SaGa Frontier2 レーテ侯伝   作:水城悠理

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今日ではツール分野における世界的なシェアを持っているユジーヌ商会だが、同商会がツールを一般に販売するのは1240年代に入ってからのことであり、発足時に扱っていたものといえば彼が領地として賜ったケッセルのブドウから作り出したワインだった。その当時、ワインの生産地としてはメルシュマンやラウツホルプが有名で、特に年間20本ほどしか作れない『ラウツホルプの雫』という特別なブドウを使ったワインは、非常に高価で王侯や大商人しか飲むことができない人気の商品だった。対して、南大陸のワインはそれほど評価が高くなく、売るというより村の内部で消費してしまうことが多かった。


1233年 少年統治者

 約80名の人が住まうケッセルという地が13歳になったばかりのジャン・ユジーヌに下賜される際、彼が最初に求めたのは自分を補佐してくれる人物の紹介ではなく、過去5年間のケッセルの税収と、その周辺の領地の大まかな税収、そして天候状況だった。

 

 5年前というとジャンはすでにグリューゲルにいたので、不作だったか豊作だったかなどの大まかな情報は持っていたができるだけ正確なデータが欲しかったのだ。

 

「税制報告書は探せばあるが、グリューゲルなどの大都市ならともかく、ケッセルの周辺地域の天候状況はわからないと思うが」

 

「できるだけ事前に調査しておくと手間が省けますから」  

 

 そう、彼の役割は領主としての役割もあるが、求められていたのは綱紀の粛正だった。そこで目を付けたのは、村の戸籍調査と税の納入額、そしてグリューゲルにある報告書の比較だった。

 

 任命されてから一ヶ月で必要な資料を全て揃えた彼はケッセルに赴くが余り歓迎されたものでは無かった。13歳の少年が供も付けずに領主としてやって来ても、信用されるわけがないのはジャンも理解していたし、麦と野菜、葡萄、そしてささやかな畜産という農村を農業という分野で急激に発展させる術を知らない以上、余計な口出してもしょうがないと思っていた。自分の知恵が役立つとするなら秋の収穫まで待つ必要があるだろう。ならば、秋になるまでに本業の方を片づけるべきだ。そのような結論に達したジャンの動きは速く、戸籍の調査と取られた税金について確認した。

 

 

 村を治める村長とは別に、王家の直轄地には代官と呼ばれる領地の監督と税収を集める役割を担う者が派遣される。普段彼らは王都に住んでいて、定期的に担当の村々を訪れるのだが、彼らは基本的に領地の持たない次男や三男の貴族であり、国からの給金で生計を立てていた。

 

 極端な話、彼らの仕事は村から集めた税金をそのまま、王政府に渡すだけなのだが、不正というのは行われる。1割~2割程度のごまかしなら誰でもやっているか5割増しの税金は無茶苦茶だ。

 

「……いくら本業でなくてもこれだけあからさまだと気付くよな」

 

 前世では会計士を使ってはいたが、それでも数字の間違いや不正が行われないように目を通していた経験から、誤魔化す際の方法というのはパターンがある。シンプルなものとしては、収益を低く報告するか、納税者の数を操作するか。ジャンの前任者である男は、この両方を併用して王都に報告していた。

 

「宮廷の税務にまつわる書類まで改ざんされているのなら問題でしたが、その辺はザルだったようで助かりました。もっとも周辺の領地の収支報告書なんて代官の権限では見ることができないので当然ですけど」

 

 もちろん、周辺の領地に関してはジャンでは無く他の人物が派遣されたのだが、各地の領主達も全体の収益ならともかく王領に隣接する村落の収支だけなので包み隠さず報告した。

 

 かくして現地の報告から周辺の領地に比べて異常に高い税金を納めたはずなのに、グリューゲルに納められた金額は減少しているという不可思議な状況が明らかになったので、ジャンは諸々を揃えてスイ王に提出した。

 

「その有能さをもっと別なところに使っていれば処断せずに済んだものを」

 

