SaGa Frontier2 レーテ侯伝   作:水城悠理

4 / 5
シルマール先生の一人称


閑話1 アニマにまつわる師と弟子の会話

「アニマの感応作用についての一考察」というレポートが弟子から手渡されたのは、彼が11歳になった時だった。

 

 内容の趣旨としてはアニマを感じることに慣れすぎた現在の人々はアニマのふれ合いをもって好悪を決める傾向にあり、術力がある一定ライン以上あるいは以下ではない限り特にその傾向が強くなる。ここで言う一定ライン以上とは術士、一定ライン以下というのは術不能者のこと。

 

 大人顔負けの文章を書けるこの子の才能には驚かされるばっかりだが、内容を読み進んでいく内に主旨の危険性を理解した私は読み終わるとため息をついた。

 

「これは公開できませんね」

 

 強い怒りによってアニマが暴走すると言われるように、アニマと感情が結びついていることに関しては古来より言われてきた。原始社会に於いてはアニマを薬などを使って暴走させることで自然と一体化を図ろうとした宗教もあったそうだ。英雄のカリスマなどもこの理論で行けば証明できるだろう。ここまではいい。問題は他者の感情を意図的にコントロールする、あるいは記憶を読む術の方だ。

 

「好悪を弄る程度ならほぼ一瞬で、特定の命令を聞かせるなら多少時間はかかるが実現可能。ただしあまり複雑な命令は無理」

 

 これが本当であるならば、戦場で敵の将軍を殺すなど大抵の犯罪が可能になってしまう。

 

「ジャン君はこれを犯罪に使ったことは」

 

 彼を信頼しているが、師として訊ねなければならないことはあるのだ、

 

「危害を加える目的で使ったことはありません。術不能者に効かないことはギュスターヴとフリンで確認しました。一般の方々に関しては商売でちょっとオマケして貰った程度です。プラス方面に使ったことはありますが、マイナス方面に使ったことはないので理論上はできるという感じです。モンスターに対する魔除けの周波数も研究中ですが何分外に出る機会がありませんので」

 

「魔除けに関しては、ツール化できれば公開してもいいですね。しかし、魅了(チャーム)催眠(ヒュプノ)読心(リード)に関しては私とあなただけの秘密とします」

 

「一門の秘伝として残さないのですか?」

 

「一門の跡取りに君を据えることはできません。そしてこの技術は悪用される可能性が高い以上、当事者である君と師である私が墓まで持っていくべきです。一門の秘伝には精神攻撃に対する防御方法を残します」

 

 自分の後継者がこの術を使って暴走などしたら、師であるルナストル先生に言い訳が立たないし、そもそもここまで精緻なアニマコントロールができる人間が今後現れる可能性も少ないが万が一のことはある。ならば別の理由を付けて対策だけを伝えればいい。

 

「私たちはアニマを盲信しすぎですね」

 

 アニマを前提とした行動原理と社会構造。

 

「だから、俺はギュスターヴを畏れ、敬うのです。アレはアニマを見ないで人を見る。以前お会いしたナルセスさんのアニマを用いた人相見は見事ですけど、惑わされない術不能者の信を得るのは本当に難しい。彼らは俺達とは違う見方で世界を見ている」

 

 彼に関わった全ての者が一度は思うだろう。彼がもし『ギュスターヴ』だったならと。その夢想が実現したならば恐らく1230年代にメルシュマンは統一されていたであろう。だが現実はギュスターヴは術が使えない兄が名乗っており、弟は自分の弟子として術を学んでいる。だが自分にとってはそれで良かったかもしれないと思う。もし彼が王になっていたのならば、ここまで濃密な関係では無かっただろう。彼にとって政治の師は父であり、この国の王であるスイ王であるが、いずれ越えていくとしても、今の彼に術の理を教えることができる特権を享受できるのは自分だけだ。

 

『私は君という弟子を得ました。子どもの君を見つけた時は正直嫉妬しましたが、同時に育てたいという欲望が生まれました。自分の得た技術を全てたたき込める存在がいるというのは幸せです。君にもそういう存在が現れるといいですね』

 

 ルナストル先生の晩年、ふと自分に初めて出会った頃の思いを吐露したことを思い出した。それはまだ私がテルムに行く前の話だ。ジャン・ユジーヌという人物の成長を見続けている今、ようやく師の言葉の意味を理解したが、先生が全てを仕込む弟子は私で良かったが、私は最低でももう一人、術士としての一門の技術を教える存在を見出す必要があるだろう。

 

 天才を枠の中に組み込むことはできる。だが、規格外を枠の中に組み込むことはできない。

 

「ジャン君の見える世界はあるいは古代文明の人々に近いのかもしれませんね。君ならいずれクヴェルを作ることもできるかもしれません」

 

 この子はとにかく目がいい。アニマの強弱や流れを感じることは術士の必須条件だが、それは一般人がアニマを感じるという行為の延長線上である。しかし弟子であるジャン君はそのレベルを超えている。以前、どうして見えると思うか聞いたことがあるが、逆に何故感じられることに違和感を覚えないかと問い返された。常識だからと言ってしまうのは簡単だが、自分とて学究の徒である。答えはまだ保留しているが、私と彼が生きている内に出したい宿題の一つだ。

 

「俺がもう少し成長して、ツールやクヴェルについて詳しくなった時、先生に相談したいことがあります」

 

「そうですか、君から出される宿題はいつも困難ですからほどほどにお願いしますよ」

 

 

 

 後世に於いてシルマールの名は、ジャン・ユジーヌの師であると共に、近代ツール技術史における尤も重要な理論の発案者としても残ることになる。

 

 アニマの干渉作用による増幅回路―通称シルマール回路の考案者である彼は、弟子であるジャン・ユジーヌの発明するツールの基礎になったことから、後世では技術者として位置づける場合もあるが、政治家・術士・発明家・商人・教育者など様々な顔を持つ弟子に対し、生涯術士という肩書きを使い続けた。術一辺倒の時代から鉄やツールの時代に変わると、利便さを享受しながらも過去を懐かしむ人たちによって、「最後の術士」ヴァン・アーブルと共に、「最高の術士」と称され重要な歴史のキーパーソンとして史書や物語に登場することとなる。

 

 1230年代前半の彼は、破天荒な弟子から出される宿題を解くという楽しみもあって割と充実していた。だが、30年代半ばに起こる様々な出来事は自分や教え子達の環境を大きく変えるものだった。

 

 





サガフロ2のギュスターヴ編は歴史物であり、レーテ侯伝も三人称で進めています。それに対して閑話は基本的に一人称で進行します。ナイツ編だと一人称の方がいいかなと思いますけどね。

アニマの強さが人に影響を与える点に関しては、ミスティの企みで彼女がやっています。エッグはさらに所持者の記憶を読んでいるわけですが。

魅了(チャーム)→周囲の人間の感情のパラメーターを変化させる。

催眠(ヒュプノ)→ある条件下で行動をする。『3回連続で大きい音がしたらまっすぐに走れ』みたいなことに使える。『本陣を術で吹き飛ばせ』とかも可能だが『自殺しろ』は不可能。

読心(リード)→接触して質問をして思い浮かべた情報を読み取る。全ての記憶を瞬時に奪えるような器用なものでは無い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。