げたりなど様々なことをしていた。その後、ヴァルキュリアの失墜が来てからもう一度アカウントを作り直し自動人形(オートマトン)のオクタビオ・シルバが誕生した。その頃はすでに引退者も出始めており、少しギルドが寂しくなり始めていた。

 

 そして、突然ユグドラシルに来なくなりしばらく。モモンガ宛てにメッセージが送られてきていた。

 

 

 

 ──―≪ユグドラシル≫:オクタビオ・シルバからのメッセージが届きました。

 モモンガ、すまねぇ。連絡が遅くなった。でかい事故に遭っちまって当分参加できそうもねぇ。今は入院中だ。幸い富裕層の出だから金ならあるし問題ねぇ。

 必ず戻るから、待っててくれ。

 

 

 

 

 

 このメッセージが送られてきてから、一度も連絡は来なかった。

 


 

 回想を終え玉座の間についたモモンガは独り言た。

 

「ここにワールドアイテムがあるのは知っていたが、2つもあるのはいかがなものかな?」

 

 玉座の間には『諸王の玉座』と、今もなお玉座の隣で天使と見紛う微笑みを浮かべているアルベドに持たされた『真なる無(ギンヌンガガプ)』の二つのワ-ルドアイテムが存在している。現在この場にモモンガがいることを加味すれば、三つのワールドアイテムが集合している。今こそ侵攻し時だろう。まあ、攻める人がいないのだが。今頃ほかのプレイヤーは花火でも打ち上げていることだろう。そんなことをモモンガは考えていた。しかしその心には、空虚さはなかった。今までのユグドラシル生を振り返ってみて、満足したことのほうが多かったのである。モモンガは玉座へと歩を進める。その後ろからNPC達がついてきていた。

 

 ギルドメンバーとの遊び(ロールプレイ)を思い出しながら堂々と王者に相応しい動作で令を下す。

 

「待機」

 

 モモンガはそう言いさらに進んだ。玉座の前まで来るとゆっくりと腰を下ろした。モモンガは苦笑する。目の前に立つNPC達が棒立ちなのは少し寂しかった。

 

「ひれ伏せ」

 

 モモンガが片手を上から下へ手を動かすと、一斉に片膝を落とし、臣下の礼を取る。

 

 これで良い。

 

 モモンガは左手を持ち上げ、時間を確認する。

 

 23:55:48

 

 ぎりぎり間に合ったというところか。

 

「楽しかったなぁ、本当に──」

 

 モモンガ目を動かし玉座の間に天井から垂れている大きな旗を数える。合計数42。ギルドメンバーの数と同じであり、それぞれのサイン。モモンガはその一つに骨の指をむける。

 

 

「俺」

 

 

 そして指を横の旗に動かす。その旗にあるのはユグドラシル最強の一角である『たっち・みー』のサインの入った旗。モモンガはそのまま指を横に滑らせる。そこにある旗は現実世界において大学教授をやっていたというアインズ・ウール・ゴウン最年長の男。

 

「死獣天朱雀」

 

 指はどんどん速度を増していく。そこに迷いは見られない。澱みなくギルドメンバー達の名前を告げていく。名前を呼ぶ度記憶が甦る。いずれその指は最後の旗を指し示すだろう。しかしそこで終わりではない。思い出はいつまでも残り続ける。そう思えるようになった。

 

「オクタビオ・シルバ」

 

 この男のお陰で。

 

 

 旗をさす指はしばらく降ろすことができなかった。時間が経ち静かに指は降ろされる。もう、満足だった。

 

 

 

「本当に楽しかったんだ」

 

 

 

 

 

ピコッ

 ──―オクタビオ・シルバがログインしました

 

 

 

 

「えっ…」

 

 

「オッ、ここでアウトしてたんだったか」

 

 息が詰まる。もう誰も来ないと思っていた。否、来れるはずがないと思っていた。また会おうと言っていた。しかし、たかが一ゲーム。こんなものに時間をかけれないと思っていた。

 

「イヤァ、俺としたことが遅すぎる参戦だったな。許せよ。チィとばかり手間取っちまったんだ」

 

 能天気な声が聞こえる。二度と聞けることはないだろうと思っていた声が。丸い暗視ゴーグルと三つの通気孔が付き、尖った歯のようなデザインが描かれたガスマスク。高速偵察兵の名前が付けられた、袖のない胸までの防弾チョッキ。腹には一体何のために着けたのかわからない丸い四つの解毒用装置。そして異様なこだわりを見せた歩く度に駆動音が鳴るひざ下の義足。そんな奴が玉座の間の入口あたりに現れていた。

 

「オクタビオ・シルバ此処に帰還した。我らがギルドマスタ―。許可あったこととはいえ、長らくの不在を謝罪する。許されるならば今一度、アインズ・ウール・ゴウンの一員として参戦願う」