 ため息を吐くスイ王だが、そもそも不正などしようと思えばいくらでもできる仕組みに問題があると両者は理解していた。非難することは簡単だが、それが何十年もまかり通ってきたのだからとすぐに改善できるとは思っていない。まずは領民が自発的に働きたいと思える環境の整備が自分に与えられた役割だろうとジャンは思っている。とにかく今は自分がやるにせよ、将来的には人材育成の必要があるだろう。

 

「財産の没収に加えて、売られた娘を買い戻さなければなりません。不正が原因とはいえ、一度売買契約が成り立った以上、代金のやり取りもなく陛下が指示されれば不要な軋轢が起こるでしょう」

 

 代官や税務官の税金の意図的なごまかしに関して死罪は免れないし、財産は没収、家族も追放というのが当時の決まりだった。今回の場合さらに問題があり、税金の不足分代わりに子どもが昨年と一昨年一人ずつ売られている。これは不正を見逃していた統治側の責任である。スイ王の代理人であるジャンとしてもできる限りの事をしなければならない。

 

 私腹を肥やすのも人身売買も犯罪であることに変わりは無いが前者はともかく後者は人倫の道に背く。かくして、ジャンはそれをやらかした前任者に対して容赦しなかった。

 

「残念ながら、あなたの処刑は確定しています。財産は没収しますし、あなたが売った子ども達を買い戻せないあるいは、死んでいた場合は、あなたのご家族に同じ境遇をしてもらうことになるでしょう。田舎の娘より没落した貴族の娘の方が教養がある分高く売れるでしょうから」

 

 呼ばれたケッセルの前代官であるドミニクは登城したところを捕らえられ、取調室に連行された。そこで待っていたのは確かジャン・ユジーヌという彼の後任だった。

 

「お、俺だけじゃない。代官なんて甘い汁を吸っていて当然じゃないか。何で貴族である俺がこんな恥辱を受けなければならないんだ!」

 

 彼は最初こそ白を切ったが、読み上げられる不正の正確さ13歳とは思えない覚めた瞳に段々余裕がに蒼白になっていくドミニクはジャンに対してわめき散らしたが、ジャンは怯えることなく次のように切り返した。

 

「私が賜った領地を以前監督していたのがあなたで、人身売買のバックマージンまでもらっていたとなるとこちらも容赦する必要性を感じ無かったといったところでしょうか。それとあなたは既に本家から縁を切られていますので、貴族の身分なのか怪しい状態ですね」

 

 ドミニクは既に自分が助かる可能性が全くないどころか、妻や娘達の未来も絶望的だということを理解した。だから、彼の提案は暗闇につつまれた己を照らす。光に思えたのだ。

 

「もっとも、あなたの不正はあなた個人の罪であり、財産はともかく、ご家族を売るのは私としても心苦しい。どうでしょう、あなたが知っている同僚の秘密を教えて頂ければ、ご家族の安全は私と陛下の名において保障いたしましょう」

 

 相手を絶望状態にし、救いの手を差し伸べる。更に感情を多少操作することで親近感を抱かせることに成功したジャンは、欲しかった情報―他の代官達の運命を握るカードを手に入れたのだ。

 

「拷問吏でもここまで鮮やかに自白はさせない。あの飲み物に何か効果があるのか」

 

「別に自白させる効果はありません。子どもである私のバック―陛下ですね。私が赴任して2ヶ月でこれだけの資料を集めるのは不可能だ。ならば陛下に誰かが密告をしたのではないかと疑心暗鬼に陥った。どうせ自分が死ぬなら道連れにしてでも家族の安全を買いたいという心理は人間らしいと思いませんか」

 

 一緒に調書作りをしていた書記官と騎士は、目の前の少年が術不能者として蔑まれるギュスターヴの弟であると共に、フィニー王ギュスターヴ12世の子であることを思い出した。ジャンはテルムとグリューゲルで政治を学ぶと共に、市井に混じりながら人の動かし方を学んでいた。それが今少しずつ花開こうとしている。

 

 今は少年領主として笑っていられるかもしれないが、少年も5年、10年経てば青年になる。その時、ナ国にとって良いことなのか悪いことなのか。今の彼らには想像することはできなかった。

 

 ドミニクの不正について、本人は処刑、財産は没収、家族は追放という処分が下された時、他の代官は震え上がった。これらの犯罪に手を染めていない者は一握りしかいなかったからである。

 

 同時に『計算違いで報告した場合も考えられるので、その場合は速やかに報告し、差額に一割を加えた金額を納めれば良い』という布告は彼らを救うこととなる。期間は過去10年間、もっと遡ることもできたのだが、これ以上の追求は、宮中の官吏を過労死させる可能性もあったので却下された。綱紀の粛正としてはこれで十分だからだ。

 

 

 

 一年前に12歳のミレイユを連れて行った男の後任者―新しい領主といわれた少年に貴族らしい傲慢さは無く、理不尽に対する怒りの表情が見て取れた。そしてできる限りの手段を尽くして取り戻すと約束した。

 

 それから3ヶ月後、少年はミレイユと一昨年売られたジーゴのところのアンナを連れて戻って来た。そして村の主立った者を集めてこういったのだ。

 

「今後5年間の税を引き下げます。これはスイ王陛下の勅命なので少なくとも陛下が取り消さない限りは有効です。また、取りすぎた税は一部でありますが返還します」

 

「ほ、本当でございますか」

 

「もちろん、天候によっては皆さんに苦労をかけることもありますが、家族を売らない、餓えで人を出さない努力はしていきます」

 

 この言葉を聞いてある者は涙し、ある者は平伏した。この方は今までのような代官とは違うと思った。子どもの理想論でいずれ汚いことをいうだろうと警戒している者も一部はいたが、とりあえず民の心を掴むという意味では成功したと言っていいだろう。

 

 

 

 娼館に売られたミレイユはまだ客を取らずに先輩達の世話をしていたが、来年には客を取るんだろうなと幼いながらに思っていた。涙する父と母の姿は忘れることができない。

 

「ミレイユ、お前にお客さんだ。ああ違う違う、お前を買い戻しに来たという方だ」

 

 綺麗な金髪でいい服を着ている。一応人を見る目も教育された今ならわかるが、かなり身分の高い貴族様だと思った。

 

「こんにちわミレイユ。目立つ傷とかも無いようだし、ケッセルのご両親に無事に戻せるね。いい所に売られたおかげで初売りの次期が遅れたというのは皮肉だけど」

 

「お坊ちゃまに言うのも何ですが、うちが売るのは肉体的な快楽だけじゃないですからね。もう少し大きくなったらぜひお立寄りください」

 

「考えておくよ。待っているから準備ができたら来なさい」

 

 ミレイユは自分が村に帰れることをようやく理解し、喜色満面の笑みを浮かべて自分の部屋へ駆け込んでいった。それを見た娼館のオーナーはため息を付く。

 

「もう少し磨けば光ると思ってたのに恨みますぜ」

 

「払った金額の3倍で買い戻したんだから納得して欲しい」

 

「しかし、代官騒動で売られた子を買い戻されたのはケッセルのアンナとミレイユだけ。彼女達は本当に運がいい」

 

 ドミニクと似たようなことをした代官は他にもいたが、買い戻すか否かは他の村落の長に委ねられた。ジャンの行動はお人好しにも見えるが、情報集めと尋問しただけで費用はそれほど掛かっていない。対して村々は今後のことを考えると蓄えておけるのなら蓄えておきたいと思うだろう。ジャンはその選択を責めることはできないし、人間の価値が安いのは仕方ないと思った。

 

「人は住みやすい場所に移住するからね。これも一つの投資だよ」

 

 オーナーは多分目の前の少年領主は善意もあっただろうが、それ以上に計算した部分が大きかったのだろうと行動を理解した。農民は作物を作り、商人は金を作る。では貴族は何を作るかというと、名声を作ることができる。そして名声や評判は時として金以上の力を持つ事をオーナーは知っていた。そして、その価値をまだ13の子どもが知っていることが末恐ろしかった。

 

「坊ちゃまは貴族にしておくのは惜しいですな。商人になったなら大成できたでしょうに」

 

「まあ領主だから収益を上げるとなると目玉となる商品が必要だが……時に主人、化粧水や香水はどこから仕入れてるんだ」

 

「シュッドのレオニダス商会でさあ。どうしてもあっちの方が品質がいいんでね」

 