 

 そのまま、男は玉座に向けて歩いてくる。「道を開けよ」と大仰な動作とともにNPC達は王に道を開けるかの如く移動する。「ひれ伏せ」男は続けて言った。NPC達は頭を垂れる。そしてまた、その男も玉座の前へと進み今なお言葉が紡げぬ王に頭を垂れる。モモンガは事の推移をようやく理解した。

 

「わが友よ。我らアインズ・ウール・ゴウンの韋駄天よ。その謝罪。その罪悪。全く無用のことと知れ」

 

 モモンガは男の意を汲み、支配者然とした態度で答える。その声から滲み出る歓喜は全く隠しきれていなかった。

 

「──お前の帰還を嬉しく思う」

 

 

 

 

 

「お帰りなさい、シルバさん」

 


 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい、シルバさん」

 

 その言葉はその男──シルバに強く響いた。その言葉は千金よりも価値のある言葉だった。シルバは心からゲームでよかったと思った。もしも、転移していた後だったなら涙が止まらなかっただろうから。男は人知れず気合を入れなした。シルバは勢いよく立ち上がり、楽しそうにいつものように能天気な声で声を返した。

 

「アア! ただいまモモンガッ! 会いたかったぜ!!」

 

 そのまま、玉座の前まで飛び上がり威勢よく手を突き出した。モモンガもまた立ち上がり、その突き出された手を強く握り返した。二人に表情があるならば両者共に男らしい笑みを浮かべていたことだろう。その表しきれない感情を『喜び』のエモートに乗せる。吹き出しの中、変な生物らしきものがくねくねと喜びを表現する。ユグドラシル最速の男が帰還した。

 

「本当にお久しぶりです! シルバさん!! でも、お体は大丈夫なんですか? 無理してないですか?」

 

 本当に気遣いのできる男である。仲間が返ってきた喜びよりもその体調を優先するのだから。だからこそ、この男はギルドマスターとなっていたのだ。そしてこの場所を最後まで守り続けた。そのことは何よりもシルバを喜ばせる。それをたよりにここまで来たのだから。

 

「アァ、大して問題ネェよ。いや、問題はあるがそれより此処に来たかった」

「それは嬉しいですけど…本当に大丈夫ですか?」

「問題ねぇって、そもそもギルドマスターの招集に答えないわけにはいかないだろ? 名簿を見るにさっきまでヘロヘロ来てたみてぇだしな」

 

 シルバは苦笑しながら開いたコンソールを指さした。

 

「もうちょっと話してぇけど終わりまで時間もねぇし、最後くらいキメちまおうぜ。ギルドマスター?」

 

 シルバは時間を指さしながらそう伝えた。幸いにもここは玉座の間だ、絢爛豪華で荘厳なこの場所は遊ぶ(ロールプレイ)にはうってつけの舞台だった。観客も揃っている。

 

 時刻は23:57と表示されていた。

 

 モモンガは頷き再び椅子に座った。シルバもまたモモンガの隣に立ちNPC達を見下ろした。NPC達は通路のほうを向いて頭を垂れていた。シルバはNPC達にコマンドを発し、向きを直した。玉座の間にいる全てのNPC達が二人の王に忠誠をささげる。

 

「随分と遠いところまで来ちまったナ」

「どうしたシルバ、お前らしくもない。普段ならそんなことも気にせずに走り去ってしまうだろう?」

「ハハッ、違ぇねえ。たけど俺だってな感傷くらいは抱くんだぜ?」

 

 二人は笑いあった。23:58だった。

 

「本当はもっと話したかったんだがナ」

「シルバも余裕がなかったのだろう?」

「まぁ、そうなんだけどヨォ……」

「過ぎたことを悔やんでも仕方があるまい。それに私はお前が返って来てくれただけで十分嬉しいぞ」

「ハハッ、そりゃドウモ…」

 

 シルバは照れ臭そうに笑った。モモンガもまた笑った。

 

 

 

 23:59

 

 いつだって、楽しい時間は一瞬だ。

 

「ギルドマスター、時間だ。最後にいつものやつ頼むぜ」

「ああ、もちろんだとも」

 

 そう言ってモモンガは鷹揚とした態度で頭を垂れ続けるNPC達、そして何よりも大切なナザリック地下大墳墓に目を向ける。ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと息を吐く。深く深呼吸をする。

 

 23:59:30

 

 

 

「我が友よ、我が最愛のNPC達よ、そして我らが最高最大のナザリック地下大墳墓よ。今までご苦労であった」

 

 

 

 

 23:59:40

 

 

 

「これが最後の号令となるだろう。皆の者立つがいい。起立せよ。最後の時を皆で迎えようではないか」

 

 NPC達がモモンガとともに立ち上がる。モモンガは最高の気分だった。もう会えないと思っていた友人と再び会うことができた。ほんの少ししか話せなかったが、シルバの性格からして間違いなくリアルで飲みに誘ってくれることだろう。そんな希望に満ちた未来を思い描いた。

 

 

 

 ――しかしいつだって幸せな時間は唐突に奪われるのだ。

 

 

 

 23:59:50

 

 

 

 

「ガァ!!」

 

 突然モモンガの隣から痛みに悶えるような喘ぐような声が聞こえた。声が大きすぎたためか調整され曇っていた。

 

「シルバさん!?どうしッ…!」

 

 モモンガの目に赤い枠に囲われたシルバが映る。それには〈emergency shutdown〉と表示されていた。強制遮断の前兆だった。リアルでシルバの身に何かが起こったのだろう。モモンガは反射的に手を伸ばした。

 

「シッ、シルバさん!!!」

 

 

 

 23:59:57

 

 

「モモン…ガ」

 

 

 シルバもまた手を伸ばす。ここで終わることだけは断じて認められなかった。一体何のために走ってきたのかわからなくなってしまうからだ。ここに来るためだけに今まで費やしたもの全てが無駄になってしまう。

 

 

 23:59:58

 

 

 

 少しずつ体の制御権が消えていく。リアルに排出されていく。

 

 

 

 23:59:59

 

 

 

 黒く染まっていく視界の中に、こちらに手を伸ばすモモンガの姿が見えた。

 

 

 

 

 00:00:00

 

 

 


 

 

 

 目の前からシルバさんが消えた。非常に痛そうな声を上げながらだ。正直に言ってモモンガは心配で心配でたまらなかった。もしかしたら、自分の書いたメールを読んで無理を押してきたのかもしれない。割と人情に篤い男のことだ。ありえる話だった。

 

 

 モモンガは玉座の前でぐるぐると回り始める。

 

 

 

「うお~。シルバさん大丈夫かな。うわ~」

 

 ぐるぐるぐるぐる。意味のない言葉を上げながら回り続ける。すっかりサービス終了のことなど抜け落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

「失礼ながらモモンガ様!オクタビオ・シルバ様はいかがなされたのでしょうか!?あの御方はどこへ!!?」

 

 

「………………は?」

 

 モモンガの受難の始まりであった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「…んあ?」

 

 男は顔を太陽に明るく照らされ眼を覚ました。ゆっくりと体を起こし頭を振るう。ほんの少し落ち着いたのか、周りを見渡した。燦燦と煌めく太陽。生を謳歌するかのようにさざめく木々。今まで一度も目にしたことがない景色だった。

 

「…どこだ、ここは。…いや、この声は……ッ!!」

 

 何かに気が付いたようにバッ、と右の脇腹に手をやった。そこにあるのは若干やせた不健康に見える腹筋。そして四つの解毒装置のみだった。

 

「…そうか。なんとか間に合ったのか」

 

 男は安堵に満ちた声を漏らした。ガスマスクによってくぐもって聞こえてくる声も、数十年寄り添ってきた声とは少し違った。男は視界に手を映す。指ぬきグローブをつけた手が目に入った。この手もまた自分のものではなかった。自分ではない自分に変わったのだ。男は息を吐いた。分水嶺は超えたのだ。賽は投げられた。もう戻ることは、決してない。そのことを心に強く戒めた。

 

 

 

(あの感覚はナイフでも刺されたか。最後の最後でぬかったな。可能な限り所在は消してたんだが。銃じゃなかったってことは、狩り部隊じゃなかったのか。そもそも、恨みを買いすぎて誰に殺されても不思議じゃなかったからな。詮無いことか。…それにしても)

 

 

 

「あ~、足があるって素晴らしいなぁ…」

 

 足をわちゃわちゃと動かした男はしばらく芝生のカーペットに寝そべり噎せかえる程の緑を堪能した。その緑に感謝のしるしとして少量の雫を提供した。…ゴーグルの中に溜まっていったので急いでゴーグルを外した。

 

 

~~~

 

 

「よし。では行きますかね…。いや、そろそろ仮面を被ろう」

 

 立ち上がった男はそう言い、声をチューニングし始めた。

 

「あ、アー。ンン。…イェッハーーー!!!。俺はオクタビオ・シルバ…いや、オクタンだ!よろしくナ!」

 

 男、シルバは自分の声の出来に満足したのか、うんうんと頷きどことも知れずに走り出す。ビュンビュンと景色が後ろに飛んでいく。自分が風にでもなったかのような最高の気分だった。ギュウォンギュウォンと義足がうるさかったが男の耳には入ってこなかった。

 

 ユグドラシル最速は走り出した。

 





評価されたのがうれしかったので失踪します。

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