「つまり、そっちでも需要はあるということか」

 

「当たれば大きいですがね。何せそういうのは初期投資が必要で外れると悲惨」

 

「知っているよ。とりあえずは別の本業を考えるさ」

 

「まあ、私もこれで結構目が利くつもりですので、何かいい商品ができたら見てあげますよ」

 

 やがて、少ないながらも私物を纏めたミレイユを連れて少年領主は去っていった。それから一年後の秋に、送られてきた2本のワイン、『ケッセルの悪戯』というラベルが付いた1233年産のワインは、かのラウツホルプの雫にも匹敵するような甘口のワインで、送られた内の一本は空けずに取っておくことにした。あの少年領主がもう少し大きくなってここを訪れた空けてやろうと考えたのだ。余談であるが商品としては100本のみ出荷された1233年ものは、ケッセルがワインの一大生産地になったきっかけでもあり、またユジーヌ商会の最初の製品ということもあって非常にプレミアが付くことになる。

 

 

 

 1233年秋

 

 今年のケッセルの住人の表情は明るい。

 

 新しい領主がどういう手を使ったかは分からないが、余計に取っていた税金がわずかながら戻って来たし、今年の税金の減免をすることを約束した。何より売らざるをえなかった娘達が戻って来たことが嬉しかった。

 

「しかし、こんなことして本当にうまいワインができるんですかねえ」

 

「ラウツホルプは寒いから天然でできるらしいけど、ここで糖度を上げるとなるとこの手段が妥当かなって。まあ一年目だし半分は従来通りの仕込み方でいいだろう」

 

 ジャンがケッセルの住人に提案した新しい事業としてワイン作りがあった。それも大量に作るというよりは高級路線を狙ったものだ。

 

「ブドウの中の水分と果汁の中に含まれるエキスが凍る温度は微妙に異なる。この水分を取り除くことができればより糖度の高いワインが作れる」

 

 いわゆるクリオ・エクストラクションという技法だが、既に他の果実をジュースにして実験しているので失敗はしないだろうとジャンと師であるシルマールは確信していた。後は味がどうなるかの問題である。今年度は間に合わないが、場合によっては実家であるメルシュマンのブドウの苗を調達してもいいだろう。

 

「ジャン様、ご苦労様です」

 

 屋敷付きのミレイユが汗だくになったジャンにたおる手ぬぐいを差し出す。

 

「ありがとうミレイユ。それとせっかくの収穫祭なんだ。君も友達と遊んでくるといい」

 

「いえ、ミレイユはジャン様の侍女ですので」

 

 ミレイユは曲がりなりにも色々な作法を学んでいたので、ケッセルのジャンの屋敷を管理する侍女の一人として雇われていた。ジャンに救われたという意識が強いミレイユは、誠心誠意ジャンに仕えているが、彼女の考えているご領主様のイメージと、実際の自分のイメージとの乖離が著しいのではと最近ジャンは思うようになっている。さらに言えば都会に行って洗練されたミレイユは、同年代の異性から非常に人気があり、独占しているとかあらぬ噂を立てられるとジャンとしても困るのである。

 

 ともあれ、それは今後の課題として領地の経営に目を向ければ、麦などの収穫も上々であり、流行病が原因でない限りは無事に冬を越せそうなのが住人にとって幸いだった。

 ジャンにとっては自分の不在時に政を任せられる人材、万が一の時の領軍—といっても実質自警団のレベル―を率いることができる人材。今はヤーデ伯の屋敷を間借りしているが、独立する以上は屋敷の手配と、そちらを管理できる人材。とにかくこれから必要な人材を、どのようにねん出するかを考えさせられる一年となった。




1233年はギュスターヴも鉄の剣を造り始めたので、きっかけの年とも言えますね。

酒の強くない人でもおいしく飲めるデザートワインというのは、女性向け。そして貴族や富裕層向けです。今年仕込んだワインですが、評価は一年待ちです。その為に1333年で切りました。次回は1234年~1235年です。

ツールがあればワインセラーとかは容易に作れるのがサガフロ2の利点だと思っています。

ミレイユさんはヒロインでは結果として彼女もヒロインとなりました。
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